遊戯王EXA - elysion cross anothers -
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PROLOGUE EDITION Volume.1
PE01-JP005《一撃必殺は思うようにいかない》
目を開けると、そこは天文部の部室……
「あ、起きた?」
「ですよねー」
……なんてことはなかった。現実は非情である。
室内であることには変わらないけど、ここは学校というよりも家の中といえる。ベッドあるし。
「おはよ、沙耶姉」
「うん、おはよ。みんな下で集まってるわよ、蓮も早く来なさい」
そう言って、沙耶姉はこの部屋を出ていった。
中途半端に開いた扉の隙間からは光が差し込んでいる。
「……ああ」
思い出した。
あの時、俺は人を殺して……その現実から目を背けるように気を失ったんだった。
もしかしたら、何者かに気絶させられたのかもしれないけど……だとしたら、自分の体に何かしらの痛みを感じていると思う。
あいにく、どこにも痛みは感じない。やっぱり沙耶姉達が運んでくれたのかな。
「……よし、行こう」
夜空の映る窓をカーテンで隠し、部屋の扉を開けた。
― ― ― ― ― ― ― ―
もし俺の記憶が正しければ、惨劇とはまさにこの事を意味するのだろう。
「え、何これは……」
……ゆみなが、敵さんの一人と台所に立っている。
違う。別に、なんで敵とあっさり和解してるのかじゃないんだ。だけど……
「……沙耶姉」
「ん?」
「なんであれ止めないの?」
沙耶姉、あれほど必殺料理人に料理させるなと……!
「……綺麗なまでに後攻ワンキルされたわ。だからあんたを起こしに来たのよ」
「デュエル脳!?」
沙耶姉、なんて適応力を……。
「……要するに、死にたくなければゆみなをデュエルで討ち取れ、と」
「Exactry.頼んだわよ、蓮……!」
「ん、了解」
「……へえ、風見君もなんですね」
―――っ!?
殺気。今にも食材を切り始めようとしていた少女から発せられている……! 俺達のいた世界では一度も見せたことのない、しかし絶対的な意志の表れ……!
……もう、後戻りは出来ない。
「……ゆみな」
覚悟を決め、俺は窓を開けた。窓の向こうにはベランダが広がっている。デュエルをするにはちょうどいいスペースだ。
「―――デュエルだ」
俺達の、命を懸けた戦いが、幕を開ける……!
― ― ― ― ― ― ― ―
「「決闘展装、起動!」」
それは、硝子が以下略。
―――― Turn.0 Are you ready? ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
「今の私にデュエルを挑んだ意味、わかってますよね……?」
「当然。俺が勝ったら、今日の晩御飯は俺に作らせてもらうよ!」
エリュシオン宅内のベランダで幕を開けた、私達の命運を握る戦い。ここで蓮が勝たなければ、私達に未来はない……!
「……沙耶ちゃん、ゆみなちゃんは?」
と、台所からアッシュブロンドのウェーブがかかった長髪の少女がこっちに来た。
「……ここで2人に問題。炊く前に米は何を使って洗う?」
「水……ですよね?」
「市販のミネラルウォーターだとなお良し、だっけ?」
前者がクレナ、後者がアイシア。どちらも正解。
「……ゆみなはこれを"食器洗い用の洗剤"と答えたわ」
2人の顔が、一瞬にして青ざめた。
「お分かりいただけたであろうか?」
「そっか。だから沙耶ちゃんは……!」
「2人とも、あいつらのデュエルをよくみておきなさい。あれが、私達の世界の遊戯王だから……!」
「「デュエル!!」」
……正確には、所詮カードゲームごときで賭け事なんてやらないんだけどね。
― ― ― ― ― ― ― ―
「「デュエル!!」」
Turn.1 Player/Yumina Orihime
1st/Yumina Orihime
LP/4000 HAND/5→6
2nd/Ren Kazami
LP/4000 HAND/5
「私の先攻みたいですね。ドロー。……《シャドウ・リチュア》と《ヴィジョン・リチュア》の効果を発動。二枚を墓地に送り、デッキから《リチュアの儀水鏡》と《イビリチュア・ソウルオーガ》を加えます」
ゆみなのデッキは、水属性の儀式カテゴリー【リチュア】……その中では異質と言われている【8軸リチュア】。
「《トレード・イン》を発動。手札のレベル8モンスター《イビリチュア・ソウルオーガ》を墓地へ送り、デッキからカードを2枚ドローします」
【リチュア】を使う人は俺達の世界でもそこそこ多かった。大体が【6軸リチュア】、残りはその亜種である【聖刻リチュア】だったけど。
「モンスターをセット。カードを2枚セットして、ターンを終了します」
【8軸リチュア】の弱点、それは先行初手に動けないという点。攻撃する必要があったり、相手の場にカードがないと効果が使えなかったり。実際に使ってみると、このデメリットがいかに恐ろしいかがよくわかる。そして、先行初手に動けるデッキのありがたみが本当に……。
―――― Turn.1 End Phase ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/4000 HAND/3
◇set card/mo-1,ma-2
2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/5
◇set card/mo-0,ma-0
「俺のターン、ドロー!」
Turn.2 Player/Ren Kazami
1st/Yumina Orihime
LP/4000 HAND/3
2nd/Ren Kazami
LP/4000 HAND/5→6
「……よし、《テラ・フォーミング》発動! デッキから《竜の渓谷》を手札に加え、発動!」
夜空が、再び朱く染まっていく。その場所は、冷たい風が吹き抜ける荒野だった。
「手札を1枚落として1つ目の効果―――」
俺の声は、しかしゆみなの声に遮られる。同時に、荒野には巨大な竜巻が発生した。
「《サイクロン》チェーンしますね」
「ですよねー」
荒れた大地は草の生えた庭に、透き通った茜色は澄んだ星空に。【ドラグニティ】にはよくあることだけど、やっぱりきついものがある。
「不発、か……」
《竜の渓谷》のようなフィールド魔法は、スペースを取らないこと以外は基本的に永続魔法と同じ。つまり、効果処理時にフィールドに存在していることが前提条件であり、故にチェーンして破壊されると無効化されてしまう。
「……ま、問題はないんだけどさ」
今の言葉の意味を理解したのか、ゆみなが身構えた。
「《ドラグニティ-ドゥクス》、召喚!」
俺の場に降り立つ、翼人達の指揮者。……あの棒、やっぱり"はたき"だよな……。
ドラグニティ-ドゥクス
☆4 ATK/1500→1700
「"ドゥクス"効果、墓地の《ドラグニティ-ファランクス》を装備!」
天空から飛来した黄金の槍が大地に突き刺さる彼はその槍を手にし……
「そして、"ファランクス"の効果で自身を特殊召喚!」
……天に放り投げた。投げられた槍は空中で光を放ち、小さな竜となって主の下に舞い戻る。
ドラグニティ-ファランクス
☆2T DEF/1100
「やっぱり落ちてたんですね……」
「まあね。それじゃ、レベル4《ドラグニティ-ドゥクス》にレベル2《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」
我紡ぎしは地天の絆、全てを貫く真竜の槍!
刹那に響く黄金よ、吹き荒れる疾風と共に在れ!
☆4+☆2=☆6
シンクロ召喚! 天地を繋げ、雷撃よ!
「《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》、降臨!」
雷鳴と共に、金色の竜が顕現する。
ドラグニティナイト-ヴァジュランダ
☆6 ATK/1900
「"ヴァジュランダ"の効果で"ファランクス"を装備、もう一度特殊召喚!」
再び天空から以下略。
ドラグニティ-ファランクス
☆2T DEF/1100
「レベル6《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》にレベル2《ドラグニティ-ファランクス》をチューニング!」
紡がれし星は絆と共に、紅炎を描き神を討つ!
焔を纏いし紅蓮の騎士よ、誇りを刻みて悪を断て!
☆6+☆2=☆8
シンクロ召喚! 闇を切り裂け、双剣よ!
「《クリムゾン・ブレーダー》、降臨!」
俺の場に現れたのは、真紅の甲冑に身を包んだ騎士。大地に降り立ち、手に持つ双剣を構えた。
クリムゾン・ブレーダー
☆8 ATK/2800
「そのモンスターは……!」
「バトルフェイズ。《クリムゾン・ブレーダー》でセットモンスターに攻撃!」
【リチュア】に於いて、セットすることに意義があるモンスターは1体のみ。守備力がそこそこ高く、かつ唯一リバース効果を持つモンスター……
「どうせ《リチュア・エリアル》でしょ? 幻葬緋剣-零次元斬!」
蒼い髪の魔法少女が、騎士の放った一対の剣閃に切り刻まれる……
リチュア・エリアル
☆4 DEF/1800
「きゃああああ!!」
……はずだったのに。
Yumina LP/4000-2800=1200
「あらら、逃げられた」
「……《リチュア・エリアル》をリリースして、《水霊術-葵》を発動しました」
サクリファイス・エスケープ。モンスターが何らかの効果の対象にされたとき、そのモンスターをリリースしたりすることでフィールドから逃がし、相手のカードを不発にさせる戦術。
……攻撃されたリバースモンスターをリリースして2800のダイレクトを通す、なんてのは滅多に推奨されないんだけど。
「風見君の手札を確認して、1枚を墓地に送ります」
そして、俺の手札がフィールドに映し出された。
《禁じられた聖槍》
《デモンズ・チェーン》
《スターライト・ロード》
「……《スターライト・ロード》を捨ててください」
「ん、了解」
捨てるカードを宣言され、俺は渋々墓地へ送った。
「ねえ、ゆみなちゃん」
と、家の方から声をかけられた。
声の主は、アッシュブロンドのウェーブがかかった髪を腰の辺りまで伸ばした少女。さっきゆみなと料理していた人だ。たしか、エリュシオンさん……だっけ?
「……あれ、アイシアさん? どうしたんですか?」
「どうして今《水霊術-葵》を発動したの?」
……ああ、そういうことか。
確かに、一般的にこういった行為は推奨されない。とは言えど、さすがに例外が無いわけではない。
「《クリムゾン・ブレーダー》に攻撃されたからです」
そう、例えば今回がその例外。
「《クリムゾン・ブレーダー》のような一部のモンスターには、相手モンスターの戦闘破壊が効果の発動トリガーになっているものがいます」
似たような効果トリガーに"相手への戦闘ダメージ"があるけど、それは割愛で。
「そして、《クリムゾン・ブレーダー》の効果は……"相手モンスターを戦闘破壊した次のターン、相手はレベル5以上のモンスターを場に出すことが出来ない"というものです」
「な、何それ!?」
ま、そんな反応だろうね……。
厳密に言うと、セットと反転召喚は出来る。でもそんな場面見たことないし。実質的に、場に出せないと言っていいだろう。
戦闘破壊を介する必要こそあるものの、この効果に殺されるデッキは少なくない。"カオス"や"シンクロ"のギミックを取り込んでいるデッキはほぼ確実に縛られるし、高レベルのドラゴン族を軸としている【聖刻】や【カオスドラゴン】、そして……
「儀式を軸とした私の【リチュア】なんか、効果を発動させたら勝利不可ものです。ある程度のダメージを覚悟してでも、それだけは防がないといけないんです」
「……でもさ、ゆみな?」
ふと疑問に思い、ゆみなに聞いてみる。
「"エリアル"の効果で"ビースト"持ってきて、次のターンに"マエストローク"出せばよかったんじゃない?」
《リチュア・ビースト》は、召喚時に墓地にいるレベル4以下の"リチュア"を特殊召喚する効果を持っている。自身のレベルが4だから、そこからオーバーレイしてランク4の《交響魔人マエストローク》を出す。破壊耐性持ちだから、その次のターン《クリムゾン・ブレーダー》に戦闘破壊されることはなくなる。
「風見君、《デモンズ・チェーン》」
「ごめんなさい」
《水霊術-葵》で確認した通り、俺の手札には相手モンスターの効果を封じる《デモンズ・チェーン》があった。もし俺の言った通りにしていれば、《ビースト》の効果を無効にされるだけでなく、そのまま《クリムゾン・ブレーダー》の餌食となっていただろう。
「……まあ、結果論ですけどね」
「そうなんだけどさ。一見どう見ても正しいと思える行動、それこそが相手の狙いだってこともあるんだよね」
「そうですよね。それに……」
そう言って、ゆみなは手札から1枚のカードを手に取っ……え、ちょっと待って!?
「こうでもしなきゃ、出せないじゃないですか―――!」
ゆみなの影が、より暗く、より深く、沈んでいく。
それは、何よりも純粋で。故に、何よりも残酷で。
人々の負の感情が、怨み晴らさんと形を成す。
降臨するは、悲劇―――!
「来てください、《トラゴエディア》!!」
トラゴエディア
☆10 DEF/?=1200
「ああ、やっぱり握ってたか……」
「当然です!」
《トラゴエディア》の持つ効果の1つに、"手札のモンスターを墓地に送ることで、それと同じレベルの相手モンスターを奪う"というものがある。
【ドラグニティ】の主力モンスターは殆どがレベル8のシンクロモンスター。対してゆみなの【8軸リチュア】は、その構成上レベル8のモンスターを手札に加えるのが非常に簡単なデッキ。
今までに何度《スターダスト・ドラゴン》を奪われ、エクシーズ素材にされたことか。
「メインフェイズ2。《禁じられた聖槍》と《デモンズ・チェーン》をセットしてターンエンド」
「いや、なんでわざわざ宣言しながらセットするんですか!?」
「だって、ばれてるし……ねえ?」
次のターン、耐えきれるか……!?
―――― Turn.2 End Phase ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/1200 HAND/2
◇《トラゴエディア》DEF/1200
◇set card/mo-0,ma-0
2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/0
◇《クリムゾン・ブレーダー》ATK/2800
◇set card/mo-0,ma-2
「私のターン、ドロー!」
Turn.3 Player/Yumina Orihime
1st/Yumina Orihime
LP/1200 HAND/2→3
2nd/Ren Kazami
LP/4000 HAND/0
「……ふう」
ドローしたカードを見るや、ゆみなは安堵したような溜め息をついた。
……来る!
「……《リチュアの儀水鏡》、発動!」
ゆみなの足元に、儀水鏡を模したリチュアのシンボルが描かれる。
「レベル10《トラゴエディア》を生け贄にします!」
フィールドに鎮座する悪夢が、身体中を蒼に侵されていく。負の感情を喰らいながら、邪悪の権化がその姿を現す。
我描きしは幻想の蒼、摂理に背きし深淵の影!
心なき神に討たれし骸、本能のままに全てを砕け!
儀式召喚! 微かな希望も、泡沫に帰せ!
「《イビリチュア・ジールギガス》、召喚!」
リチュアの最終兵器―――障害の儀水化。《インヴェルズ・グレズ》の亡骸を触媒に行われた儀式は、あろうことか儀水鏡の浸食化という結末を辿る。……とか言う設定だったはず。多分。
イビリチュア・ジールギガス
☆10 DEF/ 0
ちなみに素体がインヴェルズだから、守備力は当然のごとく0。こればかりは仕方ないね。
「ライフを1000支払い、《イビリチュア・ジールギガス》の効果を発動!」
Yumina LP/1200-1000= 200
「デッキから1枚ドロー! それを相手に見せ―――」
「通さないっての! リバースカード《デモンズ・チェーン》発動!」
表になった一枚の罠カード。そこから漆黒の鎖が放たれ……
「……っ!?」
……しかしそれは、深緑の旋風に飲み込まれていった。
「……これを引いてなかったら、多分私の負けでしたね」
その場合はそもそも発動なんてしないですけど……そう言って、ゆみなが手札に残った最後の一枚を表にする。緑色の枠に描かれたそれは、渦巻く風……!
「手札から《サイクロン》発動……《デモンズ・チェーン》を破壊します!」
永続系カードはフィールドに存在し続けなければ効果を適用することが出来ない。それはつまり、この状況に於いては《イビリチュア・ジールギガス》の効果を無効化出来ないということ。
「《イビリチュア・ジールギガス》の効果で、ドロー!」
デッキから1枚のカードを引いて……そのカードを公開する。
「……ドローカード、《シャドウ・リチュア》!」
「なっ!?」
ここでそれを引くか、ゆみな……!?
「この効果でドローしたカードが"リチュア"と名のつくカードだった場合、《イビリチュア・ジールギガス》の追加効果が発動! 風見君のセットカード《禁じられた聖槍》をデッキに戻します!」
本能だけで動く悪魔が、その両腕を地に叩きつける。生じた衝撃波は一直線に俺の場に伏せられたカードを飲み込み、酸のように溶かしていった。
「墓地に存在する《リチュアの儀水鏡》の効果を発動! 墓地に存在するこのカードをデッキに戻すことで、墓地の"リチュア"と名のついた儀式モンスター、《イビリチュア・ソウルオーガ》を手札に戻します!」
専用の儀式魔法《リチュアの儀水鏡》は、デッキに戻すことで儀式モンスターを回収することができる。これにより、手札に儀式モンスターがないということは無いと言っていい。殆どの場合、儀式モンスターの生贄には同レベルの儀式モンスターが使われるため、コストが足りないといった事故も起こらない。
これこそが【リチュア】のギミックであり強み。故に、儀水獣が進軍を止めることはない。
「さらにドローした《シャドウ・リチュア》の効果! デッキから儀式魔法《リチュアに伝わりし禁断の呪術》を加えて発動!」
「やばっ!?」
儀式魔法《リチュアに伝わりし禁断の秘術》。言うなれば、それは"リチュア"における最高の除去魔法。相手モンスターをも儀式の触媒にする。レベルさえ合えば、全てのモンスターを自身の糧にする。今までに何度《スターダスト・ドラゴン》を使われ、儀式の供物にされたことか。
「そして、儀式魔法《リチュアに伝わりし禁断の秘術》を発動! 風見君のレベル8《クリムゾン・ブレーダー》を生贄にします!」
紅蓮の騎士が、その体を蒼に浸食されていく。その呪毒にもがき苦しみ、ついに力尽き飲み込まれていった。
我描きしは幻想の蒼、摂理に背きし深淵の影!
凍てつく狭間に巣食いし影よ、儀水を以て世界を荒らせ!
儀式召喚! 罪なき民に、果てなき暴虐と蹂躙を!
「《イビリチュア・ソウルオーガ》、召喚!」
鮮血の滲む蒼碧の召喚陣。姿を現したのは、儀水鏡を体の中心に埋め込まれた怪物。……いや、何だろう。デザイン元の海産物が何か全く分からない。
イビリチュア・ソウルオーガ
☆8 DEF/2800
「この効果で召喚したモンスターの攻撃力は半分になり、このターンのバトルフェイズを封じられます。ですので、私はこれでターン終了です!」
―――― Turn.3 End Phase ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/ 200 HAND/0
◇《イビリチュア・ジールギガス》DEF/ 0
◇《イビリチュア・ソウルオーガ》DEF/2800
◇set card/mo-0,ma-0
2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/0
◇set card/mo-0,ma-0
「……俺のタ―――」
「ちょっと待って!?」
デッキからカードをドローしようとしたところで、エリュシオンさんが再び俺達に問いかけた。
「なんで攻撃力が3200なのに守備表示なの!?」
「「……あー」」
確かに、《イビリチュア・ジールギガス》の攻撃力は3200。このモンスターは、基本的に守備表示よりも攻撃表示のほうが相手への壁として牽制することが出来る。
……基本的、ならば。つまり、この状況はその基本的に当てはまっていないわけで。
「相手のデッキが【ドラグニティ】だから……ですね。風見君の【ドラグニティ】は、基本的に手札1枚から強力なシンクロモンスターを断続的に出していくデッキです」
「うん……ああっ!!」
気付いたみたい。そういえば、みんなの目の前で超火力の直撃を見せびらかしてたっけ……。
「《ドラグニティナイト-ヴァジュランダ》……」
「そう。自身に装備されたカードを墓地に送り、攻撃力を倍にするモンスターです。その打点は3800、攻撃表示の"ジールギガス"を攻撃されたときの戦闘ダメージは600……私のライフが残り200なので、そのまま私の負けになります」
つまりは、そういうこと。
勝利条件は、相手のライフポイントを0にすること。如何に自分が劣勢でも、相手のライフポイントを0にしてしまえば勝ち。それは逆に、いくら優勢でも少し戦闘ダメージを受けただけで負けてしまう……なんて状況があるということ。
今回でいえば、ゆみなの状況がまさにそれ。3200という高打点を擁する《イビリチュア・ジールギガス》と強力な除去能力をもつ《イビリチュア・ソウルオーガ》。それが並んでおきながら、ゆみなのライフはたったの200。打点負けがそのまま敗北に直結してしまうが故に、守備力0であっても守備表示にせざるを得ないってわけだ。
「じゃあ、俺のターンに入っていい?」
「あ、はい!」
「よし。それじゃ、ドロー!」
Turn.4 Player/Ren Kazami
1st/Yumina Orihime
LP/ 200 HAND/0
2nd/Ren Kazami
LP/4000 HAND/0→1
おお、ここでこれが来るのか。
「……まあ、そんな都合よく引けるわけないよね。《ドラグニティ-アキュリス》、召喚!」
俺の場に現れたのは、真紅の鎧に身を包んだ小さな騎竜。お世辞にもアタッカーとは言えないが、それに見合っただけの優秀な効果を持っている。
ドラグニティ-アキュリス
☆2T ATK/1000
「バトルフェイズ! 《ドラグニティ-アキュリス》で《イビリチュア-ジールギガス》を攻撃!」
腕を交差し守りの姿勢に入っている巨大な悪魔に、真紅の幼竜が果敢にも突撃する。
「疾風紅矢!」
しかし、それは思いの外あっさりと。嵌め込まれた儀水鏡に突き刺さった一撃は、それを中核とする魔物への致命傷へとなり得た。禍々しい声をあげながら、その巨体は崩れ落ちていった。
……一矢報いるという言葉があるが、これはいくらなんでも報いすぎだろう。
「……うん。ターンエンドで」
―――― Turn.4 End Phase ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/ 200 HAND/0
◇《イビリチュア・ソウルオーガ》DEF/2800
◇set card/mo-0,ma-0
2nd/Ren Kazami
◇LP/4000 HAND/0
◇《ドラグニティ-アキュリス》ATK/1000
◇set card/mo-0,ma-0
「……風見君」
「うん、わかってる」
互いに手札を使いきり、引いたそのカードで行動が決まるというこの状況。
「久々だよね、この感じ」
「はい。本当に、久しぶりです……!」
カード1枚で均衡が崩れ去るこの不安定な膠着状態。故に、カードをドローするターンプレイヤーが優勢であり。しかし、崩すカードが引けなければ一転して劣勢に陥る。
「さあ、ゆみなの番だ……!」
「はい! 私のターン、ドロー……!!」
本当に、これだから遊戯王は……!
Turn.5 Player/Yumina Orihime
1st/Yumina Orihime
LP/ 200 HAND/0→1
2nd/Ren Kazami
LP/4000 HAND/0
「……!」
引いたカードを確認するや、ゆみなは……
「《イビリチュア・ソウルオーガ》を攻撃表示に変更します」
イビリチュア・ソウルオーガ
☆8 DEF→ATK/1400
……え?
「バトルフェイズ! 《イビリチュア・ソウルオーガ》で《ドラグニティ-アキュリス》を攻撃!」
眼前の海魔が、咆哮をあげ輝きを放つ。
「海王水嶺弾!!」
そして、その両手から水で出来た竜巻が放たれ、小さな竜へと叩きつけられた。禁術による大幅なパワーダウンこそあったものの、それでもなお幼き竜を狩るには十分すぎる威力だった。
「くっ……」
Ren LP/4000- 400=3600
「カードを1枚伏せ、ターン終了です!」
さっきの防御態勢から一転して、この攻撃的な布陣。わざとらしいまでに誘ってるよね、これ。
―――― Turn.5 End Phase ――――
1st/Yumina Orihime
◇LP/ 200 HAND/0
◇《イビリチュア・ソウルオーガ》ATK/1400
◇set card/mo-0,ma-1
2nd/Ren Kazami
◇LP/3600 HAND/0
◇set card/mo-0,ma-0
……引き次第では、この誘いに乗る羽目になるんだけど。
「俺のターン、ドロー!」
― ― ― ― ― ― ― ―
「すごい……」
正直、それ以外に感想が思い浮かばない。ゆみなちゃんと蓮くんのデュエルを見て、私はただ見とれてしまっていた。
沙耶ちゃんの言っていたことが正しければ、2人ともそこまで引きが強いというわけではない。にも関わらず、どうしてこんなにも激しい攻防が繰り広げられているんだろう。
「……あれ、まだ終わってないのー?」
「あ、沙耶ちゃん」
台所での作業が終わったのか、クレナちゃんと沙耶ちゃんがこっちに戻ってきた。
「アイシア様、今はどのような状況でしょうか…?」
「えっとね……ゆみなちゃんのライフが残り200で、蓮くんは残り3600だよ」
「……珍しいわね、あの2人がここまで拮抗するなんて」
「え、それって……」
「いつもだったら蓮が速攻で制圧してるわよ。……やっぱり、この世界に来て運命力だか何かが変わってるのかしら……?」
沙耶ちゃんの呟いた言葉に、私とクレナちゃんはただ首をかしげた。
「俺のターン、ドロー!」
デュエルは、佳境へとさしかかろうとしていた……。
to be continued...
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