Blue Rose
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第十五話 変わる為にその三
「そうするな」
「うん、待ってるよ」
「長崎は俺も行ったことがあるけれどな」
「僕もだよ」
「いい場所だな」
その長崎のこともだ、龍馬は言った。
「奇麗で海があって中華街もあってな」
「観光場所多いんだよね」
「教会もあるだろ」
「グラバー園もね」
「いて飽きない場所だよ」
「坂道が多いことが辛いけれどね」
「ははは、それもいいところだろ」
長崎独特の坂道の多さについてもだ、龍馬は笑って言った。
「長崎のな」
「風情があって景色にもなってるからだね」
「ああ、俺的にはな」
「あの坂道の多さもだね」
「いいな」
こう言うのだった、優花に。
「じゃあ二人あの坂道歩くか」
「それでグラバー園行く?」
「そうするか、あそこもいいよな」
「あそこが蝶々夫人の舞台らしいよ」
「あのオペラのか」
「プッチーニのね」
この作曲家の代表作の一つである、初演は歴史に残る失敗に終わったがそれでもその音楽と脚本の素晴らしさは折り紙付きである。
「あのオペラの舞台なんだって」
「そうだったのか」
「実際のグラバー園じゃないけれど」
それでもというのだ。
「あそこを想定して作られたらしいんだ」
「プッチーニって来日したことあったのか」
「いや、ないみたいだよ」
「それでもか」
「うん、原作か何かがあって」
「その原作でか」
「そうじゃないの?」
優花も空を見上げている、龍馬と同じ空を。
そしてその青空を見上げつつだ、優花に話しているのだ。
「そこで舞台がね」
「グラバー園の場所でか」
「あそこに日本の家がある風になっていて」
そのグラバー園があえる場所にである。
「それでなんだ」
「そうか、あのオペラ原作あるんだな」
「うん、そうらしいよ」
「その原作読んでみたいな」
「日本誤訳されてたらしいね」
「そうだな、けれど蝶々さんって死ぬだろ」
龍馬は優花に顔を向けてオペラのあらすじについて聞いた。
「最後に」
「うん、相手の人がアメリカに帰っていてね」
「祖国の人と結婚していてな」
つまり現地妻であったのだ、今で言うと。蝶々さんはそうした立場の女性であったのだ。こうしたことは今もあるかも知れない。
「そのことを知ってな」
「自決するんだよ」
「子供を残してな」
「二人の間に生まれたね」
「悲しい話だな」
「悲しい話でも」
それでもとだ、優花は龍馬に言った。
「凄くいい話なんだよね」
「音楽もな」
「うん、それとね」
「それと?」
「いや、蝶々さんの子供どうなったのかな」
「残された子供か」
「日本とアメリカのハーフだけれど」
「明治時代でか」
最早遠い昔である、プッチーニの時代ではついこの前のことであったが。
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