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Fate/GrandOrder///OutBre;ak

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別の世界

 
前書き
これはあったかも知れない可能性。
世界を救った後の後日譚。
世界は救われた。一人の少女の死によって。 

 

 「知ってて、見殺しにしたのか?」
 
 「知ってて、助けなかったのか?」
 
 「知ってて、お前は────」
 
 コイツは許せない。
 許してはならない。
 何故だ、何故なんだ。
 なんでコイツは生きているんだ。
 なんでお前は生きているんだ?
 なんで、なんで、なんで。
 アイツは、お前を助けようとした。なのにお前はなんでアイツを助けなかった。アイツはお前を救おうとしたんだ。それなのになんで俺は生きている。何故、アイツはお前を救おうとした。
 俺には、解らない。
 それでも、お前なら解るはずだ。
 お前はアイツに救われた。何度も、何度も救われた。その恩を仇で返すなんてお前は最低だ。
 お前は解っているはずだ。
 目を逸らすな。お前は最後までアイツに懺悔する義務がある。
 だがら、簡単には死なせない。
 例え、お前が自ら命を断とうとも俺はお前を救う。逃げられると思うなよ。もう、お前は逃げられない。
 恨むならアイツを救おうとしなかった自分を恨め。そして、そうされた「己」を憎め。
 
 対の二刀を構え、彼は告げる。
 
 さぁ、始めるぞ。これからが本番だ。
 
 
 
 
 
 
 カルデアの朝は早い。
 とあるアーチャーは朝4時に起床、カルデア全職員とサーヴァント全員分の朝食を準備している。
 その量はとてつもなく、とても一人でこなせる量ではない。だが、流石「英霊」と言うべきか彼は一人でその全てをやり遂げてしまう。
 和食から洋食。
 オリジナル料理までなんでもござれ。
 バリエーション豊富な彼を料理を一度は食べてみたいとわざわざ英霊の座からカルデアにわざと召喚される英霊も少なくないとか……。
 
 「いや、そんな英霊はいないよ」
 
 あれ、そうなの?
 
 「私の料理程度で、英霊の座からやってくるほど英霊も暇じゃないさ」
 
 そうかな。私«俺»が英霊なら召喚されに行くよ。
 
 「ははっ。それは光栄だ」
 
 なんて鍋を振るいながら彼は言った。
 彼の名前はエミヤ。アーチャーのサーヴァントだ。
 このカルデア食堂の責任者で、戦闘以外でも炊事洗濯裁縫お掃除、何をしても何をさせても完璧に熟す自称「皮肉屋」だ。
 
 「さて、今日の朝食の準備も終わりだ」
 
 お疲れ様。これだけの量を一人で毎日するなんてエミヤは凄いね。
 
 「凄くはないよ。私は私の出来る事をやっているだけさ。私は戦闘では余り役に立たない。なら、別の事で貢献しないとね」
 
 いやいや、エミヤは戦闘でも役に立ってるよ!
 
 「そう言ってくれると助かるよ」
 
 むぅ……エミヤは凄いのに。
 
 「ん? 何故、君が落ち込んでいるんだい?」
 
 なんでもないよ。はぁ、エミヤは凄いのに……。
 
 エミヤは凄いサーヴァントだ。
 ほんとは俺«私»なんか契約に値しない二流マスターなのに彼は私«俺»を選んでくれた。
 そして、私をここまで導いてくれた。
 挫折しそうになった俺«私»を立ち直らせてくれた。
 戦ってる最中でも、カルデアでも、彼の存在があったから私はここまでやって来れた。
 
 ────エミヤは、なんでそんなに自分を……。
 
 «私»俺には解らなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 音も無く、影も無く。
 
 一人の少女はやってくる。
 
 流石、アサシンのサーヴァントと言うべきかその存在を気付くものは誰も居ない。
 それが、歴戦練磨の英霊でもそれは例外ではない。
 闇に紛れ、世界と同化する少女。
 少女の名前はジャックザリッパー。
 常識とは掛け離れた常識を持つ少女である。
 マスターまでの距離────約5m。
 俺«私»は何かの気配に気付いた。
 後ろから見られている?
 だが、後ろを振り返ってもそこには誰も居ない。
 気のせい……か。視線を前に戻すと。
 後ろから何かに抱き着かれた。
 
 「!?」
 
 「おかーさん!
 こんな所で何をしてるの?」
 
 気配遮断スキルA+。
 気配を断てば、その存在に気付くのは不可能に近い。いや、A+ランクともなると人間……いや、サーヴァントですら気付けないだろう。
 そんな一流のアサシン ジャックザリッパーが。
 
 「?」
 
 こんな幼い幼女だなんて、誰も信じないよな……。
 私«俺»自身未だにこの娘がサーヴァントだなんて信じ切れていない。
 だってこんな幼げな女の子が英霊な訳ないじゃないか。こんな小さくて可愛い女の子がジャックザリッパーな訳が無い。
 
 「あぁ、ちょっとね。
 ジャックこそ、ここで何をやってるの?」
 
 「うんとね。退屈だったから隠れ鬼してるの!」
 
 隠れ鬼とは。
 隠れんぼと鬼ごっこを融合させた子供の遊びである。
 俺«私»も小さい頃はよくやっていた。
 
 「へぇ。誰と隠れ鬼してるの?」
 
 「えっと……がんくつおう!」
 
 「え?」
 
 「あと、ヘラクレス!」
 
 「はい!?」
 
 私«俺»は困惑した。
 あの二人が……隠れ鬼をするとは思えない。
 まず、あの二人が隠れ鬼をしている所を想像できない。いや、してはならないような。
 
 「でも、なかなか見つからないんだ」
 
 「あの……ジャック?
 その、本当にエドモンとヘラクレスが隠れ鬼を一緒にしてるの?」
 
 「うん!ちなみに私が鬼だよ!」
 
 えっへん、とドヤ顔するジャック。
 これは気になる。経緯が気になる。
 
 「ねぇ、ジャック。
 その隠れ鬼。俺«私»も参加していいかな?」
 
 「いいよ!
 じゃあ、おかーさんも早く逃げてね」
 
 「いやいや。私«俺»が今から逃げた所で絶対見つかって鬼になるのがオチだからさ。俺«私»も鬼になってもいい?」
 
 「いいけど。
 鬼って二人でもいいの?」
 
 「私«俺»を入れて四人だし、問題ないよ」
 
 「そっか!なら一緒に鬼しよ!」
 
 「うんうん、一緒に鬼しようね」
 
 そして、奇妙な奇妙な隠れ鬼が始まった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 俺«私»とジャックは手を繋ぎ、カルデア内部探索を始めた。
 「ルンルン♪」
 上機嫌なジャック。
 こうして見るとジャックは無邪気な子供そのものでとても愛らしい。
 そんな姿を見ると俺«私»も自然と笑顔になってしまう。
 
 
 だが、どうしても一部の点を除いて少女は少女らしくない。
 
 最近になってやっと見慣れてきたけど冷静になってそれを見れば少女の服装が異常だと気付く。昔の私«俺»なら一目でそれを異常だと気付けた……だろうけど今の俺«私»はその異常に気付けなくなってきた。
 以前の俺«私»なら、その自分の変化に喜んでいただろう。
 だが、今の私«俺»はこの変化に恐怖を感じていた。
 
 「ん? どうしたのおかあさん?」
 
 そう、これは俺«私»にとっての日常。
 今の、ここでの生活は充実している。
 だけど、これは────。
 
 「ごめん。ちょっと考え事してた」
 
 「ふぅーん。
 あ、おかあさん!あそこに誰か居るよ!」
 
 そう言って俺«私»の手を振り解き、ジャックは走っていった。
 その姿は幼き少女そのもので、暗殺者とは程遠い。故に、私«俺»はその異常に気付いてしまった。
 
 これまでの聖杯探索【GrandOrder】で培ったスキルと言うべきか。
 これを何と言うのか。言葉にしようならこれを何と呼ぶのか。それに当てはまる該当する言葉はなんなのか?
 あぁ、多分。以前の私«俺»なら。
 このカルデアにやってくる前の俺«私»なら、この心に渦巻くものの正体を知っていただろう。
 そして、それを言葉にし。
 発する事も出来ただろう。
 
 「ジャック。
 廊下は走らない!」
 
 「はーい」
 
 そう言って早足になるジャック。
 この娘は従順な女の子だ。
 だから、白にもなれるし黒にもなる。
 私«俺»は心の底からこの女の子を。
 ジャックザリッパーを恐怖している。
 従順過ぎる故に、無知ゆえに。
 子供故に、無邪気故に。
 
 彼女は暗殺者だから。
 
 今でも、俺«私»は恐怖している。
 ジャックザリッパーという存在に。
 ジャックザリッパーという女の子に。
 
 「おかあさん!
 早く早く!」
 
 「はいはい、」
 
 こうやって表面上は普通に接せられる。
 明るく、ジャックの母親として私«俺»は接している。
 何処か、常識からズレた視点で物事を観ているジャックは俺«私»の演技に気付いているのだろうか?
 あの無邪気な笑顔も、私«俺»の演技を見て笑っているのか……。
 
 
 
 
 ん、おや。君から私に話し掛けてくるなんて珍しいねぇ。
 何か、私に用かな?
 
 ────────。
 
 あぁ……その事か。
 君の言う通り、現在進行形でそれの真っ最中だよ。
 
 ────。
 
 どうするも何も。
 私達には見守ることしかできない。
 それは君自身がよく知っているだろう?
 
 ………………。
 
 君の気持ちも分かる。
 けど、これは彼「女」の問題だ。私達が関わるべきじゃない。
 
 ……────。
 
 それにしても……もう、一ヶ月も経つのか。
 
 ────……。
 
 時の流れは残酷だ。
 でも、時にそれは救いにもなる。
 時間の経過で改善される事もある。私達はそれに頼るしかない。
 
 …………────。
 
 君だって、そうだったんじゃないのかな?
 
 ────……────。
 
 いや、君の場合は少し違うか。
 君は諦めようとはしなかった。
 諦めず、ただひたすらに前を見ていた。でも、彼「女」は君のように前だけを見つめて先には進めない。
 自分の進む道は本当に正しいのか……疑心暗鬼になる。
 今が、その時なのさ。
 
 ……────……。
 
 それでも、救いたいと……。
 君は傲慢だね。
 いや、強欲だよ。
 
 ────…………。
 
 はいはい。
 解ってるよ。
 でも、私は反対だ。
 
 ────────……。
 
 でも、共感はしている。
 このままでは駄目だって事は解ってるつもりだからさ。
 
 ……────……────。
 
 一ヶ月前。
 一人の魔術師と一人の少女によって世界は救われた。
 
 ────救われた?
 
 そう、救われた。
 
 あれは未来を取り戻す物語だった。
 確かに、世界は全人類は救われた。
 だが、それは一人の少女を犠牲にした結果だよ。
 
 ────ふざけるな。
 
 ふざけてなんかないよ。
 彼女の犠牲なくして世界の救済は成しえなかった。彼女の犠牲は尊き犠牲だったと思えば小さき問題だろう?
 
 ────お前は……。
 
 私だって、彼女の死は悲しい。
 だが、彼女は自分の命を犠牲に世界を救おうとした。それは真実だ。
 
 ────……。
 
 君はどちらを選ぶ?
 
 ────。
 
 世界か、それとも一人の少女か?
 
 少年は悩むことなく、言葉を返した。
 
 ははっ。そうか、君はそっちを選ぶんだね。まぁ、君ならそっちを選ぶとは思ってたけど。まさか、本当に選ぶとは……これはこれは。
 
 笑う。微笑む。 歓笑する。
 
 いいだろう。
 君にはやり直す権利をあげよう。
 
 人類悪 ゲーティアを倒した御褒美さ。
 
 それに……今の君はとても「つまらない」
 これは私からのご褒美だ。増分に堪能してくれ、×××君。
 
 
 
 
 
 「ん。あぁ、マスター……それとジャック。こんな所で何をしているんだい?」
 
 花の魔術師 マーリン。
 グランドキャスターの素質を持つ英霊で本来から召喚されることは有り得ない……のだが、何の因果かこのカルデアの召喚システムで召喚された変わり者のサーヴァントだ。
 
 「マーリンこそ。こんな所で何をしてるの?」
 
 「散歩だよ。最近運動不足だからね、少しは運動をしないと」
 
 年寄りみたいな事を言うマーリン。
 するとジャックは。
 
 「ねぇねぇ、マーリン。
 がんくつおうとヘラクレスを見なかった?」
 
 「巌窟王? あぁ、エドモンの青年とヘラクレスならさっき見掛けたよ」
 
 「ホント!?」
 
 「うん。数分前、ここの通りですれ違ったよ。あの二人が一緒に歩いてるなんて珍しいこともあるもんだね」
 
 「それで、二人はどっちに?」
 
 「うーん。断定は出来ないけどあっちの方角に向かってたから……多分、星の開拓者の所じゃないかな」
 
 ────星の開拓者?
 
 「あぁ、ダ・ヴィンチの事だよ。
 彼女……いや、正確には彼か。
 まぁ、彼の工房の方向さ」
 
 「マーリン、ありがとう!
 お母さん!行こ行こ!」
 
 「廊下は走ちゃダメだよー」
 
 「はーい」
 
 そう言って早歩きで歩く、幼げな少女。こう見れば、可愛らしい女の子にしか見えないのに。
 
 「マスター。少し、いいかな?」
 
 マーリンは笑顔で話し掛けてきた。
 
 「?」
 
 「いや、大した事では無いんだ。最近の様子はどうかなと思ってね」
 
 「どうって、特になんともないけど?」
 
 「そうか、それならいいんだ。
 うんうん。やっぱり、健康が一番だね♪」
 
 そう言い残し、マーリンは去っていった。
 ────?
 さっきの、なんだったんだろう?
 
 
 
 おやおや、あの様子だと彼「女」の心は閉じたままだね。
 仕方ないと言えば仕方ないけど……こればっかりは彼自身の問題だからね。
 僕達は、彼を見守ることしか出来ない。
 いや、見守ることしか出来ないんだ。
 僕等は彼と共に歩み、彼「女」と共に戦った。そして、僕達は勝利した。その勝利は人類史の継続を意味する。
 でも、悲しいよね。この勝利は君達以外の人間は知らない。人類史から外れた理を彼等は知らないんだ。あの戦いで得たものも失ったものも彼等は知らない。でも、僕達は知っている。
 あの戦いで得たものを。
 あの戦いで失ったものを。
 君は、それを知っていてマスターに問うのかい?
 ────────。
 ははっ。君ならそう言うと思ってたよ。
 でも、君の選択は修羅の道だ。それを解っていて君は進むのかい?
 ────。
 そうか……そうだね。君はの言っていることは正しい。僕は否定しない、その選択も答えなのだから。
 でも、それでも。それを選ぶということは────。
 ……────。
 揺るがないね。なんて固い信念なんだ。君の不屈な精神はどうやって身についたんだい?
 ────。
 鋼の精神。いや、心は硝子で出来(構成され)ている。
 ────!?
 ははっ。君もそんな顔をするんだね♪
 
 おっ。なになに、お二人さん?
 そんな所で内緒話ー?
 
 ────!?
 
 
 
 
 この世の全ての悪。
 アンリマユはとある少年の躰を投影し、この世に現界した。
 自称、最弱のサーヴァント。
 アンリマユは自身の弱さを否定しない。己の弱さを肯定し、己の最弱を誰よりも知っている。
 自分より弱いサーヴァントはいない。でも、サーヴァントである限り、人間には負けない。という謎の定義を持っており、魔術師だろうと聖人だろうと人間には負けないぜ?とアンリマユは強気に言うけど。
 でも、サーヴァントは無理。だって、俺は最弱のサーヴァントだぜ?
 ワーストワン!万歳!
 サーヴァントの戦闘に対しては物凄く弱気だ。
 
 「で、お二人さんはそんな所で何してんの?
 あ、もしかしてエロい話とか?
 なら、俺も混ぜてくれよ!」
 
 「い、いや。別にそんなんじゃっ」
 
 「そうだよ♪」
 
 「なっ!?」
 
 「いやー。最近入ってきたアルトリア(ランサー)見てるだけで目の保養になる、そう思わなかい?」
 
 「思う思う!
 あのむっちりした肉付きなんて堪んないね!」
 
 「おや、君もなかなか分かってるじゃないか」
 
 「君達……いや、何も言うまい」
 
 そう言って、×××は立ち上がり。
 なんとも言えない表情でその場を後にした。
 
 「ありゃ、オカンのアーチャー行っちゃった」
 
 「僕達の会話に呆れちゃったんだね」
 
 「そんなに呆れる会話の内容だったかね?」
 
 「まぁまぁ、彼はお堅いから。こういう会話は苦手なのさ」
 
 「そりゃあ、残念だー」
 
 二人の気分屋はニヤニヤと笑う。
 何処と無く、同じ雰囲気を持つ彼等は心の奥底で、何かを感じていた。それを言葉にするとなん読むのか書くのかは解らない。ただ、何かを感じていた。
 これから起こることなのか。
 それとも、既に起きた出来事なのか。
 曖昧な、この何かは胸の奥でひしひしと音を立ててその存在を知らしめている。その存在を彼等は知らない。なのに、この何かは胸の奥で確かにざわめいている。
 彼等は確信した。
 何か、何かが、始まろうとしている。
 
 「なぁー。マーリンのダンナ」
 
 「ん、何かな?」
 
 「ダンナって、千里眼の持ち主だったよな」
 
 千里眼。
 グランドキャスターの素質を持つ者の必須条件とされる特殊な能力だ。マーリンは現在の全てを見通すという能力を持っている。
 
 「あぁ、そうだけど。それが、どうしかたのかな?」
 
 「いや、なに。ちょっと今、変なこと起きてないかなぁって思ってさ。
 俺。前回の戦いじゃぁ、あんまり役に立たなかったじゃん?
 そろそろ名誉挽回でもしようと思って」
 
 「あんまり役に立たなかったって……君ねぇ。あれだけ活躍しておいて、」
 
 「いやぁー。道中は俺と違って強くて逞しい方々が奮闘してくれた訳じゃん。俺って、特殊な能力持ちだけど魔人柱相手にはあんまり効果無かったから後ろで芋ってたし」
 
 「まぁ、それはそうだが。
 君は、あの災厄«ビースト»にトドメを刺した英雄じゃないか。そんなに自分を過小評価するのはどうかと思うけど?」
 
 「うーん……まぁ、トドメを刺したのは俺だけどさ。そのトドメまで行けたのはアイツらのお陰じゃん。俺の礼装は、あのビーストを倒すためだけ存在していたようなもんだしさ」
 
 アンリマユの所持する概念礼装『最後の欠片』はビーストのみに効果を発揮する特殊礼装で、ビーストのクラスに対して有利になるという変わったものだ。普通に使っても持っていても何の効果の意味も成さない礼装だが、先の戦いでは真の効果を発揮した。
 自称、最弱の英霊。
 もとい。最弱の英霊が、災厄の獣に終止符を打った。
 
 
 この世界は、一つの可能性。
 無数に存在する可能性、分岐ルートの一つだ。
 途中までの過程は同じ、なのに途中からの過程は全くの別物。
 そんな一つのルートでは、本来通る道を通ったにも関わらず、起こり得ない可能性を引き起こし、人類悪 ビーストを顕現させた。
 とある誰かの話だと、行き方は違えど目的地には到着するという謎の理論を言っていた。
 行きたい目的地まで、どうやって行こう?
 車?
 飛行機?
 電車?
 バス?
 自転車?
 徒歩?
 行き方は様々だ。だが、どれをとってもゴールに着ける。
 時間の掛かり方は違う。でも、目的地のゴールまでは着けるんだ。
 このルートは、安全なルートを選択し、確実に人類史を継続させようとした。
 そのお陰なのか、世界は救われた。
 なのに……どうして、こうなった。
 世界を、人類史を継続する為に戦った。
 全てを人類を救おうと戦った。
 傷を負っても、心が擦り切れても、諦めなかった。俺«私»が諦めたら誰が、世界を救うんだ。諦めちゃ駄目だ。私«俺»は世界を救うんだ。大丈夫、躰の傷は癒せる。心の傷は癒せる。
 大丈夫。
 大丈夫。
 大丈夫。
 そう言い聞かし進んだ。
 仲間の死を受け入れ進んだ。
 死んでいく仲間達の屍を積み重ね進んだ。
 諦めるな。
 この死は無駄じゃない。
 無駄なんかじゃない。
 でも、俺«私»は薄々、気付いていた。
 仲間の死は私«俺»と釣り合わない。
 彼等は英雄だ。人類史に影響を与えた人類の宝だ。
 そんな彼らを無駄死にさせたのは誰なんだ?
 誰でもない、俺«私»自身だ!
 諦めたくなかった。死にたくなかった。世界を救いたかった!
 そんな、私«俺»の勝手な自己中心的な安易な考えが殺したんだ。
 
 
 
 それでも、諦めなかった。
 諦めたくなかった。
 この道は仲間の血で濡れている。
 ここで足を止めれば、流れた血は無意味になる。止まっちゃ駄目だ。
 
 解ってる。
 ホントは解ってるんだ。
 俺は世界を救いたい。これは本心だ。
 でも、もう、これ以上は進みたくない。
 この先は地獄だ。これからも、これまでも地獄だった。地獄を歩み続けた。
 だから。
 止まれない。
 だって、止まったら……俺は、もう進めない。立ち止まったら押しつぶされそうになる。歩み続けて、恐怖を誤魔化してここまで来たんだ。仲間の死は人類史の継続の為に。
 そうやって、ここまで来れた。
 仲間達の力と死のお陰で。
 
 そして、俺«私»は守れなかった。
 たった一人の女の子の死で、私は────俺は。
 
 死んだ。
 
 
 
 
 
 
 
  
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  
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