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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第七十四話 お墓参りその五

 そう思った僕にだ、親父は言った。
「なるな、そして相手がそうだったらな」
「逃げるべきかな」
「出来るだけなおしてもらえ」
「暴力を振るうことを」
「それが無理なら逃げろ」
 その場合はというのだ。
「耐えられない位ならな」
「逃げるべきなんだ」
「暴力で傷つくのは自分だしな」
 だからというのだ。
「そんな相手からは逃げろ」
「それがいいんだ」
「そうした奴から逃げるのも勇気だ」
 それもまた、というのだ。
「危険からもな」
「どうしようもない危険から」
「そういうことだ、逃げずに無理して耐えようとしてな」
 正面を見ながらだ、親父は苦々しい顔になっていた、
 そしてだ、こう言ったのだった。
「大怪我をしたり死んだ人も見てきた」
「その暴力で」
「俺は助けられなかった」
 その忌々しげな、顔に出ているのがさらに苦くなっていた。
「そうした人を」
「色々あったんだね」
「ああ、世の中どうしようもない屑もいてな」
 明らかにその死んだ話での当事者のことだった、親父はそれを言葉の中にも表情にもはっきりと出していた。
「そういう奴には関わらない、逃げることだ」
「向かわずに」
「自分の身を守るのは自分だからな」
「死なない為にも」
「御前もそうしろ、これはどんな相手でも同じだ」
「どんなって」
「かみさんや彼女だけじゃない」
 交際相手やそうした存在だけでなく、というのだ。
「友達でも同じだ」
「そうした友達はだね」
「持つな、友達にな」
「どうしようもない人は」
「関わらないことだ」
 そうした相手にもというのだ。
「自分がダメージを負うだけだ」
「親父も色々見てきたんだね」
「これでも結構生きてきたからな」
 その人生の中でというのだ。
「だからな」
「それで見てきて」
「わかったんだよ、御前もわかるさ」
「けれどわかる前に言ったね、僕に」
「事前に言うのも親の務めなんだよ」
「そういうことなんだね」
「ああ、じゃあそろそろだ」
 お墓だというのだ。
「お花も他のもあるからな」
「全部用意してくれてるんだ」
「ああ、じゃあ頑張ってお墓も奇麗にするか」
「これからね」
「親父もお袋も喜ぶな」
 運転しつつ正面を見ながらだ、親父は微笑んだ。さっきの今井ましげな顔は消えてそうした顔になっていた。
「たまには親孝行もしないとな」
「親父結構行ってるじゃない、お墓参り」
「たまだよ」
「たまなんだ」
「ああ、そのたまをしに行くか」
 親父がこう言って二分位経ってそのお墓の駐車場に入ってだ、そしてそこに車を停めてそこからだった。
 僕達はお墓のところに行った、お花やお線香を持って。
 お墓独特の灰色、光っているそれを見ながらだ。僕達はまずはお墓の周りの草を取ってだった。お墓を水をかけて拭いて。 
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