少年は旅行をするようです
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少年は加速するようです Round4
Side 愁磨
「おはよぉー、ハルっち。どったの?元気だねぇ?」
「あ、お、おはよう……。いや、なんでもないよ。」
翌日。沖縄から直接学校に転移し、待っていた丸っこい人物に声をかける。
と言っても一時間目が終わった後だが。翼を取られた翌日だと言うのに、何故か元気な
ハルっち。よろしい、ならば俺も次の策に出られる。
「そだ、放課後暇?」
「え……!?ひ、暇だけど。」
「そぉ、よかった~。ならお家行くから待っててねぇ~。」
「ふぉぉっ!?あ、っびゃ……!?」
奇声を上げるハルっちを置き去り、さっきから手招きする女子の所へ向かう。
さ~て、放課後が楽しみだな!
………
……
…
――バシィィィィィッ!
【A REGISTERED DUEL IS BEGININNING!!】
「そう思っていた時期が私にもありました……。」
「な……!?って、え、ティアシェさんも!?」
五時間目、外でダルっと徒競走をしていたらいきなり加速し、対戦の観戦が始まる。
観戦席ではなく校庭の端にシルバー・クロウと俺のアバターが並んでいる。
空は気色悪い黄色に染まり、雲は黒くうねっている。建物も地面も金属質に光り、かつ生物的な
フォルムとなり、そこかしこに目玉の様なガラスがボコボコ浮き出している。
這い回る虫も金属で、全体的に禍々しい・・・ぶっちゃけ一番嫌いなステージである"煉獄"化した
学校のグラウンドに重厚な青いアバター"シアン・パイル"が現れ―――
「……貴方はもっと慎重派だと思ったんですけれどね、黛先輩。」
校舎の三階から、何らかの方法でマッチングを拒否していた筈の"ダスク・テイカー"が現れる。
おのれ放課後の楽しみを・・・と怒気を上げかけた所で異変を感じる。気のせいかな、黒紫の
アバターからも同等以上の怒気が立ち昇っているような。
「ボクのデータをセコセコ集めて、傾向と対策をこねくり回していざ行動と言う時にはもう
手遅れ……、そんな展開をプレゼントしてあげたかったのになぁ。」
「データは十分に集まった。だからこうしてお前を対戦ステージに引き摺り出せたんだろ?」
こちらも怒っているようなタッくん。だがその得意気な顔(見えないが)を見て更に能美の
オーラがどす黒くなって行く。
「残念ながらお前がマッチングリスト登録を拒否しているカラクリはまだ不明だが、
その防壁が解除される瞬間くらいはもう推測可能なんだよ。」
「か、解除…!?」
「ああ。能美は加速能力を現実世界での利益の為に使っている。たかが剣道部内の練習試合に
ですらね。なら当然それ以外の場面でも使っている筈だ。誰かを叩きのめしたり、宿題を
片付けたり……それに勿論、テストの時も。」
『テスト・・・』とハルっちが呟く。
確かにテスト中は学内ローカルネットとのデータのやり取りを切り離す事が出来ない。
そこで、カンニングしようとした瞬間を狙うとしたら――
「当然、テスト終了間際だ。外部アプリで調べる項目を纏めておいた方が効率が良いからね。
結果はご覧のt「――――なぁ。」……なに?」
自信満々に自分の推理を披露していたタッくんだが、黙って聞いていた能美が何やら呟く。
ゆらりゆらりと上体を揺らし、ガクン!と首を後ろに倒し、叫んだ。
「うるっさいなぁあぁああああああああああああああああああああああああ!!!」
ビリビリビリビリビリ!!
「「うおっ……!?」」
どす黒いオーラが渦巻き空に立ち昇ったかと見紛う程の猛々しい咆哮に、二人はのけぞる。
対し俺は・・・先日戦った腑抜け具合との違いに、少し期待を持った。
そうそう、下手にお高くとまっている様な相手ほどつまらないモノは無い。
「ええ、僕が気に食わないでしょうね!脅して戦わせて羽根を奪われたんですもんね!
でもあんな簡っっっっ単な出任せに騙される方だって悪いでしょう!そもそもその後
奪われたのは貴方の不覚でしょう!?正式な対戦で負けたんだから文句言わないで下さいよ!
そもそも加速をどう使おうが僕の自由でしょうが!それをまぁ全員で寄って集って好きな事
言ってやってくれて!ムカついてるのがあなた達だけだと思ってるんですか!?あぁあ!?」
・・・・・流石の俺も、その豹変具合には唖然とするしかなかった。
普段抑えてる人がキレるとやばいんだなー、と呆けていると我を取り戻したのか、コホンと
咳をして居住まいを正す。
「ふぅー……。僕からしたら加速をゲームの為だけに使ってる方が信じられませんよ。
ならなぜ『ブレイン・バースト』でなければならないんですか?他にもっと残虐で、暴力的で、
しかも無痛のゲームなんて山ほどあるじゃないですか。
結局、あなた達も自分を特権階級だと思ってるんでんすよ。世界に千人の加速能力者だ、他の
鈍間なガキ共とは違うんだ、ってね。そんなエリート様が何を偉そうに説教してるんですか。」
怒りを迸らせ、俺達を絶対に許さないと言いながらも、その立ち姿は悲しい。
ああ、これは知っている。あれは"絶望"した、"諦めた"者の姿だ。
だから・・・絶対に諦めない、互いに思い合う、ハルっちとタッくんを、嫉妬し、憎む。
ヘルメットに浮かぶ単眼が今度こそタッくんを射貫き、不条理に怒る"能美征二"ではなく、
敵を排除し奪う"ダスク・テイカー"に成り代わる。
「まぁいいです。こんな事で僕の現実時間をコンマ1秒でも無駄に出来ません。
とっとと終わらせましょう、あなたのバーストポイントを頂いてね。」
「……い、いいや、僕こそお前が手に入れた物を返して貰うぞ能美。僕の親友から奪った物を!」
戦闘モードに切り替わった相手を見てタッくんも顔を――勿論ないが――引き締め、構えを取る。
空気が張り詰める中、ハルっちは自分が"翼"を奪われた事を親友に知られていた事に驚き、声援も
送るのも忘れ固まっていたが、丸いヘルメットをバシンと叩くと、気合を入れ直し叫んだ。
「勝て、タク!俺の為じゃなく、お前の力を分からせてやる為に!!」
「勝つさ。君の翼を取り戻す為にね、ハル!」
「あーあ……嫌なモノ見せないでくださいよ……。」
・・・そのやり取りに、心底ノワールが居なくて良かったと安心する。もし居たのなら吐血と鼻血で
ぶっ倒れていた事だろう。・・・あれ、観戦って距離的制限あるんだっけ?単に登録してないだけ?
いや、ならヒメちゃんは居るハズ・・・ってあぁ、学校だから外から来れないのか。
どうも細かい設定には『答えを出す者』が上手く働かない事が多いし、設定をし直すか、と考え事を
していたら、ハルっちが何事か叫んだのとほぼ同時に、重厚なアバターが見合わぬ速度で突撃する。
巨体に有り得ない速度を可能にしているのは右手のパイルドライバーだ。
「ラァッ!!」
ゴッ!
突撃の速度をそのままに繰り出された正拳は霞む程のスピードで、虚をつかれたのか一瞬動きの
遅れたダスク・テイカーの顔面に迫る。回避を諦め腕をクロスさせガードを取るが、重量級の
シアン・パイルは構わず、その上から打ち抜かんばかりに叩き付ける。
ガカァァン!!
「ぐぅっ!」
ガードごと吹き飛ばされた小柄なアバターは空中で回転・制動し、左腕の触手を伸ばして地面から
生えた隆起を掴み、建物への突撃を避け着地。片膝をついた状態で右手のボルトクリッパーを
突き出し、シアン・パイルを牽制する。今の一瞬の攻防だけでも・・・何と言うか。
「……なってないなぁ。」
「え、なんですか?」
「うんにゃ、なんでもないよー。」
かなりの小声を耳聡く拾ったハルっちに手を振り、対峙する大小のアバターを見やる。
初めのパイルでの加速突撃は意表をつく意味では良かったが、その次の正拳はダメだ。あんなもの
迎撃してくださいと言わんばかりの攻撃だ。普通ならばフェイントに使うか、でなければ追撃
しなければ意味が無い。そもそも避けられていない事が奇跡的ですらある。
つまり更に落第点なのがダスク・テイカーだ。距離を開けたいにしてもあの両腕の武装を持って
いながら必殺ゲージに見合わないダメージなど受ける意味が全く分からない。触手を伸ばせない
までも、それで受ければダメージを軽減できるし、クリッパーであればダメージを喰らおうと拳か
良ければ左腕ごと頂けている場面だった。所詮は精神の弱い他人を脅して手に入れた力。
「つまらんなぁ………。」
今度の呟きは、いつの間にか前に出て能美相手に叫んでいるハルっちには届かなかった。
俺と戦った事で油断を払い、初手から本気を出してくれる事を期待したんだが・・・上手く
行かないものだ。
そうこうしている内に三体のアバターは校舎内に消え、観戦者である俺は強制的に観戦出来る
校舎内に移動させられる。丁度、廊下に追い詰められた小型アバターが裏取りをしようとして
突撃した所を、大型アバターのストンプで発生させた震動でよろめき、蹴り飛ばされ再び廊下の
奥に弾き戻されたところだった。
「無駄だ、後ろは取らせないよ。最初から校舎内で戦いになっていたらもっと決着は早かった。
今後、テストの度に僕に乱入されたくなければ、奪った羽根をクロウに返すんだ。
そうすれば少なくとも僕は君に対して不干渉でいてやる。さぁ……どうする?」
―――危うく、フル○タのゲイツばりに『青いんだよォオォォ!』と叫びかけた。むしろ叫びたい。
冷静な計算が出来、かつ諦めも意地も悪い相手に取引を持ち掛ける時は追い詰めてからでないと。
それを示すように能美は余裕たっぷりに溜めを作り、溜息をついて首を横に振った。
「……黛先輩ならこの馬鹿馬鹿しい口約束も律儀に守るんでしょうね。まったく……世の中に、
いや、同じ学校にここまで価値観の違う人間が居るとは。………『全武装解除』。」
呆れを全面に出した能美が謎のコマンドを唱えると、両腕に着いた武装がバラリと崩れ、
地面に落ちた。それを諦めと見たのか、ハルっちとタッくんは目に見えて安心する。
しかしそれを嘲笑うかの様に、完全に無武装となったか細いアバターは腰を落とし構える。
「別に降参するって訳じゃないですよ。ただ、両手が塞がってたらこの"奥の手"は使えないので。」
「お、奥の手……!?」
「まだ続けると言うのなら、もう容赦はしないぞ能美!僕はあらゆる機会を捉えてお前と戦う。
そして叩き潰す。それでもいいのか!?」
"奥の手"を隠していると言う相手に、尚もこちらが上であると警告を続けるタッくん。
それに対する能美の答えは無く、代わりにこれから自分が行う事への嫌悪を盛大な溜息で
吐き出した。俺もいい加減心の中でツッコむのも疲れたので置いておこう。
「……やれやれ、嫌なんですよね。こんな本気っぽい真似するの。必殺技の発声だって
したくないってのに……でも、まぁ仕方ないですよね……。」
そう言ったダスク・テイカーが両手を使い三角形を作る。気功砲でも撃つのかと思ったが、
続いて出たのは呪詛の言葉。
「―――トル。エル。ツカム。ケズル。ウバウ。ウバウ、ウバウウバウ、ウ、バ、ウ……!」
―――ィィィィイイイイイイイイイイン!
初めに甲高い震動音が生まれ、直ぐに金属質の高周波に変わる。そして両手がどす黒い紫の波動に
包まれて行き、周囲にスパークが奔る。必殺技かと思われたが、ゲージが減らない事からその
可能性は排除される。
「た、タク!俺の事はもういい、今すぐ倒せ!!」
「――≪ライトニング・シアン・スパイク≫!!」
ジャゥッ!
ハルっちの必死の叫びに応じ、必殺技が放たれる。今度はシアン・パイルの溜まっていた
ゲージが減少し、同時に杭打機が火を噴き杭がダスク・テイカーを襲う。
初手の正拳を超える速度で近距離から放たれたそれは、避けも防げも出来ない筈だった。
ビシッ
「………………な……。」
しかし、ダスク・テイカーは紫の波動に包まれた二本の指だけでそれを止めた。
そしてタッくんの絶句と共に、光の杭はブラックホールの様な波動に飲み込まれ消えた。
・・・成程、あれが"心意システム"と呼ばれる裏技か。確か攻撃・装甲・移動・射程の四つを
強化する、ある意味では真の必殺技。と言う事は今のは攻撃威力拡張になるのか?
と、いつもなら嘲りの一言でも言う能美が静かな事に気付いたと同時、無言のまま突撃。
近距離では掻き消えたと見紛うであろう速度で大型アバターに接近すると、鉤爪のように曲げた
右手で、空間ごと抉れろばかりに大振りに薙ぐ。
「ぐっ……!?」
相手の急激な超強化に衝撃を受けているだろうが、攻撃を見て流石の反射神経でギリギリで
バックステップして直撃は避けたが、胸部のアーマーは敵の細腕では有り得ない膂力を持って
深々と爪痕を付けられる。攻撃威力拡張と言うよりは、アバターの特性をより前に出し、攻撃と
して使っている感じだ。
その防御不能かつ防御力無視の攻撃を前に臆する事無く、シアン・パイルは即座に反撃に移る。
攻撃を半分避けられた分、僅かに態勢を崩した細い脇腹にボディブロー気味に杭打機を突き付け、
そのまま射出する。しかし、サイドブースターでも使ったかの様に横にブレたダスク・テイカーに
簡単に避けられる。そして突き出た杭は根元を掴まれると、毒液に漬けられた様な音を立てて
消滅し、重い音を立て転がる。その後もシアン・パイルが果敢に攻めるも一切通用せず、体から
吹き出すスパークを増やし続け、遂に痛覚フィードバックに耐えられず膝をついた。
「なるべく見せたくはなかったんですけれどね……まぁ理解も出来ないでしょうけれど、でも
これで分かったでしょう?力の差と言うものを。僕に従うしかない現実をね。」
「き、さま……!」
ガッ!
尚も立ち上がろうとしたシアン・パイルの頭を蹴り飛ばし、頭を踏みつける。
つい三十秒前までボコボコにされていた姿とは思えない。まるで普通の対戦格闘ゲームに
MUGENのキャラが現れた様なワンサイド、正にチートだ。成程これはつまらん。
創造者と被創造物と同じくシステム的優位差があるらしいが、プレイヤー同士でそれはダメだろ。
「さて、もういいか。」
今日の主目的・・・即ち放課後にハルっちに聞こうと思っていた"心意"を思わぬ所で見れた
俺はそこそこ満足し、メニューから途中退場を選ぶ。この先の展開は大体覚えているし、
バトルロワイアルに巻き込まれた後での途中退場は負け扱いになってしまう。そんなのは不本意も
甚だしい。と言うか無駄に過ぎる。そんな訳で俺は先に観戦席から離脱、僅かなタイムラグを経て
現実時間へと戻り、あと僅かだったゴールまでを走り切っておく。
遅れて数瞬、俺の数十メートル後方を走っていたハルっちは猛然とダッシュ、ゴールしても尚
止まる事無く走って行き、昇降口手前でタッくんに止められて言い争っていた。
それを一瞥して、俺は残りの授業をサボりポイント稼ぎでもしようかと、邪魔の入らない家へ
転移する。誰か居るかと思ったのだが、流石に仕事やら授業やらで出払っているようだった。
「ノワールは良いよなぁ……美少女達と一緒に修学旅行行って、水着でキャッキャして……。
俺なんか男所帯で見たくもない試合見て、胸糞展開に付き合わないといけないんだぞ?
いやだなぁ、めんどくさいなぁ、寂しいなぁ………あーやる気出ないなぁ…………。」
居間のソファに座った途端、作業ゲーさえする気も萎え、横になってしまう。
―――つまりはこれが、俺が"召喚系アバター"を手に入れてしまった理由なんだろう。想い慕う
誰かと常に一緒に居たいという願い。あるいは執着。そして他者を受け入れないからこそ防御力が
高く、"召喚"するまでは何も持たない――よく考えれば、剣と盾さえオウカの物なんだろう――
誰かと組んだ時こそ真価を発揮する・・・そんなアバターになったんだろう。
「分かった所でどーしたっつの。はぁ…………。」
ガチャッ
「ただいま――って、愁磨さん。どうしたんだい?」
「あー、真名ぁ……おかえり、ひさしぶりぃ………。」
「一昨日ぶりだからそこまで久しぶりでもないけど。……お疲れみたいだね。」
そう言うと、突っ伏した俺の頭を持ち上げ膝枕をし、後ろ頭を撫でてくれる真名。
・・・顔を恥ずかしいのかも知れないが、その、肉付きのよろしい太ももに顔を埋められる方が
恥ずかしいんじゃないかなーと思うんだが。と言うか俺が苦しい。息をすると小さく声を上げ、
身震いされるものだから、気を遣って仕方ない。
「………お仕事、私も手伝っていいかな?」
「へっ?……なんでまた。」
予想外の申し出に、素で疑問を返してしまう。喋られて流石に我慢出来なくなったのか頭を回され、
それから暫く髪を梳かれたり指にクルクル巻かれたりされるがままにして、答えを待つ。
「愁磨さんはあちこち行っているだろう?けれど、何も手伝えていないと思って……。
ノワールさんはいつも一緒だし、アリアも何度か手伝っているし……だから、その……つまり……。」
「………つまり?」
珍しく言い淀む真名の言いたい事がさっぱり分からず、聞き返すのと一緒に顔をチラ見すると・・・
更に珍しく顔を赤らめた真名と目が合い、べチンと目を塞がれてしまう。
「…………二人だけ……ずるい。」
「ぶっ!」
「わっ、笑うな!らしくないのは分かってるよ!」
「いや、すまんすまん。そう言う事じゃなくて。」
凄まじく可愛いらしい事を言われ思わず吹き出す。でも真名は馬鹿にされたと思ったのか
そっぽを向かれてしまう。思い切り抱きしめようとして起きた所で、自分がミニモードだったのを
思い出し大人モードに戻って、礼をするように正面から抱きしめる。
「ありがとう、真名。助かるよ。心強い。お前が居てくれてよかった。」
「そ、そこまで言わなくていい!……けど…………ありがとう。」
「ふふ、感謝してるのは俺だって。それじゃ、ホイこれ。」
もう一度心の中で感謝を言って、前回渡し損ねた真名用に創っておいた濃いオレンジの
ニューロリンカーを渡し、機器とブレイン・バーストについて軽く説明する。
さしもの真名も自分のトラウマからアバターが作られると聞いた時は眉を潜めたが、取り敢えず
俺達の時と同じく、直結対戦して触ってから向うの世界へ行く事になった。
「んじゃ、どうぞ。」
「意外と緊張するね……『バーストリンク』!!」
バシィッ!
―――【HERE COMES A NEW CHALLENGER!!】
真名が叫ぶとほぼ同時に目の前に炎の文字が現れ、加速する。再度体が小さくなる感覚と共に
鎧と両手の武装が形成され、既に見慣れた"ティアシェ・フェアリィ"の姿になる。
そして【FIGHT!!】の表示と共に視界一杯が白銀に染められる。フィールドの全てが氷と雪で
作られた"氷雪ステージ"だ。個人的には壊しやすい・眩しい・綺麗・色が近いから隠れやすいと
概ね高評価。とステージの批評はそこそこに、移動しつつ相手の名前を見てまたしても吹き出す。
「パープル……ベヨネッタ?純色だしおもっくそ強そうなんですけど。」
恐らくは"銃剣"を差す、非常に分かり易い名前。近距離の青と遠距離の赤の混ざりだから
ほぼ間違いないだろう。と、予想より早く真っ白なステージを進んで来る紫のアバターを発見する。
「愁磨さんはまた小さいんだね。カワイイけれど。」
「………そう言うお前は相変わらずでいいなぁ。」
会った途端頭を撫でて来る頭三つ分は高い高身長のアバターを見やる。
そのフォルムは一言で表すなら戦乙女。防御目的と言うよりは装飾目的な線の細い兜に、長い髪が
背中の中程まで伸びている。現実同様凄まじい破壊力を持つ胸部アーマーは無駄に丸みを帯び、
所謂"南半球"を覆うタイプの鎧に守られているせいで、ロボ萌えには若干目のやり場に困る事に
なっている。しかし腕にはそれらと不釣り合いなほどゴツいガントレットが嵌められ、肘までが
二の腕の三倍程に膨れ上がっている。腰からは後ろに3枚の長い花弁型と横に板状のアーマーが
伸びる。そこから覗く脚にも膝上まであるブーツ型の鎧が履かれており・・・と、そこで俺は
違和感を覚えた。武器が無いのだ。名前にもある"銃剣"がどこにも。
「真名、技でなんかない?ここら辺を押せばメニュー出るんだけど。」
「固有技の説明があるのか。それは助かる……ふむ、これか。」
説明を見た真名が右手を振ると、あの無駄にデカいガントレットから拳銃がシャコンと出る。
続き、左腕からも同様に拳銃を射出する。あ、あれは中二病少年の夢!しかもデザートイーグル
・・・っぽい銃!マジでウチの女性陣ずるいんですけど。
「それで……こう。」
その出した拳銃を腰から伸びる板状のアーマーに付け、銃撃し引き抜く。すると幅の広い、
太刀程もある片刃の銃剣――と言って良い長さなのか――が銃身に付いて抜刀される。
二丁拳銃かつ二刀流・・・つまりガンソードの二刀流の完成だ。
「えーと、この状態で……≪チェンジ・アサルト≫!」
「……真名、攻撃しないと必殺は使えないぞ。」
「ああ成程。この下のゲージが必殺の分なんだね、理解した。」
と、そこで必殺技をコールする真名だが、ゲージが0%の状態では何も起こらない。
一応軽く説明していた事を再度伝えると、そこらにある氷柱を銃撃と斬撃でバッタバッタ薙ぎ
倒していく。装弾数は丁度十発で、リロード時はマガジンを捨ててからガントレットに付けると
マガジンが射出されリロードされる仕組みらしい。そして50%も溜まった状態で再度コール。
「こんなものかな?≪チェンジ・アサルト≫!」
ガション!
ゲージが10%程度減るのと同時、ガントレットが外れ、拳銃に取りついて変形する。それも一瞬で
完了し、手に握られているのはFA-MASに似た形状のアサルトライフル。だが簡素かつ洗練された
フォルムではなく、SFに出て来るような銃だ。しかも太刀付きと言うマニアック極まる改造を
された。現実であれば明らかに重量過多であるが、青系の筋力補正でもあるのか、重さを感じさせない
取り回しで二丁銃剣使いこなす。暫く振り回すと満足したのか納刀すると、アサルトライフルも元の
ガントレットに戻り、手を離すと拳銃も格納された。
「お疲れさん、どうだ?」
「余計な物が付いていて少し体が流れるのが気になるかな。あと………。」
「あと?」
「………いいや、昔の私からはこう見えていたんだろうと思ってね。ふふふ、ケイジが使って
いたのはグロックにスぺツナズナイフだと言うのに。」
「…………そうか。」
寂しげに、けれど懐かしむ響きで今はいない兄を思う真名の頭を撫でようとし・・・絶対に
無理な身長差である事を思い出す。ぐぬぬと唸ると、察した真名にクスリと笑われ、逆にまたしても
撫でられてしまう。
「講釈はもういいよ、戻ろう。」
「うぬぬ……戻ったら思いっ切りワシャワシャしてやる。」
「それは良い。私もこんな硬い感触では満足出来ないからね。」
俺も撫でられるのねと呆れ半分嬉しさ半分でドロー申請を出し、家に戻る。
すると横に座っていた真名が飛びついて来て頭をわっしわっしと撫でて来るので、
お返しと、ム○ゴロウさんばりに『よーしょーしょーし!』と小一時間撫で返し―――
「…………………何をしているんだ、お前らは。」
帰って来たエヴァに白い目で見られた時、俺と真名の頭は鳥の巣になっていた。
その後、俺らに捕まえられたエヴァも鳥の巣頭になったのは言うまでもない。
Side out
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