八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第七十二話 夜の電話その五
「お父様からお電話ですが」
「親父から?」
「左様です」
「電話なら」
僕はそう聞いて首を傾げさせて返した。
「僕の携帯にかけてきたらいいのに」
「前はそうでしたね」
「はい、だからそう思ったんですが」
「そこは止様のお考えかと」
「親父気まぐれなところもありますからね」
もっと言えば思いつきで動く派だ。
「それで、ですかね」
「今日はと思ってですか」
「僕に直接じゃなくて」
「八条荘にですね」
「かけてきたんでしょうか」
親父ならやる、それも普通に。
「全く、親父は」
「それでどうされますか」
「はい、出ます」
思うことはあってもそうするつもりだった、話を聞いた時から。
「それじゃあ」
「それでは」
畑中さんは受話器を出してくれた、そしてだった。
僕はその受話器を受け取って親父にだ、こう言った。
「今日は何?」
「ああ、元気か?」
いつも明るい声での返事だった。
「機嫌悪そうだけれどな」
「別に悪くはないよ」
僕はこのことは否定した。
「特にね」
「それならいいがな」
「というか用があるんなら」
それならとだ、僕は親父に言った。
「僕の携帯にかければいいのに」
「いや、何かな」
「八条荘にかけたくなったんだね」
「それでなんだよ」
「やっぱりそうなんだ」
僕は自分の予想が当たったことに喜ばずに返した。
「いつものそれだね」
「それって何だよ」
「そう思ったから」
「ああ、こっちにかけたんだよ」
八条荘にというのだ。
「驚いたか?」
「別に」
「そうか、驚いてないか」
「いつものことだからね」
本当にそうだ。
「だからね」
「素っ気ないものだな」
「それで何の用かな」
僕は親父に問い返した。
「ああ、元気かって思ってな」
「そのことの確認なんだ」
「そうさ、それでどうだ?」
「楽しく暮らしてるよ」
僕はまずはこう答えた。
「この通りね」
「そうか」
「うん、安心していいよ」
「それは何よりだな」
「僕はね、それで親父は?」
「ああ、俺もだ」
実に明るい調子の返事だった、いつも通りの。
「一回帰国しようと思ってるんだけれどな」
「ああ、帰らなくていいよ」
僕は親父に半分冗談半分本気で返した。
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