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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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Vivid編
  第九話~素直な気持ち~

 
前書き

みなさんこんにちは。今回は少し早めに投稿できました。え?元々そんなに早くない?…………マジでごめんなさい。

まぁ、着々と感想と評価が下がってきているので、見捨てられないように少しでも足並みを早くしていこうという姑息な手段をとっている作者なので、笑ってやってください。

では本編どうぞ。 

 


ミッドチルダ・高町家


 日もすっかり落ち、子供が起きているには遅く、大人が寝るには少し早い中途半端な時間。高町家のリビングでは食事用の机に対面するようにして座るのは、家主であるなのはとフェイトの二人であった。

「…………ライ君、今日は帰って来られないって何かあったのかな?」

 夕食の後片付けも終わり、手持ち無沙汰になったなのはが夕方に貰ったメールの内容を思い出しながらそう言葉を零した。言葉だけを聞けば彼の事を心配しているように感じるが、今の彼女は上半身を机に預け不満そうな表情をしている為に、彼女自身が寂しがっているようにしか見えなかった。

「最近はライも外に出て色々とやっているみたいだから、それ関係じゃないかな?」

 机に項垂れそうになっている彼女に苦笑しながら、フェイトはそう答えていた。
 JS事件――――その最中に行ったスターズ分隊の模擬戦とその後の話し合い以降、プライベートに限るが、なのはは以前よりも自分の気持ちに正直な感情表現をするようになっていた。
 これはライの言葉も一因であるが、無意識の内になのはが彼を本当の意味で頼れる相手として認識しているからでもある。もちろん、それを彼女が自覚しているかは別であるが。

「それにどんなことであれ、目的を持って何かをやっているのならそれはいいことだよ」

 どこかなのはを宥めるような物言いをしながら、フェイトは一旦席を立つと台所の方から二つのグラスと一本の瓶を持ってくる。

「フェイトちゃん?それって……」

「少し前にティアナがヴァイスから貰った内の一本をくれたんだ。度数は少し高いけど、飲みやすいワインだって」

 そう言うと、瓶の口の包装を剥いていく。瓶の口はコルクではあったが、コルク抜きがなくとも手で抜けるものであった。
 キュポンという抜栓の音のあと、濃くも鮮やかな紫色の液体がグラスに注がれていく。

「ライがいない寂しさがこれで埋められるとは思わないけど、ごまかすぐらいは出来ると思うから」

「?………………っーーーーー!?」

 最初はフェイトの言葉にキョトンとするなのはであったが、その意味をキチンと理解し、これまでの自分の言動を客観的に思い出せると、彼女は声にならない声を上げ、今度こそ机に突っ伏した。

「そういう反応は、可愛いだけだよ?」

「…………いじわるぅ……」

 顔を伏せるようにしているが、その所為でよく見えるうなじを含めた首筋や耳が赤く染まっているため、なのはが隠そうとしている照れは全く隠せていない。
 なので、フェイトの感想の言葉はなのはにとってはただの追撃であった。

「どうぞ」

「…………いただきます」

 そんなこと気にもせず、フェイトはグラスの片方をなのはに差し出す。それを受け取るとなのははちびちび舐めるように、グラスを傾け始めた。
 グラスと瓶の中身が少しずつ減っていく中、少しだけ軽くなった口から最近感じている気持ちがなのはの口から漏れる。

「…………最近……ライ君、前みたいになった……」

「え?」

 なのはの口から溢れた言葉を理解できず、フェイトは疑問の声を出す。それをどう受け取ったのかはわからなかったが、なのははぼそぼそと言葉を続ける。

「前は……六課の時は、恐る恐るだけど近づこうとしてきてくれたけど…………今はまた、一歩引いたというか………………怖がっている?…………」

 あくまでなのはの主観の言葉であるから、フェイトには尋ねられても困るのだが聞き流すことはできない内容であった。
 フェイトは目の前にいるなのはという女性が幼い頃から優れた感受性を持っていることを知っている。特に他人の感情に関しては、特に優れた幼児たちと同じくらいであると言っても過言ではない。
 そんな彼女が感じたそれを、フェイトは黙って聞いていた。

「……怖がっている…………違う……あれはそういうのじゃなくて…………もっと、こう……怯えている感じ…………」

「怯えている?何に?」

「…………わかんない…………」

 そこまで喋ると、まぶたと一緒に酩酊した意識が落ちていく。
 そんななのはを見ながら、フェイトも酒気が入った頭で今の彼女の言葉を反芻していた。

「怯えている…………ライが怯えていたもの…………戦い……じゃないよね?」

 手元にあるグラスの中身に視線を落としながら、フェイトは自身の記憶を掘り起こしていく。

「…………ギアス……でも、あれはもう…………ライの起源…………記憶…………過去?」

 そこまで口にし、酒気からくる眠気で瞼が重くなってくる。
 このままでは、寝てしまうと思ったフェイトは片付けもそこそこに、微睡んでいるなのはに肩を貸すと二人の寝室に向かう。
 そして、ベッドに倒れこむようにして横になると、早々になのはの口からは寝息が聞こえてきた。それをBGMにしながら、フェイトも酔いからくる心地よい眠気に身を任せる。
 最後にはっきりしない意識の中で、フェイトはポツリと先ほどのなのはのように自身の気持ちを吐露した。

「……頼って…………ほしい、な…………」



狙撃ポイント・ビル屋上


 馬乗りに近い体勢で組み敷く男は、感情の感じさせない顔で組み敷かれている少年を見る。一方で、見られている方の少年はその幼さの抜けきらない顔に激情を乗せ、男を睨んでいる。
 その対極的な表情をしている二人は数秒の間睨み合いを続ける。しかし、それも長くは続かない。

「…………」

「なんのつもりだ!」

 無言で鼻先に突き付けていたMVS形態の蒼月の切っ先をライは少年――――ジョシュア・ラドクリフから離していく。そして、それに合わせるように馬乗りの体勢を解くと、特に警戒も見せずにライは彼から離れたのだ。
 それを侮られたと受け取ったジョシュアはライに感情のままに噛み付いた。

「君が僕を狙う理由は幾つか予測できる。だが、君がそれを行動に起こすキッカケが分からない」

「はぁ?」

 ライの遠まわしの言い方に理解が追いつかないのか、ジョシュアは間抜けな声を漏らす。だが、そんな彼にお構いなしにライはビルの屋上の淵に腰掛けながら話を続ける。

「君には僕を狙う正当な理由があるのだろう。だけど、その理由ができる切っ掛け。要するに僕の事をどこで知った?」

「…………」

 そこまで言われ、理解が追いついた彼は無言で視線を逸した。

(言いたくない、言えない?どちらにしても今ので彼に情報提供者がいるのは確定か。問題はこの襲撃のタイミングが故意なのか、それとも偶然なのか。それとそいつの目的が何なのか、か)

 彼の反応を窺いながら、思考を回転させていく。
 そして同時に、恐らく自分の――――『ライ・ランペルージ』のことしか把握していない目の前の男の子をどうするかを考え始める。

「「!」」

 だが、その思考は唐突に中断することになる。何故なら、二人のいるビルの屋上と屋内を繋ぐ扉が大きな開閉の音を響かせたのだから。

「っ…………くそ!」

 咄嗟に地面に放置されているライフル型のデバイスを回収しようと動こうとするジョシュアであったが、それを塞ぐようにデバイスと彼の間にライが滑り込むようにしてそれを防ぐ。
 即座に回収が無理と判断すると、ジョシュアは服のポケットから小型のストレージデバイスと思われるデバイスを取り出すと、オプティックハイドを展開し、悪態を残しながらもその場から姿を消すのであった。

「判断と割り切りの良さはいい。本当に子供か?」

 自身の事を棚上げにする発言であったが、そのことについては後回しにする。
 今は、自分に近付いてくる足音の主に対して、どういった状況説明をするのかに思考を割く必要があるのだから。
 それを、ジョシュアが残していったデバイスを蒼月の格納領域に収容しながら考えていると、ライの耳に凛とした声が届く。

「動かないでください、時空管理局の者で…………って、ライさん?」

 背後から警告を発してくる女性の声。その声が自身の名を読んだことに、少し驚きながらライはゆっくりと振り向く。
 既に深夜という時間帯。光源は建物の光や街灯と言ったものしかないため、少々見辛くはあったが、ライの視界に映ったのは見覚えのある女性であった。

「ギンガ?」

 元同僚の姉妹の姉の方であり、初めて出会ったのは下水道というそれなりに印象的な出会いをした女性がそこにいて、ライの姿を見て驚いた表情をしている。

「どうして、こんなところにライさんが……って、その傷!」

「う、ん?」

 目の前の彼女が、恐らく先ほどの騒ぎで通報されて来た局員であり、魔力反応を頼りにここに来たことは想像に難くない。だが、いきなり取り乱し始めたことに疑問を感じたライは首を傾げながらそんな声を漏らした。

(あれ?地面が近い)

 そして、首を傾げた為に少しだけ傾いた視界はそのまま地面をアップで写し始めた。

「……あぁ、血を流したから」

「何を呑気な!」

 どこか他人事のように呟いたそのセリフは、頭上から浴びせられるように発せられた言葉でかき消される。
 それと同時に少しの浮遊感と急に高くなる視界。それらを認識すると、ライはギンガに肩を貸されるようにして立たされた事を察した。

「ギンガ、血で汚れるよ?」

 首と肩、そして弾丸をすり抜けるようにして避けたと“見せた”時に胴体に受けた傷は少なくない血液をライの体から奪っていたのだ。
 そして、血の巡りが悪くなってきている頭と急に途切れた緊張感は正常な認識を奪うには十分すぎる要素であった。その為、ボンヤリとしてきた思考はライに頓珍漢な言葉を吐かせる。

「馬鹿なことを言わないでください!」

 そしてそれはギンガを怒らせる。
 無意識に近いライのその言葉。“自分への気遣いが一切ない”それが彼女をひどく苛立たせる。

「少し……眠い」

「治療しますから、その後にいくらでも寝てください!ブリッツキャリバー、今すぐなのはさんたちに――――え?」

 すぐさま連絡を取ろうと待機形態のデバイスであるブリッツキャリバーを、空いている方の手で取り出す。
 そして開かれそうになる通信はしかし、ライがその手を握り締めることで中断させられる。

「何を――――」

「皆には言わないでくれ……」

 先ほどよりも小さい声であったが、確かな意志が宿った言葉にギンガは戸惑う。
 だが、そのままズルリと手に着いた血で滑り、ダラリと垂れ下がった腕といつの間にか降りていたライの瞼を見た瞬間、その戸惑いを自身の思考から蹴飛ばすようにして弾き出す。
 そして、再び連絡を取ろうと口を開こうとする。だが、その直前に必死で泣きそうな顔で訴えてくる先ほどのライの表情が脳裏を過ぎり、口から出かかる言葉を飲み込ませる。

「……~~~~ッ、もう!ブリッツキャリバー、お父さんに繋いで!」

 すねて起こったような声を発すると、彼女は連絡先を変えつつ通信ウィンドウを開き、応急処置ができる場所へと足早に移動を開始した。



 
 

 
後書き

てなわけで、あまり内容的には進んでいないけど、最近薄れがちなヒロイン勢の一部でした。

これからも色々と話を広げていくつもりです。Vivid本編はもう少しお待ちください。本編に入ればもう少し軽い話や、甘い話もかけたらなぁと思っています。

では、次回も更新頑張らせていただきます。

ご意見・ご感想を心よりお待ちしております。 
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