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真・恋姫†無双 劉ヨウ伝

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第183話 劉弁廃位新帝擁立

 張遼は正宗の屋敷を訪問した。彼女は事前に面会の許可を得ずに訪問したが、正宗の屋敷内に案内された。張遼は屋敷内の雰囲気に違和感を感じた。下人が一人も居らず兵士達だけだったからだ。正宗は都に屋敷を持っており、その屋敷を維持しているはずだった。にも関わらず家事を行う下人がいない。兵士達は張遼の訪問に対して固い表情をしていたが敵意を示すことは無かった。
 張遼は表情には出さなかったが正宗が董卓陣営の動きを警戒していると感じた。すべての原因は賈詡にあることも。張遼は何とかして正宗と董卓の会見をまとめないといけないと決意を新たにした。その後、張遼は泉の案内で部屋の一室に通された。しばらくすると正宗が一人現れた。家臣は連れていない。張遼は正宗もわざわざ一人で現れたことで話をしやすいと考えた。

「張中郎将、わざわざ足を運んでもらったのにもてなしが出来ずに済まない」

 正宗は笑顔を浮かべ気さくな態度で張遼に挨拶した。

「わざわざ会ってもろうて礼を言うのはウチのほうです」

 張遼は緊張感ない気楽な口調で正宗に礼を言った。彼女は言葉を交わすまで正宗に対し少し緊張していたが落ち着いた様子だった。

「張中郎将、今日の訪問の理由を教えてくれないか?」
「賈尚書令が車騎将軍に失礼なことを言ったそうで、申し訳ないと思い謝りにきました」

 正宗は納得した様子で数度頷いた。

「別に気にしてはない。それより董少府の具合はどうなのだ」
「ああ。それですが後で董少府に報告したら、車騎将軍に会いたいと言うて。申し訳ありませんでした。日取りを決めて董少府のお屋敷にお招きしたいんですが大丈夫でしょうか?」

 張遼は不安そうな目で正宗を窺った。

「私も董少府に一度会いたいと思っていた。過去のわだかまりは互いに一度忘れ協力出来ればと私は考えている」
「ほんまですか! ありがとうございます。董少府に伝えます」

 張遼は心底安堵した様子で正宗に笑いかけた。正宗も笑顔で返した。

「車騎将軍、早く董少府に伝えたいんで失礼させてもらいます。ほんと。なんか済みませんでした」
「張中郎将、私はお前に会えて良かったと思っている。董少府には会えることを楽しみにしていると伝えて欲しい」
「任せてください!」

 張遼はサラシを巻いた胸を勢いよく叩いた。

「そう言えば賈尚書令はどのような様子なのだ。賈尚書令は私と董少府が会うことをよく思っていないように感じたのだが」
「ああ。気にせんでください。賈尚書令は別にそんなことを思っていません。少し体調が悪かっただけです。車騎将軍に不快な思いさせてもうて本当済みませんでした」

 張遼は慌てて正宗に謝りだした。

「そうか。私の思い過ごしのようだったようだな」

 正宗が笑顔を張遼に返すと彼女は正宗に挨拶して屋敷を去って行った。張遼が去ると、正宗が一人いる部屋に泉が入ってきた。遅れて華琳、秋蘭が現れた。

「張文遠は何と?」

 泉が切り出してきた。

「董仲穎との会見の場を設けさせて欲しいと言ってきた」
「正宗様、今更ですね」

 華琳は正宗に呆れるように言った。

「それだけ状況が切迫していたということでは。正宗様が董少府の屋敷を訪問して半日も立っていないです。どうしても今日中に話をつけたかったと見るべきです。董少府の家臣は一枚岩ではないと思います」

 秋蘭は状況を分析に自らの考えを正宗に述べた。正宗は思案気な表情で考えていた。

「気にかかることがある」

 正宗は泉と華琳、秋蘭を見た。

「賈文和が私と董少府の会見を望んでいるらしい」
「本当なのでしょうか? とても信じられません」

 泉が正宗に意見した。泉は直に賈詡を会っているだけに、その時の印象から賈詡が正宗を拒絶しているように目に写ったからだ。

「私は賈文和とは面識はないわね。でも、今までの正宗様への対応を見ると大人しく恭順するような感じがしない。本気に恭順する気なら、正宗様が上洛する報を受け次第出迎えに行っているでしょ。董少府は司隷校尉を兼任しているのだし」

 華琳は腕組みして無い胸を強調しながら意見を述べた。秋蘭も華琳の意見に同意なのか頷いていた。

「泉と華琳の見立ては間違いないだろう。私が董少府に会ってからでは面倒になるはず」
「今夜にでも正宗様を襲撃するでしょうね」

 華琳は淡々と言った。

「名分はどうするのです?」

 泉は華琳に疑問を投げかけた。

「想像もつかないわ。でも、逃げる準備をした方が良さそうね。正宗様は何か考えがおありなのですか?」

 華琳は泉の問いに答えがないと正直に言うと、逃げる算段を正宗に聞いてきた。彼女はわざわざ正宗が二千程の騎兵だけで上洛してきたため、はじめから賈詡の行動を予想していたと感じていた。

「華琳と秋蘭は直ぐに兗州へ逃げろ」
「正宗様はどうするのです」
「もし、賈文和が私の予想通りの愚行を行えば、私はその漁夫の利を得に行く」
「意味深なことを言うんですね。仔細を詳しく教えてくださいませんか? その腹案を更に効果的なものにできるかもしれません」

 華琳は正宗の含みを持った物言いに不満の表情を浮かべ内容を教えるように迫った。正宗はその場にいる三人に賈詡は皇帝廃位を行い劉協を新皇帝に擁立する可能性を打ち明けた。打ち明けられた三人は驚きの表情に変わった。

「皇帝廃位は最悪の手。でも、正宗様を襲撃する時点で最悪の手を踏むことになります。賈文和が正宗様の元で働くことを拒む理由が分からない。現状、最善と思われる手を賈文和が選ばない段階で最悪な手を選ぶ可能性はありえますね」

 華琳は遠くを見るような目で思案しながら言った。

「狂気の沙汰ですが、もし賈文和がそれを実行に移せば都の百官の身も安全ではないでしょう」

 秋蘭が華琳の意見をもとに持論を口にした。

「百官達に犠牲が出るなら、それは正宗様には僥倖というもの。董仲穎は力で百官をねじ伏せ、偽帝を立てたと糾弾できます。私は直ぐに陳留国に戻り準備に動きます。できれば、正宗様の姉上に協力を求める文をしただけると有り難いです」
「文は用意しよう。華琳と秋蘭、二人とも頼むぞ」

 華琳と秋蘭は拱手した。正宗は直ぐに彼の姉へに文を書き上げ華琳に預けた。華琳と秋蘭は急ぎ旅支度を調えると都を発った。二人は元々表立って動いていなかったこともあり、すんなりと都を抜け出すことに成功した。

「正宗様、如何して北門を抜けますか?」

 華琳と秋蘭が都を出た後、正宗と泉は都を脱出する算段を計画していた。

「直ぐに信用できる者達を行商人に扮装させ北門から都の外に出せ。十人程度に馬四頭、それに馬車を用意させろ」
「その者達は何処に向かわせるのです。冀州でしょうか?」
「いいや。鮮卑軍と合流させる。既に鮮卑が南下し司隷の境を慎重に下っているはずだ。朱里の話では私達が洛陽に入る頃合いに合わせ南下させると言っていた」
「もしや朱里様はこうなることをご存じだったのですか?」
「そうではない。朱里は賈文和の今までの行動から、私を早く排除すると動くと見ていた。特に荊州牧が袁公路になれば悠長なことをしないと言っていた。賈文和は董仲穎を私の組下に置くことが許せないと考えていると思うとも言っていた」
「その見立ては正しい気がします。賈文和、あの者は正宗様を拒絶しているように見えました。その理由が董仲穎への強い想いというなら頷けます。その想いが董仲穎に利益になるとは思いませんが」

 泉は賈詡に対する考えを述べた。

「そういう訳だ。お前達は北門を攻め門を開け、鮮卑軍を都内に招き入れろ」
「正宗様は如何なさいます」

 泉は不安気な目で正宗を見た。それは正宗が何をするつもりなのか察しているようだった。

「お前達が北門を破るまで賈文和が率いる禁軍を一人で引きつける」
「そのような危険な真似を正宗様にさせられません」
「泉、これが最後だ。私が前線にて武を示し命を張るのはな。それにこれが一番勝率が高い。急ごしらえでかき集められた禁軍の兵数は私が連れた兵を大きく上回る。そうでなくば賈文和は私を襲撃しない」
「真逆、これは朱里様の計画なのですが」

 泉は怒りの表情を浮かべた。主君である正宗に危険極まりない策の餌とするなど泉には許すことができないのだろう。

「泉、これは私が許可した作戦だ。私の夢は知っているな」
「しかし!」
「私は絶対に死なない。朱里はそのために策を練りに練った。全ては私の個の力を十分に知り得た朱里だからできるのだ」
「私も着いていきます」

 泉は縋るような目で正宗を見ていた。正宗は被りを振った。

「泉、お前が着いてくれば、お前が死ぬ」
「そんな危険な場所に正宗様を行かせることができるわけがありません!」
「では、部下達を死なせるつもりか。此度の賈文和との駆け引きで私の部下は死なない。禁軍兵士達の心に恐怖を刻むからだ」

 正宗は神妙な表情で泉を見た。彼の決意と覚悟を知った泉は諦めた様子だった。

「正宗様、北門を必ず破りご期待に応えて見せます!」

 泉は涙を拭き、強い決意をした表情で正宗に答えた。正宗は泉の両肩に手を置くと口を開いた。

「泉、頼んだぞ」

 正宗主従は強い絆を胸にその時を待った。



 日暮れとともに賈詡は涼州兵を引き連れ宮廷内を歩いていた。宮廷で働く宦官・侍女は恐怖の表情を浮かべていた。それは賈詡が劉弁を引き連れているからだろう。劉弁は涼州兵に縄でしばられ口を布で塞がれた状態で罪人のように歩かされていた。
 その異様な風景に宦官・侍女は怯え済みで縮こまっていた。賈詡は冷たく暗い目で彼らを無視し先を急ぐ。そして、賈詡は陳留王の居室の敷地内に踏み込んだ。護衛の兵士がいたが涼州兵が惨殺しあっという間に制圧した。

「賈文和、気でも触れたか!」

 賈詡が劉協の寝所に踏み込むと、劉協は怒りに満ちた目で賈詡を睨んだ。

「気など触れおりません。天下のために皇帝陛下には帝位を陳留王にお譲りいただきます」

 賈詡は落ち着いた様子で劉協に決定事項を伝えた。

「臣下が帝位について口を出すなど越権である。賈文和は分を弁えろ! さっさと皇帝陛下を解放しろ」

 劉協は縄で縛られた劉弁に視線を一度向け、賈詡に激しい剣幕で糾弾した。その様子に賈詡は鼻で笑った。

「何がおかしい」
「お気に障りましたか。失礼いたしました」

 賈詡は劉協に拱手し頭を下げた。彼女の態度に劉協は不愉快な表情を浮かべた。

「陳留王、ご自分のお立場がお分かりになっておりませんね。それとも、都に劉正礼が居ると聞き気が大きくなりましたか?」

 賈詡はそう言うと背後に控える兵士に目配せした。その兵士は劉弁の首元に剣の刃を当てた。劉協はその行為に動揺を表すが、憎しみの怒りに染まる目で賈詡を睨み付けた。

「逆賊がっ!」
「陳留王、皇帝陛下に即位いただきます。断れば皇帝陛下には少々痛い目にあっていただくことになります。やれ!」

 賈詡は劉協の批判を意に介さず、暴れる劉弁を地面に押しつけ手を地面につけさけ小指のすぐ側に剣を突き立てた。

「陳留王、皇帝陛下の命はあなたが握っているのです」

 賈詡は冷たい感情を感じさせない暗い目で劉協を見据えた。劉協は賈詡の不気味な視線にたじろぐ。

「貴様、何をするつもりだ」

 劉協は賈詡の雰囲気に狂気を見たのか警戒心を顕わにした。

「陳留王、即位なさるのですか?」

 賈詡は劉協の問いに答えず自らの問いを返した。

「皇帝陛下の身の安全は保証するのであろうな」
「陳留王が董少府に反抗されなければ身の安全を保証いたしましょう」
「分かった。即位する」

 劉協は悔しそうに顔を歪ませ視線を落とした。彼女の両拳は血の気を失うほど強く握りしめていた。賈詡は満足に口元に笑みを浮かべた。

「即位には儀式が必要ある。日を改めて執り行う。今日は失せろ」

 劉協は視線を落としたまま賈詡に強い口調で言った。

「その必要はございません。皇帝陛下には初仕事がございます」
「貴様、初仕事だと?」

 劉協は怒りに震えながら賈詡を睨んだが、当の賈詡は劉協の怒りなど意に介していなかった。

「逆賊・劉正礼討伐の勅を発行ください」

 賈詡はそう言うと背後に控える文官に紙と印璽の入った箱を運びこませた。

「貴様、どこまで外道なのだ!」

 劉協は怒りのあまり賈詡に掴みかかった。

「拒否なされますか? 兄君がどうなってもいいのですか?」

 賈詡は暗い瞳で劉協を見据えていた。劉協は身体を怒りで震わせながら瞳に涙を浮かべ睨んでいた。

「済まない」

 劉協は崩れ落ち地面を見つめ小さい声で正宗に謝罪した。その後、彼女は正宗討伐の勅を書き賈詡に渡した。それを受け取った賈詡は笑みを浮かべ、部下を引き連れ劉協の部屋を出ていった。部屋には劉協と劉弁。それに監視の涼州兵三人が残った。
 劉協は劉弁に駆け寄り「兄上大丈夫ですか」と声をかけ、彼の口を塞ぐ布を解いた。

「協、済まない」
「兄上、気に無さらないでください」

 劉協は気丈に笑顔を作り劉弁に言った。劉弁は妹の姿を見て哀しい表情になった。



 劉協から勅を得た賈詡は禁軍を緊急招集し三万の軍勢をかき集め、正宗の屋敷を襲撃した。しかし、正宗の屋敷はもぬけの空だった。賈詡は兵を四方に向かわせ、正宗を探した。その後、賈詡の元に正宗が兵を引き連れ北門から逃亡していると知らせがあった。
 賈詡は急いで禁軍を北門に差し向けた。そこには一人騎乗する正宗がいた。その姿は大軍を前にしても威風堂々とした様子だった。

「賈文和、とうとう本性を表したな。その狂気余が叩き潰してやろう」

 正宗は賈詡を睥睨し非難した。賈詡は正宗が単騎でいた事をあざ笑うように笑みを浮かべた。賈詡と呂布が進み出る。呂布は賈詡の先を進むと馬を止めた。それと少し距離を取り賈詡が止まった。

「一人で残るとは殊勝ね。逆賊・劉正礼、貴様を討伐する。武器を捨て大人しく縛につけば自決の場を用意してあげるわ」

 賈詡は勝ち誇ったような態度で正宗に叫んだ。正宗は賈詡の語りを聞き終わると高らかに笑い声を揚げ賈詡を睨み付けた。

「偽勅に従う謂われはない!」
「皇帝陛下の勅に異を唱えるか!」

 賈詡は目を見開き声を荒げた。正宗は涼しい顔で双天戟で天空をさした。

「天が照覧されている。余は漢室の守護者である。漢室を脅かす奸賊の戯言に貸す耳は持ちあわせない」
「驕りもいいところね」
「笑止。賈文和、余の正義を示してやろう。禁軍諸兵よ! 余は逆賊董卓を打つため、この窮地を逃げ切ってみせる。もし逃げ切れば余に天意ありということだ。今日、余に逆らいしことを悔いるがいい!」

 正宗は殺気を放ち双天戟の矛先を禁軍に向け怒号した。それに禁軍兵士達は恐怖を感じた。あまりに堂々とした正宗の様に禁軍兵士達は動揺していた。それを敏感に察した賈詡は禁軍兵士達に向けて声を上げた。

「たった一人で何が出来る。禁軍兵士達! あの逆賊を殺せ!」

 賈詡が叫ぶと前方に布陣していた涼州騎兵がかけだし、躊躇していた禁軍兵士達も仕方なく正宗を襲撃するために走り出した。その時、幾つもの光の奔流が禁軍兵士達を蹂躙した。月明かりだけの闇夜において、その光は激しく目を眩ませた。賈詡も一瞬目が眩む。視力が戻った彼女は周囲の変化に戦慄した。大量の禁軍兵士達の死体が散乱していたからだ。彼らの死体は惨たらしい姿になり果てていた。脚だけ。胴から上だけ。下半身だけ。地獄絵図と化した状況に固まっていた。
 光に飲まれず生き残った禁軍兵士達は凄惨な光景に震えていた。しかし、後尾の兵士が雪崩れて込んでくるため、その兵士達は逃げるに逃げれない状況に陥った。

「こんな狭所で大軍をねじ込んでくるとはな。普通の武将であれば難なく殺せただろうが、私にはいい的でしかない」

 正宗はそう言い激しい光の奔流を作り出し禁軍兵士達を蹂躙していった。賈詡は想定外の事態に焦った表情になった。

「殺せ! 劉正礼を殺せ! 劉正礼を殺した者は褒美は欲しいままよ!」

 賈詡は兵士達を絶叫し鼓舞するが既に軍の体裁を失っていた。正宗にとって禁軍兵士達は駆られるだけの羊でしかなかった。その中を走り抜ける騎兵が現れた。呂布である。呂布は馬を自在に操り、正宗に接近すると奉天画戟を叩きつけた。正宗は呂布の突撃を真正面から受け止めた。

「呂奉先、愚かな賈文和など見限り私の軍門に降れ!」

 双天戟と奉天画戟がぶつかり合う。正宗と呂布は睨み合う。

「お前は月の敵」

 呂布は無表情でただ正宗を敵であると断じた。そして迷いなく奉天画戟を正宗に叩きつけた。

「呂奉先、お前は董仲穎を殺したいのか! 賈文和は引き返すことのできない道を選択した」

 呂布は正宗の言葉にぴくりと眉を動かすも「お前信用できない」とつぶやき攻撃の手を止める様子はなかった。そこに大量の矢の雨が降ってきた。
 呂布と正宗は距離を取り自らに降りかかる矢を全てはじき落とした。

「正気ではない。賈文和は味方も殺すつもりか」

 正宗は後方に控える賈詡を睨み付けた。その隙を突き、呂布が奉天画戟を振り回し正宗を襲う。正宗は寸でのところで受け止めるも口を歪ませた。

「手加減は出来んな」

 正宗は強い意志の籠もった目で呂布に突撃をし激しい突きを浴びせた。彼の攻撃を受け流す呂布に一瞬の隙が生まれた。それを正宗は見逃さない。呂布を追い込むように渾身の一撃を放つ。呂布は避けきれないと悟ったのか馬か飛び降り着地した。
 呂布を逃がした正宗は舌打ちした。その時、正宗に暇を与えず矢の雨が降り注ぐ。正宗は全てたたき落とした。そして、正宗は北門を背にした。禁軍兵士達は既に正宗に近づこうという者達が一人もいない。人知を超越した力を示す正宗に禁軍兵士達はいい知れない恐怖を感じていたからだ。そのことを察した賈詡は焦り正宗を睨んでいた。
 その時、北門の上から激しい炎が起きた。そして、昇降式の門がゆっくりと上がりだした。

「矢を放て!」

 賈詡は絶叫染みた声を上げ禁軍兵士達に命令した。正宗に矢雨が降り注ぐが正宗は全てはじき落とした。しばらくすると馬蹄の音が周囲から聞こえた。呂布が馬に跨がり正宗に襲いかかるが、その時左右から突撃してきた騎兵達が矢を放ってきた。その騎兵は正宗軍だった。

「正宗様から離れろ!」

 呂布に向け泉が馬上より矢を放った。呂布は突然の奇襲に一瞬動きが鈍った。その時、正宗は呂布に双天戟で連続突きを行った。呂布は眉を顰め突きを凌いだ。更に正宗は踏み込み連続突きを行った。呂布は避けきれずに左腕に突きがかすった。

「泉、撤退せよ! 殿は私が行う!」

 正宗は呂布を押し込めながら叫んだ。泉は正宗の命令に頷き兵をまとめ上げた北門を潜り抜けていった。

「劉正礼を逃がすな! 矢を放ちなさい! 突撃しなさい!」

 賈詡は状況の急激な変化に動揺しているためか正宗を殺せと叫び続けた。禁軍兵士達は矢を放つが、正宗は北門側に移動し全ての矢を弾き落とす。呂布はその間隙をつき、正宗に襲いかかり切り結んだ。

「呂奉先、聞け! 私なら董仲穎の命を救える。私の軍門に降るなら董仲穎の命を保証する」

 正宗は呂布と切り結びながら彼女を必死に説得した。

「お前信用できない。でも恋分からない」

 呂布は一言正宗に言うと距離をとった。彼女からは正宗に対する戦意が無くなっていた。

「呂奉先、私と一緒に来ないか?」

 正宗は双天戟を構えたまま呂布に言うと、呂布は「恋は行けない。月一人にできない」と短く答えた。

「呂奉先、また会い見えよう」

 正宗は呂布に一言だけ言うと馬を反転させ北門を潜り抜けた。賈詡は逃げる正宗に目を血走らせ矢雨を放つも正宗を捉えることが出来なかった。

「何で……。何でよ。何でなのよ――!」

 賈詡は馬から降り覚束ない足取り門の側で膝を着くと天を見上げ絶叫した。呂布は賈詡をただ凝視していた。すると賈詡は呂布を睨み付けた。

「恋、あんた何をしてんのよ! 何で劉正礼を逃がしたの! ここで彼奴を殺さなければ私達は終わるのよ!」
「無理。恋は勝てなかった」

 呂布は無表情で賈詡に答えた。そこに陳宮が現れ賈詡に文句を言った。

「詠殿、恋殿に矢を放ち敵共々殺そうとしたことどう釈明されるのです!」
「五月蠅いわね!」

 賈詡は陳宮を一睨みすると去って行った。

 正宗軍は鮮卑軍と合流し并州へ逃亡し冀州に無事帰還した。この一ヶ月後、大陸に激震が走る。 
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