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ミラエ=アル=リフ

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第三章

「それはな」
「目で、ですね」
「それも相当にな」
「じゃあ何処の誰かは」
 ジャーファルはバルダートに問い返した。
「それは」
「それはな」
「わからないですね」
「あの服の色はな」
 そこからもだ、バルダートは言った。
「黒だろ」
「はい、黒ですから」
「身分のある人か」
 エジプトでは、そしてイスラムでは黒は高貴な色とされているからだ。それを着ている女性もというのである。
「お金持ちか」
「そうした人ですね」
「それは間違いないけれどな」
「それでもですね」
「何処の人かはですね」
「わからないな」
「そうですね」
 ジャーファルもバルダートのその言葉に頷く。
「しかもいつも五人位男の人連れてますけれど」
「わかるよな」
「どの人もかなり強そうですね」
「あれはボディーガードだ」
「間違いなくですね」
「ああ、そんなのを五人も連れて歩いてるとなるとな」
「やっぱりですね」
 再びだ、ジャーファルはバルダートに言った。
「あの人はかなりの方ですね」
「そうだろうな」
「政治家かお金持ちの奥さんか娘さん」
「そういうのだろ、ひょっとしたらな」
 ここでだ、バルダートとはジャーファルを見て言った。
「あんたのお袋さんかお兄さん達の奥さんの誰かかな」
「姉さん達のですね」
「誰かじゃないのか?」
「いえ、うちの血筋ですと」
 このことは真剣にだ、ジャーファルはバルダートに答えた。
「ああしてこの辺り歩くことないですから」
「そうなのか」
「こうした場所を歩く時もあってボディーガードも連れますけれど」
「あの服は着ないか」
「公の場では着ますけれどね」
 礼装としてだ。
「それに相応しい格好をしますけれど」
「こうした場を歩くとか」
「かえって目立って困りますしね」
 このこともあってというのだ。
「着ないですね」
「だから違うか」
「はい、一番上の姉さん兄弟の二番目ですけれど」
 その彼女はというと。
「僕を昔から一番可愛がってくれて時々家に連絡してきたりしますけれど」
「ああして様子見はか」
「しないです」
 その彼女もというのだ。
「あの服は着ますけれど普段は着ないです」
「そうなんだね」
「はい、別に」
 これといって、というのだ。
「しませんね」
「あんたの家の人じゃないことは確かか」
「間違いないですね」
「じゃあ他の家の人か」
「本当に誰なんでしょうね」
「気になるな、あっ」
 そうした話をしてるとだ、露店を出している道の右手からだ。
 その女性が来た、ジャーファルの言う通り五人程のガードマンを連れて歩いている。
 全身を覆った黒いヴェールを着ていてだ、鼻筋に金の飾りがある。目の下からのヴェールは薄い網目で黒のヴェールの下もそうした生地だ。目だけが見えるがその目は琥珀色で睫毛は長く確かに奇麗である。
 そしてそのまま左手へと過ぎていった、その女性を最後まで見てからだ。
 バルダートはジャーファルにだ、あらためて言った。
「噂をすればだったな」
「ご登場でしたね」
「相変わらず目が奇麗だったな」
「確かに」
「相当な美人だ」
 バルダートはまたこう言った。 
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