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SECOND

作者:灰文鳥
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第一部
第一章
  第四話『高尚な我が願い』

 次の日の放課後。
陽子 「翠、一緒に帰ろう。」
翠  「ごめん、陽子。私、ちょっと用事があるの…」
陽子 「付き合おうか?」
翠  「それが…ちょっと大変だから…」
 陽子は翠にどんな用事なのか聞きたかったが遠慮した。
陽子 「そう…じゃあ、また明日。」
翠  「うん、また明日ね。」
 陽子は小さく頷くと、そそくさとその場を後にした。早く自分がいなくなった方が翠の為だと思ったのだ。
 翠は上級生の教室の方へ走った。すると折しも、ある教室からマミが出て来る所に遭遇した。
翠  「あの巴先輩、私昨日の…」
マミ 「あっ、葉恒さんね。何か私に御用かしら?」
 するとマミの級友が現れた。
級友 「あら巴さん。その子、だぁれ?」
 翠はここで迂闊な事を言うとマミに迷惑が掛かってしまうと考え、出直した方が良いと思った。しかしマミは翠のその心をいち早く読み取って先制した。
マミ 「フフッ、かわいいでしょ。私の新しい妹なのよ。」
 マミはそう言ってギュッと翠の頭を抱き締めて、その顔を胸に埋め込んだ。それで翠はメロメロになった。
級友 「あっそ。じゃあね、巴さん。」
マミ 「うん、じゃあね。」
 マミの級友は特に気にする事も無く去って行った。
マミ 「で、葉恒さん。何の御用かしら。」
 ふわーっとした気分の翠は、それでも何とか言葉を紡ぎ出した。
翠  「きっ今日も、その…活動なされるのでしょうか。あの…お邪魔なのは分かっているのですけど…御一緒と言うか見学と言うか…でも駄目ですよね。」
 翠は話しながら落ち着き、自分の無茶に気付いて下を向いた。そんな翠に対し、マミは指を頬に当てて大仰に悩むポーズを取って見せた。
マミ 「う~ん、そ~ねぇ~。でも今日は狩りだからぁ、一緒に来て見学して貰っても平気かなぁ。」
翠  「狩り…ですか?」
マミ 「そう。昨日のあなたみたいにね、誰かが襲われている時の緊急出動みたいな戦闘とは別にね、普段から魔獣の数を減らしておく為に戦う事を私達は〝狩り〟って呼んでいるのよ。」
翠  「では…」
 翠は期待に満ちた顔でマミを見上げた。マミは愛惜しそうに翠を見ながら答えた。
マミ 「一緒に来て魔法少女の実際をよく見学してみて。そしてじっくり考えて自分の答えをお出しなさい。」
翠  「はい!有り難う御座います。」
 そんな翠を見て、マミは契約を取った営業マンのように満足げに微笑んだ。
マミ 「じゃあ集合は夜になるから、それまで私の部屋でお茶でもいかがかしら?」
翠  「宜しいのですか?」
マミ 「勿論大歓迎するわ。それと親御さんの方も何とかしておかないとね。」
翠  「はい、何とか取り繕っておきます。」

  ♢

 夜になって人気の無くなった公園でほむらが待っていると、マミが翠を連れてやって来た。
ほむら「マミ!どうしてその子が一緒にいるの。どういうつもりなの?」
マミ 「彼女には真実をよく見て貰って、その上で正しい判断をして欲しいの。」
ほむら「あなたにそんな事をする権利なんて無いんじゃないの。無理やり誰かを巻き込む権利なんて…」
翠  「暁美先輩!違うんです。私が無茶を言ってお願いしたんです。」
 そう言う翠をマミは手で制して、ほむらに言った。
マミ 「ほむら、彼女はキュゥべえに選ばれたのよ。あなたにこそそんな事を言う権利なんて無いんじゃないのかしら?」
 ほむらにはいつか来た道だった。
ほむら「マミ…あなたって人は…」
 ほむらは独り言のように呟いた。しかし翠はまどかではない。どうせ魔法少女はこれからも次々と生まれ、そして消えて逝くのだ。だったらマミの方が正しいのではないだろうか。ほむらは髪を手で梳くと、急に落ち着いたように言った。
ほむら「そうね。お互いそんな権利なんて無いわよね。だったら本人の好きにすればいいわ。」
 事実上のほむらの許可を得て翠は喜んだ。
翠  「ありがとうございます。お邪魔にならないようにしますので…」
 そこに杏子が現れた。
杏子 「んあ?そいつぁ誰だよ、マミ?」
 翠は突然の出現者に驚いて、マミの陰に隠れるように動いてしまった。
マミ 「ああ、杏子。この子はね、キュゥべえに選ばれた子なの。だからこれから私達の狩りの様子を見学して貰うのよ。」
杏子 「えーっ、何だよ次から次へとキュゥべえの奴ー。全く節操ってもんがねえのかよ。」
 そう言うと杏子は気怠そうに頭に手をやった。翠は一応確認してみる。
翠  「あのぅ巴先輩、あの方も…」
マミ 「ええ、そうよ。あの子は佐倉杏子。私よりもずっと前に魔法少女になった子なの。」
杏子 「〝ずっと〟は余計だぜ。」
マミ 「それから私の事は巴先輩じゃなくってマミって呼んでね。その方が私好きなの。」
翠  「はい。あの…マミさん…」
マミ 「うん、それでいいわ。それでは皆さん、行きましょうか。」

  ♢

 魔獣達の結界の中は以前に来た所と同じような場所だった。翠は改めてこれが現実の事だと認識した。そしてその魔獣達はこの前よりも数が多かったが、こちらも戦力が一人多い事もあり、割とあっさりと全滅させられてしまった。
杏子 「これで終わりか?」
ほむら「そのようね。」
 翠が辺りを窺いながら塔の陰から出て来ると、マミが声を上げて尋ねた。
マミ 「どうだった、ご感想は?」
 翠が何か答えようとしたその時、突然何者かの手を叩く音がして声が響いた。
?  「いや全く凄い!お見事だ、素晴らしい。」
 全員が声のする方を見ると、どこからともなく御悟真理が、肩にキュゥべえを乗せて現れ出でた。
杏子 「あっ!おめーは昨日の覗き野郎じゃねえかよ。」
真理 「野郎とは君も失敬だな。だがまあいいだろう。それにしても、まさか本当に魔法少女なんてものがこの世に存在しようとはね。しかし自分のこの目で見てしまったのだから信ぜざるを得まい。」
 真理はほむらの方を見ると、不敵な笑みを浮かべて高らかに言い放った。
真理 「さあ、インキュベーターよ!この私が魔法少女になってやる。だから私の願いを叶えるがいい!」

  ♢

 ほむらは真理の事をよく知らなかった。クラスメイトではあるのだが、そもそもほむらは他人との係わり合いを極力避けていたし、ましてやあのタイプとは反りが合いそうにもないので近付こうとも思わなかった。それでもほむらは言わずにはいられなかった。
ほむら「確か…御悟さんだったわね。止めておきなさい、魔法少女はあなたが思っているようなものではないのよ。」
 真理はほむらが自分の名前をしっかり覚えていない事が癪だった。自分はほむらの事をこんなにも意識しているというのに…。
真理 「へー、まるで君には私がそれをどう思っているのか分かっているみたいな言い種をするじゃないか。それとも魔法少女って奴は他人の考えが読めるとでも言うのかな?だったら益々ならない訳にはいかないねぇ。」
 ほむらはやや諦め顔になった。キュゥべえは近くの石柱の上に飛び移った。
真理 「ではキュゥべえ、宜しいかな?」
キュゥべえ「勿論さ。さあ、君は一体どんな願い事と引き換えに魔法少女になってくれるんだい。」
 真理は大きく深呼吸してから言い放った。
真理 「私はこの世の隠された摂理が知りたい。この宇宙の深淵に潜む真実を得たいのだ。どうだインキュベーター、そのような高尚な我が願い、お前に叶えられるか。」
 真理は腕を組んで反り返って見せた。暫しの静寂が訪れた。
真理 「おい、何も…」
 真理がその僅かな間に堪えかねて声を出した時、真理の全身に激痛が走り著しいまでの悪寒が満ち溢れた。それは全くの未知の体験であったが、死を感じさせるものであった。真理は先程までとは打って変わり、小さく前屈みに体を強張らせブルブルと震えながら辛うじて立っていたが、最後には崩れるようにその場にへたり込んでしまった。
 翠はそれを見て助けに行くべきかと思ったが、他の魔法少女の三人が全く動じていない様子を見て、自分がしゃしゃり出るような事は差し出がましいと考え静観する事にした。
 真理は四つん這いになって大きく息をして苦しそうに見えたが、徐々に落ち着いて来ているようにも見えた。
キュゥべえ「おめでとう、御悟真理。君の祈りはエントロピーを凌駕した。さあ、その新しい力を解き放ってごらん。」
 キュゥべえにそう言われた真理は四つん這いのまま顔だけを上げ、酷く恨めしそうな表情を見せた。しかしすぐに立ち上がると不思議そうに体中を撫で回した後、口に手を当てて考え込むような仕草を見せた。
 そして唐突に、
真理 「こうか?」
 と言って、右手を頭上に掲げて指を鳴らした。すると鳴らした指の辺りから光の粒子が湧き起こり、しだれ花火のように真理の全身に降り注いだ。
 その光の粒子が消え去ると、後に残った真理の姿は一変していた。白い襟の大きな外套のようなものを羽織り、黒のタイトスカートを履いているようだった。そして何よりも違う点は、その左手に大きな鎌を携えている事だった。
 真理は最初不思議そうに、しかしすぐに楽しそうに、その鎌を振り回した。その様子を見届けるとキュゥべえはマミの許へとやって来て言った。
キュゥべえ「提案があるんだ、マミ。」
マミ 「何?」
キュゥべえ「廃工場の魔獣に、挑戦してみないかい?」
マミ 「あの大鎌の子なら倒せるというの?」
キュゥべえ「まあ、理論上はね。」
 マミはほむらと杏子の方を見た。二人はじっと真理を観察しているようだった。マミは少し考えてから答えた。
マミ 「止めておくわ。連帯に不安があるから…」
 キュゥべえは一度尻尾を振ってからニッコリ笑ったような顔をして言った。
キュゥべえ「やはり君は賢明だね。」

  ♢

 西洋風の豪華な広い部屋の中で、長細い大きなテーブルを囲って日富家の一父三男一女が食事をしていた。
父  「麗子、学校は楽しいか?」
 麗子は内心うんざりしていた。
麗子 「はい、お父様。」
父  「うむ。」
 麗子の父は満足した。続けて兄達が口を開いた。
末兄 「せめて麗子には市井の学園生活を楽しんで送って貰わなくてはね。」
次兄 「そうだね。第一、兄弟の中に誰も青春を謳歌した人間がいないなんて惨めじゃないか。」
長兄 「それに、そこで養われる普通の感覚は、我ら一族にとっては大きな財産となりうるであろうからな。」
麗子 「はい、お兄様方…」
 麗子はどうにか食事をし終えると、そそくさと逃げるように自室に駆け込んだ。そして鏡台の前に座ると呟いた。
麗子 「どうせ、私が女だから…」
 麗子は自分が女だから何も期待されず、無難に学生生活を送らせた後は何処かに嫁がせればいいと父や兄は考えているのだと思っていた。実際はそうではなかったが、思考の袋小路に入り込んでしまえば何もかもがそうであるように見えてしまう。
 麗子の母親は彼女を産んで死んでしまった。母を愛していた父は再婚しなかった。そんな父とまだ幼かった兄達から母を奪ったのは自分だという負い目があった。だから物心ついた頃から良い子にして来た。
 だがそれは歪な事だった。疎外感に苛まれ懐疑心に囚われた。ありもしない妄想の魔獣が彼女の心の中で生まれ、勝手なストーリーを創り出して暴れ回っていた。

  ♢

 夕方になって学校が終わると、麗子は帰路に就いた。今日は進路指導の件でいつもより遅くなっていたが、勿論その事は家の方にも伝えられていた。以前は車で送迎されていたが、麗子のたっての願いで取り止められていた。それでも一緒に帰るような友達は出来なかった。
 麗子は部活動などはした事が無かった。友達らしい友達もいたためしが無かった。独り道を歩いていると、様々な思いが去来して来る。不満が口から零れ落ちた。
麗子 「私は本当は何でも出来るのに…」
 麗子はずっと自分を抑圧して来た。その結果、彼女は何も出来ない人間になってしまっていた。だが何もした事の無い彼女はそれ故に挫折を知らず、自分はやれば何でも出来ると信じていた。それが彼女の心の唯一の支えでもあった。
麗子 「私は一人でも生きて行けるのに…」
 彼女に生活力は全く無い。
麗子 「日富家という存在が私を縛り付けている…」
 それは一理あった。
麗子 「…ここは、どこ?」
 麗子は魔獣空間の中に入り込んでいた。麗子はすぐに振り返ったが、後ろに道は無かった。やがて巨大な魔獣が現れ、麗子に向かって来た。麗子は本能的に逃げ始めたが、遅く直進的であったが為に、すぐに魔獣に詰め寄られた。魔獣が腕を振り上げた時、銃声のような音がして魔獣が怯んだ。更に怯んだ魔獣に矢が突き刺さり、その魔獣は崩れながら倒れた。
?  「こっちです。」
 声と共に誰かが手を引いた。麗子がそちらを見ると女の子が自分の手を掴んでいた。
麗子 「あ、あなたは?」
?  「とにかく急いで。こっちです。」
 その少女に引かれるままに麗子は走った。そして少し離れた物陰まで辿り着くと、その少女は話し始めた。
翠  「私は葉恒翠って言います。見滝原中の一年生です。信じられないでしょうがここは異空間で、あの巨大な白い僧みたいなものは魔獣と言う人類の敵なんです。そして、今その魔獣と戦っているのは魔法少女という選ばれた戦士達なのです。」
麗子 「そう…なの…有り難う。」
 麗子には戸惑いこそあれど、驚愕や取り乱しは無かった。これまでの受け身の人生があらゆる事態を受け流せるようにしていたのだ。もっともそれは良家の子女にとっては極めて有用な資質であり、彼女がこのままの人生を歩む事こそが最良の選択である所以の一つでもあった。
 その魔獣との戦いに真理が参戦して来た。先にいたマミとほむらに対し後れを取る形でやって来た真理は、それを取り戻すかのように積極的に魔獣に向かって行った。近接武器の真理が前に出張ると必然的に飛び道具を使う二人は後方からの支援に回る事となり、その結果粗方の魔獣は真理によって撃破される事となった。その場の敵を全滅させると、真理は得意げに二人に問うた。
真理 「いかがかな、私の戦いぶりは?」
 ほむらは内心、不必要に前に出られてやりづらかったが何も言わなかった。マミも同じ思いではあったが、それは真理のやる気の表れと好意的に受け止めて褒めた。
マミ 「凄いわ、御悟さん。大活躍ね。」
 真理はマミの答えに満足し、更なる満足を求めてほむらに視線を向けた。だがほむらはだんまりを決め込み、目すらも合わせようとしなかった。そこで真理はほむらに当て擦りに行った。
真理 「いや、いいんだよほむら。君に他人の功績を称える度量なんて求めはしないよ。」
 ほむらは〝それは有り難い事ね〟とか言い返したかったが、却って面倒な事になるので小さくため息を吐いて堪えた。

  ♢

 魔獣の結界から出ると、麗子がマミに話し掛けて来た。
麗子 「あなたは巴さんでしたでしょ。今日は助けて下さったのね、有り難う。他の皆さんにも後で改めてお礼がしたいから、お名前を教えて頂けないかしら?」
 麗子の発言にマミとほむらは驚いた。マミとほむらが驚いているのを不思議に思った真理はほむらに尋ねた。
真理 「何を驚いているのかね?」
ほむら「普通はね、結界から出て来たら意識朦朧で何も覚えていないものなの。」
真理 「ふ~ん、それで?」
ほむら「そうでないって事はね、魔法少女になる資格があるって事なのよ。」
真理 「ほーう、そうなのかね。」
マミ 「…日富さん、でしたよね。あなた今あった事を覚えていらっしゃるのね?」
 麗子はあれだけの事があったにもかかわらず、微笑みを見せて答えた。
麗子 「ええ、勿論。」
マミ 「そう…。なら一緒に私の部屋に来てお茶でもどうかしら?」
麗子 「えっ…」
 麗子は打算の無い人間からお招きを誘われたのは初めてだった。少し遅くなり家の者が心配しているだろうとは思っていた。しかしこんなチャンスを逃したくなかった。家には進路指導が長引いて遅くなったと、そして自分自身の心には恩人の誘いを無下にしない為と、言い訳をする事にした。
麗子 「宜しいのでしたら喜んで。」

  ♢

 そこにいた五人はマミの部屋へとやって来た。真理は初めて来たのでその豪華さにお上りさんのようにはしゃいでしまったが、大御嬢様の麗子は特に動じたりはしなかった。その場にはいつの間にかキュゥべえもいたのだが、何故か何も言おうとはしなかった。
麗子 「なかなか良いお部屋ね。」
マミ 「ありがとう。今お茶の支度をしてくるから、適当にくつろいでいてね。」
 そう言ってマミが去ると、麗子は他の三人に自己紹介をした。
麗子 「私は日富麗子と申します。見滝原中の三年生です。」
 そして翠の方を向いて続ける。
麗子 「あなたは一年生の葉恒さんでしたよね。先程は有り難う。」
翠  「あっ、はい。どういたしまして。」
麗子 「それからそちらの…魔法…少女…のお二方も、お見受けした所見滝原の方のようね。先程は有り難う。お名前をお聞きしても宜しいかしら?」
真理 「私は御悟真理。見滝原の二年で、こっちの暁美ほむらとは同じクラスさ。」
 真理はちょっと浮き足立っていて余計な事まで言ったのだが、自己紹介なんてしたくもなかったほむらにとっては幸便だった。
麗子 「暁美さん…。私のお父様の御友人にも、そのような御名前の方がいらしたと思ったけれど…」
ほむら「いえ、私とは無関係です。」
 ほむらは妙に断定的に即答した。
麗子 「あの、不躾ですけど、そちらの魔法少女のお二人もこの位のお部屋で一人暮らしをなさっているのかしら?」
真理 「いや、ほむらはもっと一般的な2LDK程のマンションで一人暮らしをしているよ。」
 真理がそう言うと、ほむらは〝なぜあなたがそんな事を知っているの!〟とばかりに真理を睨んだ。真理はほむらの事をストーキングしていた事が自分の失言でばれてしまう事を恐れ、慌てて言葉を続けてごまかした。
真理 「ちなみに私はまだ魔法少女になったばかりなんで親と一緒に暮らしているよ。日頃の行いが善いので両親の信頼が厚く、少々の事では咎められたりはしないので不自由は無いんだ。でもまあその内、一人暮らしをせざるを得ないんだろうがね。」
麗子 「魔法少女は一人暮らしをせざるを得ないのですか?」
真理 「そりゃ魔獣って奴は主に夜出るからね、こっちも必然的に活動は夜になる。さすがに我々のような年齢の女子が、夜間外出を頻繁に行うにはそうするしか無いだろう。」
麗子 「でもご両親は簡単に一人暮らしをお許しにならないのでは?」
真理 「その辺りの事は全てキュゥべえがやってくれるんで問題ないよ。必要なら家族から自分の記憶を消して、いなかった事にすら出来るらしいんでね。」
麗子 「えっ!?」
 その時、綺麗な姿勢で正座をしている麗子の膝の上に置かれた両手の拳が、ギュッと握り締められた。
その話には翠も聞き入っていた。
麗子 「生活費用はどうなさって?それもキュゥべえと言う方が支給して下さるの?」
真理 「方って程のモノじゃないけど、カードを支給されたよ。いわゆるクレジットカードってヤツをね。なっキュゥべえ。」
 真理はキュゥべえに目をやって話を振った。キュゥべえは面倒臭そうに立ち上がり、仕方なさそうに麗子に向かって言った。
キュゥべえ「僕がキュゥべえだよ。君に分かり易そうに言うと、別の星からやって来た宇宙生物なんだ。」
 それを聞いて、ほむらは強い違和感を覚えた。何時ものキュゥべえと明らかに言い方が違っていた。ひょっとすると、この日富麗子には魔法少女になる資格は無いのではなかろうか。それにしてもこの麗子の泰然自若ぶりはなんであろうか。
麗子 「そう。随分かわいらしい宇宙生物さんでいらっしゃるのね。」
 麗子はキュゥべえの事を少し見詰めて、それから真理に向かって言った。
麗子 「ところで、御悟さん。あなたは魔法少女になったばかりと仰しゃったけど、魔法少女になるにはどうすればいいのかしら。」
真理 「まず資格がいる、生まれ持った資質がね。それはこのキュゥべえが判定する。そしてやはりこのキュゥべえが、その有資格者の願い事一つと交換に魔法少女にしてくれるんだよ。」
麗子 「ええと、キュゥべえさんの願いを一つ叶えると、有資格者は魔法少女になれるという事?」
真理 「違う、違うよ。魔法少女は魔獣と命懸けで戦う義務があって大変なんだよ。だから資格者の方の願いを何でも一つ叶えてくれるのさ。言わば契約金みたいなものさね。」
麗子 「そう…御悟さん、ありがとう…」
 麗子は今すぐ自分にも資格があるのかキュゥべえに確かめたかったが、無いと言われる恐怖と自分の願望に蓋をする癖とで結局逡巡してしまった。
 一方ほむらは真理のお喋りぶりに軽く苛立ちを覚えていた。ただそれ以上にキュゥべえの様子がいつもと違う事が不思議であった。
 そこへマミが紅茶とケーキを持って現れた。話はケーキの事に移り、それが終わると実家組は帰って行った。マミの部屋に残ったほむらがキュゥべえに尋ねた。
ほむら「キュゥべえ、あの日富麗子にも資格はあるの?」
キュゥべえ「うん、あるようだね。」
ほむら「彼女もスカウトするの?」
キュゥべえ「それは…どうかな…」
 ほむらはあのキュゥべえが有資格者を魔法少女にしたがらない態度を取るのを初めて見た。
 
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