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Fate/GrandOrder///OutBre;ak

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始まりと終わりの境目で

 
前書き
久々の投稿&短い...(lll-ω-)チーン
読んでくれると嬉しいです! 

 
剣の丘で一人、男は立ち尽くしている。
幾多の戦場で無敗。
数多の戦場で勝利し、男は正義の味方を演じた。
望まれれば何度でも、男は応じ。
殺して。
殺して。殺して。
殺して。殺して。殺して。
殺して。殺して。殺して。殺して。

数え切れない人間を殺した。

そして殺した人間の何千倍の何万倍の人間を救った。
100の人間から1を捨て、99人の人間を救う。それは正義の男を目指していた男の理想、完成系の望みだった。
少数の犠牲で多数の命を救う。これほど効率のいい救済はないと思い込んでしまった。
そんな救い方を男は望んでいなかった。
だが、そうするしかなった。救える筈の人間を救う為に男は殺し続け、行き着いた先は何も無かった。
男の終着点はその剣の丘だったのだ。
なんて事だろう。男は裏切られてしまった。
あれ程、救ったのに。あれ程、助けたのに。
愛していた者にさえ、裏切られてしまった男は自身の運命を呪った。
後悔だらけの人生────男の人生はなんだったのか……。
結局、男の人生は無意味だったのかも知れない。
その男自身、納得の出来る人生では無かったのかも知れない。でも、その納得の出来ない人生で救われた人間が少しでも居るのなら────この人生は価値あるものだ。
俺は、間違ってはいなかった。そう、思えた。
男は自身の人生を永遠に呪い続けるだろう。
過去の自分、正義の味方を望んだ幼かった自分さえ居なければ……男は過去の自分を嫌悪する。
男は呪い続ける、己の人生を。
己の未熟さを己の生き方を。
でも、やっぱり────そんな人生でも護りたかった人達を救えたのなら。この人生は無意味じゃなかった。
男は後悔し続ける。
剣の丘、その頂上で男は後悔し続けている。

────それでもこんな俺に救いを求めるのなら。
俺は何度でも救いの手を差し伸べよう。






裏路地って不思議だよな……。
なんだろ。ここからは立ち入り禁止だよって忠告されてる様な感じだ。
入ろうとしても躊躇してしまう。
足を踏み入れようと勇気を振り絞り、俺は右足を進ませる。
「さっさと入れ、」
────うわぁ!?
着物美人 両儀 式は俺の背中を蹴り飛ばした。
「たく、何を躊躇してるんだよ。お前は」
「式さん! 人の勇気ある行動を無下にするのやめてもらえます!?」
「知るか、さっさと踏み入れないお前が悪い」
そう言って両儀 式は裏路地の闇に紛れ込んだ。
「ちょ、待ってくださいよ!」

感じる────感じる────感じる。
ここら一帯の異様な魔力を。
「橙子の言ってた通りだ、ここら一帯は異常だな」
両儀 式は触れられる筈のない魔力の流れに触れ、それ。握り潰す。
「蒼崎さん……社長の言ってた通りでしたね」
すると式は「ぷっ」と微笑した。
「な、なんです?」
「いや、まさか本当に橙子の事を社長って呼ぶとは思わなかったよ」
「……雇われの身ですから上下関係はきっちりしないとですよ!」
そう、俺こと天城 輝真は先日、蒼崎橙子に雇われた。
仕事内容は雑用……それは雇われる前と変わらない。
でも、正式に雇われたのならけじめ位、付けないとな。
「式さん、その魔力って……」
「あぁ、視えてるよ。これを辿っていけば会えるだろうさ」
会える────正確には逢えるだろうか。
この世界の歪みに。この世界の抑止力に……。




────俺は認めないぞ、こんな結末。

────違う、こんな。これは俺の結末じゃない。

無限の剣の丘で一人、男は苦悩し続ける。
それは【エミヤ】ではない。若かれし衛宮 士郎の姿で。
救えなかった、救いたかった人々を救えた彼の人生は塗り替える様にすり替えられ、彼の結末はありえたかも知れない不確かな未来に行き着いた。
だが、所詮はありえたかも知れない不確かな未来。
衛宮 士郎の望んだ未来《結末》ではない。
恐らく、この結末に文句を言う奴は誰も居ないだろう。
誰もが幸福で不幸に成らない世界だ、誰もが望んだ世界に決まっている。
それは衛宮 士郎の望む結果である。
決して結末ではないのだ。
望むもの、望んだ世界かも知れない。でも────それでも、望む事を許された世界だとしてもこの結末では誰一人、救われない。
大きな矛盾。
誰もが幸福で不幸に成らない世界。
それなのに誰一人、救われない報われない世界。
その矛盾はやがて大きな亀裂を走らせる。
始まる前に。そうなる前に止めなければ今まで歩んだ道が無駄になってしまう。
無駄な事なんて無かった。
色んな事を経験し、学んだ。
飽きる程、続き。飽きる事の無かった学生生活を思い出す。
これを無駄にできない。無駄にしちゃいけない。
────無駄になんてさせるもんか。
衛宮 士郎は抗い続ける。その結末に意味はなくとも、その道の行き着く先が地獄だとしても。彼は抗い続けるだろう。
諦める事を知らない彼に。
諦めを教えてくれた彼女は微笑み、未来のエミヤはその姿を眺め……呟くのだ。

────諦める事を知らない、立ち止まらなかった今の俺に。

その先の言葉はかき消され。
少年の心に届く事は無かった。
────分かってる、届かなくても知っているから。
少年は笑顔で答える。
迷いを感じさせない無邪気な笑顔で。




突然、脳裏に『何かが』焼き付けられた。
────なんだ。
─────無限の剣製……?
知らぬはずの魔術……戦闘知識。
膨大な情報が頭に入り込んでくる。
「……くそッ、なんだこれ!?」
────激痛。
ズキズキと軋む頭痛に立ち上がれない。
魔術回路もだ。身体全身が焼ける様に熱を帯びている。
滝の様な汗……吐き気はないけどこれはキツイ…………。
「士郎、大丈────」
俺の異変に気付き、遠坂は走り寄ってきて……転けた。
「と、遠坂……?」
「あ、あの馬鹿。私の貯蔵魔力の殆どを……あっちも大変そうね」
どうやら魔力切れで身体をうまく動かせない様だ。
「士郎の方はなんでそんなに青ざめてるの?」
「解らない。なんか身体全身がズキズキしてる……」
ピリピリしてる────力が入らない。
魔術回路が熱を帯びている、原因の解らない痛覚は肉体と連動し、動きを阻害する。
「遠坂……は?」
「大丈夫、単なる魔力切れよ。
ちょっと目眩がする程度だから」
どうやら遠坂の方は大丈夫そうだ。
問題は俺の身体……動かない、無理に動かそうとすると激痛が全身を突き抜け、発狂しそうだ…………。
「衛宮君、セイバーは?」
「────セイバー……」
右手に刻まれた令呪を確認し、微かな魔力のパスを感じる。
先程は微塵も感じなかったセイバーの魔力を感じられた。
「魔術回路のパスは繋がってるから大丈夫だと……思う」
「良かった……無事なのね」
遠坂は安堵した表情でホッとしている。
「遠坂、セイバーの心配をしてくれたのか?」
「するに決まってるじゃない、人として当然よ」
アーチャーとは大違いだ。
あの男はセイバーを囮にしてバーサーカーに射抜いた。
その一撃は並のサーヴァントなら掠っただけで致命的なダメージを与えられる程……いくらセイバーの対魔力でもあれ程、魔力は防ぎきれないだろう。
────セイバー……無事で良かった。





弓兵は千を超える模造品『宝具』を発射した。
一つ一つが歴史に名を残す武器のレプリカ達はセイバー気取りの侍を目指して突き進む。
そんな中、侍は両手を突き出し。
笑顔でアーチャーを見据えた。
────なんだ……この感覚は。
一瞬の刹那、放たれた宝具【模造品】達が直撃するその一瞬、妙な違和感を感じた。
勝利の確信────?
違う、これは不穏の予感だ。
幾多の戦場を駆け抜け、勝利し続けたアーチャーはこの違和感を知っている。この違和感は勝敗が決する前に感じるそれだ。
完璧な勝利など存在しない。
あるのは明確な勝利と必然的な勝利。
これはどちらでもない。勝ってすらいないのに勝利に酔ってしまった愚かな指揮官の様にアーチャーは宝具を放ち、確信してしまった。
────これで勝ちだと。
慢心は敗北に繋がり、勝利は満身から始まると。
これは謝りだ。
「────ッ。
離れろイリヤ!!」
悲鳴に似たアーチャーの叫び。
セイバー気取りは最悪の笑みで。
「本日で二度目の『さようなら』です、受け取ってください」
さようなら────魔力の塊…いや、そんな生易しいものではない。
セイバー気取りは両手から二つの光が放たれる。
右手に黒色の球体、左手に白色の球体。それぞれの球体は螺旋を描くように重なり合うように交差し。
「───双腕・零次集束」
光る球体達は交差した。
二つの光は反発し、新たな光を生み出す。
────迷ってる暇なんてない。
アーチャーは確信し演唱する。
「『熾天覆う七つの円環』ッ」
今度こそ……守る、守ってみせる。
光は拡散する────光に触れたものは消えた。
熾天覆う七つの円環は光を弾き、光を遠ざける。
だが、それも長くは持たない。
エミヤの世界、そしてエミヤの持つ最強の盾ですら防ぎきれない。
だが、この場は絶対に死守する。
────イリヤを守る為に。約束を果たす為に!
残りの盾は二つ────消え掛けている己の躰。
「────逃げて士郎!」
アーチャーの背後。
一人の少女は叫ぶ。
「なんで……なんで私を」
「愚問だね……理由なんて必要ないだろ」
────ピキッ。
また、一つ盾は破壊される。
「君はバーサカーを連れてここから離れろ。
どうせあの肉だるまは生きているのだろう?」
奴の宝具『ゴットハンド』が健在であれば生き延びているはすだ。
アイツにはイリヤを守って貰わねば……。
────ピキッ!
そして最後の盾に大きな亀裂が走った。
最早……これまで。
貯蔵魔力は既に尽きた。マスターである凛の魔力供給も断たれ、万策尽きた。
奴が一枚上手だった。
勝利を確信し、勝利に溺れた時点で勝敗は決していた。
そう、勝敗は決している。

────だが、勝敗が決してからといって死ぬとは限らないだろう?

その瞬間、光は消えた。
周囲は静寂に包まれ、先程まで行われていた『殺し合い』が嘘の様に……。
「これは……」
自身の宝具が破られセイバー気取りは驚きを隠せずにいた。
だが、それでも奴は落ち着いていた。
冷静に状況を分析し、己の宝具を打ち消した原因を模索する。
そしてセイバー気取りはソレを見つけた。

それは長槍だった。

粉塵舞う、瓦礫の一帯で異彩を放つ槍。
────ランサー……のサーヴァント?
いや、ランサーのサーヴァントの宝具ではない。
先日、刃を交したランサー クーフーリンの宝具『ゲイボルグ』とは形状も……槍から感じられる魔力の質も違う。
離れていても解る。
あの槍の魔力は尋常ではない。
クーフーリンの槍が研ぎ澄まされた必殺の槍なら……あの槍は全てを薙ぎ払う破滅の槍。
近付くのは記念と判断しセイバー気取りは刀を構え、出方を伺う。
「これは……成程。
先程の宝具は貴方のものですね」
それは女の声だった。
姿は見えない……見えるのは宝具と思わしき槍とセイバー気取りの宝具で消耗したアーチャーのみ。
アーチャーの背後で戦略目的のイリヤスフィール・フォン・アインツベルンを目視……だが、それはあくまで戦略目的であってこの状況を打開しない限り用はない。
「問おう、御身は何者だ?」
女はセイバー気取りに問う。
「名乗る程の者ではありません。
そうですね……救世主とでも名乗っておきましょうか」
「救世主……だと?」
「えぇ、私は全人類を救う『救世主』です」
「ふん、ほざけピエロ」
反ばか消え掛けているアーチャーは立ち上がり。
「貴様の様な者が救世主だと?
笑わせるな、貴様は歪んでいる」
「おやおや、まるで私の全てを知っている様な口振りですねアーチャー」
「知っているさ。
なんせお前は『私』なのだからな……」
「おやおや、何を仰るかと思えば」
武器すら投影できない投影魔術師に勝ち目はない。
今は目の前の新たな脅威に神経を向ける。
「失礼、脇道に逸れましたね」
「構わぬ。
それに────無事でしたか士郎」
────月明かり。
そこに映し出されたのは馬だった。
そしてその隣で長槍を片手で持つ一人の女。
西洋の鎧で身を包み、純白の白で覆われた戦姫……見た目と裏腹に強大な魔力を身に宿した女は槍を天に向け。
「選べ」
その言葉と同時に槍の先端は回転した。
莫大な魔力を先端に収集させ────戦姫は問う。
「ここで手を引くのとここで討たれる。
貴公はどちらがお望みだ?」
────圧倒的だ。
圧倒的な勝敗の確信と揺るがぬ力の差を女は見据えている。
「貴女は……あぁ、まさかこの様な形で貴女と逢えるとは……これも神の戯れ」
そしてセイバー気取りは視線の先。
圧倒的な絶対的な存在の正体を知ってしまった。
セイバー気取りのクラス特有の能力だ。
相手サーヴァントを見る事である程度の情報を獲得する『真名看破』普通の召喚方法とは異なった召喚をされた事も。
「さて、貴公の選択は?」
「そうですね……ここで貴女と刃を交えるのも一興。
ですが────今宵は終焉です」
セイバー気取りは背中を晒し、楽しげに歩む。
「では、また何処の『夜』に」
消え掛けているアーチャーの固有結界をすり抜けセイバー気取りは消えた。
────そして固有結界は音もなく崩れ落ちる。
魔力不足で形を維持できなくなったのだ。
無限の剣製は消えていく。奥の手達は消えていく。
「アーチャー。
無事の様ですね」
騎士王────アルトリアは馬を引き連れやって来る。
以前より、セイバークラス時より成長した姿で。
「やはり、GrandOrderの影響でクラスを強制的に変更されたのか……」
「えぇ、少なからずですが私も事情は把握しています。
まさか…………この様な事になるとは」
「これも万能の釜の影響だろうさ。
まずはマスターと合流し、聖杯を破壊せねば────」
アーチャーの躰は更に透けていった。
「魔力切れ……それほど苦戦する相手だったのですね」
「君にかかればその槍の一振りで終わるたわいのない奴なんだが……些か妙な状況でね」
「妙な状況?」
────ビクビク……。
アーチャーの背後で身を潜める少女。
バーサカーのマスター イリヤはエミヤの背中越しから槍を携えたサーヴァントを凝視する。
「イリヤスフィール・フォン・アインツベルン。
ご無事でなによりです」
そして槍を携えた女サーヴァントはイリヤに敬意を示す様に安心させる様に話し掛ける。
「貴女は……何者?」
「クラスは『ランサー』
真名をアルトリア・ペンドラゴン────」
「ちょ、ちょっと待って?
ランサー……?貴女はセイバーだったはず…………」
「説明すると長くなります、ここは一度マスター達と合流しお話しします」
「マスター達って士郎と凛の事?」
「はい、現段階で私に魔力を提供しているマスターです」
「……」
イリヤは黙り込んでしまった。
当然だ、訳の解らない状況でいきなり現れたセイバー気取り。
そしてその窮地を救った騎士王の登場。
先程までセイバーのクラスだった騎士王……なのに今はランサーのクラスで現界している。
そんな意味不明な状況で混乱するなと言う方が無理な話だろう。
「混乱するのも無理はない。
だが、イリヤ。『今回』は納得してくれ……」
アーチャー────エミヤはそう言ってイリヤの頭を撫でる。
そう、この英霊の正体をイリヤは知っている。
衛宮 士郎の未来の姿……願望を叶えられ無かった未来の士郎。
それでも士郎に変わりはない。
どんな姿になっても士郎は士郎……そう、あの衛宮 切嗣の息子なのだ。
でも、何故だろう。
────私はこの人を知っている。
いや、知っているけど知らない。
会ったのは今日が初めて……なのに以前から知っている様な。
憎んでいる切嗣の息子なのにイリヤは平然と話し掛け、訳の解らない状況なのにその状況すら一度、体験した事のあるような錯覚を感じている。
これは知っているのではいのかも知れない。
これは『知っていた』のかも知れない……。
記憶に無かろうとイリヤは知っていた。
憎むべき対象と解っていても憎めない最後の肉親はイリヤを必ず助けると────。

────そう、私は約束したんだ。

なら、迷う必要はない。

「解った……『今回』は折れてあげる。
でも、『今回』だけなんだから」
怒っている、でも少し笑っている。
そんな笑顔でイリヤはアーチャー達と共に歩むのだ。


真夜中の裏道を彷徨う行き場を無くした霊達は依代を求めて────最後は消える。
未練を残し、死んでも死に切れない霊達はずっと同じ場所を何度も浮遊し────最後は消える。
常人では見えない。
魔術師では見えない霊を両義 式は直視していた。
好きで見ている訳でも見えている訳でもない。
瞳を閉じても目を手で覆っても見えるものは見えてしまう。
だから見える。
その霊達の死も……。
望んで見ている訳でない、見たくなくても見えてしまう。
光届かぬ闇の中でもその姿はその『死』が見えてしまう。
視線を逸らしても変わらない。見えるものは見えるのだらか。
「式さん……ここ怨霊の住処ですよね?」
半信半疑でスーツ姿の少年は言ってきた。
「そうだ」
「そんなキッパリと!?」
「てか、お前よく解ったな。
ここが悪霊の溜まり場って」
「分かりたくありませんでしたよ……でも、雰囲気っていうかなんていうか……寒気もするし」
「あぁ、お前の肩に張り付いてるからだな」
「────嘘?」
「いや、マジだ」
「ウオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーッッッッッッッッッッッッッッ!!」
テンションの高い奴だ。
まぁ、実際の所は天城の肩に悪霊なんて張り付いてないけど。
────そもそも寄り付く気配はないな。
何かに怯える様に霊達は式達を見ている。
────俺達を警戒している……いや、怯えてる?
「し、式さん……本当に此処に居るんですか?」
「あぁ、この辺に居るのは確かだ」
直死の魔眼で覗えている『線』
それを辿ってここまで来たけど……居るのは悪霊と怨霊、それに気配のない殺気のみ。
人間ではない…だが、俺達を見て怯えてる霊のものでも無かった。
なら、多分アイツらだろ。

「居るんだろ、『抑止力』」

突如、足音が響いた。
ここに居る者の足音ではない。
暗闇で遮られた視界、近付いてくる足音……天城は身構える。
この足運びは暗殺者特有のそれだった。わざと足音を立てて俺たちに警告しているのだろう。
ここから立ち去れ、さもなくば消す。
「天城、俺から離れてろ」
「……」
少年は無言で後ろに下がる。
あぁ、恐怖で声が出ないのか。
必死に隠そうとしてるけどバレバレだ。
そんな震えなくても……いや、普通の人間ならそれが普通の反応だろう。
「離れすぎず、近付ぎすぎず。
要するに離れすぎるな」
離れすぎたら霊たちに喰い殺される。
小刀を取り出し構える。
【直死の魔眼】
対象の死期を視覚情報として捉える魔眼で周囲を見渡し、眼に映った物体の死期を読み取る。
────死の線で溢れた世界。
この世界は死でありふれている。
殺すなんて簡単だ。刃物で線をなぞればそれで死ぬんだから。
それは霊も例外ではない。生きている、活きているものならどんなものでも殺せる、殺せるのがこの魔眼だ。
要するに存在するのなら殺せるのだ。
どんなものでもどんな死でも……。
「────────」
初めて感じる────殺気だ。
背後からナイフを突き付けられている……いや、貫かれていると錯覚。両義 式は自身の短刀を軽く振り、自身の状態を確認する。
問題ない。
体調は普段通り……なのに少し寒気を感じている。
「あぁ────イライラする」
直死の魔眼で『死』を世界を直視する。
視えない殺気を察知……。
────────────感じる……けどこれは。
この感覚は知っている、これは殺気だ。
殺気……俺を殺そうとしている────だが、これはなんだ?
感じているのに察知できているのに……。
線の先……それは点だった。
複数の点、黒く歪なそれ死の主点とは理解できる。だか、こんな【死】は初めて視る。

「君が、この世界の抑止力かい?」

月明かりに照らされ、両儀 式の強敵は現れた。
それは青年で服装は天城の着ているスーツと似ているスーツ。
殺気の発症源だと認識するのに0.2秒。そこから地面を蹴り、一気に距離を詰めるのに約一秒。
そして刃を首筋に立てるまで1.5秒、これほどスムーズに動けるなんて思いもしなかった。
「おっと、こんなに早く動けるなんて」
「黙れ、お前はなんだ」
その男に焦りは感じられない。
刃を首元のギリギリまで近付け、恐怖感を煽らせようと思ったけど効果はないようだ。
……それにしてもなんて無表情な男だろう。
刃を突き付けられてあと数cm動かせば殺される状況なのに男は恐怖すら感じていない。
「なんだ、ね。
では逆に問おう」
「質問しているのは俺だ」
「いや、君に質問してるんじゃない」
男は腕を動かし指を指した。
「彼に聞いているんだ。
君は少し離れてくれないか?」
その向けられた指の先には。
「お、俺?」
天城だった。
一応、魔術師の端くれだけあって天城はこの光景をただ傍観していた。
霊の類で恐怖していたのにこの状況は恐怖の対象ではないらしい。
いや、今はそんな事どうでもいい。
「巫山戯てるのか?」
更に刃を近付け、ナイフの切っ先を首に突き立てる。
スゥーっと流れる赤色の液体。首元をほんの少し突き立てだだけだ、死ぬ事はない。
これは警告だ。
巫山戯た事を吐かす、馬鹿にチャンスを与えたのだ。

「さあ、改めて質問するよ」


「───君は、誰だい?」













 
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