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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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Vivid編
  第十話~大人~

 
前書き
読者の皆様お久しぶりです。
最近、本当に展開に悩んでばっかりで更新が遅れて申し訳ないです。

悲報、また平均年齢が上がります。 

 


???


 意識がぼんやりしている。それはハッキリと認識できているのに、それ以外が酷くぼやけている感覚。
 そう感じたと同時に、今自分が夢を見ているのだとライは頭のどこかで理解する。

「貴方はこのままでいいのですか?」

 声が耳に届く。
 霞むような視界に集中すると、ぼやけているが確かに目の前に人がいることが分かる。そしてその人物を認識できると今度は、自分が寝転び、その目の前の人物が自分を見下ろすようにしている事をライの平衡感覚が伝えてきた。

「そうして進んだ先に何があるのですか?」

 また声が聞こえた。
 次は、目の前のその“誰か”が仰向けの自分の身体に乗るようにしていることを、重みとともに感じるようになる。

「あなたの幸せとはなんなのですか?」

 それが聞こえてくる。
 姿形は酷くぼやけるのに、その透き通るような声はよく聞こえる。それは女の声。だが、成人した女性というよりは、未だに幼く、甘い声。

「貴方は――――」

 いきなり聞こえていた声にノイズが走る。
 その音は不快感を呼び、無理やりライのぼやけた意識をはっきりさせていく。

「――――――」

 視界がぼやけ始める。
 さっきよりもぼやけて見えない筈の目の前の女の子。そんな彼女の容姿は最初から最後まで確認などできない。
 無意識なのか、それとも意図があるのか。ライは徐ろに手を伸ばせば届きそうな彼女の顔に向けて、その腕を持ち上げる。

「…………」

 先程まで聞こえていたノイズが止む。
 ペタペタと、それこそ子供のようにライは目の前の女の子の顔を触る。

「――――君は、誰だ?」

 最後にそんな言葉を残して、ライの意識は暗転する。だが、最後にその顔が笑った事を、何故かライは確信した。



陸士108部隊・隊舎


 所々、古い壁が見えつつも、数度のリフォームのおかげか、それなりに綺麗な施設に見えるその建物――――陸士108部隊の隊舎でライは眠っている。
 その眠っているライが横たわるベッドの横には人間がいた。それはライを回収したギンガである。そしてその場にはもう一人、この部隊の部隊長を務めるゲンヤ・ナカジマがいた。

「そんで、結局はどういうことだ?」

 ライの怪我の治療が終わるタイミングを見計らいながら、ゲンヤは自身の娘でもある部下にそう声をかけた。

「えっと、それが、通報を受けて魔力反応があった場所に行ったらライさんが怪我していたとしか…………」

 包帯やガーゼ、薬品各種を片付けながら、訓練校時代以降あまり使うこともなかった医療関係の知識をしっかりと覚えていた自分を内心で褒める。だが、厄介事の種を持ってきたという自覚から、尻すぼみな言葉を返すしかできないギンガであった。

「要するに、何もわからんと」

「……アハハ」

「たく」

 こういうところは姉妹でそっくりだと思いつつも、ゲンヤは視線をライの方に向ける。
 シーツで胴体が隠れているため、今直接見えるのはライの首から上だけだ。だが、首に巻かれた包帯や、特徴的な灰銀の髪に所々付着している赤黒い色で痛々しさを感じる。
 気が滅入るなと思いつつ、意識を切り替えながらゲンヤはギンガに声をかけた。

「ギンガ、コイツのことは俺に任せて今日はもう帰れ」

「え、でも」

「ウチの娘たちは少し真面目に働きすぎだ。年長者のお前が休んでる姿を見せねーと下のやつらも休みにくいだろうが」

 そこまで言われると、ギンガは渋々と退散していった。
 元来であれば仮眠室であるその部屋に残される二人。備え付けのベッド以外に特にものもないため、会話する人物がいなくなれば自然と閑散とする。
 ベッドの横で先程までギンガが座っていたパイプ椅子に今度はゲンヤが腰掛ける。その拍子にギシリと金属質な音が鳴る。その軋むような音を聞き、「次の備品の支給はいつだったか」と内心で考えるゲンヤ。
 それを思い出せず、ガシガシと以前よりも増えた白髪頭を掻く。年をとったことにため息をつきつつ、彼はライの方に向き直った。

「それで……お前さんはいつまで寝ているふりを続けるつもりだ?」

 傍から見れば眠っている人間に話しかける中年という、認知症を疑うような光景だが、そうではない。何故なら数拍おいて、眠っていたはずのライはそれが当たり前のように目を覚まし、上体を起こしたのだから。

「……下手でしたか?」

「お前さんが気付いたときに一回、そしてそれをバレないようにしようと寝たふりをしようとした時に一回、胸の上下の仕方に違和感があった。それだけだよ」

 特に面白くもない種明かしをするようにゲンヤはそう返す。
 その余裕のある態度に自分よりも年季の入った大人の凄みを、ライは肌で感じた。

「そんで、お前さんを襲った奴について喋る気はあるのか?」

「……」

 ゲンヤの当然の質問に無言で首を横に振るライ。そんなライを呆れた表情で見つつ、彼はため息を吐いた。

「八神もそうだが、今時の若い奴はどうしてこう……」

 愚痴を零しつつ、一旦ゲンヤは席を立ち部屋から出ていってしまう。
 突然、一人にされたライは当然戸惑うが、現状を把握するため今の自分を確認し始める。服は上半身を脱がされ傷のある場所を包帯で巻かれている。脱がされた服は、部屋に備え付けの机の上にあったが、血のシミや攻撃により裂傷によりもうまともには着られない状態であった。
 そこまで調べると、自身の手元に蒼月とパラディンの二機がないことに気付く。

「どこに――――」

「ほらよ」

 突然の背後からの声に振り向くと、放物線を描きながら自分の方に落ちてくる二つの小さな影。慌ててそれを受け止めると、それは今探していた二機のデバイスであった。

「一応お前は一般人で、事件性のある何かに巻き込まれてここにいる。だから一旦デバイスはこちらで預かっておいた」

 デバイスを投げ寄越した当人であるゲンヤは部屋の入り口近くにたっており、そう説明する。

「規則だから一応な。中身はいじっちゃいねーぞ」

「いえ…………いいのですか?」

「あん?」

「詰問をしなくて」

 そのライの言葉に一度目をパチクリとさせたゲンヤは、先ほどのようにガシガシと頭を掻くと、再びパイプ椅子に腰掛けた。

「まぁ、お前さんも一旦座れ」

「……はい」

 言われるままに先ほどまで自分が眠っていたベッドに腰掛ける。そして、ゲンヤに向き直ると、彼は先程までは彼の影で見えなかった少し大きめの紙袋をいじっていた。

「ここ最近、一般人も局員も関係なくある問題事が起こっている。そして、被害者一同その詳細は語りたくないって言いやがる」

「……」

 一瞬、ライの頭に先の戦闘で見た少年の顔を思い出す。しかし、次のゲンヤの言葉でそのイメージは霧散した。

「被害があった場所の中には監視カメラの範囲内もあった。そして判明したその襲撃犯はうちの娘たちと同じくらいの背格好の女だ」

「……なんでそんなことを僕に?」

 いじっていた紙袋から一枚のYシャツを取り出すと、ゲンヤは差し出すようにしてライに手渡す。

「お前さんの服はダメになったから代わりにこれを着ろ……話の理由か」

 受け取ったYシャツとほとんど残骸になっている私服を見比べ、ゲンヤに感謝しつつ袖に腕を通す。
 そして着替えというには簡単であるが、ライが服を着るとゲンヤは口を開いた。

「今回、お前さんを襲った奴もそうだとこれは事件になっちまうから、それの確認だ」

 もったいぶった割には普通の返答であったため、ライは肩すかしを喰らう。だが、ゲンヤにとってはこれからが本題であった。

「さっき、詰問をしなかった理由だが……まぁ、お前さんには借りがある」

「借り?」

「もう四年近くも前の話になるが――――ウチの娘たちを救ってくれたこと、感謝している」

 そう言うとゲンヤはライに頭を下げていた。
 今度は、先程のゲンヤ以上にライが目をパチクリとさせる番であった。

「えっと」

「JS事件で娘のギンガを助ける代わりにお前さんが行方不明になったと聞いた。もし、あいつがさらわれていたと思うと、こんなことを言うのも不謹慎かもしれんがゾッとする」

 そこまで言われて、ライは得心する。
 JS事件でのスカリエッティによる管理局の襲撃の際、ライは連れ去られそうになるギンガを救出し、代わりに彼がスカリエッティの元に行くことになったのだ。

「頭を上げてください。あの場に言わせたのはほとんど偶然でしたし」

「家内を亡くして、今の俺の家族は娘たちだけだ。だから、通すべき筋は通したい」

 被せるようなゲンヤの言葉にライの心は少しだけ暖かくなる。しかし、何時までも頭を下げられるのは居心地が悪いため、少し強引に頭を上げさせることになったが。

「すまん、少しみっともないところを見せた」

「いえ」

 苦笑で返しながら、ライは先ほどの話の続きを視線で促した。

「詰問……というよりも調書か。それを取らないのはお前さんの言葉から判断したからだよ」

「……」

「ギンガに言ったそうだな、高町の嬢ちゃんたちには言うなって」

 無言でライが頷き返すと、納得したのかするすると先ほどよりも軽快にゲンヤの口が動き始める。

「ギンガと、高町の嬢ちゃんたち以外での知り合い。そして、ギンガの奴が怪我したお前さんを連れて頼るところといえば俺のところだ」

 そこまで言うと、ライの方に向いていたゲンヤの視線がどこか呆れたものに変わる。

「お前さんがどこまであいつらから俺のことを聞いたか知らないが、そこまで知っていてそう言ったな?」

「……ええ」

「はぁ…………なら、予測は悪い方になるか……八神も含め、嬢ちゃんたちと俺らの違いは本局に近い立ち位置かどうかだ。そんで、あいつらよりも末端の方を頼るとなれば、管理局にとって都合が悪い話、若しくは敵に回すような話か?」

「……」

 無言は明確な肯定であった。
 そのライの反応に心底面倒くさそうな表情を浮かべたゲンヤはため息を吐く。そしてパイプ椅子に座っている体勢を少し崩すと、続きを話そうかと、目線だけでゲンヤはライに催促をする。

「これ以上は巻き込んでしまいますよ?」

「アホ抜かせ、そう言った厄介事を始末するのが大人の仕事だろが」

 軽く受け流すようなその言葉にライは頼もしさを感じる。こういった“頼れる大人”が皇歴の世界には少なかったと、ライは今更ながらに思う。
 だが、ライがそう思うのは無理もない。何故なら、日本人の大人はブリタニア侵攻の際に多くなくなっていることに加え、残った大人も現状維持で精一杯。そして、ブリタニア側に高潔な騎士というのはほんのひと握りであり、そしてライやルルーシュのような特殊な立場の人間にとって、それこそ頼れる年上の大人と言うのは珍しい存在なのだから。

「第一、ガキに全てを頼るような現状に辟易としているんだよ、こっちは。お前さんがどう判断したかは知らんが、末端なら巻き込めると考えたなら最後まで俺を利用してみろ」

 ゲンヤは二人の娘やJS事件後に家族となった娘たちから、JS事件中にライが何をやらかしたのかを個人的に知っている。
 そしてその内容から、ライという人間がどれだけ頭が回る人間かある程度知っているからこその言葉であった。
 ここまで言われたライと言えば、先程頭を下げられた以上に内心が暖かくなり、感情がこみ上げていた。自分から信じるのではなく、相手から信じさせようとしてくる相手が自分のことをある程度理解しているからこその嬉しさ。それを感じたからこそライの心に言葉では表現できないが、心地よい何かに満たされる感触を覚えさせる。

「……少し面倒な話です」

「おう」

 そんな出だしから、ポツポツとライは自身に絡んでいる様々な事柄を話し始めた。



ミッドチルダ・一軒家


 ミッドの中でも高級住宅街と呼ばれる地域のある一軒家。その家のリビングでは、最低限の光源を頼りにコンソールとディスプレイに向き合う一人の男がいた。
 カタカタとコンソールを叩く独特の音はせず、彼はディスプレイに映るデータをスクロールさせそれを事細かに閲覧しているようである。

「あら、まだ寝ていなかったの?」

「母さん、起こしてしまいましたか?」

 薄暗いその部屋に、パジャマにカーディガンを羽織った女性が入ってくる。
 ディスプレイを見ていた男性は、数年前から全く容姿の変わらないその母親である女性に向き直るようにして尋ね返した。

「いえ、起きたのはたまたまよ」

「そう……フェイトからメールがあって、来週には彼がくるそうなので」

 そう言って彼が母親に見せたデータは六課時代の『ライ・ランペルージ』に関するデータであった。





 
 

 
後書き

てな感じで次回です。

最近、本当にライのキャラがブレブレで申し訳ない。でも生まれてきてからの時間経過の年齢はともかくライの精神年齢はいうほど高くないと思ってますので、作者的には子供っぽいライもいいと思うのですよ。…………そろそろ例のアイテムも再登場させるつもりですし。

では次回も更新頑張ります。
ご意見・ご感想を心よりお待ちしております。  
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