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リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
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Vivid編
  第七話~踏み出す~

 
前書き
みなさんお久しぶりです。
最近月一更新が当たり前になってきている作者です。

今回やっと年齢の変動が起こります。
では本編どうぞ。 

 


???


――――マモレナイタダシサナンテイラナイ――――

「…………」

――――ヨゴレテモ、キラワレテモ――――

「…………」

――――ノゾメルダケノチカラガホシイ――――

「…………」

――――ダカラ――――

「…………」

――――ワタシハコドクデモカマワナイ――――



ミッドチルダ・モノレール車内


 時間帯的なものか、それとも路線的なものかはわからないが人気の少ない車内で、ライは座りながらウトウトしていた意識を引き上げた。

「……またか」

 意識がハッキリし、自身が何をしようとしていたのかを思い出しながら、ライはポツリとそんな言葉を漏らす。
 二度、三度と首を振るようにして残っていた眠気を振り払うと、ライは停車したモノレールのドアから目的地の最寄りの駅のホームへと足を踏み出す。
 ドアの閉まる音と、モノレールの走行音を背にライは駅を出るために歩んでいく。
 手荷物である肩掛けの鞄を持ち歩くライの姿は、社会人というよりも大学生のような風貌である。
 駅を出るとすれ違う人々はライの方を振り向いてくることもあれば、目線だけで伺うことをしてくる。それはライの容姿が優れていることもあるが、時間帯的にまだお昼というには早い時間帯に何故フラフラしている若者がいるのかという疑問からくる視線も間々あった。
 そうして大体二十分も歩いたところでライの目的地である建物が見えてくる。
 それは一般的に言えば民家である。しかし、普通の一般家庭が持つにしては少々大きく、普通に考えれば富裕層が持つような一軒家であった。
 一般人であれば気後れするような大きな門の横に設置されたインターホン。その威圧的な門の大きさとインターホンの小ぢんまりした落差に内心で苦笑しながら、ライはそれに指を伸ばした。
 一度のプッシュで二度ほど鳴る電子音。少しの間を置いて、その威圧的な門が人一人通るのには十分な隙間を作る。

「…………」

 チラリと視線を動かすと、偽装されているがレンズのような物が小さく見え、監視カメラであることを察したライは、見られている事を承知でその門を潜った。



一軒家・一室


 玄関を潜ると立っていた女性に案内され、応接室と思われる部屋に通される。

「ここでお待ちを」

 それだけ言い残し、女性は退室していく。彼女が部屋から出て扉を閉めるとライは部屋の中央にある机を挟んだ対面式のソファーに腰を掛ける。
 そして待つこと五分。ライの目的であり、この家の主が扉を開け、姿を見せた。
 扉が開くと同時に、ライは即座に腰を上げ、一礼しながら口を開いた。

「初めまして、私は白月ライといいます。この度は不躾なメールと訪問を受けて下さりありがとうございます」

 ライの言葉を受けながら、入室してきた彼はライの対面のソファーに腰を下ろしながら応対する。

「ふん。不躾と理解しておきながらも儂のような人間に会いに来たのだ。それなりの内容なのだろうな?」

 威厳もありながら、どこか自身を蔑むような感情を見せながら彼はそう返答した。

「もちろんです――――――レジアス・ゲイズ元中将」

 目前にいる、かつて管理局において重鎮であったレジアス・ゲイズはその表情を変えることなくライの視線を真っ向から受け止めていた。

「それで?既に退役し、かけらも権力を持っていない一市民である儂に何の話がるというのだ」

「ご冗談を。退役したとはいえキチンとした実績を残してきた貴方は立派な影響力を持っていると考えていますが?」

 レジアスはJS事件後間もなく退役していた。管理局側の公式発表では、ミッドチルダの受けた大きな被害と、陸に配備されるはずであった兵器『アインヘリアル』の破壊の責任を取るとして管理局を辞表したことになっている。
 もっとも真相である『事件の犯人であるジェイル・スカリエッティとの繋がりがあり、その援助を行っていた』ということは、管理局の面子を守るために公表されることはなかったが。

「……皮肉か?儂には維持をするので精一杯で、改善は行えなかった」

 ソファーにかけ直したライはレジアスからの睨みを受け流しながら、涼しい顔で言葉を続けた。

「いえ。少なくともジュニアハイ以下の子供を働かせずに、年々増加する犯罪やテロの被害を一定数維持していたのは、貴方の手腕によるところが大きい。そこは海よりもよっぽど陸が優れていた証拠だ」

「……」

 ライはそう言いながら、持ち込んでいた鞄の中から紙媒体の資料を広げる。その紙には今の言葉が嘘でないと証明するためのデータがありありと記載されていた。

「こんなものをよく調べたものだ」

「自分には…………自分“達”には必要なものでしたので」

「?」

 ライの言い回しを不可解と感じたが、レジアスは未だ話されてさえいない本題が少しだけ気になり、ライに話の続きを促した。

「結局のところ、貴様は儂に何の用がある。元機動六課、民間協力者ライ・ランペルージ」

 直接的な質問に、ライは無言で再び鞄に手を伸ばす。今度も先ほどと同じく紙束を取り出すのだが、その厚みが違った。先ほどの倍ほどもあるのだ。

「これが今日の本題です」

「…………」

 そう言いながら、ライはその紙束をレジアスに差し出す。
 それを受け取ったレジアスは応接室に備え付けられた机の引き出しからメガネを取り出し、かけると一枚一枚丁寧に読み込んでいく。そして――――

「……貴様、正気か?」

 紙の分厚さから一時間ほどでそれを読み終えた彼の第一声がそれであった。
 レジアスの顔に浮かぶのは困惑や戸惑いというよりも、疑念である。本気でこんなことが実現できるのかと言う確認も込めた彼の視線をライは真っ向から受け止める。

「はい」

「こんな――――管理局の“陸”に代わる、ミッドチルダの守護のための外部組織の編成など…………」

 ライの持ち込んだ資料の本質を口にし、その議題の大きさにレジアスは思わず自身の顔に手を置いた。

「交渉材料次第で局の中と外にも協力者は得られる。要はやり方しだいだ」

 自身の考え、そして自らの本質を晒すようにライは敬語を使うのをやめる。

「要点を纏めれば、管理局の“陸”と言われるミッドにおける治安維持部隊を無力化とまでは言わないが、少なくともハリボテの状態にし、政治的にも武力的にも力のある治安維持組織を編成する」

「……絵空事だ。第一それに賛同する人間など」

 そういうレジアスの言葉を遮るように、ライはポケットから蒼月を取り出すとあるリストを空間投影ディスプレイに写すように出力した。

「かつて陸に所属し、上司の出世や自己保身の為に切り捨てられたメンバーリスト。そしてその中から思想的に問題がないと判断した元局員たちだ。生憎と切り捨てられた人間全てかどうかは分からんがな」

「儂を脅す気か!」

 そのデータを見せられた瞬間、レジアスは反射的に腰を浮かし怒鳴り声を上げていた。
 だが、レジアスの見せた怒気をそよ風のように受け流し、ライは絶対零度の瞳で口を開く。

「侮るなよ。既に退役した御身を脅したところで、自身が得られる利益など微々たるものだ。それに目先の利益などという瑣末事にかまける程、自分は堕ちてなどいない」

 ライの言葉に火が消えたように、レジアスの怒気は霧散する。そして先ほどの脅す云々がどれだけ馬鹿な物言いかを冷えた頭が理解すると、レジアスは先の自分を内心で恥じる。

「……話を続けようか?」

「っ!」

 ライの言葉に反応し、彼は再びソファーに腰を下ろす。しかし、そこには入室した時のような余裕は皆無であった。

「交渉はまだ行っていないが、誘えば彼らは必ずこちらの誘いに乗る」

「……なぜそう言える」

「彼らは管理局に押し付けられたレッテルで定職に就くこともままならず、日銭を稼ぐので精一杯の生活をしている人間がほとんどだ」

「安定した職であるのであれば、この誘いを断ることはできないということか」

 どこか疲れた声のレジアスに構いもせず、ライは話を続ける。

「もちろん人員に関してはそれで全て事足りるとは思っていない。必要であれば現管理局員の中でも不満を持つ者は大勢いる。その中から引き抜けばいい」

 耳の痛い話だ、と内心でレジアスは愚痴る。
 かつて陸の局員からの不平不満の声はレジアス自身多く聞いてきた。しかし、それを改善しようとしても人員不足や規則、そして大きな組織にお決まりの権力などで全てとは言わないが殆どが握り潰されてきたのだ。
 そして管理局員が本来目指すべき市民の安全の維持を直向きにこなそうとする末端の局員は、私腹を肥やす権力持ちの高官どもに食い潰されてきた。
 ただ、組織や自分にとって目障りであるという理由で。
 レジアスは自身がどうであったのかを考える。汚職もした、志を同じくした友も切り捨てた。そして、自身が唾棄すべき融通のきかない高官にもなった。
 だが、JS事件を経て、自身の初志を思い出し、そして全てを失った。

「…………これでは道化ではないか」

 ポツリとそんな言葉が口から漏れる。
 そして、そんな中、ふと目の前のこの青年が自身の罪を何処まで知っているのか疑問に思う。

「恐らく、貴方がJS事件に……いえ、最高評議会とジェイル・スカリエッティに関わった全てを知っている」

「……そうか」

 自身の心を見透かしたようなライの言葉にドキリとしつつ、ライの返答の内容にもう驚いている余裕も今のレジアスにはなかった。
 それに管理局の汚職の一部をハッキリと把握している時点で、今更の内容だなとも思う。

「人員についてはこれくらいにして後は組織の立ち位置だ」

「……」

 話を続けるように新しい話題を口にしたライに、レジアスは無言で先を促す。内心では黙っていても話は続けるのではないか?と思いつつもレジアスは聞きの姿勢を取る。

「正確には立ち位置ではなく組織としての力関係だが」

「?」

 これまでのライの説明では、新しく作ると言われているその組織が管理局と事を構えるのは既に確定事項の一つだ。
 ならば、時空管理局という組織と同等か、若しくはそれを上回る力が必要なのは確実である。なのに、それを言及すると言うのはどういうことなのか、ミッドチルダの社会しか詳しくないレジアスには疑問に感じた。

「二つの組織が対立してしまえば、それは抗争か戦争になる。ならばそれを回避するために必要なのは何だと思う?」

「……同じく力を持った調停役か」

 レジアスの言葉にライは満足そうに頷いた。

「だが、そんな組織がどこに……いや…………管理局と同等?…………まさか」

「管理局と新組織、そして聖王協会の三竦みによるパワーバランスを作り出すことで戦争を回避する」

 レジアスの思考に応えるように、ライはさも当然のようにそう言い切った。だが、ライの言葉はまだ続く。

「そして今日、白月ライがレジアス・ゲイズに会いに来た理由は依頼があるからだ」

「依頼?」

 ライの言葉をオウム返しのように返すしかできなかった彼は、次にライの取った行動に再び驚いた。

「新組織のトップに立ち、次元世界ではなくミッドチルダの守護をしていただきたい」

 そう言うライは誠心誠意を示すように頭を下げ、その依頼を口にしていた。



 
 

 
後書き

はい、と言う訳で変動しました……上方に。どうしてこうなった(;´Д`)

以前から匂わせていた組織についての大まかな説明会になりました。そしてSTS編からそのままになっていたキャラであるレジアスさんも出しました。
STS編でドゥーエをライが捕縛したので、彼普通に生きてます。

本当はこの話、最初は文章量がこの倍くらいあったのですが、読み直してくどかったので内容をコンパクトにしつつ前後編に分ける仕様にしました。なので次回も会談編です。

もう一度、どうしてこうなった……

皆様のご意見・ご感想を心待ちにしております。 
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