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SECOND

作者:灰文鳥
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第一部
第二章
  第十話『気を付けておいて』

 マミの部屋ではお茶会が開かれていた。ついこの間までいた真理と梨華の姿はそこに無く、代わりに陽子とまどかがいた。変身を解いたまどかは見滝原の制服を着ていた。給仕をするマミをまどかは嬉しそうに見詰めていた。その視線を受けてマミは、まどかのカップに紅茶を注ぎながら自己紹介をした。
マミ 「私は巴マミって言うの、今は見滝原の三年生よ。まあ、魔法少女になったのは大分前の事なんだけどね。」
 そう微笑み掛けたマミに、まどかはやはり笑顔で応えた。
まどか「はい私知ってます、マミさんの事。えっと、あの…私鹿目まどかって言います。前の世界の魔法少女で、それで…前の世界にもマミさんはいらして…その、何と言うか…マミさんにまたお会い出来てとても嬉しいです。へへ、すいません。変ですよね?」
マミ 「そう…前の世界の私ってどんなだったのかしら?」
まどか「はい、いつでもマミさんは優しくて正義感の強いとっても素敵な人でした。」
マミ 「あら、それは困ったわね。今の私ではとても務まりそうにないわ。それで前の私はどんな風に死んでしまったの?」
まどか「えっ!?いや、その…私、そんなつもりじゃなくて…御免なさい。」
マミ 「やっぱりそうなのね。私を見詰める瞳で判ったわ。でも魔法少女ってそういうものでしょ、あなたが謝る事じゃないわ。私は気にしないからあなたも気にしないでね。」
 まどかはふと思った。この世界ではさやかは魔法少女にならずに生きているのではないだろうかと。
まどか「ほむらちゃん、さやかちゃんや杏子さんは?」
ほむら「残念だけど、二人共もう…」
まどか「そう…なんだ…」
 まどかの消沈するさまを見て、ほむらは本題に移る事にした。ほむらは陽子に厳しげな視線をぶつけて質問する。
ほむら「ところであなた、なぜまどかの事を知っていたの。そしてどうしてあのような願いをしたの。話して貰える?」
陽子 「あの…それは…」
 陽子は俯き口籠もった。
ほむら「これはとても重要な事なの。黙秘なんて許されないわよ、さあ答えて。」
 陽子はほむらの鋭い眼光と強い口調に萎縮してすっかり固まってしまった。翠はこうなると陽子が何も出来なくなる事を知っていたので、助け舟を出すべく口を挿んだ。
翠  「あの、この子は空納陽子って言って私のクラスメイトで…ああそうだ、鹿目さんでしたよね。私、見滝原中一年の葉恒翠です。翠って呼んで下さい。今の世界で魔法少女やってます、以後お見知り置きを。」
 そう翠がまどかに向かって言うと、消沈していたまどかは笑顔になって応じた。
まどか「いえ、こちらこそ宜しく。へへ、まどかでいいよ。」
ほむら「それは今はいいわ。それより陽子、早く答えなさい!」
まどか「止めようよ、ほむらちゃん。陽子ちゃん怯えちゃってるよ。そんな事より陽子ちゃん、私をこの世界に呼んでくれてありがとうね。」
 そう言ってまどかは身を乗り出すと、陽子に向かって握手をしようとその右手を伸ばした。だが固まった陽子がそれに応えられない事が分かっている翠は体をよじらせてまで身を乗り出し、まるで横から奪い取るように右手でその手を取ってまどかと握手をした。
 すると二人が手を合わせた途端、二人の顔から笑顔が消え互いに怪訝な表情で相手を見合った。そして二人はおもむろに手を離すと、なんだか不思議そうに自分の手を確かめた。
ほむら「どうしたのまどか?翠、あなたまどかに何かしたの?!」
翠  「いえ、私は何も…」
まどか「…うんうん、何でもないよほむらちゃん。ちょっと静電気が走ったみたい…」
ほむら「そお…なら、いいけど…」
 マミはなんだかおかしくなったその場の雰囲気を変えに行った。
マミ 「紅茶が冷めてしまうわ。今日は一番いいダージリンを入れたんですからね。さあ皆さん、ケーキも召し上がれ。」
 まどかもすぐにマミの意を汲み取って続く。
まどか「わーい、マミさんのケーキ大好き。前の世界の時から大好きだよ、えへへ。」
 ほむらは陽子への追及を続けたかったが、さすがに空気を読んで今は諦める事にした。そして少し茶目っ気を出して得意気にまどかに蘊蓄を披露した。
ほむら「ねえ知ってる、まどか。このケーキってマミが自分で作っているのよ。」
まどか「うん、知ってるよ。マミさんのご両親ってパティシエだったんでしょ。」
ほむら「えっええ、そうよ…」
 ほむらはちょっと悔しかった。前の世界の時からマミのケーキは自作のもので、何度もその時間を繰り返した自分の方がその事実を知らなかった事が。
 和やかな雰囲気になって暫くすると、硬直が解けた陽子が口を開いた。
陽子 「ねえ翠ちゃん、私今晩泊まる所がないんだぁ。今夜だけ泊めてくれないかなぁ?」
翠  「えっ?そうなの…そっかそうだよね、魔法少女になったんだものね。いいよ、今夜だけって言わずにキュゥべえがお部屋を用意してくれるまでいてくれて。」
陽子 「うん、ありがとう。」
 そのやり取りを聞いていたまどかが小さく手を挙げて言った。
まどか「へへ、あのー私も今夜、って言うかこれからって言うか、泊まるとこないかなーって。」
マミ 「空いている部屋ならあるわよ。」
陽子 「あの私…今は無理ですけど、まどかさんをお呼びした責任がありますから…」
 ほむらが怒ったように割って入る。
ほむら「何言ってるの!まどかは私のうちに来ればいいでしょ。ずっと私の所にいればいいのよ。」
 それでお茶会はお開きとなった。

  ♢

 翠の部屋の寝室で、一緒のベッドに並んで寝ている翠と陽子。陽子が翠に話し掛ける。
陽子 「翠ちゃん、話聞いてくれる?」
翠  「うん、いいよ。なあに?」
陽子 「あのね、私のお父さんの仕事が上手くいってないって話した事覚えてる?」
翠  「うん、覚えてるよ。」
陽子 「それでね、本当は今日夜逃げか何かする予定らしかったの。でも最後のお別れしに学校に行ってもいいよってお母さんに言われてね、一旦は学校に行ったんだ。」
翠  「あっごめん陽子、そんな大事な話だったんだね。私あの時、廃工場の魔獣戦の事で頭が一杯だったの。本当にごめんね。」
陽子 「うんうん、もういいのその事は。それよりもね話しておきたいのはね、私ちょっと前からある不思議な男の子と会ってたの。あの後、結局学校には行かずにある公園に行ったらその子がいたの。それでその子と話をした後家に帰ったらね、お父さんとお母さんがね、部屋で首を吊って死んでたの。」
翠  「ええ!」
 翠は驚いて布団から身を乗り出した。
翠  「そっそんな、陽子大変じゃないの。そうだ警察、警察とかに連絡したの?」
陽子 「その事はいいの、翠ちゃん。」
翠  「いい訳ないよ、大変だよ!」
陽子 「いいの!私ね、朝お母さんにお別れして来ていいって言われた時、そんな気がしてたの!でもお父さんもお母さんも結局私を置いていったの。だからもういいの!」
 そう叫ぶと陽子は布団に潜り込んで大泣きした。翠はどうして良いのか分からなくて、取り敢えず震える布団を上から大きく抱きかかえた。そして何とか陽子を慰めようとした。
翠  「違うよ陽子、違う。陽子のお父さんとお母さんは陽子を殺せなかったの。死なせたくなかったの。生きていて欲しかったんだよ。だから置いて行ったんじゃないよ、残して置きたかったんだよ、きっと。」
 陽子は暫く泣くと落ち着きを取り戻し、布団から顔を出した。そしてべそを掻きながらも本題に移った。
陽子 「それでね、本当に話しておきたいのはね、その不思議な男の子の事なの。その子はね響亮って名乗ったの。実はね翠ちゃん、私ちょっと前から翠ちゃんが魔法少女になった事知ってたの。その亮って子が私に教えてくれたの。魔法少女の事とかその契約の事とか、全部亮が私に教えてくれたの。そしてあの私の契約のお願いも、亮が私に言った事なの。」
翠  「あのまどかさんって人を転送してってやつ?」
陽子 「うん、そうだよ。あのねそれでね、前の宇宙を殺して今の宇宙にしたのがまどかさんで、それで前の前の宇宙を殺して前の宇宙にしたのが亮なんだって。分かる?」
翠  「えーと、何となく…」
陽子 「翠ちゃん、それでね…」
 陽子は身を乗り出し、翠の手を掴んで目を合わせて言った。
陽子 「まどかさんと亮には、気を付けておいてね。」

  ♢

 朝になり翠が学校に行く支度を始めた。
翠  「陽子は学校どうするの?」
陽子 「うん、暫くは無理だと思う。それにたぶん、見滝原にはもう行けないだろうし。」
キュゥべえ「面倒な手続きならしておいたから、今まで通りに普通に学校に行けばいいよ。」
 いつの間にかキュゥべえが、開いていた窓に座っていた。彼の横には見滝原中の鞄が置かれていた。
キュゥべえ「それと住む所も学校が終わる頃までには手配しておくよ。あとカードの支給とかもあるし、取り敢えず今は学校に行った方が良いんじゃないかな。」
 陽子はキュゥべえの横にある鞄が自分の物だと分かった。陽子はそれを取りながらお礼を言った。
陽子 「あ、ありがとうキュゥべえ。」
キュゥべえ「なあに、これも契約の内だからね。」
陽子 「キュゥべえ、私のお父さんとお母さんは…」
キュゥべえ「うん、そっちの方も上手く処理しておいたよ。」
陽子 「そう…有り難う。」
 翠と陽子が登校していると、マミとほむらに遭遇し一緒になった。マミとほむらは通り道である事もあって、翠達の教室の前まで一緒だった。教室の入り口付近で翠達がマミ達と挨拶をして別れるのを、幸恵と詩織がじっと見ていた。

  ♢

 放課後、マミの部屋で再び五人でお茶会が開かれていた。ただし今度はキュゥべえがいた。
キュゥべえ「陽子、君の部屋の用意が出来たよ。」
陽子 「そう、良かった。翠ちゃん昨日はありがとね。」
翠  「うん陽子、良かったね。」
マミ 「まだ喜ぶのは早いかもよ。キュゥべえ、空納さんもあなたの予想外に契約した口でしょ。また麗子の時みたいな事になってないでしょうね。」
キュゥべえ「その辺りは僕も学習したよ。麗子の時の失敗を踏まえて、今度は家具付きの物件にしておいたのさ。勿論細々とした生活環境はこれから調えて行かなくちゃならないけど、それは僕がやってしまうより自分好みにした方がいいだろ。だからその為の分も入れておいたよ。さあ陽子、受け取って。」
 キュゥべえはどこから取り出したのかどうやって咥えているのか分からないが、カードを口に咥えていた。そしてそのカードを陽子の前に置いた。
陽子 「これって…クレジットカード?」
キュゥべえ「そうだよ、初期準備資金と毎月の生活費が振り込まれるカードだ。その予算内ならどう使おうと君の自由だよ。」
 陽子は不謹慎だと思いながらもつい顔が綻んでしまう。
陽子 「幾ら位なのかなぁ…」
翠  「陽子、結構入ってるわよ。ちなみに使い切らなくてもそのまま持ち越せるから貯めるのもありよ。」
陽子 「へへへへ…」
 ここ最近ずっと貧乏をしていた陽子には存外の喜びだった。そしてホクホク顔の陽子に当てられて、まどかはキュゥべえにお願いをしてみた。
まどか「ねえキュゥべえ、私も学校に行けるようにして貰えないかなぁ、なんて…」
 するとキュゥべえはまどかの方を向いて座り直し、おもむろに言った。
キュゥべえ「何を言ってるんだい。確かに君は魔法少女のようだけど、僕と契約した訳ではないだろ。君は魔獣とも戦わないだろうし、第一魔獣を倒してもカースキューブを提供する事が出来ないんじゃないのかい?僕は別に慈善事業をしている訳ではないんだよ。」
 その言葉に萎縮するまどかにキュゥべえは笑顔でトドメを刺す。
キュゥべえ「君って結構厚かましいんだね、フフフ。」
 まどかは酷くしょんぼりしながらも、辛うじて取り繕った。
まどか「はは、そうだよね。私ったら何言ってんだか…」
 その時、ほむらが机を叩いて立ち上がりキュゥべえに怒った。
ほむら「キュゥべえ!そんな言い方はまどかに失礼でしょ。今すぐ謝りなさい。まどかに謝って!」
 興奮するほむらをまどかが諫める。
まどか「ほむらちゃん、仕方ないよ。私のお願いの方に無理があるのは分かるでしょ。ほら、みんなびっくりしちゃってるよ。止めようよ、お願い。」
 キュゥべえは事の収拾を得るべく、そそくさとその場から立ち去ろうとした。逃げるキュゥべえの背中に向かってほむらが吠える。
ほむら「私の分でまどかを賄うのは文句無いでしょ!そうさせて頂くわよ!」
 部屋を去り際に、キュゥべえはポソリと呟いた。
キュゥべえ「まあ、ペットぐらいは飼わせてやるさね…」
 すっかり白け切ってしまった場を立て直すべく、マミが提案を出した。
マミ 「ねぇ、空納さんも鹿目さんもいろいろ買い揃えなきゃいけないでしょ。だから今度の日曜日にみんなで買い物に行きましょうよ。みんな、どう?」
 その意見には全員が賛成した。そしてその場は閉じられた。
 
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