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STARDUST∮FLAMEHAZE

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第二部 WONDERING DESTINY
CHAPTER#3
  DETERMINATIONⅡ ~真意~

【1】


“その日” は、 訪れた。
 何の前触れも、脈絡も無く。
 ただ、当たり前の事で在るかのように。
 訪れた。



「フゥ……」
 承太郎には内緒で行った早朝の秘密特訓を終え、
いつものように広い檜造りの浴槽にゆっくりと浸かったシャナは、
一昨日前届いた丈のやや短い、そして右肩口に灼熱の高 十 字 架(ハイクロス)
の紋章が刻まれた特製のセーラー服に袖を通し、
上気した頬と緩んだ笑顔で、“いつものように” ダイニング・ルームの方へと
足を向けた。
 特訓の上々の成果による充足感と初夏の朝風呂の清涼感とに身を包まれながら、
“普段通りに” そのドアに手をかける。
 いつもなら、扉の隙間越しから洩れてくる淑女の可憐な鼻唄が
今日は “聴こえないコト” に気づかないまま。
「ホリィ、何か手伝う事」
 扉の縁に手をかけ、ひょこっと顔を覗かせる少女。
 その黒い瞳に、最初に映った、モノ。
「!!」
 常日頃手入れの行き届いた、塵一つないフローリングの床にブチ撒けられた、
無数の調理器具と色鮮やかな朝の食材。
 開け放され内部の蛍光が外に漏れだした大きな冷蔵庫の隙間から、
細く白い、一つの手が見えた。
「………………ぇ?」
 その光景を目にした数拍の後、ようやく少女の口から漏れた声は、
傍にいるアラストールにも聞こえないほど、か細く小さなもの。
 意識が認識するには、余りにも現実性を欠いた惨状。
 その表情に笑顔が凍ったように貼り付き、
少女は口を半開きにしたまま数秒そこに停止する。
 沈黙。
 在るのは、ただ、沈黙。
 眼前の出来事に対する、その回答の糸口すら与えられない残酷な静寂。
「ホ……リ……ィ……?」 
 かろうじて繋がっていた一抹の神経が、
足下の覚束無(おぼつかな)い危うい歩調で少女を進めていく。
 しかし床を踏みしめる足裏にはまるで現実感が無く、
水のない海面の上にでも立っているようだった。
(……?……?……???)
 少女の足を進ませるのは、コレが 「現実」 の筈がないという
断崖の薄氷を踏むかのような危うい願望。
 しかし。
 やがてその瞳に映るモノは、現実。
 どれだけ厭でどれだけ認めたくなくとも、
絶対に覆るコトのない、ただの 『現実』
「ホ……リ……ィ……?」
 半ば夢の中にでもいるような心持ちで、解れた笑顔のまま
苦しげに横たわる淑女の前で膝をつき、そのか細い躰を抱え上げる少女。
 その口唇から洩れる押し殺したような苦悶の吐息も、
布越しに伝わる異常な体温も、いまの少女には何の意味も成さない。
否、感じられない。
「むう……! 何という……凄まじい……熱だ……!」
 シャナと時を同じくして、目の前の惨状に喪心していたアラストールが
ようやく我を取り戻して声を荒げる。
 淑女の躰を蝕むその 『元凶』 を、
己の意志を現世に表出させるペンダント型の神器、
“コキュートス” 全体にヒシヒシと感じながら。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……ッッッッ!!!!




 そして。
 まるで狙いをすましたように、
その 『元凶』 は “姿” を現す。
 淑女の躰を透して実体化するソレは、
夥しい数の、美しき “(イバラ)
 周囲をバラに酷似した双葉が取り巻き、
その先端に禁断の実を想わせる嬌艶な果実が結ばれた、
生命の 『幻像(ヴィジョン)
 ソレが周囲に神聖なパールホワイトの燐光を煌めかせながら、
淑女の全身を覆い尽くすように絡みついていく。
「幽……波紋……ッ!」
 上で曖昧な状態へと陥っている少女の代わりに、
いち早く現状を認識した胸元のアラストールが、絶句したような声を漏らした。
「な、なんというコトだ……! 奥方にこの能力(チカラ)が……!
しかもその発現の影響に 『器』 が堪えきれず、(こぼ)れ初めている……!」
 悔恨を滲ますように、一人の紅世の王は己の言葉を噛みしめた。
「不覚……ッ! “彼の者(DIO)” の存在の影響は、
盟友と空条 承太郎のみに止まり、
奥方には異変が視られないというコトから閑却に捉え過ぎていた……!
“無い筈が無かったのだッ!”」
 普段は少女の胸元で静かに光を称える漆黒の球が、
今は何度も紅く発光しながら言葉を紡ぐ。 
「“フレイムヘイズ” にしろ 『幽波紋使い』 にしろ、
この世ならざる領域に位置する異力(チカラ)は、
その殆どが己が 「心奥」 に宿る想いの強さで繰るモノ!
云わば 『闘争の本能』 で操るモノッ!
慈愛と友愛でその 『器』 を充たされた奥方にはソレが無い!! 
彼の者の幽血の “呪縛” に「叛逆」する力が皆無に等しいのだ!!
故にその異力(チカラ)が、己が存在を蝕む結果となってしまっているッッ!!」
 己の眼前で苦悶の吐息を漏らしながらも、
この世ならざる神聖な荊に取り巻かれて瞳を閉じる淑女の姿は、
不謹慎とはいえ深い淵に彩られた、背徳的な美しさを視る者に感じさせた。 
「……(まず)い……このままでは……! 奥方自身に抗う術が無い以上……
その存在の灯火は何れ尽きる……彼の者の “呪縛” に憑り殺されてしまう……!
“王” との 「契約」 に失敗したフレイムヘイズが、
跡形もなく焼滅してしまうように……!」
 目の前で横たわる淑女の苦悶を、ほんの僅かでも和らげる事が出来ない己に
口元を軋らせる紅世の王。
 その、背後。
 ソコから唐突に立ち昇る、二つの途轍もない存在の気配。
「ムッ!?」
 眼前に生い繁る幽波紋(スタンド)の荊を背景に、
咄嗟に振り返ったアラストールの視線の先。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッ!!!!!!




 淑女の父親、ジョセフ・ジョースター。
 淑女の息子、空条 承太郎。
 その二人が、愕然とした表情でこちらを見据えていた。
「……」
「……」
 無言で自分の傍に、力無く歩みよった二人に対し、
ずっと押し黙り続けていたシャナが、ようやくその口を開く。 
「承……太郎……? ジョセ……フ……? ホリィ……が……ね……
ホリ……ィ……が……ね……!」
 震える声と口唇で少女は、
まだどこか夢だと想い込んでいる危うい心持ちのまま、
瞳に涙を浮かべた悲痛な笑顔で、縋るように二人へ訴える。
 見た目はあどけない少女とはいえ、彼女もまた歴戦の戦士。
目の前の事態を理解出来ていないワケではない。
 ただ。
 意識が 『ソレを認めるコトを』 頑なに拒んでいるのだ。
 未だ、目の前の出来事を 『現実』 だとは受け止められず、
怒り狂えばいいのか泣き叫べばいいのかも解らないまま、
幻想と現実の狭間に一人取り残されている。
「……ホ……リィ」
 少女の問いには応えられず、か細い声でようやくそれだけ搾り出したジョセフは、
割れた食器の破片が散乱した床に膝をつき、娘の頬をそっと撫でる。
「…………」
 一方承太郎は、俯き加減で口唇を噛みしめ、
その細い顎を微かに震わせていた。
 無言で何も言わず表情も学帽の鍔で伺えないが、
逆にそれが凄まじい迄の怒りを、嫌が応にも周囲へと感じさせるコトとなる。
「……う……うぅぅ……お……おぉ……おおお……」
 自らの最も怖れていた最悪の事態が、
目の前で遂に現実となってしまった事を嫌が上にも突き付けられたジョセフは、
寝間着姿のまま床に蹲りその全身をワナワナと震わせる。
 そし、て。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ…………!!!!!!」
 ジョセフは呻いた。
 美しきスタンドの絡みつく、最愛の娘の傍らで。
 まるで溶解した水銀でも呑み下すかのように呻いた。
「……」
 その盟友の姿をただみつめる事しか出来ないアラストールは、
生まれて初めて、灼き尽くしてやりたい程怒りを己に感じた。
「……盟友(とも)よ……遺憾な……事となった……」
 かける言葉が見当たらず、ようやくそれだけ零れた、空虚な言葉。
 どうしようもない。
 何もしてやれない。
“本当にしてやれる事がない”   
(……)
 アラストールの心中で意図せずに湧き出る
“この男” と出逢って以来生まれた、少女と共に織りなした
幾つもの追想。
 共に語り合い、笑い合い、人間と紅世の徒との境を越えて
互いにその存在を認め合った繋がりだった。
 いつのまにか、自分にとっても他に掛け替えの無い存在となっていた男だった。
 その者が、一番辛い時、苦しい時、
自分はその痛みを和らげる事も肩替わりしてやる事も出来ない。
 己の目の前でただ絶望に嘆くジョセフの姿を目の当たりにしながら、
何が盟友だ……ッ! とアラストールは自虐的に吐き捨てた。 
「ワシ……の……ワシの……!
最も……! 最も怖れていたコトが……!!」
 呻きながらも喉の奥底から言葉を絞り出したジョセフは、
心中で渦巻く無数の感情のまま、堅く握った拳で床を叩く。
 何度も。何度も。何度も。
 目の前で起こったどうしようもない 『運命』 の悲劇に対して、
己の想いをブツけるかのように。
「無いのではないかと……想っておった……
DIOの……魂の “呪縛” に対する……
【抵抗力】が……!
この子は……この “子” は……!
生まれてこの方一度も……
誰かを強く憎んだり恨んだりした事はない……!」
 遠い昔。
 今は亡き初代スピードワゴンから伝えられた自分の祖父、
“ジョナサン・ジョースター” の生涯。
 その話を幼いホリィに聞かせた時も、
この子はスベテの惨劇の 『元凶』 と成った
“ディオ・ブランドー” に対してさえも、
『誰にも愛されなくてかわいそう……』
と一人彼の境遇を憐れんでいた。
 その、自分の祖母譲りの、
この世の何よりも温かく優しい心。
 ソレは、どれだけ時を経ても全く変わっていなかった。
 あどけない少女の時と同じまま、
ホリィの心の中に存在していた。
「しかし……ソレが……“ソレが”……!
このような事にぃぃぃぃ……!!」
 哀切に充ち充ちた声で、ジョセフは再び声を引き絞る。
 しかし悲嘆にくれる父親の前で、 その娘は閉じた瞳を開く事はない。
(……ッ!)
 そのジョセフの脳裡に、一人の 『男』 の姿が浮かんだ。
 己のスベテを自分に託し、神風の砂嵐の許、
一人鮮赤と共に散っていった者。
 いつも何かしてもらうばかりで、いつも助けられてばかりで、
結果的には何もしてやれなかった、
この世でたった一人の、 自分の、親友。
(シー……ザー……!)
 消えない過去の疵痕と共に、
彼の存在が、嫌が応にも己の無力さを突き付けた。
 お前は誰も護れない。
 お前は誰も救えない、と。
「オイ……一体いつまで……“そうやってる” つもりだ……ッ!」
 目の前で苦悶に伏するホリィの傍らで、
ただただ狼狽するしかない三者に突如、
地獄の底から這いずり出してきたかのような、
或いは爆発寸前のマグマを想わせる、
凄まじい怒りを圧し殺した声が頭上から降り注ぐ。
(!!)
 淑女、空条・ホリィ・ジョースター。
その、この世の何よりも掛け替えのない、最愛の息子。
 空条 承太郎。
 彼は、眼前の事態に困惑するわけでもなく泣き叫ぶわけでもなく、
ただ、“キレて” いた。
 以前、自分と無関係な少女が淀んだ悪意に蹂躙された時など比較にならないほどの、
凄まじい威圧感(プレッシャー)で。
 深遠なる紅世の王 “天壌の劫火” アラストールにすら
畏怖を抱かせる程の脅 嚇(きょうかく)で。
 ただ、『完全にキレていた』
 その承太郎が、ジョセフの寝間着の襟元を掴んで、
力任せに無理矢理床から引き吊り剥がす。
「目の前の事態にビビりあがって! パニくってッ!
泣き言いってりゃあソレで何かが解決すんのかッッ!!」
 まるでジョセフの胸の裡を見透かしたかのように、
承太郎は怒りの炎が燃え盛るライトグリーンの瞳で、
困惑した祖父の瞳を真正面から貫く。
「言え……! 『対策』 を……!!」
 闇夜の肉食獣のように散大した双眸で詰め寄る実の孫に対し、
ジョセフはただ困惑した表情で応じるのみ。
 彼もまた、目の前の事態を完全に認識しているわけではない。
 心のどこかでは、 これは現実ではない、夢であって欲しいと想っているのだ。
(!?)
 襟元に込める力を一切緩めるコトなく、
承太郎は勢いのままジョセフの鍛え抜かれた躯を、
脇に設置された食器棚へと叩きつける。
 暴力的な音が室内全域に響き渡り、衝撃で零れ落ちた
幾つもの食器やグラスが割れて床に散り乱れた。
「黙ってちゃあわかんねーだろッッ!! ねぇなら今すぐ考えろ!!
一体今まで何の為に無駄に生きてきやがった!!
このオイボレクソジジイッッッッ!!!!」
「やめてッッ!!」
 突如、少女の悲痛な叫びが、空間を劈いた。
「!!」
 捲れ上がった瞳孔で振り向いた、視線の先。
 そこ、に。
「やめ……て……ホリィの傍で……大きい声……出さないで……」
 そう言って少女は、自分よりも遙かに長身の淑女の躰を、
労るようにそっと包み込む。
 得体の知れない恐怖から、彼女を護ろうとするように。
「こんなに……こんなに……苦しがってる……
フレイムヘイズじゃ……ないのに……普通の……人間なのに……!」
 消え去るような声でそう言葉を紡ぎ続ける少女の黒い双眸から、
抑えていたものが一気に溢れるかのように、
透明な雫が零れて淑女の衣服の上に落ちる。
 幾筋も。幾筋も。
「うぅ……ひっ……く……ううぅ……ううううぅぅぅぅぅ~~~~~~~~……」 
 もうそれ以上は言葉に成らず、少女はただ嗚咽を漏らして泣きじゃくるのみ。
(……ッ!)
 その少女の姿を目の当たりにした承太郎は、無言でジョセフの襟から手を放し、
代わりに皮膚が破れて肉に喰い込む程強く、己の拳を握りしめた。
(……何……ヤってんだ……?)
 一瞬の喪心の後に襲ってくる、途轍もなく重い罪悪感。
(テメエで勝手にブチ切れて……
周囲に当たり散らして……女泣かせて……
オレは一体……何ヤってんだ……!)
 何のコトはない。 
 結局一番取り乱していたのは自分だったと気づき、
承太郎は震える拳から鮮血を滴らせる。
「スゴイ音がしたが、一体どうしたんだ!?」
 爽やかな果実の芳香と清廉とした声。
 正門前から騒ぎを聞きつけて何事かと想った花京院が、
その場に駆けつけた。
「ハッ!?」
 割れたガラスの散乱したダイニングルームの中心で、
 幽鬼のような表情を浮かべるジョセフと泣きじゃくるシャナ。
 そして。
 己に背を向け拳から血を滴らせながらその身を震わせる
承太郎の姿を目にした瞬間、花京院は、全てを理解した。
(……)
 いつもなら、自分の他に2つしか感じない『スタンド』 の気配、
ソレが3つに増えていたのだから。
「まさか、まさ、か……ホリィさんに……『スタンド』が……!
しかもソレがマイナスに働いて 「害」 になってしまっているのか……!?」
 そう言って視線を向けた、少女に抱かれて荒い吐息を繰り返す淑女。
 彼女を抱いている少女の腕に、無数の美しい荊が透けていた。
「……」
 第三者といえ流石に動揺の色は隠しきれず、
蹌踉(よろ)めいた細い躰をなんとか支えた花京院の視界に、
微かに震える友人の背が映る。
「空条……」
 かける言葉など何もないと知りながらも、
それでも花京院は承太郎の傍へと歩み寄り、
震える肩にそっと手を置いた。
 常に威風颯爽としていて己に対する揺るぎない自信に充ち溢れている
普段の彼の雰囲気は、今は見る影もない。
 しかし。 
 そんないまにも自分に向かって崩れ落ちてきそうになっている彼の存在を、
今度は自分が支えてあげなければならないと想った。
 そうでないなら、彼の友人である資格などないと花京院は想った。
盟友(とも)よ……辛いのは解るが……
こうなった以上早急に手を打たねば……
ソレが一時でも早く、奥方をこの窮地から救う事に繋がってゆく……」
 未だ心中は激しく揺れ動いてはいるが、
それでも心を鬼にして己を諫めたアラストールが、
ジョセフにそう問いかける。
 その異界の友人に対し、ジョセフは震える口調で言葉を絞り出す。
 まるでこれから自分が告げる事実を、拒むかのように。 
「ひと……つ……!」 
 断腸の想いで、呑み下した煮え滾る水銀を
今度は吐き出すかのように、ジョセフは言葉を絞り出す。
「『DIO』を ……アノ男を……
見つけだして(たお)すしかない……!
DIOの存在を抹消して……
“呪縛そのもの” をこの世から消し去るしかない……ッ!」
(!!)
 やはり、という予感は在ったが、アラストールは何も言わなかった。
 かつてアノ絶対存在 『究極神』 すらこの世界から封滅したこの男なら、
ナニカ自分の想いもよらない 『策』 を創り出すかもしれないという嘱望も、
今は心の奥底に封印した。
 幾ら、嘗てこの世界を幾多の危機から救った真の 『英雄』 とは言っても、
今は、この世界のどこにでもいる、子の安否を気遣う一人の父親。
 自分のたった一人の娘を、得体の知れない脅威に踏み躪られ
その絶望に嘆くしかない者にソレ以上強いるのは、
他のどんな申し開きも通用しない、残酷というモノだった。
「しかし……しかし……ワシの 『念写』 では、ワシの 『念写』 では……ッ!
ヤツ 「姿」 は写せてもその居場所までは特定できん。
何の手懸かりも無しに 『たった一人の男を』
この世界から見つける術など、一体どうすれば……」
 己を蝕む絶望に正気が混濁しかけてきているのか、
ジョセフは誰に言うでもなくオロオロと言葉を紡ぐ。
(……)
 アラストールは、そのジョセフの様子をみつめていた。
 何も言わず、ただみつめていた。
 己の裡で()(いず)る、幾千の感情と共に。



 ……大丈夫。
 何も、心配いらない。
 (オレ)が、何とかするから。
 直ぐには無理でも、必ずなんとかしてみせるから。
 だから、もういい。
 そうやって何もかも、全部自分で背負わなくても。
 少しは(オレ)を頼れ。
“友達” だろ? 



 紅世でも、一際その異名を轟かせる王へと変貌する内に、
少しずつ見失っていった、本来の存在(じぶん)
 ソレが今再び、アラストールの裡に甦りつつ在った。
 己の存在の裡で燃え盛る、灼熱の 「決意」 と共に。
 先刻の、ジョセフの言葉。
 ソレは、広大不偏な砂漠の中で、
DIOという一粒の砂を見つけるのに等しき所行。
 事実上、不可能に近い。
 でも、やるしかない。
 例えどんな手を使っても。
 どれだけ可能性が低くても。
『零じゃないなら』
 何よりも、“コイツ” の為になら。
“コイツ” は、 今まで、 自分の大切なものを幾つも幾つも失ってきた。
 何度も何度も傷ついては倒れ、その度に失い、
それでも “コイツ” は。
 


“笑っていた”




 緩やかに降り注ぐ、太陽のような笑顔で。
 例えまた大切な何かを失う事になろうとも、
それが 「誰か」 の為であるならば、
喜んで身も心も捧げるという、黄金のような気高き 『覚悟』 を持って。
 ソレならば。
 (オレ)が護ってやらなければ。
 この世の何よりも強く誇り高い “コイツ” を。
 ソレが出来なくて。
 何が 『紅世の王』 だ!
 何が “天壌の劫火” だ!!




“ククク……”




 そのアラストールの決意を嘲笑うかのように、
突如、 “その場にいない筈の男の声が”
室内で静かに木霊した。
「!!」 
「!!」
「!!」
 当時に底知れない邪悪な波動が、空間を充たした。
 ダイニング・ルームを夾んで在る応接間に設置された
液晶プラズマTVの大画面から、突如迸るウォーター・ブルーの光。
 電源を入れていないのにその画面からは溢れ返る程の光の洪水が湧き出し、
そしてソノ光源を 「台座」 に、3つの人型のシルエットが浮かび上がる。
 左に、透徹の氷像を想わせる水蓮の美少女。
 右に、闇冥の水晶を想わせる褐色の麗人。
 その中心に、“男” はいた。
 この世界の災厄。
 スベテの因縁と宿命の元凶である、
『DIO』 が。



【2】


 迸るウォーター・ブルーの光の奔流から、突如現れた3つの人影。
 金細工で飾られた白い大きな帽子とマントを華奢なその身に纏い、
そして至上の宝石のようにエメラルドがかった
サファイア・ブルーの双眸を携えた、神秘的な雰囲気の美少女。
 黒い水着のような衣装に艶めく肌を惜し気もなく晒し、
その凄艶な躰に極薄のショールを纏わせ、
頭部に12の銀鎖で彩られたヴェールを被った
蠱惑的な容貌の麗女。
 その両者の中心に、男はいた。
 数多の 『スタンド使い』 と “紅世の王”
 ソレらをソノ強大な能力(チカラ)に拠り一手に支配する統世王。
 直視侭成らぬ眩むような黄金の髪と瞳を携えた一人の男。
『DIO』 が。
(……ッ!)
 逆立つ前髪。
 震える眼輪。
 首筋にチリチリと走る怖気。
 ソコに穿たれた星形の痣が、何故か異様に熱く疼いた。
「……」
 空条 承太郎は、吸い寄せられるようにソノ男の許へと歩み寄る。
 (さなが) らミエナイ「引力」に存在を牽かれるが如く。
 実際にその姿を視たのは、コレが初めて。
 だが、“知っていた”
 オレは、生まれる前から、
この男のコトを知っていた!! 
「空条ッ!」
 俄には信じがたい眼前の事実。
 だが、即座に思考を切り換え瞬時にスタンドを繰り出せる体勢を整え、
花京院は承太郎の許へと駆け寄ろうとする。
「オイ!」
 その花京院をシャナの胸元のアラストールが呼び止めた。
「……」
 呼びかけだけでアラストールの意図を感じ取った花京院は、
シャナの白い首筋にかかったペンダントを、繋いでいる銀鎖の留め金を
片手で外して手に携える。
 同時にジョセフも、承太郎と同じく吸い寄せられるように、
DIOの許へと歩み寄っていた。
 宿命の邂逅。
 光と闇の相剋。



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!!!!!!!!
 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!




(“頂の座” ……ッ!)
(『エンヤ』 様……!)
 花京院とアラストールが、
DIOの両脇に位置する美女と美少女を認めた瞬間、
同時に心中で叫ぶ。
 棲む世界が違うとはいえ、何れもかつての同胞。
 (たもと)(たが)えたとはいえ、その胸の裡は(やぶさ) かではない。
「……」
「……」
 対照的に視線を向けられた両者は、
各々何も云わず表情も変えず
ただ二人を一瞥しただけで眼前へと向き直る。
 スタンド越しからでも伝わってくるような、
燃え盛る凄まじい怒りにその身を震わせる
己が最大の 『宿敵』 に対して。
 一方その両者の視線を一身に受ける無頼の貴公子は、
その二人の存在など “眼には入らず”
捲くれ上がる寸前の瞳孔でたった一人の男のみを睨みつける。
 たった今からでも、そしてたった一人でも、
最終決戦の火蓋を切ろうとするかのような熾烈なる気炎で。
「テメーが!! 『DIO』 かッッ!!」
 空間を震わせ大地をも鳴動するような喚声で、
承太郎がDIOに向けて叫ぶ。 
 ソノ背後から、全身から、抑えようにも抑え切れない
白金の幽波紋光(スタンド・パワー)を周囲に迸らせながら。
 問われたソノ男は、妖艶な口唇に心融かすような魔性の微笑みを浮かべ、
人間とは想えないような甘い声で言葉を返す。
「クククククククク……初めまして、かな?
空条 承太郎。そして、」
「テェェェェェェェェェェメェェェェェェェェェェェ―――――――!!!!!!」
 言葉が終わる前に、承太郎は血に塗れた拳でDIOに殴りかかった。
 こいつだけは許せない。
 こいつだけは赦さない。
 オレのこの世で一番大切なモノを、
無惨に踏み躙ったこいつだけは! 
 火を吐くような渾心の想いで、DIOのその悠麗な貌に
己が拳を限界以上の力で叩きつける。
 しかし。
(!?)
 次の瞬間、承太郎の拳はDIOに触れるコトなくその後方に突き抜けてしまった。
 本来来るべき筈の反動(ささえ)を失った承太郎の躯は、
大きく体勢を崩して前のめりに蹌踉めく。
「フッ、マジシャンズ共々、性急なコトだ」
 己の背後に突き抜けた承太郎に視線を向けず、
DIOはその瀟灑な衣装で包まれた両腕を組み、
瞳を閉じて不敵な笑みを浮かべる。
「テメェッッ!!」  
 刹那に崩れた体勢を整え、DIOの右斜めの位置に回り込む承太郎。
 そしてすかさず己が能力(チカラ)を念じ解き放とうとした瞬間。
(!!)
 淡いライトグリーンの瞳に映る、DIOの左腕に絡みついた、 
煌めく無数の光の “(かずら)
(スタンド!!)
 この世ならざる異能の遣い手の中でも、
『スタンド使い』 にのみ感じるコトの出来る特有の感覚。 
 すぐにでも 『星 の 白 金(スター・プラチナ)』 を発動させ、
音速の乱撃(ラッシュ)を一斉総射しようとする自分を何とか諫め
承太郎はDIOから距離を取った。
「ほう? 気がついたか? この “葛” が 『スタンド』 だと。
ククク、なかなか慧眼だな」
 王者の余裕を崩さず、DIOはそう告げる。
「私がいま操っているスタンドの名は 『エターナル・クリスタル』
本来は我が肉体 “ジョナサン・ジョースター” の 『スタンド』 として
発現する筈だった力だ」
 嘲笑うように、そして陶酔するように、DIOは言葉を続ける。
「能力は、この世界のスベテを見透すコトの出来る “多重遠隔透視能力”
己の望む場所を自在に映し出すコトも、
またこうしてこちら側の 「映像」 を送り込むコトも可能だ。
おまえ達の動向は、この能力を透して常に私に筒抜けだった。
故に、今こうしておまえ達の前に姿を現しているというワケだ」
「貴様……!」
 DIOの言葉に、ジョセフは咬歯を軋らせる。
 スタンドは、『スタンド使い』 にとって、己が分身も同然。
 一心同体、否、運命共有体と呼んでも差し支えのない存在。
 ソレが、DIOの手に握られているというコトは。
 己が祖父、 “ジョナサン・ジョースター” は、
肉体のみならずその精神までも、DIOに蹂躙されているに等しい。
 その、余りにも残酷な事実。
 天は、運命は、一体どこまでジョナサンの存在を弄べば気がすむのか?
 父を失い、友を失い、愛する者とも永遠に引き裂かれ、
己が生命までもこの世界の為に犠牲にしても、
ソレでもまだ足りぬと云って尚も執拗にジョナサンを苦しめようというのか。 
 写真の中だけでしか知らない自分の祖父、
しかしその存在が、最も忌むべき男に嬲り物にされるコトに対し、
ジョセフは全身の血が煮え滾る程の怒りを感じた。
 そこ、に。
盟友(とも)よ」
(!?)
 振り向いた先。
 花京院の手に携えられ、己の傍らで佇む異界の友人。
 その形容(カタチ)は単なるペンダントに過ぎないが、
でも確かに、己を労る様に見つめる視線をジョセフは感じた。
「今は、何も考えるな。(ぬし)は主のコトだけを考えればそれで良い。
他の事は我に任せよ。彼の者にこれ以上、勝手な真似はさせぬ」
 穏やかな、声。
 静謐で慰撫に充ちた、男の声。
「……」
 その言葉に、その存在に、沸騰寸前まで煮え滾って己の血が
不思議と冷えていくのをジョセフは感じた。
「ほう? そちらがおまえの娘か? ジョセフ・ジョースター」
 口唇に浮かべた不敵な笑みを崩さぬまま、
DIOはそこで初めてジョセフに問いかける。
 遠間に位置する、黒髪の少女に抱かれて横たわる、一人の淑女に対して。
「フム、なるほど。面影が在る。
若き日の 『エリナ』 に瓜二つだ」
 そう言いながら己の遥か遠方を見つめるような、
艶かしい視線でホリィを見るDIO。
 そのコトに再び凄まじい怒りを感じた承太郎は、
己が感情の全てを爆発させてDIOに叩きつける。
「テメエ!! 一体何しに現れやがったッッ!!」
 戦うつもりは、全くない。
 DIOの操るスタンド能力からそのコトを察した承太郎は、
火を呑むような想いで己の怒りを押し殺し、問い質す。
 その承太郎に対しDIOは、
「お前に逢いに」
事も無げにそう言い放った。
「……ッ!」
 嘲弄されていると気づいた承太郎は、口中を噛み締め軋らせる。
 対照的に、ウォーター・ブルーの光源に浮かぶ男は、
その美しい風貌に浮かべた不敵な笑みを崩さない。
「フッ、まぁソレは冗談として、
どうやらこの私の 『居場所』 を探り当てるのに
随分と難儀しているようなのでな。
ならばこちらから出向いてやろうと想っただけだ」
「フザけんなッッ!!」
 左腕を鮮鋭に振り翳し、空間がビリビリと震えるような声で叫ぶ承太郎。
 戯言(たわごと)だと想った。
 それならば何故自らの姿を現さず、こんな回りくどい方法を執る?
 この男は、ただ愉しんでいるだけだ。
 人間が悶え苦しむ様を、ただ高みから見下ろして嘲笑っている。
 ソレ以上でもソレ以下でもない。
 卑劣。
 最悪に卑劣な男。
 そう認識し瞳を尖らせる承太郎に、次に発せられたDIOの言葉は
完全に彼の虚を突いた。
「このDIOの居場所、そんなに知りたいのなら教えてやる。
『エジプト』 だ。 “エジプトのカイロ” 私はソコから一歩も動かん。
ジョセフ。貴様の娘が死すその時までな」
(!!)
 そんなコト絶対にさせるか!
 心中でそう猛り狂った後に浮かび上がる、一抹の疑問。
 承太郎はソレをDIOに問い質す。
「まちやがれ! テメーを斃そうとしているオレ達にッ!
何故わざわざ自分の 『居場所』 を教える!!」
 承太郎のその問いに、DIOは再び微笑を浮かべて答える。
「 フッ、 “勝ち” の決まったゲーム程、つまらぬモノは他に無い。
ならば少しは譲歩してやろうと想ってな。
最も、ソレでもその差は絶望的だが」
 再び王者の余裕を崩さぬまま、DIOは淡々と承太郎にそう告げる。
(……)
 だがそのDIOの態度とは裏腹に、承太郎は茫然自失となり
美しき風貌も蒼白となる。
 渦巻く怒りが臨界を超えると、返って醒めてしまうように。
 そんな白い冷気で充たされた彼の心中で、
残酷な自問自答が繰り返された。
 脳裏を過ぎる、幾人かの姿と共に。
“ゲーム” だと?
 狂おしい程に己が脳裏へと響き渡る、心臓の早鐘。
 オレの母親の苦しみも。
 ジジイの絶望も。
 シャナの哀しみも。
 


“テメーにとってはッ! タダの遊び(ゲーム)に過ぎねぇってコトか!!” 




 認識したソノ事実に再び怒りが白金の火柱のように、
己の裡で渦巻いて燃え盛る。
 そしてその怒りは 「決意」 と成って、彼の気高きライトグリーンの瞳に宿る。
 熱く、激しく、燃え尽きる程に。




 潰す……ッ!
 テメーだけは!! 絶対にこのオレがブッ潰すッッ!!
 DIOッッ!!




 傍にいるが何処よりも遠い男の幻影に向かい、承太郎は吼える。
 怒りだけではない。
 哀しみだけでもない。
 己が乗り越えるべき 『宿命』 として。
 己が斃すべき 『宿敵』 として。
 今再びDIOの存在は、空条 承太郎の存在の裡に強く刻まれた。
(フッ……本当に……何も変わっていないな…… “おまえ達” は……)
 その誇り高き光で充たされた承太郎の双眸を満足気に見据えながら、
かつて同じ瞳で己に挑みかかって来た者を想い起こしながら、
DIOはその至宝なる黄金の瞳を一度静かに閉じた。
「一日も早いエジプトへの来訪。愉しみにしているぞ。
最も “来れれば” の話だが」
 そうDIOが言い放った瞬間、
その脇に控えていた麗人と美少女が一歩前に出る。
 己が最愛の主を、如何なる危難からも護衛しようとするように。
 そして同時に口を開く。
「貴様等のエジプトへ至る過程に於いて、ワシの選別した 『スタンド使い』」
 まずは闇冥の美女が、
「そして私の精選した “紅世の徒” が、その進行を阻止させて戴きます」
続いて透徹の美少女が、それぞれ口を開き己が意図を告げる。
「何れも名にし負う強者達。
アナタ方が此の地に到達する可能性は
皆無と言っていいでしょう」
 冷然とした口調だがまるで水 晶(クリスタル)で創られた管楽器のように、
少女の紡ぐ声は神妙にて美しい。
「……」
 そして姿こそ対照的だが、どことなく自分の知っている少女に
似通った雰囲気を承太郎に感じさせた。
 そしてその氷の少女が自分に向けた視線をやや逸らし、
別の方向へと向き直る。
「しかし、深遠なる紅世の王 “天壌の劫火” アラストール。
貴方の口添えで在るならば……
『星の白金』 以下4名。
我が “陣営” に降る手筈は整えてあります」
 殆ど感情の起伏を感じさせない、聖少女の澄んだ声。
 その進言に対し、右隣に位置した麗女が瞳を細め微かに尖らせた。
「貴様? DIO様の御前で無礼であろう。
此奴等は決して相容れぬ血統の者共。
許し難き我等の仇敵ぞ」
 麗女の咎める様なその問いに、少女は表情を変えず冷然と返す。
「優れた 『能力(チカラ)』 を持つ者で在るなら、
討滅するのではなく我が陣営に引き込んだ方が双方の犠牲もなく
より合理的だと判断したまでです。
このコトは統世王様から一任された私の役目。
僭越(せんえつ)は貴女の方ではないでしょうか?」
「貴様」
「……」
 真正面から対峙する、闇冥と水蓮の瞳。
 麗女の背後から冥界の大気を想わせるような。
 少女の躰から天界の霊気を想わせるような。
 聖と邪。
 それぞれ色彩の異なる存在の力が燐光のように立ち昇る。
 スタンド越しにその光を眼にした承太郎は。
(……ッッ!!  この女……! 二人共タダモンじゃねぇッッ!!)
 血気と怒りに任せて、今まではDIOしか眼に入っていなかったが、
ウォーター・ブルーの光の中で立ち昇る
両者の只ならぬ雰囲気と威圧感(プレッシャー)に、
彼は本来の冷静さをやや取り戻し瞳を開く。
「……」
 やがて少女はゆっくりと、その闇冥の麗女から視線を外すと
刹那に私情を諫め再びアラストールへと向き直る。
「さて、アラストール。賢明な貴方で在るならもう」
「断るッッ!!」
 有無を云わせぬ荘厳な声が、少女の言葉が終わる前に響き渡った。
「……ッ!」
 明確な拒絶。
 予想外の返答だったのか、紅世の少女はその神聖な双眸を少しだけ見開く。
 しかしすぐに元の冷然とした表情へと戻り、
「交渉、決裂というコトですね」
澄み切った声で一言そう告げる。
「“天壌の劫火” の存在の輝きも、
永き時の流れの中で些か鈍ったというコトですか?
傷ましいコトです」
 そう言って花京院の掌に携えられたペンダントに、
冷淡な視線を送る水髪の少女。
「……」
 その自分と同じ領域に位置する強大な “王” の問いかけに対し、
アラストールは無言で応じる。
(何とでも云え……己が存在の貴賎よりも大事なモノが在る……
そのコトに気がついたのだ…… 「人間」 という存在を理由(ワケ)も無く蔑み……
儚い塵芥のようなモノとしてしか認識していない貴様等には……
永遠に理解(わか)らぬ領域よ……)
 己が拠るべき存在の相違から、完全に袂を別った二人の王。
 その一体どちらが 「正しい」 のか?
 ソレはこれから初まる果てしない壮絶な戦いの許明らかになるであろうと、
言葉を交わさなくとも両者はヒシヒシとその存在の裡に感じていた。
「さて、名残惜しいがそろそろ失礼するとしよう」
 最後までその不敵な笑みを崩さなかったDIOが、
承太郎を見据え王者の格を魅せつける様にそう告げる。
「空条 承太郎。
次に逢う時は、今よりも遥かに強力な 『スタンド使い』 として
成長しているコトを期待するぞ。
我が史上最強のスタンド、 『世 界(ザ・ワールド)』 で
貴様のスベテを撃ち滅ぼしたくなる程にな。
クククククククククククク……」
(!!)
 慈しむように、嘲るように。
 相反した感情を同時に口唇へ浮かべ、自分に微笑むDIO。
 ソレが 『スタンド使い』 と “紅世の徒”
果て無き死闘の開戦の烽火(のろし)だと
言葉に出さずとも承太郎は確かに感じていた。
「そうでなければ貴様の母親は死ぬ。
このDIOを斃さぬ限り、絶対にその 『運命(さだめ)』 からは逃れられぬッ!
死に物狂いで成長するコトだな。
スタンドも貴様自身も!
オレは “いつでもお前を視ている”
そのコトを忘れるな!」
 そう叫んだDIOが鮮鋭に、
スタンド、『エターナル・クリスタル』 の絡みついた左腕を振り翳す。
 ソレと同時に、その葛から迸るウォーター・ブルーの光が輝度を増し、
DIOの姿を徐々に覆い尽くしていく。
「我が名は 『エンヤ』 」
「私の名は “ヘカテー” 」
 その光の洪水の向こう側から、青のシルエットと化した二つの声も届く。
「運良く生き延びていれば、何れ合い間見える事もあるだろう」
「天命がアナタ方を導くのなら、いずれ逢い間見えるコトもあるかもしれません」
 やがて。
 無限に湧き出す光の奔流が完全にDIO達の姿を覆い尽くし、
そして瞬時に凝縮し始める。
 消え去るスタンドパワーと共に、最後に自分に向けられた言葉。
「さらばだ空条 承太郎!!
オレは此処にいるッッ!!
このDIOを斃したいなら地の果て迄も追って来い!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!
クァァァァァァァァハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」
 この世の何よりもドス黒く邪悪な叫声と共に、
光の中へと消えていった男。
 眼前にはその余韻すらも遺らず、ただ自分の姿が液晶に映るのみ。
 承太郎は静かにその瞳を閉じ。
 祈るように新たな決意を、己が存在の裡に刻み付けた。 



 エジプトか……!
 上等だ。
 テメーをブッ倒す為なら、どこへだって行ってやる。
 例えこの世の果てだろうと、地獄の底だろうと!



 そして見開かれる、白金の 『正義』 宿る光の双眸。
 テメーは、決して触れてはいけないモノに手を触れた。
 テメーは、オレを。




“怒らせたッッッッ!!!!”




 湧き上がる精神の咆哮。
 時空を超えて鳴り響く黄金の波動と共に。
 先刻までDIOが居た場所に背を向ける白金の青年。
 その強い決意を漲らせた彼の視界に、最初に映った者。
「……シャナ」
 頬に幾筋も涙の痕を残した、少女の姿が在った。
(……)
 光と闇の邂逅。
『幽血の統世王』 自らの宣戦布告。 
 しかし、その何れも、今の少女にはどうでも良かった。
 何も聞こえず、何も感じられなかった。
 承太郎の声もアラストールの声も、今眼前に現れたDIOの声すらも耳には入らず。
 ただ、少女は、凍り付いた悲痛な表情のまま、ホリィの躰をずっとかき抱いていた。
“抱き続けていた”
 まるで。
 母親の 「死」 を理解できず、
冷たくなった母体に寄り添う幼子のように。

←To Be Continued……
















『後書き』




はいどうもこんにちは。
ここで描く内容でもないかもしれませんが気になったのと
「作品に於ける作者の人間性」という問題について全く無関係では
ないと想ったので記述すると致しましょう。

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171121-00050067-yom-soci

もう御存知の方もいるかもしれませんが『るろうに剣心』等で有名な方が
上記の事件で書類送検されたようですネ。
荒木先生とは違いワタシは別にこの方のファンでもなんでもないのですが、
前述の作品は読んだコトはあります。
別段つまらないと想ったコトはなく
(まぁ曲がりなりにも大ヒットしましたからネ・・・・('A`))
必殺技の演出等は巧いなと想って読んでました
(戦闘そのものは結構大味というかプロレスっぽいのが気になりましたが)
ただ、ジョジョと違って全く「感動」はしませんでした。
「不殺の誓い」や「逆刃刀」という設定もキレイゴトや偽善の匂いがして
好きになれず妙な不快感を常に抱いていました。
で、ソレもその筈で、『こんな事件』起こしている人が
人を感動させる作品等描けるワケがないのです。
作品は作者の心を映し出す鏡。
望もうと望むまいと、信じようと信じまいと、
その意志すら無視して残酷なまでにその内面を(さら)け出してしまいます。
だから、作中でいくらキレイゴトや御託を並べようと、
犯罪に「加担」するような人間の言葉が心を打たないのは当たり前です。
だって、“描いている本人が”一番その言葉を信じてないのですから。
前述の作品は、とかくヒロインの女の子が読者に嫌われていて、
連載が終わった未だに叩かれ続けていますが
上記の人物が造ったキャラならさもありなんと言ったところでしょう。
作品は無論「フィクション」です。
しかし作者の「想像力」で描かれている事は現実です。
その想像力の源である「精神(こころ)」が汚れていたら、
全体が汚れて見えるのは最早必然の成り行きでしょう。
「技術」や「演出」で一時的に人を楽しませる事は出来るかもしれません、
しかし、人を「感動」させる事は決して出来ません。
荒木先生を初めとして、旧くは藤子不二雄先生、
鳥山 明先生、車田 正美先生、赤塚不二雄先生など
人を感動させるストーリーを創る事の出来る人は皆、
人格的にも優れた人ばかりです。
故に子供のためにマンガを描いている者が、
その子供を喰いものにしている媒体を
下世話な快楽の道具にしている等という事態は、
言語道断である以前に大いなる「矛盾」以外の何モノでもないでしょう。
別に、性善説的なコトを説きたいわけではありません。
ただ、汚れた人間がソレを幾ら誤魔化して作品に仕立てたとしても、
ソレに騙されるほど読者はバカじゃないという事です。
人の嗜好は多種多様(それぞれ)、ワタシも聖人君子じゃないので
“人に迷惑かけなければ”同性愛でも女装趣味でも好き勝手にヤれば
良いと想います。
ただ小 児 性 愛(ペドフィリア)、所謂ロリータ・コンプレックスは
この範疇に収まりません。
自分の想像で楽しんでる内なら別に構いませんが、
しかし『それ以上を望む者』がいるから年端もいかない子供が
性的に蹂躙されるような闇産業が成り立ってしまうのであり、
その「欲望」を抑えられない者がいるから
その量産に拍車がかかってしまうのです。
コレは「麻薬」と同じで売る方も買う方も両方『同罪』
直接的には手を下してませんが
間接的には幼子を蹂躙しているも同然なので
その「自覚」がない分より卑劣と言えるかもしれません。
(どっかのバカと似てるナ・・・・('A`))
買う者がいるから売る者がいる。
ソレが「犯罪」なら良い大人なんだから
自分もその一端に組み込まれているというコトにくらい
早急に気づいて欲しいモノです。
・・・・本当に、かつてジャンプの看板作家で多くの子供達に慕われていた者が
一体何をヤってるんだか・・・・('A`)
作中で主人公に言わせていた数々の台詞は
一体どの(ツラ)下げて描いていたのか。
「貴様の野望のために罪なき人々が
踏みしだかれるのを見過ごす事は出来ん!!(でしたっけ?)」
と言っておきながら、じゃあお前の性欲のために罪の無い子供が蹂躙されるのは
別に良いのか? 結局、
「所詮この世は弱肉強食」
がお前の本音だったんだなと断じられてもいまさら誰にも抗弁出来ません。
故に、ワタシが小 児 性 愛者(ペドフィリア)を嫌う理由がよく解ってもらえたと
想いますし、ロリコンのヤツが描いてる作品など一切認めない
(ソレ以前にツマラナイ)というのも解って貰えたと想います。
だって『犯罪者予備軍』なんですから、まともな感覚があったら
到底許容出来る筈ありません。
憶測でモノを言うのは慎むべきかもしれませんが、
ツンデレ幼女が刀を振り回すヘタレ男子とのくだらないラブコメ話で、
無意味な裸のシーンが無秩序に差し込まれるようなモノを描いている人は、
上記のような犯罪に抵触するDVDを所持している「可能性」は
ゼロじゃないと想います。
少なくとも前述のようなモノを描いていながら
「俺はロリコンじゃない!」と訴えても
誰も信用してはくれません。
まぁ、精々二次元の想像だけに留めて、現実の「犯罪」には加担してくれるなよと
祈るのみです。その嗜好をオープンにされるだけでこちらは非常に不快なので。
ソレでは。ノシ 
 

 
後書き

 
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