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Fate/GrandOrder///OutBre;ak

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終わりと始まりの境界で

 始まりは終わりの続き、終わりは始まりの続き。
 知ってる……始まってしまったら終わるんだ。
 終わる、全て終わる。どんな物でさえも終わりを迎える。
 例え、無限の生命力を誇る化物でも。例え、永遠に結ばれた絆さえも。
 終わってしまうなら最初から無ければ―――こんな気持ちに成らずに済んだのに。

【第五次聖杯戦争】

 この戦争の始まりは不自然だった。
 本来なら言峰 綺礼はランサーのマスターを殺し。
 令呪を奪う事で聖杯戦争に参加していた。そう、本来なら。
 だが、現状ではランサーのマスターは殺されず。ランサーを使役し続けている。
 魔力を提供し契約は続行し続けているのだ。
 これは本来なら有り得ぬ事だ。それは有ってはならぬ事だ。
 言峰 綺礼は神父だ。
 前回の聖杯戦争に参加し『生』き延びたマスターの一人。
 彼はこの聖杯戦争では召喚される事はないサーヴァントを使役している。
【ルーラー】マスター要らずのサーヴァント。
 特殊系統の英霊で召喚させる事はまず、不可能なクラス。
 それを言峰 綺礼は引き当てた。いや、呼び覚ました。
 このイレギュラーは聖杯戦争《殺し合い》を加速させる。
 ルーラーは本来、有ってはならないクラス。それは言峰自身も理解している。だが、神父は彼を利用した。
 ルーラーも神父を利用している。相違の意見は食い違っている様で結び合っている。
 互を利用しあい聖杯戦争を勝ち抜き聖杯を勝ち取る。
 それは利害の一致とも言えよう。表裏一体の彼等の願望は同時に叶える事は不可能だ。結局、片方の望みは無意味に終わる。
 だが、もう片方の望み【希望】は叶えられる。
 救済と破壊は表裏一体。
 結局、どちらの望みも変わらない。形、有るものは何れ壊れる。
 形、無きものは何れ喪われる。
 汝、聖杯を欲し。最強を望むなら―――。
 最強を持って、最強を証明せよ。





 結局、あれから連絡は途絶えた。
 する事も無ければやる事もない俺は蒼崎 橙子の職場で厄介になっていた。
 働かざるもの食うべからずってね。仕事のアシスタント的な事をして時間を消費している。
 うん、雑用なんだけどなかなか楽しいね。
「天城、冷蔵庫からアイスを取ってくれ」
「はいよ……って式さん。一日にアイスを何個、食えば満たされるの?」
「さぁな。一日も食べない日も有るだろ」
「そうなんですかね……毎日、食べてるから分かんないですけど」
 両義 式はアイス……ハーゲンダッツのストロベリー好きだ。
 どれ位、好きかと言うと。毎日3個以上は確実に食べますね。まぁ、自分で稼いだ金で買ってくるから文句は言わないけど―――せめて自分で取って下さい。
「あ、橙子さん。珈琲、淹れましょうか?」
「あぁ、頼むよ」
 整頓された机の上で書類を確認しながら蒼崎は言った。
 俺の仕事は雑用だ。する事は、出来る事はそれ位しかない役立たずだけど住まわせてもらってるからこれ位の事はしないと。
「式さんも珈琲、要ります?」
「砂糖をたっぷりで頼む」
「ミルクは?」
「有るなら頼む、それと銀のスプーンで」
 ここで雑用をし始めて気付いた事。式は鉄製の銀スプーンを気に入ってる様だ。
 普段、アイスを食べる時は買ったら付いてくる付属のプラスチックのスプーンで食べるけど無ければ銀のスプーンを使う癖を持っている。
 他にも何個か種類はあるけど式はこれしか使わない。
 特別な理由があるかもしれないけど余り、興味はわかなかった。
「珈琲、入りましたよ」
「あぁ、ありがとう」
「式さんも、どうぞ」
「サンキュー」
 せっせと作業を続きながら俺は珈琲の入ったカップを渡していく。
「うん、美味しい」
 相変わらず、砂糖を入れず蒼崎は飲んでいる。
 式は意外と甘党なのか。
「天城、砂糖とミルクを頼む」
 最初からある程度、入れておいたんだけどな。
「式さん、甘党ですね」
「そうか? 普通だと思うけど」
 俺は砂糖瓶とミルクを手渡すと。
 砂糖とミルクをたっぷりと入れ始める。
 その量は相当なもので―――えッ!?ちょッ……それは入れ過ぎでは。
「もぉ、最初からミルクと砂糖だけで良かったかも」
「?」
「いや、なんでもありません」
 今度はホットミルクと砂糖だけ出してみよう。
 案外、喜んでくれるかも。
「天城、おかわりを頼む」
「はい、分かりました」
 空になったカップを受け取り、珈琲メーカーにセットする。
「うむ、君は相変わらず機械で珈琲を淹れるね」
「え、不味かったですか?」
「いや、そうじゃない。不思議な事なんだけど美味しいんだよね」
「美味しい……?」
 それは珈琲メーカーの淹れ方が良いのでは?
「私もその機械を使って珈琲を淹れる事がある。
 でも、それでもこれ程、美味いと思ったのは初めてでね」
 珈琲メーカーを撫でながら蒼崎は言葉を零す。
「それは……その」
「君はこう思った事はないかい。
 自分で珈琲を淹れるのと他人の淹れた珈琲の味が違うと」
「あります、しょっちゅう」
 ―――特に間宮さんの淹れた珈琲の味は衝撃的だったよ。
 俺と同じ機械を使ってるのに、なんであんなに差が出来るのか?
「そこだよ。私の淹れた珈琲と君の淹れた珈琲の味は違う」
「……それは機械を使っても」
「そう、自分の手で淹れたとしても知人が淹れても他人が淹れても珈琲の味は違う。何故、違うと言われても返答に困るだろう」
 確かに、何と返せばいいのか解らない。
「答えは人それぞれ。千里の道は一歩からってね」
 結局、結論は曖昧だった。
 よく解らない。俺は蒼崎の撫でていた珈琲メーカーを撫でながら。
「まぁ、美味しんならいいのかな」


 聖杯戦争は加速する、何れ終わりを迎える聖杯は激化し。
 序章の戦闘とは思えない程、白熱していた。
 聖杯戦争で最強のクラスとされるセイバーは振り下ろされるバーサーカーの一撃を聖剣で受け止め、受け流す。
 流石、バーサーカー。
 狂化で強化された一撃は凄まじい。力の差は歴然、バーサーカーの一撃を受け止め切るのは不可能だ。
 よってセイバーはその一撃を受け流す事により致命傷を避けている。
 バーサーカーの動きは機敏。狂化で理性を失っているとは思えない程、動き回る。暴れ回っている訳ではなく熟練の戦士の構えで英雄の力量でバーサーカーは動くのだ。
 厄介、極まりない。理性を失われず、ステータスを強化されたサーヴァントと錯覚する程に。
 ―――俺は、どうすればいい。
 セイバーのマスター 衛宮 士郎は困惑する。
 舐めていた……いや、誤解していた。殺し合いってのは理解していた。一度、ランサーの槍で殺されてるし経験はしているつもりだった。
 だが、それは改めなければならない。
 甘くない、それは理解していた。
 これは殺し合い。そう、殺し合いなのだ。
 自身の望みを叶える為の殺し合い。皆、必死なんだ。
 セイバーは聖剣を地面に突き刺し縦に一気に振り抜く。
 するとその衝撃で剥がれたコンクリートは空中に散乱し、バーサーカーの視界を封じた。
 ものの数秒、されど数秒だ。その数秒で動きを止めたバーサーカーに一撃、入れようとセイバーは見えない聖剣を突き出した。
 だが、バーサーカーはその一撃を安安と回避する。
 あの巨体であれだけ精密な動きをくるなんて……。
 本来なら暴れ回るしか脳のないクラスのサーヴァントは知的な動きでセイバーを翻弄する。
 見えない聖剣の長さを理解し。この距離なら避けられると判断しセイバーの聖剣を回避している。
 そして厄介なのは。
「セイバー! 避けろ!」
 複雑な形状をした矢だ。
 それは弾丸以上の速度でバーサーカーに迫り、命中した。
 その威力は凄まじく。まるでドラマやアニメである爆発を起こしている。
 アーチャーの矢だ。
 一応、援護射撃のつもりらしい。
 それにしても高威力だ。俺が声を掛けなくてセイバーなら避けてたと思うけど反射的に言ってしまった。
 まぁ、それでダメージを与えてるなら文句は言わない。
 それで倒せるなら文句なんて言わない言えない。
「厄介ね、あれも宝具の能力なのかしら」
 アーチャーのマスター 遠坂 凛は苦虫を噛むような表情で呟いた。
「宝石も残り残数が少ないし……ここは貴方達に任せるしかなさそうね」
「任せるって言われて。この状況じゃ……」
「アーチャーはその名の通り、遠距離を得意とするサーヴァントだし。ここは衛宮君のセイバーが動きを封じてアーチャーの矢で決定打を与えられれば……」
「無茶、言うな! セイバーに囮になれって言うのか!?」
「さっきからそうでしょ」
 確かに、そうだ。
 でも、アーチャーの矢では決定打をダメージを与えられない。
「心配しないで。あの馬鹿、秘策があるらしいから」
「秘策って……」
 俺は無力だ。
 何も出来ない。この状況を変えることも一変する事も。
「セイバー……」
 セイバーは真剣な表情でバーサーカーの一撃を避けながら攻撃を続行する。
 何度か、擦り傷を与えている。
 多少なりともセイバーの攻撃は身を積もらしている。
 だが、それは無意味に終わる。
 あのバーサーカーは傷を癒せるのだ。
 あれ程の戦闘力を持ちつつ再生能力を持った英霊は歴代聖杯戦争のサーヴァントでも指折りに入るだろう。
 強固な守備に鉄壁の防御力。それに加えて再生能力だ。
 怒涛の攻撃力は鉄壁の防御力と繋がり、攻撃に転じれば怒涛の攻撃と連撃でセイバーの攻撃を封じ。
 防御に転じれば再生能力と防御で凌ぎ切る。
 なら、マスターを倒せば―――。
 サーヴァントは魔術師【マスター】と契約する事で現界している。魔力源を断ち切ればサーヴァントは魔力供給源を失い……バーサーカーは消えるはずだ。
 バーサーカーのマスターはバーサーカーの後方で俺達の行動を観察している。時に賞賛し、時に落胆する様な素振りをみせ、遊んでいるのだ。
 しかも、そのマスターは女の子なのだ。
 余計にたちの悪い。魔力源を断つって事はマスターを殺す事と同義だ。
「どうすればいい……どうすればこの状況を乗り切れる」
 俺は、誰も不幸になってほしくない。
 救えるのなら救われぬ者を全て救いたい。
 俺が、救われた様に。守れるのなら全て守りたい!
 それは傲慢なのかもしれない。
 でも、例え、傲慢でも。俺は進むんだ。
「セイバー!」
 激戦の最中、セイバーはコチラに振り向く。
 そして一言。たった一言。
「―――勝て!セイバー!」
 大声で叫んだ。
 バーサーカーのマスターは俺の大声で驚き。
 アーチャーのマスター 遠坂 凛は間抜けた表情で俺を見ている。
 半ばか呆れた表情でセイバーは俺を見て。
 薄らと笑顔で戦闘に戻った。
「アンタねぇ……まぁ、士郎らしいけど」
 遠坂は少し笑っていた。
「さて、アーチャー。準備は出来た?」
「あぁ、問題ない」
 霊体化していたアーチャーは姿を現した。
 真っ赤な聖骸布を身に纏った男は弓を構え。
「凛、魔力供給を頼む。些か、この矢は魔力を消費するのでね」
「解った。でも、外さないでね」
「解っているさ」
 アーチャーは演唱する。
 呪文演唱って奴だ。何を言っているのかは解らない。
 でも、大掛かりな魔術には欠かせない儀式の様な物だと。
 昔、親父が言っていた。
「今ならセイバー諸共、倒せるが?」
「それは無し」
「了解した」
 短いやり取りを終え。アーチャーは弓矢から矢に魔力を送り込む。
 膨大な魔力だ。感じなくても目ではっきりと見える程の。
「避けろよ、セイバー。
 まともに喰らえばセイバーお得意の対魔力でさえも貫通するぞ」
 その言葉を言い終えた瞬間にアーチャーは矢を放った。
 音速を超えて放たれた矢は大地を空を削り、バーサーカーに向かって直進する。
 セイバーは矢をぎりぎりで躱す。
 矢の意識を逸らす為にぎりぎりまで囮になったのだ。
 そして大魔力を帯びた矢はバーサーカーに直撃した。
 その威力は凄まじく。余波ですらセイバーを吹き飛ばした。
「お前ッ!?」
 アーチャーに戸惑いは無かった。
 直後、今まで味わった事のない爆風に見舞われた。
 先程、放っていた矢とは比べ物にならない程の魔力量で放たれた矢は空間を削り取っていた。
 バーサーカーの姿は見えない。
 爆風の影響で発生したモヤで視界はボヤけ、先は見えない。
 これが……セイバーに当たっていたら。
 そう考えるだけで背筋に冷たい汗が浮き出た。
 ―――アイツ、セイバーを使って……。
「なんだ? 文句を言いたそうだな」
「当たり前だ!お前、セイバーを殺す気か!?」
「英霊、サーヴァントは元より死んでいる。
 聖杯を勝ち取るならセイバーを犠牲にする位の非情さは持っておけ」
「巫山戯るな!」
 俺はセイバーの元へ向かう。
 セイバーの事だ、無事に決まっている。
 そう信じ。そう思い込み、俺は走る。
「セイバー!」

「セイバー!セイバー!」

「返事をしてくれ!セイバーァァァァ!!」

 返事は返ってこない。
 代わりに衝撃波がやってきた。
 俺は踏ん張り、持ち堪える。
「なかなかやるじゃない。褒めてあげるは凛」
 それはバーサーカーのマスターの声だった。
「そりゃ、どうも……」
 遠坂は残り少ない宝石をポケットから取り出し構える。
 まだ、終わっていない。アーチャーは弓を構え直し、標的をバーサーカーのマスターに向ける。
「あらあらレディにそんな物騒な物を向けるなんて紳士失格ね、アーチャー」
「そうかもしれないな。
 だが、勝利の為なら私は喜んで君を射抜こう『イリヤ』」
 ―――イリヤ……?
「あら、私の名前を知っているの?」
「知っている……まぁ、そのニュアンスでも間違いではないね。知っていたとも言えるし知りえなかったとも言える」
 アーチャーは笑顔だった。
 悲しい笑顔だった。
「アーチャー……アインツベルンを知っているの?」
 凛の質問にアーチャーは。
「さぁね。根絶した記憶の中に残っているだけさ」
 そう言って弓を引いた。
 その矢は少女を通り過ぎ、砂煙で見えなくなった空間に突き刺さった。
 ―――壁……? 違う、アレは……!?
 それはバーサーカーだった。
 いや、バーサーカーだった物と言うべきか。
 あの強靭だった鋼の肉体は半壊し、地面に立ち尽くしている。あの一撃を喰らって立っていられたなんて……。
「勝負、有りね。アレはもう、死んでるわ」
 遠坂は笑みを浮かべ宝石をポケットの中にしまった。
 ―――なんだ、この違和感。
「えぇ、死んでるわね」
 イリヤは不敵な笑みで。
「やっちゃえ、バーサーカー」
 バーサーカーは立ち上がる。
 半壊していた肉体は徐々に再生し。そして完全に再生した。
「復活した!?」
 凛は驚きの声を上げる。
 アーチャーはやれやれといった表情で二本の剣を投影した。
 投影魔術……俺と同じ魔術だ。
 何故だろう。今、俺達は最悪の直面に瀕している。
 それなのに俺は恐怖を感じていない。
 今はアーチャーの投影した剣だけしか頭に入ってこなかった。
「凛、君は後方から援護を頼む」
「援護って……アンタ、アーチャーのくせに」
「どちらかといえば私は近距離戦の方が得意でね。
 君も知っているだろう?」
 そして凛はしぶしぶ納得したのか、後方に下がり始めた。
「―――衛宮 士郎」
 アーチャーは二刀を構え。
「凛を、頼むぞ」
 そしてアーチャーは完全復活したバーサーカーに突っ込んでいった。

 この時点で歪んでいる。
 その歪みは言峰綺礼から始まり、別次元の少年に連なる様にして連鎖するのだ。
 この世界のアーチャーは【エミヤ】だった。
 それは衛宮 士郎の成れの果て。未来の士郎だ。
 この世界には三人の『士郎』が同時に存在している。
 ある意味、同一人物の彼等は認識していない。
 違和感を感じても、それを深く考えてはいないのだ。
 いや、考えては行けないと心の何処かで恐怖しているのか。
 無垢で無力な高校生 衛宮 士郎。

 正義に絶望した衛宮 士郎。

 過去、それは戦国時代まで遡る。
 その士郎は人々の救世主だった。
 奇跡の神童と称され。正義に【人間】に変化を求め、与えた『士郎』
 三人の士郎は聖杯戦争で交わり、交差する。
 召喚される事は。いや、同じ時間軸に同一人物を三人、合わせる事はその時空を歪ませる«きっかけ»を与えてしまった。
 始まった聖杯戦争を止める事は出来ない。
 ―――止められないなら終わらせるしかない。
 終わらせないなら元凶を潰すまで。
 聖杯を欲する者、汝の望みは祈願は成就する。
 殺戮を欲する者、汝の望みは叶えられた。
 救えなかった者を救おうとする者、汝の望みは叶う事すらないだろう。
 死んだ者に救いの手は届かない。
 届かざる者の手、手を伸ばせ。
 汝、最強【聖杯】を欲するなら。
 ――――――最強を持って最強【聖杯】を証明せよ。
 汝、各々の欲望は渦巻き聖杯を満たすだろう。
 望みを持たぬ者に聖杯の加護はありえない。
 聖杯に選ばれた者は聖杯に望まれた者。
 欲望のままに蹂躙せよ。
 赴くままに満たせ。満たして満たして満たして殺せ。
 七柱、一つ崩れし時。聖杯は片鱗を覗かせ。
 更に一つ。更に一つと柱を失った聖杯は願望機として現界する。
 賽は投げられた。目は止まらない。
 もう、誰にも止められない。




 鋼の削れる音。
 ガン!ガン!!ガン!!!
 削れる、削られる。
 アーチャーの二刀は何度も、何度も、何度も、削れる。
 最終的に剣は折れ。アーチャーは新たな剣を投影する。
「トレース―――オン!」
 あと、何度。アーチャーは魔術を行使出来る?
 マスター 遠坂 凛の魔術回路から魔力を供給されているといっても無限ではい。限度はある、限られた魔力で何処まで戦えらのか……それはアーチャー自身、解らなかった。
 マスターの援護は途絶えた。
 魔力切れ。いや、宝石を使い果たしたのだろう。
 凛の魔力量は常人の魔術師を超えている。
 その理由に凛はアーチャーに魔力を送りながら見守っている。
 自然と笑みを零すアーチャー。
 ―――負けられない、負ける訳にはいかないな。
 アーチャーは余裕を見せる様な振る舞いで剣を振るう。
 余裕などない。勝機すら見えない。
 だが、劣勢な姿を見せたくなかった。
 もし、劣勢だと悟られたらマスター 凛は素手でもアーチャーに加勢するだろう。
 凛の隣の少年はアーチャーの剣を凝視する。
 そう、それでいい。
 ―――私の戦い方を学べ。投影を理解しろ。
 これはアーチャーから無力な少年へのプレゼントだ。
 戦闘知識を衛宮 士郎に叩き込む。
 多少、荒技でも。今の衛宮 士郎では不可能な投影でも。
 無理矢理、覚えさせる。脳裏に焼き付かせ―――これから歩む過去の自分を少しでも成長させる為に。
 大切な人を守られる様に。大切な人を護れる様に。
「トレース―――オンッ」
 何度、破壊しようと無意味だ。
 無限の剣製は破れない。
 魔力の持つ限り、アーチャーは無限に剣を投影する。
 いや、複製する。贋作を何度でも。
 そうやって衛宮 士郎は進化する。本物を真似る事は本物に近づく事。本物より劣る贋作を何度も何度も複製する。
「トレース―――オン!」
 例え、バーサーカーの一振りで剣を破壊されようと。
「トレース・オン!」
 何度だって複製する。
 勝利はなくとも敗北は認めない。
 負ける事を前提にアーチャーは剣を振るう。
 だが、敗北するつもりはない。勝つ為に剣を振るう。
「ここまでやるなんて……アーチャー。
 貴方、何者なの?」
 バーサーカーのマスター イリヤスフィール・フォン・アインツベルンは驚きの眼差しでアーチャーの評価を改めた。
「アーチャーは遠距離戦向きのだと思ってたけど。
 貴方みたいに接近戦の得意なのも居るんだ。ちょっと褒めてあげる」
「褒められる事でもないさ。私は贋作者でね。
 借り物の弓に、借り物の剣しか使えない」
「贋作者……? なら、貴方は偽物なの?」
「言ったろ【贋作者】と。俺は偽物なんだ」
 流石に、離れすぎた。
 凛との距離を離そうと意識しながら立ち回っていたが、凛は数百m手前の墓地でアーチャー達を見届けている。
「やっぱり、貴方、面白いわね」
「光栄に預かるよ。まさか、その言葉をもう『一度』聞けるなんてね」
「―――もう、一度……?」
 不審な目でイリヤは。
「貴方、もしかして……」
「それ以上は駄目だ」
 アーチャーはイリヤの口を閉ざす様に声を出した。
 解っている、これはやってはならない事なんだ。
「でも、それじゃあ。貴方は……なんで?」
「なんで、と言われてもね。イリヤ」
 バーサーカーの巨大な刃とアーチャーの二刀は弾き合う。
「私、俺は贋作者なんだ。
 だから―――こうやって本物を真似る事しか出来ない」
 その頃、本物は凛と共に戦闘を見届けていた。
 経験値は充分だろう。アーチャーの戦闘経験は本物【衛宮 士郎】に受け継がれている。
 そう、そう仕組まれているのだ。
 見て、脳裏に焼き付けて。そしてある筈のない未来の記憶に書き写す。
「さぁ、殺し合いを続けよう。
 イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、バーサーカー」
 二人の魔獣は森を駆け巡り、縦横無尽に駆け回る。
 アーチャーは二刀を捨て。弓を再投影する。
 森の中なら接近戦より遠距離戦が有利だ。
 森の木々の影を利用し、偽・螺旋剣Ⅱを命中させればスットクは減るはずだ。
 ストック«残数»の事だ。
 と言ってもバーサーカーの命の事だが。
 バーサーカーは蘇生宝具を持っている。
 アーチャーの知る限りでは12回まで生き返る事は解っている。
 だが、この世界で通用するとは限らない。
 もしかしたら12回以上、生き返るかもしれない。
 それを考えると―――アレを使うしかない。
 使うタイミングを見謝れば敗北は確定だ。
 ―――さて、決め手に掛けるか!
「『偽・螺旋剣Ⅱ!!』」
 矢は螺旋を描き、加速した。
 バーサーカーを半壊させた矢。当たれば残数は減る。
 当てると、当たると確信を得た時のみ矢を放つ。
 そのタイミングに間違いは無かった。バーサーカーは回避行動を取ろうとするが―――もう、遅い。
 偽・螺旋剣Ⅱはバーサーカーの右腕に直撃し。
 直後、爆発でバーサーカーの巨体は吹き飛んだ。
「バーサーカー!?」
 イリヤのマスターは不安な声を上げる。
「さて、後、何度もストックを持っている?
 あと何回、殺せばいい?」
 余裕を見せ付ける。実際、余裕ではない。
 アーチャーは『消え掛けている』それをアーチャーは必死に隠し、悟られる様に虚勢を張っているのだ。
「イリヤ、諦めてくれ」
 それはもう、アーチャーでは無かった。
 そしてイリヤは確信する。確信してしまった。
「やっぱり、お兄ちゃんなんだね」
「あぁ、そうだよ«姉さん»」
 隠し通す事はせず、アーチャーは真実を口に出す。
「もう、終わりにしよう」
 そしてバーサーカーは立ち上がる。
 あと何度、殺せばいい。あと何回、殺せばいい。
 自問自答し。過去の自分を重ねた。
 ―――――俺は何人、殺した?
 殺した人間の数百倍の人間を救った。だが、殺した人間は少なくない。何人、殺したかなんて解らない。
 守る為に殺した。そんな言い訳を背負って俺は英雄になった。
「英雄殺し。まぁ、俺にぴったりな役職だ……」
 勝敗は決している。
 それでもアーチャーは何度でもイリヤに問うのだ。
 もし、こうなっていたら……そんな願望を過去に押し付け。
 アーチャーは今の現実を受け止める。
「アーチャー。貴方、死ぬ気なの?」
 イリヤはバーサーカーを制し。
「貴方は«お兄ちゃん»なんでしょ?
 なんで……なんで…………」
「私は私の目的の為に行動している。
 サーヴァントとして召喚に応じたのも目的を遂行する為だ」
「お兄ちゃん……」
 これ以上は感傷に浸ってしまう。
 この会話は危険だ。―――俺の記憶を呼び覚ます。
「終わらせる―――そうしないと……俺は」

「立ち止まってしまうと?」

 それは突然、現れた。
 侍の様な鎧に身を包んだ男。
 一刀の刀を鞘に収め。男はゆったりと歩む。
「立ち止まるのも勇気ですよアーチャー。
 貴方は自分自身を内心で留めすぎる」
 ―――なんだ。
 ――――――なんなんだ、コイツは!?
 その男は【衛宮 士郎】と瓜二つだった。
 それはアーチャー«エミヤ»と瓜二つでもある。
 長髪を束ね、それは救世主の様な笑顔でやって来る。
「初めましてイリヤスフィール・フォン・アインツベルン」
 男は深く頭を下げ。
「今宵、貴女様に出会えた事を神に感謝します」
 頭を垂れる男はアーチャーを眺め。
「やはり、貴方は変わりませんね«士郎»」
「……貴様、何者だ?」
「うむ、その質問は飽きました。
 私と対面する方は毎回、決まった様に訪ねてきます」
「質問に答えろ!」
 アーチャーは声を荒げ、二刀を男に向ける。
 バーサーカーに向けていた殺意以上の殺意を込めて。
「何者……そして私は決まった様にこう返します。
 名乗る程の者ではないと」
 ―――キーンッ!!
 美しい音は夜の森を彩り、火花を散らす。
 それはバーサーカーと打ち合っていた時とは違い、滑らかで心地よい鉄と鉄がぶつかり合う音。
「おや、いきなりですね」
 男はアーチャーの二刀を防ぎながら呟いた。
「さて、どうしたものか」
 男の刀はアーチャーの二刀を弾き、粉砕する。
 バーサーカーの一撃さえ耐え抜いた剣を一撃、たった一撃で粉砕してみせた。
 動揺は隠せない。
 だが、それでもアーチャーは即座に新しい剣を投影し。
 男の刀に叩き付けた。
「寡作にしてはやりますね」
 数度、振るわれる男の刃。
 静かな一撃、一撃はバーサーカーに比べると軽い。
 それなのに男の刃は重い。的確にアーチャーの二刀の弱点に叩き付け、粉砕するのだ。
「さて、あと何本でしょう?」
「まだ、だッ」
 ―――トレース・オン!
 アーチャー、贋作者は新たな二刀を投影する。
 攻防は激しさを増す、アーチャーは攻撃の最中……イメージする。
 イメージするのは常に最強の自分―――投影はイメージを形にするのではない。
 今一度、それを理解し直し。アーチャーは投影した二刀を【強化】した。
「オーバーリミテッド・エクスプロージョン!」
 複製した物を全く別の物質に変換し、贋作は形を変える。
 まるで巨大な龍の鱗の様な剣。ギザギザと刺々しい剣をアーチャーは男の日本刀に叩き付ける。
「―――ほぉ、」
 今度は折れなかった。
 それどころか、男の身体はアーチャーの斬撃で少し後退した。
「投影物を強化する魔術ですか……非常に興味深い」
 男は自身の左手をアーチャーに向け。
「右腕・悪逆捕食【ライトハンド・イヴィルイーター】」
 ―――なんだ。
 ―――――このざわめきは……この感覚は。
 直感、何かを感じる。これは『投影』の魔術―――?
「アーチャー。貴方程では有りませんが、私も投影魔術を使える様です」
 男の背後では大量の黒鍵が投影され。
 その黒鍵、全ての矛先が、アーチャーに向けられていた。
「アーチャー……いえ、衛宮 士郎」
 男は笑顔で。
「―――さようなら」
 それは残酷な笑顔だった。
 黒鍵は一斉に発射される。
 その数、二十五本。全てを回避するのは不可能だ。
 魔力貯蔵も限界……あと数回の投影を行使すれば魔力切れで消えるだろう。
 まだ、終われない。
 ―――諦めない、俺は進むんだ。

 例え、この身を滅ぼそうとも。

 あの結末を―――変えるために!















 I am the bone of my sword. 
 ――― 体は剣で出来ている 

 Steel is my body, and fire is my blood. 
 血潮は鉄で、心は硝子 

 I have created over a thousand blades. 
 幾たびの戦場を越えて不敗 

 Unknown to Death. 
 ただの一度も敗走はなく 

 Nor known to Life. 
 ただの一度も理解されない 

 Have withstood pain to create many weapons. 
 彼の者は常に独り剣の丘で勝利に酔う 

 Yet, those hands will never hold anything. 
 故に、その生涯に意味はなく 

 So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS. 
 その体は、きっと剣で出来ていた 


 ―――無限の剣製。
 男の歩んだ成れの果てを固有結界で具現化した【衛宮 士郎】だけの世界。
 荒野の大地、そして無限に突き刺さっている剣達。
 唯一、アーチャーの宝具と言えるアーチャーの歩んだ人生の結果だった。
「これは―――固有結界ですね」
 男は漠然としていた。
「流石、世界を救った正義の【救世主】
 これ程の世界を具現化するとは……」
「存外、この世界は未来の行く末を描いている」
 アーチャー【衛宮 士郎】は突き刺さっている一本の剣を引き抜き。
「これは俺の世界だ。
 だが、これは俺の歩んだ成れの果て……これは俺の行き着いた結果だ」
「結果……?」
「俺は正義の味方に成りたかった。
 いや、一度は成れた」
 過去の記憶、世界を人類を人間を救おうと努力していたあの時を思い出す。
「あの頃は全てを救おうとは努力した」
「全てとは貴方も大きく出ましたね」
「それ位の覚悟は合ったのさ。この身を犠牲にしてでも全てを救おうと」
 ―――まぁ、子供の戯言だがね。
「だが、何時しか気付いてしまった。
 全てを救う事は不可能だと」

「だから、俺は手の届く範囲の人間を救える人間に成りたいと思った」

 守りたい、それは真実だった。
 守れるなら全てを。そんな傲慢な覚悟は無意味。
 なら、俺の知る人達を護れる位、強くなりたいと。
「今なら解る、俺のやってきた事は無意味じゃなかった」
 衛宮 士郎 【アーチャー】は笑顔で。
「後悔はあった。あの時もし、俺が凛の言葉を受け入れていたなら未来は変わっていたのかもしれない。
 だが、それでも。俺に『悔い』は無い」
 後悔は合っても悔いは残っていない。
 それは確かな事だ。だから、俺は―――――。

「後悔を後悔させてやる」





 言峰 綺礼こと言峰神父は協会と教会、両方のバイパスを持つ不明瞭な人間である。
 第四次聖杯戦争ではマスターに選ばれ。
 アサシンのマスターだった彼は第四次聖杯戦争で生き延びた数少ない生還者であり、後の第五次聖杯戦争を裏から支配していた【悪】である。
 衛宮 士郎とは真逆の存在と言える彼は今回の聖杯戦争でも裏から糸を引き、聖杯戦争を支配するつもりだった。
 だが、それは失敗―――未遂に終わる事となる。
 そう、【ルーラー】の召喚によって。
 聖杯戦争でも、より希少なケースのクラス【ルーラー】の召喚は本来ありえない事だ。
 不可能を可能にしてしまった言峰神父。
 彼の目的はルーラーの思想とは正反対のものであり、人類救済を願った『士郎』とは天と地の差だ。
 そして二人の男は気付いてしまう。
 結果は違えどこの男の願望は過程が同じだと。
 だからこそあの二人はマスターとサーヴァントとの関係で要られるのだ。
 最終的な結末は解らない。
 だが、例え。どちらが聖杯を勝ち取ろうとも結果の変わらない事実を神父達は知る由も無かった。



「―――――トレース・オン」
 «衛宮 士郎»と瓜二つの男は【トレース・オン】と言った。
 男の背後では数十の黒鍵が投影されており、標的のアーチャーに向けて一つずつ放たれた。
 一斉発射はせず、単発での発射。
 アーチャーの逃げた先に合わして放たれる黒鍵の刃は固有結果を歪め、無限に内包された剣を弾き飛ばす。
「ふむ、まだ上手く投影は出来ませんね」
「そんな簡単に投影を使われては困る!」
 アーチャーは発射される黒鍵を躱しながら叫ぶと。
「いえ、投影の基礎は心得たつもりなのですが……。
 どうやら黒鍵以上の物は私では投影出来ない様です」
「貴様に投影は百年早い!」
 ―――極意は掴めていない。
 なら、狙うなら今!
 アーチャーは残り少ない魔力を行使し投影する。
 ここは無限に剣が内包されている世界、アーチャーの投影物は揃いきっている。だが、これでは押し切れない。
 更に数百を超える剣が必要だ。
 これ以上、長期戦を続けては勝てるものも勝てない。
 一か八か賭けに出なければ……。
「―――□□□□□□□□■■■ッ□□□―――□□□□□!!!!」
 空間を揺るがす方向に身を震わせる。
 一瞬、突然の咆哮に身を止めてしまった。
 黒鍵はその隙を待っていたかの様に一直線にアーチャーを目指して飛んでくる。
 アーチャーはなんとか剣で弾き、距離を取るも。
 一度、出来た隙は大きく。徐々に不利になっていった。
 ―――バーサーカー……? 何故、この空間に?
 固有結果は任意で標的を結界内に放り込む事が出来る。
 だが、バーサーカーを入れたつもりはない。
 とするとこんな芸当が出来るのは……。
「……お兄ちゃん」
 やはりイリヤだったか。
 バーサーカーを引き連れて空間ごと捻じ曲げ、無理矢理、入ってきたな。
「離れろ、イリヤ。
 私は忙しい」
「いや、お兄ちゃんの相手は私よ!」
 狂戦士はアーチャー目掛けて突進する。
 ―――これは、利用できる!
 アーチャーは黒鍵を回避しながら思った。
 黒鍵の射角にバーサーカーを入れて―――今だ!
 次の瞬間、黒鍵はバーサーカーを貫通した。
 バーサーカーの横腹に小さな穴が出来上がる。
 バーサーカーを盾がわりに利用すればこの状況を打開、できるかもしれない。
 確証のない根拠に追い討ちを掛ける様に黒鍵は次々と発射さらる。
 アーチャーは黒鍵の射角を計算し避けながら調整する。
 バーサーカー【壁】を利用して回避し。バーサーカーの『狂化』の特性を利用すれば!
「■■■□□□□□□□□ッ!!!!」
 バーサーカーは痛覚を感じ暴れ回る。
 そしてバーサーカーは自身の横腹に出来た穴に触れ。
 この穴を作った元凶を探し出す。
 そしてそれを見付けた。
「おや、これは厄介ですね」
 バーサーカーは男に立ち塞がる。
 数十mの距離を一足で飛び越え、バーサーカーは己の身体ごと標的に叩き付けた。
 男はそれを回避し。黒鍵を再度投影する。
「厄介ですね……知性を失っている分、感情的だ」
 黒鍵の連続投射。
 三本連続で発射され、バーサーカー目掛けて突き進む。
 バーサーカーはそれを弾き、距離を詰める。
「□□□□□□□□□■■■□□□□□□□□―――!!」
「五月蝿い……いえ、なんでもありません」
 それでも男は余裕のある表情だった。
 余力を残している―――?
 バーサーカーは力任せに大剣を振り払う。
 男はそれを難なく躱し、無駄と解っても投影した黒鍵を発射する。
 何本も、何本も、何本も。
 百本近い黒鍵が発射された。
 今の所、一度に連続して撃てるのは25本。
 連続投影は30本が限界と見立てた。アーチャー程の投影使いならある程度は解る。
「これで、少しは話せるよね«士郎»」
 バーサーカーとあの男に気を取られていた。
 いつの間にかイリヤはアーチャーのすぐ側まで近付いていた。
「イリヤ、ここは危険だ」
「大丈夫、いざとなったらバーサーカーが護ってくれるから。それに士郎も私を守ってくれるんでしょ?」
「何故、そう思う?」
「兄妹ってそういうものじゃないの?」
 無邪気な発想と笑顔でイリヤは首を傾げる。
「待て、姉さん。
 君の言ってる兄妹は兄と妹の関係ではあるまいな?」
「そうだけど」
「血縁上は俺が弟で君が姉なんだが……」
「今は貴方の方が年上でしょ!ちっちゃい事は気にしない!」
 その仕草は妹そのものだった。
「俺にとって、イリヤは姉さんだよ……」
 ―――――イリヤ、今回は甘えん坊だな。
 前回のイリヤ……いや、まぁ、俺が最初のアーチャーになった時。
 あの時の最終的な結末をアーチャーは知らない。
 知る前にバーサーカーに殺されてしまったからだ。
 前回、殺されたおかけで今回のバーサーカーはここまで生き延びる事が出来た。
 前回はあと、もう少しという所まで追い詰めたが。
 二度目の現在のバーサーカーは以前のバーサーカーより強くなっていた。
 それでも前回の戦闘で培ったバーサーカーの知識は役に立ち、今に至っている。
「それで何の用だい、イリヤ?」
「へ?」
「だから、俺に用が有るんだろ?」
 イリヤは完全に用件を忘れていた様だ。
「う~ん……まぁ、それはあと!
 今はあの変な奴を殺してから!」
「殺してからって乱暴な女の子だな」
 男は黒鍵と日本刀を駆使し、バーサーカーと対峙する。
 ―――あの黒鍵……聖堂協会の物か。
 確か、あのエセ神父が持っていた黒鍵と告示している。
 という事はあのサーヴァントは聖堂教会に関係する英霊?
 それともそのマスターが聖堂教会に準ずるものなのか……。
「ねぇ、あのサーヴァントのクラスってなんなの?」
 イリヤは唐突に疑問を呟いた。
「士郎は知っているの?」
「いや、私も知らない」
「―――えぇ!?
 クラスも知らずに戦ってたの!?」
「何も珍しい事ではないだろう。
 互のサーヴァントのクラスが判別しないまま勝負が決まる事もある」
「まぁ、案の定、決まってないけどね」
 痛い所を付かれたアーチャー。
 アーチャーもあの男のクラスを最初は模索していた。
 だが、止めた。諦めたというのが正しいか。
 剣を使ってるサーヴァント≒【セイバー】とは限らない。
 それにセイバーは既に召喚されている。
 何処の聖杯戦争では同クラスのサーヴァントが複数召喚されたりなど普通はありえないケースもあったらしいが……あの男はセイバーに見えない。
 刀、日本刀を振るう姿はセイバーそのもの。
 だが、それでもアーチャーにはあれがセイバーには見えないのだ。
「あれ、士郎に似てるわよね?」
「さぁ、他人の空似では」
 ―――まさか、な。
 不確かな疑問を抱いた。
「さて、そろそろ加勢するとしよう」
「バーサーカーなら一人でも大丈夫だよ?」
「そうだろうね。だが、アレは私の獲物なんだよ」
 残り少ない魔力で最後の剣を投影する。
 そろそろ全ての【投影】を終える頃だ。
「イリヤ、バーサーカーを奴から遠ざけてくれ」
 アーチャーは消え掛けている躰をなんとか維持し。
 大量の贋作物を出現させた。
「……これだけの剣を投影するなんて」
「難しい事ではないさ。これは全て偽物だからね」
 一斉投射すれば確実にあの男を消滅させられるだろう。
 流石にこれ程の剣を投影するのには時間が掛かったが、バーサーカーのお陰で思った以上にスムーズに事を進ませられた。
「真髄を見せてやろう」
 無邪気な笑顔でアーチャーは男を見つめる。
 その笑顔は探究心から来るものなのか、それとも探求心から来るものなのか……。




「さて、行こうかアイリ」
 全身をプロテクターで身を包んだ男は自分以外、誰も居ない空間で独り言を呟いた。
「あぁ、解ってるよ」
 抑止力に選ばれた男は研ぎ澄まされた数本のナイフを胸元のポケットに収め、白髪を揺らしながら窓の外を見つめる。
「やっと……会えるよ、イリヤ……士郎」
 それは最愛の息子と娘の名前だった。

 また、時空は歪み。本来の√【Fate】から外れてゆく。
 本来、ありもしないその道は誰も望まない。誰も望もうとしなかった茨の道だ。
 衛宮 士郎でさえ。
 この道を選ぶ事は無かった。
 だが、抑止力の代行者として正義の味方として彼は限界した。
 サーヴァント『アサシン』として。
 衛宮士郎 イリヤスフィール・フォン・アインツベルンの父親«衛宮 切嗣»として…………。







 歪みの生じた結果、時空は困惑する。
 決して交わる事のない時間と時間は交差する。
 誰も、望まなかった結末に────誰も望めなかった結末に。 
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