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お好み焼き

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6部分:第六章


第六章

「確かに美味かった」
「それは確かに」
「マジで美味かったな」
 皆もそれは認める。先生の言う通りだった。
「どちらもな。しかしだ」
 先生はさらに言うのだった。
「どちらがよりよいとは優劣はつけられなかった」
「だからそれは嘘や、大阪こそが」
「広島はお好み焼き発祥じゃけえ。それで何で」
「だからだ。御前等の腕は互角だった」
 先生が言うのはそこだった。
「完全にな。互角の腕で作ればどんな料理でもそのレベルは同じになるんだ」
「どんな料理でも」
「互角に」
「そうだ」
 先生の声が一段と強いものになった。
「そういうことだ。だから大阪風も広島風も同じ美味さになったんだ」
「腕やったんか」
「それがお好み焼きを」
「そういうことだ。わかったな」
 あらためて二人に対して告げた。
「そちらがいいというんじゃないんだ。同じなんだ」
「お好み焼きはどっちでも」
「同じなんじゃな」
「そうだ。わかったな」
 先生の言葉がここでまた強くなった。
「どちらがいいというものじゃないんだ。大切なのは腕だ」
「そうか、わかったで」
「腕じゃったら」
 先生の言葉を聞いて同時に顔を上げる二人だった。そうして見合ったうえで。
「菜月」
「桜」
 まず互いの名を呼び合うのだった。雰囲気が明らかに違ってきていた。何と実にいいタイミングで二人の後ろには鮮やかなまでに赤い大きな夕陽が出て来ていた。
「おっ、このシチュエーションは」
「まさか」
 皆その夕陽を見て笑顔になる。いい雰囲気だと思ったのだ。
 それは先生も同じだった。ずっと横にいる校長先生に対して話した。
「これで一件落着ですな」
 二人を見ながら会心の笑みでの言葉であった。
「これで」
「そうですね」
 そしてそれは校長先生も同じであった。誰もがこれで終わりだと思った。
「これで。この騒ぎも」
「はい。後は」
 感動の和解だと。誰もが思った。当然皆も先生達もだ。ところがそれで無事終わるかというと。そうは問屋が卸さないのであった。
 二人は顔を見合わせあって。手を差し出すかわりにそれぞれお好み焼きのヘラを持ち出してお互いに言い合うのであった。
「こうなったらな!」
「腕じゃ!」
 相変わらず激しい敵意を見せながら叫び合う。制服のミニスカートの上に付けているエプロンはどちらもソースで汚れきっているがそれにも構わずだ。
「腕磨いて抜かしたるからな!」
「それはこっちの台詞じゃ!」
 今度は腕であった。
「腕は幾らでも磨ける。うちは天才やで」
「面白いこと言うのう。天才はうちじゃ」
 またしても睨み合っていた。
「この天才に勝てる筈がないやろ!」
「天才はうちじゃ!」
「おどれには絶対勝ったる!」
「われ泣かしたるけえのお!」
「駄目だこりゃ」
 そんな二人を見た生徒達の言葉であった。
「こいつ等はもうどうしようもねえな」
「どうあっても喧嘩かよ」
「殆どあれだな。軍鶏」
 また随分とえげつない例えであった。
「それか闘犬じゃねえか。もうどうしようもねえよ」
「そうだな。もうこれはな」
「お手上げだよ」
 こう言って呆れ返る皆であった。そして先生はというと。もうその目を点にさせて肩の力が思いきり抜けて呆然としているのであった。
 
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