ミラエ=アル=リフ
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第二章
「まあ何ていうか」
「だったら実家で事務をしてるとな」
「苦労なしですか」
「そうなっていただろ」
「まあ事務の責任者でしたからね」
「じゃあ給料も凄かっただろ」
「そうでしたけれどね」
実際にという返事だった。
「ですがそれよりもって思って」
「独立して露天商か」
「父も兄さん達もじゃあそれでやってけって言ってくれまして」
「今ここにいるんだな」
「そうです、商売してます」
「成程な、実家に帰ったらいつも召使の人とかいるか」
「ははは、まあそうした話はなしってことで」
こうした感じでよくバルダートと話していた、そして。
こうした話もだ、ジャーファルはよくバルダートと話した。
「それで今日は」
「ああ、今日はな」
「あの人通りますかね」
「あの美人さんな」
「美人ですかね」
バルダートの今の言葉にはだ、ジャーファルは疑問符を付けて返した。
「果たして」
「いやいや、美人だろ」
「けれどあの人顔見えませんよ」
「それでもだよ、目を見たらな」
「それで、ですか」
「わかるだろ」
「そうですか」
「ああ、あの目は美人の目だ」
バルダートはこう言い切った。
「間違いなくな」
「それじゃあ」
「あのヴェールを脱いだらな」
「美人さんで」
「それもうっとりする位にな」
そこまでというのだ。
「凄いだろうな」
「そうですか」
「ああ、ただもうここでもな」
「あの服の人少ないんですね」
「減ったな、昔に比べて」
バルダートはジャーファルに昔を思い出しつつ話した。
「ミラエ=アル=リフを着る人もな」
「ムスリムといいましても」
「ここのイスラムは結構リベラルっていうかな」
「開放的、ですか」
「サウジとかと比べるとな」
サウジアラビアだ、イスラム国の中でも特に戒律が厳しい国だ。
「結構緩いよな」
「だから洋服を着る人も多いですね」
「わし等もそうだしな」
二人も洋服だ、涼しく動きやすいものだ。
「だからな」
「それで、ですね」
「女の人だってそうなって当たり前だろ」
「男がそうなら」
「ああ、だったら女の人もな」
「ヴェールを脱いで、ですか」
「洋服になるさ」
こうジャーファルに言うのだった。
「それもな」
「そういうものですか」
「ああ、けれどな」
「あの人はまだですね」
「ヴェールを着てな」
そしてというのだ。
「ああしてな」
「ミラエ=アル=リフですね」
「それ着てるな」
「もうあまりいない人ですけれど」
「だからかえって目立つな」
「はい、何処の誰でしょうか」
「美人なのはわかるんだ」
このことはだ、バルダートはまた言った。
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