八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第七十一話 レトロゲームその三
「そうした人はわかっていないって」
「松下幸之助氏のことをだな」
「そう言ってるよ」
「そうか、あの人を尊敬しておられるのか」
「総帥さんはね」
「そして目指しておられるのだな」
「あの方みたいになろうってね」
このことも本当のことだ、何しろご自身の執務室に写真まで飾っておられるそうだ。
「それで僕にも言ってるんだ」
「松下翁を敬愛しろとか」
「親と一緒にね」
「親御さんもか」
「そう、親父もね」
あの、と言っていいうちの親父もだ。
「尊敬しろってね」
「待って、確かね」
「そうよね」
ここでテレサさんとイタワッチさんが言った。
「義和のお父さんってね」
「一族の中で評判悪いんじゃ」
「もう異端中の異端で」
「はぐれ者だったんじゃ」
「うん、確かに親父は評判悪いよ」
一族の中でだ、このことは紛れもない事実だ。
「遊び人で浮気ばかりだから」
「それでもなの」
「総帥さんにそう言われたの」
「そうなんだ、総帥さんも親父は好きじゃないけれど」
いつも注意していたし今もそうらしい。
「親を尊敬出来ない人間は駄目って言ってね」
「それでなの」
「義和にそう言ってるの」
「うん、親父が滅茶苦茶なのは事実としても」
本当にこのことは否定出来ない、絶対に。
「借金もしない、面倒も見てくれて暴力も振るわないし家にお金も入れてくれる」
「だから」
「それでなの」
「尊敬出来るって」
これだけの条件が揃えばだ。
「そう僕に言ってるんだ」
「まあそうしたこともね」
「出来てない人は多いわね」
モンセラさんもチェチーリアさんも言う。
「世の中駄目な奴もいて」
「義和がさっき挙げたこと一つも出来てない人も多いわ」
「それを考えると」
「義和のお父さんは尊敬出来るわ」
「まあね、料理もよく作ってくれたし」
しかも料理上手だ。
「家にも何だかんだで毎日帰って来てたしね」
「朝帰りでも」
「そうしてたのね」
「絶対に家には帰って来てたよ」
仕事でどうしてもという時以外はだ、急患でも親父は即座にメスを振るう人だ。そこもブラックジャックと呼ばれる由縁だろうか。
「お金を入れることも忘れてないし」
「それなら充分だな」
留美さんもこう言った。
「そして暴力もだな」
「それは絶対にないね」
親父が誰かを殴ったりすることはだ。
「暴力を振るう人間は弱い奴って言ってるしね」
「何故弱い」
「暴力は相手を痛めつけるだけでね」
親父はいつも僕に暴力についてこう言っていた、厳しい顔で。
「それで強制させるなんて弱いって」
「痛みを教え込むことで従わせることはか」
「弱いってね」
「では強い人間は何だ」
「自分の魅力、徳で導く人って言ってるよ」
同時にだ、親父は僕にこうも言っていた。それもいつも。
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