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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第七十九話 夜も入って朝もその十四

「ヴェニスの商人とかウィンザーの陽気な女房達とか」
「やはり渋いですね」
「顧問の先生がヴェルディ好きらしくて」
「あっ、先輩から聞きました」
「聞いてるんだ」
「確かイタリアの作曲家の」
「オペラのね」
 そちらの大家だ、とにかく多くの名作を残した音楽家だ。
「そのヴェルディが好きで」
「それでシェークスピアの上演もですね」
「多いけれど」
「渋い作品がですね」
「多いんだ」
「そのヴェルディさんの趣味ですか」
「みたいだね、ヴェルディの音楽ってね」
 親父が好きでよく聴いていて僕も知っている、親父は音楽はクラシックも好きで僕もその影響を受けているのだ。
「戦争みたいに派手だったりするけれど」
「渋いんですね」
「そうしたところがあるんだ」
 実際にだ。
「歌だと低音が多いし」
「メゾ=ソプラノですか」
「女の人の声ではね」
「そして男の人も」
「バス、特にね」
 ヴェルディの場合はだ。僕は千歳さんと同じテーブルに座って話した。
「バリトンだね」
「バスより高いですが」
「テノールより低いね」
「その声域の歌がですね」
「多くてね」
「渋いのですか」
「だから先生の好みもね」
 そちらもなのだ。
「渋い系みたいだね」
「そうなんですか」
「オセローもリア王もね」
 こうした作品もだ。
「渋いけれどね、リア王は作曲してないけれど」
「ヴェルディさんは」
「マクベスやオセローはしているんだ」
「そうですか」
「先生もそうした作品が好きで」
「上演もですね」
「しているんだ」
 こう千歳さんに話した。
「他にも好きな作品多い先生だけれど」
「歌舞伎もお好きですね」
「無類にね」
 そのシェークスピア以上にだ。
「好きなんだよ」
「そういえば日本の劇も」
「多いよね」
「この前五人男をしました」
「白浪だね」
「はい、白浪五人男です」
 まさにそれだとだ、千歳さんも答えた。
「それをしました、しかも通しで」
「呉服屋と勢揃いだけじゃないんだね」
「前半と終わりも」
「確か前半で」
 僕は五人男を通しで観たことがある、中学の時にその高校の舞台を観てだ。歌舞伎でも滅多に上演しないというそれを。
「五人が全員揃うんだね」
「はい、そうなります」
「ヒロインも出ていて」
「ヒロインは」
 五人男のヒロインはというと。
「千寿姫ですね」
「うん、滅多に出ないんだよね」
「その人も出て」
「それで最後もだね」
「極楽寺もしました」
「あの先生通しが好きだから」
 舞台をやるのならだ。
「全部する主義なんだ」
「五人男もですね」
「そう、他の作品もね」
「そういえばシェークスピアも」
「カットしないよね」
「はい、しません」
 どの幕もどの場もだ。
「一切」
「だから練習も長いね」
「そうしてます、ですが」
「楽しいんだね」
「はい、ですから」
 ここでだ、千歳さんは。
 明るい笑顔になってだ、こう僕に答えた。
「今日も頑張ります」
「それじゃあ僕もね」
「バスケ部の部活をですね」
「頑張るよ」
「お互いにですね」
 千歳さんは微笑んでこうも言った。
「合宿を頑張って楽しんで」
「そうしていこうね」
「今日も」
 お酒が抜けてすっきりした朝にだ、僕達はこうした話をした。そのうえでそれぞれ朝食の場に向かった。二日目の朝は心地よいはじまりだった。


第七十九話   完


                       2016・2・9 
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