真・恋姫†無双 劉ヨウ伝
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第184話 反董卓連合
正宗を取り逃がした賈詡は都の権力掌握に動く、手始めに清流派の百官達を粛正した。司徒・王允は誅殺された。この混乱の最中、王允派の荀爽は都から逃亡する。賈詡は百官達の粛正を終えると、用済みとばかりに司空・劉弘に難癖をつけ地位から引きずり下ろす、そして董卓を司徒に据えることに成功した。そして、失脚した劉弘は賈詡の命令で人知れず始末された。前皇帝・劉弁は弘農王に降格され、代わりに劉協が即位した。これを賈詡は内外に広く告知し、諸侯に向けて正宗を逆賊として討伐するべく檄文を発した。
逃亡した荀爽は兗州東郡太守・橋瑁の元に身を寄せていた。都の混乱を知った橋瑁は董卓の専横に憤りを感じ、荀爽と連名で董卓に反抗するべく内外に檄文を発した。これに少し遅れ正宗の姉、兗州刺使・燐(劉岱)、が華琳と連名で董卓の弾劾状を都に送りつけるのだった。
正宗討伐の檄文に対し諸州の有力者は沈黙を決め込み様子を窺っていた。皇族の長老・劉虞は白蓮との軋轢で身動きが取れない状況であった。ただ、現在の朝廷を尊重する立場を取り劉協の即位を祝う使者を送った。後漢の皇族達は表向き劉虞の動きに同調した。
橋瑁の発した檄文に直ぐに呼応した諸侯は正宗、燐、麗羽、美羽、風、華琳、炎蓮(孫堅)、袁遺であった。正宗陣営の総兵力は二十四万二千に上った。これまで静観を決めていた諸侯も正宗優勢と動きだし、反董卓連合軍は最終的に二十八万にまで膨れ上がった。この状況に賈詡は慌てたがなす術なく、董卓陣営は消極的理由による篭城戦を取る以外に道を失った。董卓軍は八万の軍勢で反董卓連合軍を迎え撃つこととなった。
話は正宗が都を落ち延び百官達を粛正した後に遡る。自室に戻った賈詡を待つ客がいた。客は董卓、段煨(静玖)、張遼、李粛(咲)達だった。董卓意外の三人は今にも賈詡を斬り殺しそうな表情だった。
「月……」
賈詡は董卓を視界に捉えると表情を暗くし視線を落とした。董卓は賈詡を哀しそうな表情で見つめていた。
「賈詡っち! どない了見や!」
口火を切ったのは張遼だった。彼女は正宗と董卓の面会の機会を取り付けていただけに、賈詡に成果を無茶苦茶にされ怒り心頭だった。
「詠さん、恋を何で殺そうとしたんすか! 音々音に聞いたっすよ。何考えてんすっか!」
張遼の後を継ぎ李粛も声を荒げ賈詡を非難した。
「みんな、落ち着いて。詠ちゃんの話を聞きましょ」
「月、聞くって何を聞くんや。今更『何で車騎将軍を殺そうとしたんや』と聞いてどないなるんや。賈詡っちの所為で全部おじゃんやないか! 車騎将軍は月との面会を快く受けてくれたんやぞ。向こうは騙し討ちをしたとしか思わんやろ。ようもウチに黙って汚い策謀の片棒を担がせてくれたな!」
張遼は月の制止を振り切って賈詡を矢継ぎ早に批判し怒鳴った。彼女は賈詡の行動に腹が据えかねている様子だった。
「悪かったわね」
「な!?」
賈詡はふて腐れた様子で張遼に謝る。その態度が癪に障った張遼は何かを言おうとするがそれを段煨が制止した。張遼と李粛は怒り抑え沈黙した。董卓は安堵した表情になる。
「詠、今の状況は理解できているのか。この状況を打開する計画はあるのか?」
「静玖さん、目障りな百官達は全員殺しました。仕上げに劉弘を始末し、その後で月は司徒、私は司空、静玖さんは大尉に就いてもらいます。これで朝廷は掌握できます」
賈詡は段煨に今後の説明をした。段煨は表情を固くした。
「本気で言っているのか?」
「本気です」
賈詡の様子に張遼は呆れている様子だった。李粛は状況が読めない様子だった。
「今の朝廷を掌握することは容易にできるだろうが、直ぐに盤上はひっくり返されることになるぞ」
段煨は険しい表情で賈詡を睨んだ。
「劉正礼の官位官職を全て解官し討伐の勅を出します」
「無意味だ」
段煨は冷厳に賈詡の言葉を断じた。
「劉正礼は朝廷を立て皇帝の忠臣を標榜しています。朝廷の権威を蔑ろにできる訳がありません」
「車騎将軍はお前の思う通りには動かない。禁軍に対して『私に天意あれば逃げおおせる』と啖呵を切ったそうではないか。それは為された。人の口に戸を立てることはできない。それを見越して車騎将軍はそんなことを言ったのだ。現に禁軍内には不安が蔓延している。それにお前が車騎将軍に官位官職を全て解官する強硬な態度を取れば、ここぞとばかりに大軍を率い都に攻め上がってくる。豫州と司隷の州境を超え冀州軍十万が動いている。司隷の各地に駐屯する官軍が昼夜を問わず指示を仰いでくる始末だ」
段煨は賈詡の考えの甘さを批判した。彼女が正宗に何をしようがカリスマだけで冀州をまとめ上げ、姻戚関係にある汝南袁氏の後援を受け都を攻めると考えているようだった。正宗が上洛した時に董卓が降ればそれ相応の地位を約束したろうが、今に至っては正宗が董卓に容赦をかけるはずがないと考えていた。そう思わせた理由は荊州での正宗の行動だろう。正宗は我慢強く相手が恭順するまで待つが、一線を越えたら容赦なく相手を滅ぼす。
「じゃあ、どうしろと言うんです」
「もう生き残る道は車騎将軍を討伐する以外にない。成功の可能性は低い。例え成功しても、華南に勢力を持つ汝南袁氏を敵に回すことになる。車騎将軍の正室は汝南袁氏の出身である袁本初、その従妹は袁公路。特に袁公路は荊州牧に就いたばかりとはいえ、その名声は大陸にも響き亘っている。車騎将軍を討てば、この二人は私達を絶対に許さない。地の果てまで追ってくるだろう」
「賈詡っちが罪被って死ぬのが一番や。そうせんと月は死ぬ」
張遼は溜息をつきながら賈詡に言った。
「月は死なせない! 私が死んだからと言って劉正礼が月を許す可能性はないじゃない!」
賈詡は声を荒げて張遼に怒鳴った。
「ウチは車騎将軍なら月を許すと思うで」
張遼は冷めた目で賈詡を見つめていた。その瞳は賈詡への哀れみを感じさせた。
「車騎将軍は恋と対峙した時に何て言ったか知っているか?」
張遼の言葉に周囲の視線が集まった。賈詡は張遼の前振りがよく理解出来ていない様子だった。董卓も話が見えないが困惑していたが、張遼の様子から何か重要なことと悟った様子だった。
「『呂奉先、お前は董仲穎を殺したいのか。賈文和は引き返すことのできない道を選択した』と言ったそうや」
張遼の衝撃の告白にみんな驚いていた。賈詡は凄く狼狽していた。正宗に全て見抜かれていた事実は賈詡を凄く動揺させた。
「賈詡っち。車騎将軍は全てお見通しやったということや。それでも歩み拠ろうとした。それを台無しにしたのは賈詡っちや」
張遼は淡々と言った。彼女の表情からは怒りは一切感じられなかった。他の面々の視線が賈詡に向く。最初に口を開いたのは董卓だった。
「待ってみんな。詠ちゃんに頼りすぎた私にも責任がある。許してあげてとは言わない。でも、詠ちゃんが死ねばいいなんて言わないで上げて」
董卓は哀しい表情で瞳に涙を溜め皆に訴えた。その後、董卓は賈詡を見た。
「詠ちゃん、どうして車騎将軍の話を相談してくれなかったの。私は会いたかった。どうして?」
董卓の哀しみに満ちた表情に賈詡は表情を曇らせ視線を落とし黙ってしまった。賈詡は董卓が天下を獲ることを最上の目的でないことを重々承知していからこそ、「月に天下を取らせたかった」などと自分の夢を口にできなかった。
「詠ちゃん、教えてちょうだい。私は詠ちゃんの口から聞きたいの」
董卓は涙を溜めた瞳で賈詡を見た。
「私は月に天下を差配して欲しかったの」
賈詡は徐にゆっくりと口を開いた。
「私は月に天下を差配して欲しかったの。月が劉正礼の下で働くなんて堪えられない。月は大陸を治める器が十分にあるはず」
賈詡が言い終わると董卓は賈詡の頬を叩いた。乾いた音が部屋に響いた。賈詡は何をされたか一瞬分からなかった、じわじわと痛む左頬に手をやり董卓に叩かれたことを自覚した。賈詡が呆けた表情で顔を董卓に向けた。董卓は泣いていた。
「そんなことのために多くの罪の無い人を殺めたの」
董卓は震える声で賈詡に失望している様子だった。賈詡は董卓の悲しむ姿を正視できず視線を逸らした。
「みんな、一生懸命生きているの。私はみんなが安心して暮らせるようにしてあげたかった。その近道が車騎将軍に協力することなら迷うことは無かった」
「そんなの私の月じゃない!」
賈詡は董卓の想いに反発するように怒鳴った。
「私は私。詠ちゃんの気持ちは嬉しいと思う。でも、多くの者を犠牲にしてまで得るものじゃない」
「劉正礼は何なの! あの男は荊州で殺戮を行ったじゃない。老若男女問わず逆賊という理由で皆殺ししたわ。逆賊を根切りにすることは正義よ。でも、あの男は迷わずそれをやってのけた。大義の前には犠牲はつきものなのよ!」
賈詡は董卓に自分の考えを全否定され動揺した様子で喋り出した。
「車騎将軍は蔡徳珪討伐における略奪を一切禁じ、それを行った者を処刑したと聞いたよ。逆賊の資産も全て荊州の復興に使うように厳命されたと聞いたよ。車騎将軍の強い想いが表れていると思う。詠ちゃんが言うような人だったら、そんなことはしない!」
董卓は賈詡の正宗を非難する言葉を黙らせた。賈詡は董卓に何も言えず黙ってしまった。自らの夢が董卓の夢でなく、独り善がりな夢であると痛いほど実感されたからだろう。
「月、今後どうするのだ?」
段煨は董卓に尋ねた。
「私は詠ちゃんを見捨てることはできない」
段煨は月の言葉を聞き目を瞑った。彼女は月の考えが想像できたのだろう。
「そのことの意味が理解できているのか?」
段煨は目を開き鋭い目で月を凝視した。董卓は段煨の迫力に動ずる様子はなかった。段煨の視線を逸らさず、黙って見据えていた。
「私は友達を見捨てれない」
「詠はお前を裏切り続けたのだぞ。私達の分は限り無く悪い。勝算は見えないぞ」
「それでも。詠ちゃんを見捨てることはできない」
董卓の決意は固そうだった。段煨は溜息をつき天を仰いだ。しばし、周囲を沈黙が支配した。
「私は月の決定に従おう」
「ウチは外れさてもらう。もう賈詡っちにはついていけん」
張遼は賈詡を睨みながら語気を強め言った。段煨は張遼の意見を尊重したのか黙って頷いた。
「ええと。アタイは恋が残るからここに残るっす!」
李粛は迷わず答えた。親友の呂布が都に残る以上、彼女は都を離れる理由が無いのだろう。
「みんな迷惑をかけて御免ね。霞ちゃん、今までお世話になりました」
董卓は部屋にいる者達に頭を下げ、張遼に近づくと彼女の手を取り礼を言った。張遼は董卓に対して罪悪感を少し感じたのか表情を曇らせた。
「月、こっちこそ世話になった。またきっと笑って会える日が来るやろ。じゃあな」
張遼は笑顔で董卓に答えると槍を肩に乗せ去って行った。この日、彼女は都を後にする。張遼と段煨は賈詡を糾弾する前に密議を交わしていた。張遼は冀州に向かうのだった。
正宗は冀州に戻ると幽州にいる風と稟に早馬を出させた。その結果、稟は劉虞と白蓮を監視するために幽州に残ると伝令があった。風は烏桓族に正宗から受けた恩を今こそ返すべきと密使を送り、自らの本拠である幽州上谷郡の兵と合わせ都合一万の兵を整え正宗の元に馳せ参じた。
「正宗様、久し振りですね。私は忘れられていたかと心配していました」
風は口元を抑え皮肉を正宗に言った。
「風、変わり無いようだな。幽州から長旅であっただろう。戦の前に一休めしてくれ」
正宗は笑みを浮かべ風を労った。
「そうさせていただきます。久し振りの長旅で疲れてしまいました」
正宗と風が会話をしていると、揚羽が部屋に入ってきた。
「風、幽州からご苦労さまでした。正宗様、お客人です」
揚羽は風に声をかけると、視線を正宗に向けた。
「こんな時に客人とはな。誰なのだ」
正宗は揚羽の話に訝しんでいた。
「董仲穎配下、張文遠が参っております。本人は董仲穎の元を去ったと言っております。お会いになられますか?」
「張文遠?」
正宗は揚羽から張遼の訪問を知らされ黙考した。その様子を揚羽と風は黙って見ていた。
「会おう。通してくれ」
「分かりました。私も同席させていただいてもよろしいでしょうか?」
揚羽は正宗と張遼の面会の場に立ち会わせて欲しいと言った。風も目に笑みを浮かべた。
「正宗様、私も同席したいです。よろしいでしょうか?」
「好きにしてくれて構わない」
「ありがとうございます」
揚羽と風は揃って正宗に礼を言った。張遼は揚羽の案内で謁見の間に通された。正宗は一段高い場所で玉座に腰を掛けていた。正宗の左に揚羽。右に風が立った。
張遼は部屋の中央に進むと片膝を着き頭を下げ拱手した。
「車騎将軍、お会いしていただきありがとうございます。過日、車騎将軍への襲撃を防ぐことができず申し訳ございませんでした」
張遼は以前の会った時の関西弁と違い、言葉に気をつけながら正宗に挨拶した。賈詡が正宗を襲撃したため、正宗の元を張遼が訪問すれば有無を言わさず殺されてもおかしくない状況だからだろう。
「社交辞令はいい。今日、私を訪ねた用向きを聞かせて貰えるか?」
正宗は張遼に本題を聞きだそうとした。
「車騎将軍、ウチは董仲穎の元を去ってきました」
張遼は顔を上げた。正宗は彼女の話の続きを待った。
「車騎将軍、ウチを客分として置いてください」
揚羽は張遼の言葉に目を細めた。
「張中郎将、危険を承知して何故劉車騎将軍の元を訪ねたのです? 身を寄せるなら、劉車騎将軍以外にもいると思いますが」
風は張遼に質問した。彼女の質問はもっともだろう。張遼は最近まで董卓陣営であった。その者が正宗を頼って董卓の元を去った。董卓の暴挙を知れば、張遼が彼女の元を去ったことも当然と言える。しかし、董卓の最有力の敵対者である正宗の元を選んだ理由は気になるところだった。
「車騎将軍の元が一番安全と思いました。元董仲穎配下と言うだけで、今後寝首をかかれる可能性がありますが、そないなこと車騎将軍はなさらないと思ってます」
正宗は目を瞑り納得したように頷いていた。
「よろしいのではないでしょうか」
揚羽が徐に喋り出した。
「間者として紛れ込むために参ったかもしれませんよ」
風は張遼を見ながら淡々と言った。張遼は沈黙したまま正宗達の様子を見守っていた。
「間者の可能性はあります。ですが、ここで彼女を受け入れることは今後に役立つことでしょう。董仲穎配下の一角を担う武将が主の元を去り、車騎将軍に客分として身を寄せている。この事実は大きいと思います。今後、董仲穎側からの離散者も投降しやすいでしょう」
揚羽は冷厳な面持ちで正宗に自分の考えを披露した。
「こちらに利益はありますが、間者である場合の不利益の方が大きいと思いますよ」
風は揚羽の考えに賛同出来ない様子で淡々と答えた。
「正宗様はどうお考えでしょうか?」
揚羽は風と議論しても平行線と考えたのか、正宗に話を振った。風も正宗の意見を求めている様子だった。
「風の考えも納得できることだな。揚羽、張中郎将を客分と招こうと思う。ただし」
正宗は言葉を切り張遼を見た。
「張中郎将、事態が事態である。不自由をさせるかもしれないが、しばし軟禁させてもらうぞ」
正宗は揚羽と風の両方の意見の折衷案の立場をとった。両名とも概ね満足そうだった。
「車騎将軍、ご配慮いただき感謝いたします」
張遼は正宗から制限を受けたが客分として受け入れられたことを感謝し礼を言った。彼女は安堵している表情をしていた。
張遼は正宗から鄴城内城にある屋敷を与えられた。彼女は侍女に案内され屋敷に向かった。その屋敷の警備・監視をかねて城兵も同行した。
「本当によろしかったんですか?」
風は正宗のことを見た。正宗は意味深な笑みを浮かべた。
「間者の可能性は低い」
「その理由を教えてもらえますか~?」
「有り得ない行動をして奇を狙ったとも言えるが、冷静に行動ができる張文遠であれば私を害すことで董仲穎に利益が無いことは分かるはずだ。風、賈文和は私と董仲穎の面会を拒んだ後、私と董仲穎の面会を申し入れたのは張文遠なのだ。間者として私に潜り込むつもりであれば、こんな回りくどい真似はしないと思わないか?」
正宗が張遼との遣り取りについて風に説明するとしばし沈黙した。
「董仲穎側は一枚岩では無いということですね~。すると張文遠は董仲穎を助命を狙っているとなりますね。それなら正宗様の側が一番でしょうね」
「正宗様の見立て通りならば近いうちに張文遠から話があるでしょう」
揚羽は風が話終わるのを待つと口を開いた。彼女ははじめから張遼の腹づもりを見抜いていただろう。
「董仲穎の助命ですか~」
「そんなの無理だぜ。董仲穎は皇帝を引きずり下ろした大逆人だぜ」
「そうですよね~宝譿~」
風は頭の上の置物とひそひそと会話をしだした。
「董仲穎は死ぬ以外にないでしょうね。死ぬ以外に」
風は意味深な悪巧みを思いついたような笑みを浮かべ正宗のことを見ていた。
「風、そういうことだ」
「御意です~」
「正宗様、董仲穎の件は慎重に扱うようになされませ。ことが漏れぬように人選はお気を付けください。諜報部隊を使うよい頃合いか。凪を部隊長に百名ほど洛陽に送り込んではいかがでしょうか。今なら混乱に乗じて洛陽に潜り込めると思います」
揚羽は常山郡に本拠を置き秘蔵し続けた諜報部隊を使うことを進言してきた。
「練度はどの程度だ。董仲穎陣営にばれず潜伏することになる。中途半端な練度では狩り出される羽目になる」
正宗は神妙な表情で揚羽を見た。風は正宗と揚羽の話を黙って聞いていた。
「練度は問題ありません。凪とは別に真悠(司馬季達)も諜報部隊を率い洛陽に潜り込ませたいと考えていますが問題無いでしょうか?」
揚羽は話の流れで彼女は自分の希望を口にした。彼女は自分の妹の真悠を凪と一緒に洛陽に送り込みたいと言っていた。
「二部隊も投入するのか?」
正宗は複数の部隊を洛陽に潜り込ませることを訝しんだ。正宗軍が洛陽に突入するまでの間、隠密行動を取る必要がある。人数は少ないことにこしたことはない。正宗は揚羽の存念が気になったようだ。
「はい。董仲穎の救出を凪に任せます。真悠の役目は劉協様の保護でございます」
揚羽は正宗に詳しく説明した。それを聞き、正宗は揚羽の考えを理解した。
「揚羽、いいだろう。そのように手配せよ。可能であれば、劉弁様もお連れいたせ」
正宗は了承すると揚羽は正宗に頭を下げ拱手した。揚羽としては自分が一番信用できる人物を劉協救出に回したことと、妹の出世を後押ししたいと考えが働いたのだろう。
「へいへい。姉ちゃん。上手くやりやがったな!」
風は頭の上の置物・宝譿が揚羽に喋りだしたが、揚羽は素知らぬ顔で平静さを保っていた。
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