| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Vivid編
  第八話~蒔かれた種~

 
前書き
更新遅れてすいませんです。

内容で色々と迷う部分もあったのですが、自分に正直に仕上げました。
では本編どうぞ。 

 


ゲイズ邸・一室


 沈黙の落ちる一室。
 その部屋に設置されたソファーに座り向かい合う二人は、片や頭を下げ、片や呆然としている。
 そして、呆然としている方――――レジアスは二度三度と目元を指で解すと、意を決したように口を開いた。

「先と同じ言葉を使うが…………貴様、正気か?」

「冗談で下げられる程、自身の頭は軽くはないつもりです」

 頭を下げていた方――――ライは、頭を上げるとそう切り返す。
 ライが口にした“依頼”とは、かつてのJS事件の黒幕の一人であるレジアス・ゲイズという個人に、再び以前と同じようにミッドチルダの防衛を行う組織のトップとなれというものである。
 傍から聞けば、レジアスの言うように正気を疑うような内容だ。一度失敗し、罪を犯した人物にそれを行なえというのだから。
 しかし、ライの目は正気であり、本気だ。

「JS事件後、管理局は失った信用と力を取り戻すために活動を続けている。しかし、JS事件の原因を造り、そして黒幕でもあった最高評議会や貴方のことを全て隠し、事件前の状態に戻そうとするだけで改善の兆しは一切ない。組織の膿が排されてすら、現状を保つので精一杯だ」

 事実、ライの言葉の多くは正鵠を射ていた。
 JS事件後、確かに管理局は次元世界を管理するという看板に恥じぬほど、そして大きな組織であることを示すほどにミッドチルダの復興を急ピッチで行っていった。
 だが、復興が終わると、社会的な混乱を避けるためか、「今回の事件において我々は大きな被害を受けた。だが、本当に守るべき市民に被害がなかったのは単に我ら管理局の力があったからこそである。そして、今回の事を教訓に今以上に力を生み出すのは危険である。その為、議題となっていた質量兵器の導入も見送ることにする」というような文章を、公式的な場で発表していた。――――してしまっていた
 そうなれば、変わろうとしていた魔法社会は元に戻り、結局は魔導師の人口が少ない管理局は人員不足である為、より魔導師が必要な海の方に魔導師を配置する。
 そうなってしまえば、後は悪循環の始まりだ。
 人員不足であるにも関わらず、一方的に増え続ける次元世界群。そして、それに比例するように海はまた人員を欲し、限られた広さであるミッドチルダに配備されるはずの陸の人員を割くことで人員を確保し、また海は手を広げていく。自分たちの足元がどれだけ不安定になっていくのかも分からずに。

「正直に言ってしまえば、管理局がどうなろうと僕は知ったことではないです。だけど、管理局がどうにかなることで僕にとって都合の悪いことが起こるのは気に入らない」

 これまでの会話の中で恐らく、ライの本心に一番近い言葉が漏れる。
 それを聞いたレジアスは、もう一度質問を口にする。

「何故…………お前ではなく儂なのだ?」

 絞り出すようなその言葉に、ライは真っ向から切り返す。

「およそ百年以上続いた管理局の魔法主義社会。それを変革させようと動いたのが貴方だったからです」

「だが、それは――――」

「失敗しましたか?だけど、社会が、人が、時代が求めるのは危うさを生み出す正しさでも文化でもない。確固たる何かを確信させるだけの新しいモノだ。それに…………」

 一瞬口にするのを躊躇いそうになるが、意を決するようにライは言葉を続けた。

「僕がトップに立てないのは、自身の大切な存在が既に管理局、そして聖王協会の両方に在籍している。可能性は低いと思いたいが、彼女たちを交渉材料に譲歩の姿勢をしてしまえばそもそもこの組織の最在意義が瓦解する」

 レジアスは再び黙り込む。
 ライの友人関係はごく限られた範囲でしかない。何故なら、ミッドチルダに彼が訪れてから接触を行ったのはJS事件時の機動六課の局員と、精々入院していた聖王協会の人間たちぐらいだ。
 そんな調べれば直ぐにわかってしまう人間関係を人質に取られでもすれば、ライにとっては十分すぎる弱点になる。ルルーシュにとってナナリーがそうであったように。
 そして今この瞬間、その弱点をライはレジアス・ゲイズに明かしたのだ。未だライにとって味方になるかどうかも分からない人間である彼に。
 それだけの覚悟と意志を見せ付けられたレジアスは自身でも気付かないうちに、ライのその覚悟を宿す、蒼の瞳に引き込まれるような錯覚を覚えていた。

「罪、罰、後悔。そんなもので平和など創れない。それでできるのは自己満足だけだ。正しさで成すべきことができないのであれば、僕はいくらでも間違えます。成し遂げられない正義などいらない。成し遂げられるのであれば、僕は悪にも、それを討つ巨悪にもなる」

 そう言い切るとライは、レジアスの言葉を待つ。
 自身が語るべきことはまだ多くある。組織を成立させるための年単位の量の時間単位で細かいタイムスケジュール。組織内の運営。そして資金面も当然のように話さなければならない内容だ。
 だが、今必要なのはそれではない。
 それを成そうとするべき覚悟と意思。それをライは求めていた。

「少しだけ――――」

「……」

 レジアスは口を開く。だが、その目はライの方を向いてはいなかった。

「少しだけ時間をくれ。一週間でいい」

 そう言うレジアスの表情は初めて見たときよりも幾分か老けて見えた。

「また来ます」

 そう言い残すと、広げた資料をそのままにライは鞄を掴むとその部屋を静かに退室した。
 ライが退室してから数十分か、若しくは一時間は過ぎたであろう頃に、再びその部屋の扉は開かれた。

「彼はどうであった?」

 扉の向こうからライをこの部屋に連れてきた女性――――レジアスの娘であるオーリスに自身の座る車椅子を押されながらそう訪ねたのは、聖王協会の病院に入院しているはずのゼスト・グランガイツその人であった。

「………………お前の言うとおり……どこか危うい小僧だな、アレは」

 ゼストからの質問に対し、未だ疲れた表情を見せるレジアスはそう切り返した。
 今回、ライからのメールを受け取ったレジアスは、面識があることを知っていたゼストに連絡を入れていた。そして、いくつか相談をした結果、当日にゼストもレジアスの家で待機しておくことにしたのだ。

「それで何の話だったのだ?」

 ゼストの疑問に答える代わりにレジアスは机の上に広がった資料を大雑把に纏め、二分させるとそれぞれを娘と友人に手渡した。
 そこに答えがあると察した二人は、お互いに資料を読み流していく。
 読み込んでいく二人の表情の変化は劇的であった。

「こ、こんな無茶な――――ッ!」

「…………」

 管理局で文官をしているオーリスは、堪らず声を上げそうになる。その表情は怒りよりも焦りや驚きの色が強い。
 一方でゼストの方はただ無言であった。

「お前の中で無茶であると判断した考え、疑問や質問をしたところであの小僧は涼しい顔で具体案やメリット、デメリット付きで応答できるだろうな」

 そんな娘の反応にレジアスは幾分か余裕を取り戻したように、どこ確信している意見を口にする。
 その一方で、どこか悲しい表情を浮かべているゼストにレジアスは視線を向けていた。

「……早々に生き方を変えることはできないということか」

 ポツリと呟かれたゼストの言葉は、他の二人の耳にも確かに聞こえいた。
 しかし、その言葉とゼストの表情から何かしらの事情があることを察した二人は、付き合いの長さもあってか特に追求することはしない。

「頑固さだけで言えば、儂らも相当なものだ」

 ゼストの呟きにそう返したレジアスの言葉は、娘であるオーリスを苦笑させた。



クラナガン・裏路地


 来た時のようにモノレールには乗らず、歩きで帰路についたライ。
 その足は自然と人のいないような場所を選びながら進んでいく。だから、いつの間にやら、ライは街灯の光も届きにくい薄暗い路地にいた。

「…………時期尚早だと思うか?」

 ぼそりとライの口から言葉が漏れる。それはゲイズ邸から出てから、初めての発声であった。

『…………正直に言うのであれば』

『何か焦る原因があるのですか?』

 その声に答えたのは一本のネックレスの輪に通され、ライの首にかかる二機のデバイスであった。ライの問いかけにその二機は控えめながら肯定の意を返し、同時にその理由を問い質す。

「……」

 家に向けて歩いていた足を一旦止め、彼は近場の壁に背を預けるようにして寄りかかると、ゆっくりと口を開いた。

「ここ最近、管理世界内の山間部の施設が襲撃される事件が散発的に起こっている」

 ライは以前、管理局のデータベースにハッキングした際にその情報を知った。
 そして、その事件についての報告書の内容をコピーし、その複製データは今ライの話し相手である二機の中に保存されている。

「襲撃を受けたのはそれなりに重要な施設もあれば、特に取るに足らない施設もあり、一見して共通性は無いように思われる」

 二機は自身のデータベース内に保存されているデータを解凍しながら、ライの言葉と報告書の内容を確認していく。

「だが、一貫して直接的な被害にあったのはその施設ではなく、そこを防衛している警備部隊」

 二機の中に被害者である防衛に出た魔導師のリストがピックアップされる。そこには低くてCランク、高くてAAランクの魔導師の名前があった。

「襲撃は夜間であり、敵はオプティックハイドと思われる光学迷彩で姿を隠していたため、しっかりと姿を確認した人間はいなかった。だが、戦闘していた魔導師の証言から人間の倍か若しくはその三倍の大きさだったらしい。そして極短時間の戦闘時間を終えるとすぐに撤退する」

 ライは念話による思考発声でも二機と会話できるのだが、今はあえて声に出すことで自身の考えをまとめていた。

「それと現場検証を行った写真の中に、施設のコンクリートに残るゴムの焼けた後が写っていた」

 その写真の中にはコンクリートだけでなく、土の地面も写っていた。そちらには幾つもの窪みが帯を引き、一種のアートのようになっている。

『『…………まさか』』

 ここまでの説明で予測できたのか、二機の声が漏れた。
 ライはそれを無視し、自分の中の予測を口にする。

「“悪夢”は広がった」

 ライの言葉は路地の闇に染み渡る。くしゃりと、自身の前髪を右手で握っていた。自然と左手に力が入る。そして噛み締めるように口を引き結ぶその姿は、何かに苦しんでいるように見えた。
 そんな中、ライの傍を小さな光が瞬く。
 否、正確にはライがこれまで寄りかかっていた場所に迫っていた小さな光を、ライが壁から背を離したことで偶然回避したのだ。

「――――壁が?」

 視覚が拾ったその瞬きと、石の砕けるような小さな音で反射的にそちらに視線が行く。
 光が飛んできた方に意識を向けつつ、ライに見えたのは光が接触したと思われる部分が綺麗に抉れている壁であった。

(部分的な分解……消失?確か、似たような魔法が…………イレイザーだったか?)

 状況を理解した瞬間、目覚めてから初めて戦闘用の意識に切り替えられる。先程まであった無駄な思考が削ぎ落とされていく。
 その思考を働かせながら、ライは油断なく構えを見せる。
 そして、そよ風を感じた瞬間、前髪数本が部分的に消えるのが見えた。

「ッ!?」

 咄嗟に動けたのは、意識を集中していたからか。ライは身を投げ出すように地面に倒れこむ。
 裏路地の不衛生な道路を転げるのも気にせず、即座に体勢を立て直す。
 そのライの肩は、端が丸くくり抜かれたように小さく抉れていた。

(今度は見えなかった?!襲撃……目的は口封じか、それともレジアスと接触したことか)

 思考を働かせながら、ライは路地裏の中に何があるのか確認する。
 近くに何かの施設があるのか、室外機に繋がっている物以上に鉄製のパイプが壁を蔦っていた。

(敵の攻撃は狙撃。弾丸は不可視。連射が無いのは装填時間があるからか)

 近場に身を隠す場所もない事を確認すると、ライは身体に魔力を通す。
 それと同時に、ライは蒼月のセンサーを起動させる。

(敵は凄腕のスナイパーか、それとも臆病者か……)

 蒼月のセンサーで目的のものを見つけると、ライは迷わずそちらに跳ぶ。
 身体強化で上がった脚力で数メートル上に飛ぶと、拳を叩きつけるようにして目当てのパイプをひしゃげさせる。すると、中を通っていた白い煙が勢いよく吹き出し始めた。
 それに数拍遅れて、その煙を引き裂きながら不可視の弾丸がライに飛来する。

(凄腕の方か!)

 パイプを殴るために滞空する一瞬を狙い撃ってきた相手の技量に焦りながらも、ライは体を捩る。今度は少し深めに首を裂いた。
 少なくない量の血を首から垂れ流しながらも、ライは思考を回転させる。

(煙の裂いた軌道の延長、タイムラグ、付近の建築物、狙撃ポイントは――――)

 ライの視界はある一点を捉える。その人間こそ見えないが、ライはそこにいる誰かの存在を確信した。

「捉えた。アクセル」

 着地と同時に口に出した時には、そこから約五百メートル離れた地点に向かって加速していた。

(――――二、一、今!)

 加速し、景色が流れる中でライは体を捻る。するとライの服が線上に裂ける。不可視の弾丸を躱す為にタイミングを計算していたライであったが、不十分であったのか身体に掠ったのだ。

「っ、次弾か」

 自身の居場所を特定されたことに気付いた相手は、可視の弾丸を放ってきた。不可視の弾丸よりも連射性が上がる。
 その事に歯噛みしながらも、視界に映り込むその光が単発であることを確認すると、ライは賭けに出た。

「驚けよ!」

 どこか祈るようにそう口にするとライは前に進んだ。足だけでなく、身体全体を使ったバネに魔力と加速魔法と言う力が水増しされ、生身では到底至ることのできない速度に乗る。
 その進む先には高速で飛来する光があった。
 壁や肉体を易易と抉るその光が今度こそ、ライの身体に致命傷を与えようと迫る。
 高まった集中力が高速で動いているはずの景色をスローにしていく。そしてとうとう、ライとその光との距離がゼロになり、通過した。

「っ!」

 だが、その光がライの体を抉ることはなかった。
 光を文字通りすり抜けるようにして、超えていくライ。
 そして目的地である狙撃ポイントである、ビルの屋上に足をつけた。
 その瞬間、加速のための運動エネルギーがライの靴底と屋上の床を削り始める。その小さくはない音を響かせながら、ライの視界の隅に人間の姿が写った。

「アクセル」

 始動キーを口にすると、未だに残っていた運動エネルギーがスコープを覗きながら驚いた様子を見せる男の方へ、ライの体を弾き出す。

「がっ!」

 ほとんどぶつかる様にしてライはその男を組み敷くと、加速の勢いのために今度はその男で屋上の床を削ることになった。

「こ、のっ!?」

 意識が朦朧とする中、組み敷かれていた男は身体に乗っていたライの重さが消えると同時に体を起こし抵抗しようとする。だが、それは鼻先に突きつけられたライのデバイス、蒼月のショートソードの切っ先の所為で実行することはなかった。

「…………――――子供?」

 声を漏らしたのは、今度はライの方であった。
 これまで凄腕のスナイパーであったと予測していた相手の正体が、ここまで接近したことで夜の暗さに関係なく視認できるようになる。
 その相手の顔は線が細く、身体の肉付きも成長しきれていないアンバランスさが見え隠れしていた。

(ナナリーと同じくらい……若しくはもう少し下か?)

 内心で相手の事を分析しながらも、ライは相手の得物であるライフル型のデバイスの位置を確認する為に、視線を動かし辺りを見回す。もちろん、その間も蒼月を構えたままで相手を動かせる気は全くなかったが。
 動かした視界に目的のデバイスが見える。どうやら先ほどの衝突で滑ったのか二人の位置から数メートル離れており、腕を伸ばした程度で届く距離ではなかった。

「……名前は?」

 少なくとも相手に抵抗の術がない事を確認したライは、傍から見れば尋問にしか見えない質問を行った。

「な、に?知らない?俺を?お前が、よりによってお前が!?」

 その質問の内容が意外だったのか、そのスナイパーの少年を動揺させ、そして怒りに火をつけさせた。

「ジョシュア・ラドクリフ!俺の名前だ!この名前に聞き覚えがないか!」

 怒りの感情を隠すこともなく喚くその姿はいっそ清々しいが、意識を切り替えているライはそんな事を気にすることもなかった。
 だが、そんなライの思考に彼のファミリーネームが引っかかった。

「――――――」

 もう日が沈み、夜の帳が落ちているその屋上でライの口の動きは、組み敷かれている彼にはハッキリと見ることはできず、そして声量が小さかったためにキチンと聞き取ることもできなかった。
 だが、ライの相棒である二機はその声を確かに拾っていた。












“過去が追い付いてきた”






 
 

 
後書き

てな感じになりました。

祝!やっと平均年齢下方変動!…………でもオーリスさん出たからトントンかな?



皆様のご意見・ご感想を心待ちにしております。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧