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Fate/GrandOrder///OutBre;ak

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魔眼の少女と真瞳少女

 Fateって運命って意味なんだってね。
 僕は運命を信じない。でも、必然は信じるよ。
 運命からは逃れられない、運命には抗えない。
 そんな幻想、無視無視……不可能なんて幻想さ。
 僕らの生きる世界はとても合理的で単純な思考で構成された矛盾の世界。そんな世界で生きるのも死ぬのも人間❮プレイヤー❯次第、死ぬのは生きるより簡単だ。
 生きるのは死ぬより難しい。そんな簡単な矛盾の中で人間は真理を求め、この世界の真実を探求する。
 あぁ、真実なんてのはどっかの誰かさんが作った通過点に過ぎないってのにさ。
 魔術師も魔法使いも変わらない。
 人間から生み出されたのならそれは変わらない。
 魔眼を宿した少女の言葉で例えるなら。

 ―――――――生きているのなら、神様だって殺してやる。

 うーん……凄く馬鹿ぽっい台詞だけど合理的だ。
 まぁ、生きてるなら殺せない訳はないね。
 その言葉を返す様にこんな言葉も有るけど。

 ―――――――生きているのなら、神様だって殺してみせろ。

 他人まかせみたいに聞こえるけど。その少女は生きているのなら神様だって殺せる魔眼の持ち主だからね。
 他人まかせってより自分が出来て他人に出来ない事はないって考えてるのかも。まぁ、僕には不可能だ。
 生きていようが死んでようがそれが神様なら尚更だ。
 殺せないのに死なない訳ないじゃん。
 おっと……それだと矛盾が生じるね。
 もし、もしにだよ。その神様が死んでたなら殺せるのか?
 死んでるのに殺すってのはおかしな話だけどこの«もし»が重要なんだ。
 矛盾ってより可能性なんだけど。
 生きているのなら神様だって殺してやる、は生きている神様にしか適用されない。でも、死んだ神様には適用されないってのはおかしな話じゃないかな?
 生きているのなら神様だって殺してやるだよ?
 死んでても殺せると思うんだよね。
 少女の宿す魔眼は死を司るらしいけど生きているの物しか適用されないのは至極、残念だ。
 あれ? でも、あの魔眼って幽霊に効いてたような……。
 幽霊って生きてるのかな? 生物学的に死んでるけど霊体としては生きてるって事なのかな?
 流石に専門じゃないから分かんないけど……これはちょっと面白いね。
 もし、その神様は一度死んだとしても。
 とある形で生きているのなら殺せるのか?
 死んでるけど生きている、生きているけど死んでいる。
 さぁ、どっちなのか。わくわくするな~どうなるんだろ!
 むう……僕も式さんの真似で一言。

 ―――――生きているのなら、神様だって【殺】してやる。

 うん♪上出来!
 ルンルン♪と少女は雨の中をスキップする。
 その姿はさながら親の帰りを待つ少女の様な……。
 帰らない者を何時までも待ち続ける、何時か帰ってくると信じているわがままな子供の様に。
 悲しい笑顔を絶やさず、これからやってくるFateに感謝を込めて。

「早く会えるといいね、お兄ちゃん」



 目を覚ますとそこは人混みのど真ん中だった。
 人。人。人。人。
 見渡す限り人で埋め尽くされた俺の視界は万華鏡の様に人間達を映し出し、その人の気配の多さに眩暈しそうだ。
 周囲はビル群に囲まれている。
 って事は近代的な時間軸なのか……。
 古すぎず、現代的な文明から察するに十年位前の世界と予想する。
 人混みの波は終わらない。
 歩かなければその人混みに飲み込まれる様な。
 気ままに人混みに紛れながらもこの時代の流れを模索し、異常な魔力の流れが無いか確認する。
 …………これといって問題点はない。
 少し周囲を確認しただけでも断言できる。
 何故、そこまではっきりと言えるのかは自分でもよく分からない。だが、この世界は至って普通に溢れた世界と言えるのは確かだった。
 そう、魔術師から見ればこの世界は普通の、普通の世界だ。
 そしてここが日本って事も分かった。
 周囲の人間の殆どが日本語で会話し日本の通貨で買物をしている。外人も暫し見やれるが観光に来た外国人だろう。
 さてさて、この世界は自然な世界だぞ。

 ――――㌧

 ぶつかった。
 あちゃ……前、見てなかった。
「あの、すみま……」
 ぶつかった相手は着物美人だった。
 突然の着物姿に言葉を失った。それに……着物から上の服、もしかして革ジャン?
 思考回路がぐるりぐるりと回転し色々とツッコミ所満載の着物美人は。
「お前―――変わってるな」
「え?」
 その瞳は魔力を帯びていた。
 魔術師なのに魔術を使えない俺ですらはっきりと解るその魔眼は俺を凝視する。
 これ程、魔力を帯びた魔眼は生まれて初めて見るけど……なんか違和感を感じる。
「あ、あの……」
「まぁ、私には関係ないか」
 そう言って着物美人は去っていった。
 人混みを避ける様に。人混みに慣れてるのかすらすらと人混みを避け、姿を消してしまった。
 あの人、何者なんだろう……。
 魔術師……いや、魔術師には見えなかった。
 生まれつきの魔眼持ち? 魔眼の種類は分かんないけどアレは魔眼の中でも上位クラスだ。
 ポピュラーな魔眼じゃないな。
 例えば呪眼とか。
 人を縛るタイプの魔眼なら俺を見た瞬間、俺の身体は金縛りに合ってる筈だ。それに周囲の人間も。
 危険な魔眼なのに危険と感じさせないあの魔眼……カルデアの科学者達なら知ってるかも知れないけど俺みたいな凡人以下の魔術師には解る筈もなく。
「はぁ、探しますか」
 カルデアからのリンクは切れている。
 何かアクシデントがあったのかもしれない。
 まぁ、暇な時間を有効活用するのは良いことだ。
 それにあの魔眼の持ち主なら何かこの世界の異常に気付いてるかも知れないし。
 俺から見ればこの世界は普通だった。何の異常も見当たらず、何の代わり映えも感じさせない世界だった。
 だが、俺が気付けなかったウイルスをあの着物美人は知っているかもしれない。その可能性は有るしすることもない俺は着物美人を追い掛ける。


 幽霊マンションって知ってる?
 結構マイナーな話なんだけど。ここら一体のマンションで死んだ人間の死因をコピーした博物館って言えば判りやすいかな。
 そのマンションでは死んだ命日の人間の時間を繰り返し何度も何度もループさせる。
 何でも死ぬ先を知りたい魔術師が作ったらしんだけど、僕の知る限り、人間は死ぬと無になる。
 無って言われても実感、湧かないよね。僕も詳しく知らないけど死ねば解る……って人間、簡単に死にたいなんて思わないよね。
 死ぬ先を知るなら実際、死んでみないと分からない。
 生の実感を試したいから自殺をする輩は一向に減らない訳で自殺した人間は死の先を体験したのかも知れない。
 その先は何なのか? 僕にも検討が付かない。
 でも、確かに一つ言える事は。

「死んでも天国なんてユートピアには行けないよ」

 それは確かな事だった。
 人を庇って死のうが、人を殺して死ぬうが、殺されて死のうが、変わらない。
 死んで辿り着く場所は等しく平等、僕らの世界はそうやって出来ている。
 幽霊マンションでは毎日、同じ『死』を繰り返し、毎回、同じ時間帯、同じ日時に殺害される。
 ビデオテープに殺害の瞬間を録っててそれを毎日繰り返し流してるって解釈も出来るけど。それは違う。
 いいかい、そこで死んでるんだ。
 繰り返し、繰り返し、死んでるんだよ。
 記憶は保持されず、繰り返し死ぬんだ。
 全く同じ殺され方で毎回、毎日、永遠と殺される。
 でも、不思議な事にそのマンションでは殺した側の人間も居るって事なんだ。
 不思議だろ? 殺した人間と殺された人間が居るなんて。
 まぁ、結論から言えば殺した人間は殺された人間を殺した後、全員、自殺しちゃったんだよね。
 まるで殺した人間の死を追うように自らの手で自身の命を絶って……。
 その死を永遠とループさせる幽霊マンション。
 様々な死因を集めた死のマンションはループを抜け出す為に作られたって話を知ってる?
 いやー。知らなくて当然だよ、寧ろ知ってたらドン引きしてるから。
 因果応報って奴さ。繰り返される死は人間を成長させるのかって話だけど。死を体験した人間は恐怖を記憶し新たなる恐怖を体験する。その恐怖は繰り返される程、心に身体に命に刻み込まれる。
 結果、何時か別のルートが出来るんじゃないのか?
 死んだ人間の運命は変わらない。そこで死んだんだ、変わる事は絶対にありえない。でも、その死を何度も体験させたら……どうかな?
 同じ何度も何度も体験したら馬鹿でも慣れると思うんだよね。
 殺される、殺された、俺は、私は、アタシは、ワシは、ウチは―――――殺される。
 恐怖は死すら凌駕する。根拠はない、関心もない。
 でも、繰り返される自身の死に魂魄って奴は耐えられないのさ。
 魂はその死を恐怖し、その死から逃れようと抗う。
 決められた運命からは逃れられない。
 だが、もし、その運命から逃れられたら……。
 その螺旋から外れたのならその運命は、その人間はどうなるのか?


「ちょッ……待って!」
 ハァハァッ……と走りながら必死に着物美人を呼び止める。
 着物美人はそんな俺の呼び止めを無視しせっせと足を早め。
 複雑な路地に入っていった。
 その路地の入り口は不確かだった。
 入ろうとすると自然と身体は逆を向いていたり、入ってはならないと思ったりと。まるで結界の様な…………。
 って待て。これって結界じゃないのか?
 手を差し伸べ、目を閉じる。
 心の目でその手の先をイメージし脳内で具現化する。
 はっきりとは見えないし解らない。だが、明らかに色が違う事は分かった。
 うっすらと見えるその色は紅。
 真っ赤な紅色の筈なのに……不思議と透けて見える。
 恐らく結界を貼った人間の趣味だろう。
 結界を貼ってるのに先が見えるなんて……意味あるのか?
 まぁ、その結界の存在に気付けなければ意味はないだろうけど。
 俺は差し出した手を更に進ませ結界の奥へと滑り込ませる。
 壊すんじゃない。侵入くるんじゃない。
 その結界と同化するイメージで身体を結界へと運ばせた。
 □□■□■■■■□□■□□□■□
  □□■□■■■■□□■□□□■□
  □□■□■■■■□□■□□□■□
 結界は複雑で短調だった。
 入る者は拒まず、帰る者は帰らすと。
 そんな設定で結界はこの路地全体を覆っており隠すと言うよりは紛らわすに近い結界だった。
 その景色と同化させる様な。
 本来見える筈の物を見えなくする結界、それを見せない様に見せかけ実は隠してるけど実は隠しきれてない。
 結界を張った魔術師は敢えて誤魔化す様に結界を張ったのだと理解するより納得した。
 成程、実に合理的だ。
 言うならば俺と似てる。
 この結界の主と俺は同類だ。
 そう確信し俺は足を進めた。
 その先は明るかったり暗かったりと曖昧で人気のない路地裏と思ったけど。案外、綺麗だったりするし。
 手入れの行き届いた裏路地ってもの乙なものだ。
 入り口以外に結界は貼られておらず、それ以外の結界は見当たらない。確認出来ない、確認出来ていない可能性も有るけどこれ以上の無駄な作業はしないと断定できた。
 その魔術師は俺と似てると分かった異常、そんな事はしない。
 不思議と思えた感覚に笑みをこぼしながら進むと。
「あれ……」
 一際、異彩を放つ建物を発見した。
 その建物から発せられるのは警告、近付けば命はない。
 と言わんばかりの殺意を感じた。
 でも、実際は。
「なんだ、こんなの」
 チョンッと指先を当てただけで世界の色は変わった。
 殺意は消えた。あるのは先程と変わらない好奇心だけだ。
 階段を登り、鼻歌交じりの上機嫌で俺は目的地の扉を開けた。

「伽藍と堂へようこそ」

 扉を開けた瞬間、煙草の独特な香りにむせそうになった。
 単に俺が煙草嫌いだからではない。その煙草の匂いが変だったからだ。
「何が、お希望かな?
 ……と本来ならふざけ半分で言ってるんだがね」
 その女性は紅だった。
 雰囲気……それも有るけど色で表すなら紅だ。
 綺麗な人だ……着物美人と同じそれ以上かも。
「あの、ここは?」
「ここ? 私の経営する建築デザイン事務所«伽藍の堂»だけど」
「……変わった名前ですね」
「ありがとう」
「え?」
「君は今、この店の名前を変だと思ったろ?
 それは私にとっては褒め言葉なのさ」
 褒め言葉、この人はやっぱり俺と。
「で、君は何者なのかな?」
 穏やかな空気だった。
 本来なら結界をすり抜けた免れざる客の筈なのに。
「俺は天城、天城 輝信です」
「ふぅーん。変わった名前だね」
「ありがとうございます」
「おや、そのくちぶりだと君も……」
「はい、変わった名前は僕にとっては褒め言葉です」
 互にうっすら笑いながら。
「君、なかなか分かってるじゃないか」
「はい、貴女も」
「まぁ、そんな所に立ってないで座りなよ」
 そう言って紅色の女性は席を立ち、珈琲カップを取り出した。
 俺はその建物の中を観察しながら入ると。
「これ……魔力を帯びてる」
「おぉ、分かるかい。
 それは数百年前に作られたナイフだ」
 よく見渡せばこの建物の中からは異様な魔力を感じる。
「そのナイフから魔力を感じられるって事は相当、腕の立つ魔術師だね」
「いえ、そんな……」
「まぁ、ここに入れる位だ。それくらい感じとれて当然なんだけど。それなら逆に変だね」
「変……ですか?」
「君は私を見た瞬間、結界の主は私と判断できたろ。
 なのに先程、反応は妙だった。
 まるで……何かに怯えてる様な」
「…………」
「いや、すまないね。
 変な事を聞いた。今のは忘れてくれ」
 女性は淹れたての珈琲カップを差し出すと。
「あぁ、そう言えば自己紹介がまだだった。
 私の名前は蒼崎 橙子。ここの社長だ」
「さっき言ってましたね、伽藍の堂でしたっけ」
「そう、建築デザイン事務所」
 ここの部屋のデザインは私が考えたんだよ~とぼやいている所を見ると本当に社長さんのようだった。
 言うだけあってこの部屋の内装は変わっていた。
 独特な……天才は変人って言うけど本当かも知れない。
 例えばテレビ。そのテレビは普通だった。
 だが、複数のテレビと合わせる事で奇妙なオブジェクトに変貌している。
 探偵事務所の様な机、その机の上にはガラクタやら魔術書やら何やらで埋め尽くされており、余り女性の机とは思いたくない。
「それで君はどうやってここを?」
 それは奇妙な質問だった。
「いやーね。一帯に張られてる結界は人を避ける為の結界ではなくて人を寄せ付けない結界なんだ。普通、気付く以前に足を踏み入れる事すらありえないんだ。
 それが、魔術師であってもね」
「あぁ、確かに……」
 結界に触れた時の事を思い出す。
 普通の結界より緩めに貼ってあるけど効果は絶大だった。
 避けるより、寄せ付けないってのは強固な護りだ。
 でも、俺はそれを安安と越えた。
「と言っても居るんだよね。
 結界をすり抜け、ここまで来る来訪者は」
「俺はその分類ですよ。
 本来ならすり抜けなんて荒業、通用する訳ないですから」
「荒業ねぇ……その言葉から察するに君はあの結界に干渉しすり抜けた」
「えぇ、まぁ」
 蒼崎は珈琲カップを机に起き。
 俺の頭から爪先まで見通した。
「ふぅーん。成程、君は変わってるね天城」
 褒められてる様な驚かれてる様な。
 そんな中途半端なニュアンスに困りつつも俺は珈琲を呑んだ。
「……あの、この珈琲って」
 物凄く苦い。
「苦さは旨味だよ、少年」
 ニコッと笑いながら大人の女性は砂糖の詰まった瓶を手渡した。
「どうも……その蒼崎さんはよく飲めますね」
「慣れさ、慣れるとこの苦さは格別だよ」
 その言葉を偽る様に俺は大量の砂糖を珈琲にぶち込んだ。
 そして何度も何度もスプーンでかき混ぜ……一口。
 うぅ、まだ……苦いってばよ。
 だが、呑めなくはない。さっきのに比べれば天と地のさだ。
 ふぅー。と一息付くと。
「さて、話を続けるけどいいかな?」
「あ、はい」
 そうだ……呑気に珈琲なんて飲んでる場合じゃない。
 俺はあの着物美人を探してる最中じゃないか。
「まず、私の質問に答えてもられるかな?」
「はい、」
「まず一つ、君は魔術師。そうだね」
「……はい、と言いたいですけど半分正解で半分ハズレです」
 その言葉に蒼崎は疑問を浮かべると。
「そいつ、橙子と違って足りないよ」
 その声は蒼崎の声では無かった。
 俺は後ろに振り向くと……。
「お帰り、式」
 それは俺の探してい着物美人だった。
「で、その足りないってのは?」
「あぁ、魔術師? まぁ、橙子みたいな奴らは皆、身体に妙な色を持ってる。それは血管のみたいに体内に張り巡らされてて回路……うーん。解釈が難しいけど一言で言うなら血管?」
「血管、血管ねぇ。二度も魔術回路を血管と例えられると何とも言えないけど」
「五月蝿い。何って言えばいいのか判らなかったんだ」
 羽織っていた革ジャンを椅子に掛け、着物美人 式は青色の瞳で俺を見通した。
「コイツは橙子らと違ってそれはない。
 まぁ、普通の人間だけど。普通じゃないのは確かだ」
「普通だけど普通じゃない。
 式はどっちの人間だと思う?」
「さぁな。まぁ、白じゃないかな」
「私も白だ、この少年の目は澄んでいる。
 汚れを知らない黒色だ」
 汚れを知らない……黒色?
 俺の瞳の色って蒼だった様な……。
「天城君、君は半分正解で半分ハズレって言ってたけど。
 それってどういう意味なの?」
「どういう意味って言われても……そのままの意味ですよ」
「そのままの意味って。それを解釈すると君は魔術師なのに魔術回路を持っていないって事になるけど」
「……それでも間違いでは有りません。違うと言えば違うんですけど」

【―――――甘――城君】

 今、微かに聞こえた。
 その声は雑音ではばかられ、その声の主は解らなかった。
 でも、確かに……俺の名前を。
「今の……」
「甘城、それは……」
 ガシッと右手を掴まれた。
「あ、蒼崎さん?」
「お前、聖杯戦争の『マスター』だったのか」
 その蒼崎は先程の蒼崎とは別人だった。
 あの優しそうな温和なオーラを出していた蒼崎は眼鏡を外し、裸眼の目で俺の右手を見据えていた。
「さっきの魔術の発動で気付くなんて私も鈍ったね」
「魔術……じゃぁ、先の声は」
「恐らく君の知人、或いはサーヴァント」
「聖杯戦争?」
 式は聞き慣れない言葉を復唱した。
「式は知らなくていい。
 アレは関わっちゃいけない……」
 聖杯戦争……それは殺し合いだ。
 七人のマスターは駒となる使い魔『サーヴァント』を使役し殺し合う。最後に生き残ったマスターは聖杯を勝ち取り、どんな願いも叶えられる万能釜を与えられると言われている。
「その……蒼崎さん…………」
「お前は聖杯戦争に参加して何をたくらんでいる?」
「何をって……俺は別に」
「聖杯は人の、人間の希望に反応しマスターの資格を与える。お前には叶えたい願いに聖杯が反応したって事だ」
 それは、知っている。
 この令呪は俺が望んでいたものだ。
「待って下さい、俺は聖杯に興味は有りません」
 本心だった。
「興味は有りませんだと? 聖杯はどんな希望も叶えられる万能の釜だ。その聖杯に選ばれたんだ。
 お前は叶えたい希望を持っている。それも、人の力では叶えられない希望を」
 知ってる、知ってるけど。
 俺は希望なんて無いんだ。
「参ったね……こりゃ。
 私の憶測だと後、四十年は猶予が有ると思ってたんだが」
「いえ、この令呪は……」
 未来から、或いは別の世界から来ましたなんて言えない。
 言っても信じられる確信はない。でも、これで分かった。
 この時間軸、この世界でも聖杯戦争は行われている。
 それも俺の方の世界と大差ない様だ。




「貴様、何者だ?」
 それは少し未来の聖杯戦争でのお話。
 ランサー《クーフーリン》は魔槍を構え、目先のサーヴァントのクラスを模索する。
「おや、この剣を見れば解ると思うのですが……。
 私はセイバーですよ」
「ぬかせ、セイバーってのはな頭でっかちなクラスなんだよ。お前みてぇな何を考えてるか解んねぇ奴がなるクラスじゃねぇ」
「それはそれは。ですが、私の剣さばきを目の当たりにして尚、私を愚弄するなら……容赦はしまけんよ」
 強まる殺気―――その殺気は本物だ。
 だが、その殺気の裏は空だった。
「お前のその剣撃は確かにセイバーのそれだ。
 だが、それはお前の物じゃない。お前の剣のものだ」
「ほぉ、それは何故?」
「気付かねえとでも思ったのか?
 その刀、お前が俺の一撃を反応する前に反応してんだよ。
 俺の一撃をお前は避けられない。だが、その剣は俺の槍を弾き、致命傷を避けている」
 セイバーもどきはクーフーリンの繰りなす槍の連撃に対応しけれていない。だが、刀はその槍の攻撃に反応している。
 所持者を守護する剣……真名を探る手掛かりになるかもしれない。
「おや、見破られましたか」
 その男は微笑み。
「なら、ここは退くとしましょう」
「逃がすと思うか?」
「いえ、思いません」
 真紅の槍の乱舞、その一撃は必殺。
 一突きでも喰らえば忽ち呪詛の呪いで身を滅ぼすとされるクーフーリンの宝具『突き穿つ死翔の槍』
 真名を明かさずとも、あの獣の様な眼を見れば一目瞭然。
 真っ向から闘っても今勝ち目はない。
 だが、それでも槍の一撃は当たらない。
 必中の槍は尽くかわされ、必殺の槍は刀で弾かれる。
「てめぇ……何もんだぁ?」
「名乗る程の者ではありません。
 貴方の様な蒼白な方には」
「その様子だと俺の真名に気付きやがったな」
「えぇ、貴方程の槍使いは世界でも指折りですし。
 有名過ぎるのも困り者ですね」
「その有名過ぎる俺の槍を尽く弾きやがるお前は何者だ?」
「言ったでしょう。名乗る程の者ではないと」
 その男の姿は武士の様だった。
 長髪を紐で束ね、和の鎧を纏った青年。
 日本の武士に準ずる英霊だと思われる姿から予測される結論は……。
「チッ……」
 結局、解らなかった。
 いや、解らない。
 なんなんだ……コイツは?
 その武士は東洋人特有の皮膚の色では無かった。
 日本の生まれ、武士、若干黒色の皮膚から考察される英霊?
「突き穿つ死翔の槍【ゲイボルク】
 因果逆転の槍でしたね」
 その男は自身の刀を鞘に収め。
「羨ましい限りです。
 その様な宝具をお持ちでこれ程の実力者と成れば鼻も高いでしょう」
「ケッ、俺の宝具を無駄打ちさせた奴がよく言うぜ」
 突き穿つ死翔の槍は因果逆転の槍。
 必死必中の槍は放たれれば絶対に心臓を貫く。
 呪の類に準ずるそれをセイバーきどりは――――。
「避ける、のは不可能な槍なら弾く。
 弾けないなら避ける。当たらないなら当てる。
 私の宝具はそれらに当てはまらず、貴方の様に必殺とは言い難い」
 その表情は曇っていた。
 自身の弱さに絶望し、自分の無力差を嘆く様な……。
「私も成れるなら、貴方の様に成りたかった……」
 その言葉を残し、男は消えた。
 ランサー クーフーリンはその後を追うことはせず、溜息を付いた。
「ッんだ、ヤロウ」
 ランサーは自身の槍を地面に突き刺し。
「マスターのクソ野郎とは天と地の差だなぁ、おい」




 その頃、その男のマスターは因縁の男の息子に聖杯戦争のルールを説明していた。
 まさか、あの男の息子に出逢うとは……。
 これも神の悪戯、と笑みを零し血塗られた因縁に神に心から感謝する。
 男は神父だった。
 神に支えし、神を遂行する者。
「少年、君の望みはようやく傍受する」

「―――汝、最強を望むなら、」

「最強を持って、最強を証明せよ」

 不敵な笑みは俺の心を震わせ。
 同時に、恐怖した。
 この男の言っている事は真実で有り、偽りで有る。
 俺、衛宮 士郎は右手を強く握りしめ、夜空を見上げた。
「衛宮君?」
 そして自分の憧れた女性の声に。
「あぁ、」
 何故、俺が聖杯戦争に選ばれたか。
 そんな事は解らないし。知りたいとも思わない。
 でも、感謝してる。
 その聖杯ってのはどんな願いも叶えられる究極の願望機なんだろ? なら、俺の望みは決まっている。
 あの日、失った物は戻らない。それは喪った者も例外じゃない。
 救えられた命、救われなかった生命、助けられた命、助けられなかった生命を救えるのなら……。
「士郎、」
 全身をフードで覆っている騎士は見えない剣を構え。
「最悪、このタイミングで来るなんて……」
 憧れの美女は懐から宝石を取り出しながら愚痴を呟く様に。
 嫌な空気、その視線の先は闇だった。
 暗闇は徐々に月の光に照らされ。薄らとそれは姿を現した。
 その時、少年は知るよしも無かった。
 これから始まる暴力に。
 これから始まる戦争に。
 いや、気付く予知すら与えてくれなかった。
 騎士と狂戦士の攻防に。
 一日で二度目の死を味わうなんて…………。



「へぇー。別の時空からね~」
 煙草を一服する蒼崎の姿は自然だった。
 別の時空、あるいは未来からやってきた俺を見ても蒼崎は自然体なのだ。
「ってことはその令呪は別の時空の聖杯戦争の物って事だね」
「えぇ、まぁ……」
 この世界の事は少しずつ理解し始めた。
 多分、今の情報と時空の流れから察するに今、現在、俺の居る世界は有ったかもしれない。
 ありえたかもしれない世界だ。
 例えば魔法は衰退せず、より進化し続けた世界。
 例えば魔法は衰退し、魔術で補われている世界。
 例えば魔力は消失し、そもそも存在しない世界。
 俺の元々、居た世界は魔術と科学の【融合】した世界だった。
 これは俺からするに普通な事で。何も驚く事はない当たり前だった。
「さっきは悪かったね、別の時空の住人なら問題ない」
「私は全く、理解出来ないんだが」
 着物美人 式はクッキを齧りなから。
「別の時空ってなんなのさ?
 訳が解らん」
「わかりやすく解説なら別の時間軸から来たって事さ」
「別の……時間軸?」
「過去、現在、未来、その時間の流れ。
 要するに彼は未来の時空からやって来たって事」
「まぁ、解った。
 でも、未来からって……なんか胡散臭いな」
「そりゃそうさ。普通は信じない、信じられない話だからね」
「それにしちゃあ。橙子は信じてる様子だけど」
「未来から来たなら過去の時間軸に干渉する技術が有っても不思議じゃない。現代では不可能でも未来なら可能になってる技術も多いはずだ」
「ふーん。
 まぁ、どうでもいいけど」
 式……さん。
 なんか猫だな。うん、猫に似てる。
 好きな事はとことんやるタイプだけどどうでもいい事は興味すら感じない、そんな女の子。
 ……ちょっと間宮さんに、似てるかも?
「ともあれ、この少年は別の時空からやって来た。
 私達の居る、この時間軸に。
 そこら辺は式、理解しと『いてね』」
 声の質が変わった。
 その変化は実に単純で、蒼崎 橙子は眼鏡を掛けていた。
 いや、正確には掛け直していたと言うべきか。
「うん? 私の顔に何か付いてるかな?」
「いえ……その」
「橙子の変化に驚いてんだよ」
 式の言葉に蒼崎は。
「あぁ、なるほどね」
「いい加減、気付けよ。
 橙子の変化は異常過ぎる」
「いやー。解ってるよ、少なくとも解ってるつもりだけど……」
「あの、その?」
「天城、橙子は眼鏡でスイッチを切り替えてるんだ」
「スイッチ……?」
「魂の切り替え、うん。
 自己の思考を眼鏡でコントロールする」
 蒼崎は「いやー」と微笑しながら。
「仕事のスイッチ、普段のスイッチ、それぞれに別々に用意してるのだよ。
 仕事の時は仕事に専念出来る様にね」
 メリハリを決めてるのね。
 仕事をする時は仕事だけに集中する。
 遊ぶ時はめいっぱい遊ぶ……効率を求めるならそれも有りかもしれない。
 でも、それは―――言葉にできない言葉は俺の喉元まで詰まり、吐き出せる様な……吐き出せない様な。
「君も、自分のスイッチを持ってるだろう?」
「スイッチ……?俺は別に意識した事は……」
「君自身は気付いていないだけだよ。
 有るだろう、自分の事は自分がよく知っている。
 でも、それは内面の話さ。心の内は他人より詳しくて当然だ」
「それはそうですよね」
 当然だ、自分の事は自分で把握している。
「100%って言葉は偽り。完全な把握は不可能、だから生き物ってのは自身の弱点を気付かぬ内に隠そうとする。
 本人の意識の有無に関係なくね」
「解らなくもないです……」
「私のスイッチの切り替えも。
 その弱点を隠そうとする本能に近い。
 と言ってもこのスイッチの仕方は自分で創った。
 もしかしたら、私の本能がそうさせた。そう仕向けたのかもしれないけど」
 本能……?
「ふふ、解んなくても無理はないさ」

 丁度、その時だった。

 右手の令呪は光を放ち―――。

 微かな魔力のパスを感じたのだ。

「え……?」
 感じる、はっきりと。
 魔術回路に繋がった線は契約成立の証であり。
 これから始まる聖杯戦争の前哨戦でもあった。

 ――――逃げて、天城君!

 今度は確かに、聴こえた。
 間宮さんの声!
 俺は令呪から感じる微かなパスを頼りに魔力を通し、『情報』を更新した。
「はぁ、招かれざる客だね」
 その言葉と同時に魔力のパスは断ち切られた。
 いや、断線した……?
「どうやら君を付けてここまで来たようだね、」
「たく、面倒だ」
 突如、部屋は暗闇に包まれた。
 完全な暗闇、身動きする事さえ、躊躇する。
「……これは?」
「結界の類、私の結界に干渉して侵食してるんだよ。
 ある意味、君の入り方と似てる」
「お、俺、こんな乱暴なノックをしてたんですか!?」
「いや、君の場合は干渉してすり抜けて来たからNo problem。
 でも、こうやって元々、張ってある結界を書き換えようとするとこうなる。
 元々、張っていた結界を書き換えて別の結界を張るんだ。
 世界を作り直すと言っても過言じゃない」
 真っ暗な背景、色を失った世界は新たに色を付け始める。
「部屋は変わってませんね……」
「この周りの結界を書き換えただけだから部屋に異常は生じない。まぁ。この部屋の外は来訪者の創り出した世界に移し替えられてるんだけど」
 この部屋の玄関ドアを開けた瞬間、別の世界と思え。
 状況を把握し、周囲を確認する。
「やれやれ、厄介な結界だね」
 蒼崎は窓ガラスに触れながら。
「一度、張ると固定される結界……。
 私の結界を上書きしつつ。これ程の結界を張るなんてね」
 蒼崎の手は窓ガラスに触れている筈なのに、触れていない。
「面倒だねぇ、」
 眼鏡を外しながら。
 でも、面倒と思っている様には見えない表情で。
「式、見えるかい?」
 ―――見える……?
 その時、式は掛けているジャケットから刃物を取り出した。
 懐刀……鞘から銀の刃を引き抜き。鞘を地面に落とした。
「あぁ、見えるよ―――死の線だ」
 その少女は刃を構え、見えない線に反る様に。

「―――直視、」

 刃は見えない線を切り裂いた。
 火花の散る音、部屋の色彩は元の色に戻り始める。
「流石、直死の魔眼。
 生きているものならどんな物でも命を断ち切る最凶の瞳」
「直視の……魔眼?」
「知らないのかい? いや、君の時空には存在しない異物だったかな」
 部屋は元の色を取り戻し、一体の結界は消える。
 結界を無効化したのか……?
「式、」
「解ってる、まだ終わってない」
 部屋はまた、暗闇に包まれる。
「結界は核を破壊しない限り、無限に張り直される」
「術者は? これ程の魔術、術者は近くに居る筈じゃあ」
「まぁ、近くに居るのは確かだね。
 でも、結界の外だ。こちらの妨害は無意味だよ」
「そんなの意味ないよ」
 そこで少女はとある言葉を放った。
「―――生きているのなら、」

「―――――神様だって殺してみせる」



「言峰、」
 侍はサーヴァントだった。
 それはランサーと対峙し、正体を明かされ無かった男。
 その男は東洋人、長髪の髪を纏め。鎧で全身を覆った男は教会の椅子に座り。
「ルーラー。
 ランサーと対峙したそうですね」
「えぇ、なかなかの手練でした」
 白髪の長髪を揺らしながら笑みを浮かべた。
「真名はクー・フーリン。獣の如き、荒々しさは英雄に相応しい……」
 サーヴァント ルーラーの男の笑みは清々しい。
 なのに、寒気を感じる様な冷徹さを含む。
「流石は……いえ、この聖杯戦争が終えるまで貴方の真名を口に出すのは禁句でしたね」
 聖杯戦争でサーヴァントの真名を明かす事は弱点を曝す事と同義である。故に、ルーラーのマスター 言峰 綺礼はその真名を口に出すのを禁止している。
「この聖杯戦争で勝ち残る為ですから我慢して下さい。
 私は戦闘向きではありませんので真名を明かされた瞬間、私の実力はサーヴァントの中では最弱クラスとバレてしまう」
「確かに、そうかもしれません。
 ですが、とあるサーヴァント……いえ、男はこんな事を申していました」
「ほぉ、」
「最弱のサーヴァントでも、人間では勝利する事は敵わない、とね」
 その言葉を聞いた瞬間、ルーラーの表情は固まり。
 薄らと笑い始めた。
「……確かに、その通りだ綺麗。
 人間ではサーヴァントに勝利する事は『不可能』だ 」
 サーヴァントである限り、人間は傷を付ける事すら出来ない。
 どんなに強力な武器でも。数で圧倒しても勝利する事は不可能。
「最弱でも要は使い用、真名を明かさず、このルーラーのクラスを上手く活用すれば聖杯を勝ち取る事は難しい事ではない」
「ルーラは戦闘向きではありませんからね。
 本来の仕事を全うして頂ければ私は口を挟みません」
「おやおや、言うようになりましたね」
 嫌悪な空気、常人ならここから離れたくなる様な状況に二人の男は平常心で居座る。
「その成長は嬉しくもあり、悲しくもある。
 幼少の頃の君は誰よりも神を信じ、誰よりも自身を鍛えた」
「そんな事はありませんよ。
 私は神を嫌悪していました」
 神父の言葉とは思えない発言にルーラーは多少、驚いた。
 ……薄々とは気付いていた。だが、それは自分の勘違いと思い込み。誤りであると思ったからだ。
「綺麗、君は……?」
「神は居ない。
 存在しない者に憧れる愚か者はその存在しない『存在』に憧れを抱き、それを信仰する」
「信じる者は救われる……あぁ、その通りです」
 神は人の心の支えだ。
「支えを失った者は、新たな支えを欲する。
 神はその代わりでしかない」
 とても神父の言葉とは思えない会話。
 全うな神父が居れば目眩する様な……。
「代用品で人の心を惑わすと? 現実で効率的だ。
 だが、それは曖昧で単純だ」
「真実は時に残酷で、時に人を幸福に導く。
 貴方はどうです? 言峰、」
「私は人を愛していますよ。人は素晴らしい。
 あの様な滑稽な動物を私は知らない」
 神父に似合わない笑顔で男は告げる。
「私は人間【娯楽】を愛している」
 その愛は汚れている。
 それは綺麗自身よく解っているだろう。だが、そんな事はどうでもいい。他人は他人、自分は自分だ。
 自分の思うままに娯楽【人間】を堪能し遊び尽くす。
「狂っている、捻じ曲がった信仰は時に強い執着心を与える。君の様にね」
「私は至って正常ですよ。特に目立った欠陥も無ければ……いや、誰よりも人間らしいと私は自負しています」
 そう、彼はある意味、誰よりも人間らしい。
 人間を愛し、人間を愚弄する男は紙一重の存在。
「さぁ、聖杯戦争を始めましょう」
 ゆっくりとゆるやかに長椅子から立ち上がり、教壇の上で神に祈りを捧げる綺麗の行動はそれこそ神父のもの。
 何故、言峰綺礼は歪んだ? 何時から歪んだ?
 その仕草は神に祈りを捧げている。なのに、何故、こんなにも―――億劫なのだろう。
 解る筈なのに判らないその男の生き方に疑問を感じた。
 だが、否定はしない。人の生き方は人の数ほどある。
 肯定はしない、否定もしない。疑問に感じても異論は唱えない。
「えぇ、始めましょう、マスター」
 本来なら召喚される事のないサーヴァントに本当なら組み合わされる事のない組合せ。
 最高の組み合わせでもあり、最悪の最低の組み合わせでもある。
 彼らの齎す、願望は聖杯にどんな影響を与えるのか?







「―――――死が、俺の前に……立つんじゃない」
 その言葉を言い終えたと同時に全ては終わった。
【直死の魔眼】それは生きているものの命を直視する魔眼。
 無限の再生能力を誇っても、どんなに強固な盾でも、隠し切れない綻びを持っている。
 その弱点、その寿命を直視する。
 それが、直死の魔眼だ。
「……魔眼、」
 式は普通の人間だ。
 肉体のスペックは普通の人間とさして変わらず、特質した点はない。
 肉体的な面から見れば式は普通なのだ。
「やれやれ、疲れた」
 足元に落としていた鞘を拾い、懐刀を収める。
「お疲れ、式。
 悪いねぇ、仕事でもないのに」
「いいよ別に。こんなのは仕事の内に入らないからさ。
 あぁ、でも、労ってくれるならハーゲンダッツのイチゴ味を所望する」
「冷蔵庫に入ってるから好きに食べな」
 式は年相応の笑顔で冷蔵庫を開ける。
 やっぱり、普通の女の子なんだ。そう思える瞬間だった。
「あれ?……抹茶も有るけど」
「それは私の……いや、それは天城にあげてくれ」
 それを聞いた式はハーゲンダッツ『抹茶』を俺に向けて投げた。
「おっとと」
 俺はそれをキャッチし。
「いいんですか?」
「構わないよ、大したおもてなしもしてないしアイスくらいはね」
 そして今度はスプーンが投げられた。
 俺はスプーンを受け取り、ハーゲンダッツ『抹茶』を一口。
 ―――やっぱり美味しいなハーゲンダッツ。
 ……いや、いやいやいやいや!
 和んじゃ駄目だ!
「ちょっと待って下さい!?」
「?」
 自然な穏やかな表情で蒼崎はこちらに振り返る。
「あの反応……いや、そもそもの問題だ。
 えっと……まず、そもそもの問題から。俺は違う、時空から飛ばされてこの世界に来ました」
「知ってるよ、さっきの説明でね」
「いや、そうですけど……。その、多分……俺が原因で…………」
「気にするな」
 え……?
 気に……するな?
「君のせいなんて確証はないし。仮に君を狙ってここを襲ってきたとしても関係ない」
 
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