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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ダークハウンド

 
前書き
投稿が遅れてすみません。執筆時間がなかなか取れず、気付いたらここまで経ってしまいました。

あと、地味にサブタイトルに苦労しています。 

 
新暦67年9月18日、16時43分

ブレイダブリク地下牢獄。

捕虜となった局員達がいる場所に、今日のミッションを終えたなのははビーティーの案内で訪れていた。

「ペシェ。こんな地獄の一丁目に何か用事でもあるのか? それとも……オシオキされて興奮したいのかぁ? うひゃっはっはっは!」

「私にそんな趣味は無いし、あるとしたらフェイトちゃんの方だよ! あとペシェじゃなくて前みたくなのはって呼んでよ。……あ、もしかしてあだ名のつもりなの?」

「実際、戦場で名を隠すなら良いあだ名だと思うぜ? 相手は管理局だ。変な場面でペシェ本来の名前(なのは)を呼んでる所を記録されたら、後々復帰する時とかで面倒な事になるかもしれないだろ?」

「あ、言われてみればそうかも。まぁとにかく話を戻して……私がここに来た理由は、捕まって不安になってるだろう彼らと少しだけ話がしたくてね」

「お、まさかお得意の砲撃を喰らわせるつもりか? そいつぁ見ものだぜ!」

「いやいやいや!? それじゃあ全然話ができてないよ!?」

「それともフランス人がインドシナで好んで使った……爪の間に薄~い竹べらを差し込むって尋問でもするのか?」

「つ、爪の間……!?」

「こいつはひどく痛い、大の男が赤ん坊の様に泣き喚く。だが生き物ってやつは痛みだけで死に至ることはない。両手両足、爪は二十枚ある。そいつを一枚ずつ時間をかけてじっくりいたぶる」

「そ、それが終わったら……?」

「まだ爪が無くなっただけ、人間の痛点はまだたっぷり残ってる。歯なんてどうだ? 二十八本あるぞ。ペシェ、親知らずは?」

「ん~まだ生えてないなぁ……って話がすり替わってる! そもそも尋問しに来たんじゃないよ!?」

「そうか、なら今夜開催予定の“百物語”に参加―――」

「しないよ!? ていうか牢獄内でそんなの開催してるんだ……」

「囚人には娯楽が少ないからな、気分転換にこういったイベントを時々開催してるのさ。それとペシェ、お前実は怖い話苦手なんじゃねぇの?」

「に、苦手じゃ……ないよ~? ほ、ホントダヨ~?」

「ドが付くほど誤魔化すのヘタだな。百物語に参加申請でも出しておこうか? クックック……」

「お願いだからやめて! 私、怖い話が本当に、本ッ当に苦手だから!! メリーさんの時点でもう涙腺がアウトだから!!」

「いくら何でも弱過ぎだろ、嗜虐心はめっちゃそそられるけどな。そういやメリーさんは最近イメチェンで萌え路線に走ってるらしいぜ? おかげで人気がうなぎ上りだって話だ。ペシェも負けてられねぇな?」

「そんなの知らないよ!? そもそも私、メリーさんと張り合う気無いからね!? それにもし本当に来ちゃったらパニックになって辺り構わずに砲撃しちゃうって!」

この時、湯飲みで緑茶をすすっていたどこかの都市伝説少女が凄まじい悪寒を感じてブルブル震えながら怯えたらしいが、確認のしようが無いので事実かどうかは不明である。

ともあれ看守達にビーティーが話を付けて面会中の監視も彼女が担う事になり、二人は局員達が捕らわれている牢の前へ案内された。百物語のネタを相談していた所に突然の来客が訪れた事で首を傾げる彼らだったが、なのはの顔を見て「あれ? どこかで見たような……」と既視感を抱いていた。

「皆さん、私は……高町なのはです。お願いです、少しだけ私の話を聞いてくれませんか?」

「せっかく来てくれた少女を追い返す趣味はないけど、高町なのはって……ん? あれ? それは確かエターナルエースで有名な三等空尉の名前……。でも管理局が殉職したと発表したはず……どういう事ですか?」

「詳しい説明は追々していきますが……簡単に言うなら、実は生きていたという事です。確かに4ヶ月も昏睡状態に陥る大怪我を負いましたが、見ての通りこうして生きています。あとエターナルエースの称号は捨てているのであしからず」

「つまり管理局がウソの発表をしたんですか? 一体何がどうしてそんな事に? それに管理局が誇るエースがせっかくの称号を捨てちゃったのもそうですが、何よりどうしてテロリストの味方なんかをしているんですか?」

「そうなった経緯も後で教えます。でもまず先に誤解を解いておきますと、ここにいる人達はテロリストなんかじゃありません。フェンサリルにあるれっきとした国、ウルズの人達です」

「国? ウルズ? ……え、ちょっと待って下さい。俺達は新しく管理世界にしようとした世界に立てこもったテロリストを捕縛せよ、としか聞いていないのですが……それすらも偽りだったと……!?」

「(あぁ、マキナちゃんの言った通りになってる。でも、だからこそ伝える意義がある)……はい、残念ながらその通りです……。皆さんを都合よく利用するために、そうやって事実を捻じ曲げた内容を管理局は伝えているんです。だからここにはテロリストなんていません、ただ自分達の住んでいる国や世界を守りたい人達しかいません」

「な、なんて事だ……俺達は、何の罪もない人達に対して武器を向けていたのか……! それもあろうことかテロリストだと思い込んで……!」

「クソッ……! 俺はこんな事をするために、管理局に入ったんじゃないのに……!」

「じゃあ、なのはさんがここにいる理由って……もしや管理局の暴走を阻止するためなんですか?」

「それだけではないんですけどね……」

彼らの動揺が落ち着くのを見計らって、コホンと咳払いしたなのはは自らの状況や経緯などの説明を始めた。

「私は管理局の裏で暗躍する者達の手で一度闇に葬られたので、今は彼らの眼から逃れつつ生きるしかない状況です。そのため再び光の当たる世界に戻るためには、彼らを打倒しなくてはなりません。しかし彼らは今も暗躍を続けていて、私の生まれ故郷から核兵器をこの世界に秘密裏に持ち込み、何か恐ろしい事を行おうとしています。それが何なのかはまだ明確に判明していません。でももし彼らの思惑が実現してしまえば、それは全ての世界で未曾有の大混乱が生じて秩序が崩壊し、かつてのベルカ戦争を上回る大きな争いに発展してしまう。そうなったら私や皆さんの家族や友人、仲間、大切な人達や守りたい人達、大勢の無辜の市民の血が流れてしまう。そんな悲劇を現実に起こす訳にはいきません。だから私は心苦しくも管理局にいる友達には何も伝えないまま、皆を守る戦いに身を投じています」

演説みたく自らの気持ちを語るなのはの姿を、局員達は固唾を飲んで見つめている。彼女の説得で局員達の心がほだされていく中、彼らが気付かない内に部屋をそっと抜け出したビーティーは妖しくも不敵に笑う。

「(言葉で連中の感情を貫くつもりか。案外面白い奴だな……どれだけの間共闘するかわからんが、それまでは俺が頭から足の先までじっくりねっとりたっぷり見ていてやるぞ、ネイキッドエース?)」

「皆さんに管理局を裏切って戦ってほしいとは言いません。嫌な戦いを強いるような真似はしたくありませんから。私がここに来たのは、皆さんに知ってほしいからです。私達が本当に戦うべき敵を、通さなければならない筋を、守らなければならない人達を。そして……忠を尽くす道、友に誇れる生き方、未来を信じる心、そういった私のありのままの姿を皆さんの眼で見てください。そして考えてください、皆さんが本当に正しいと思える道を、自分に誇れる選択を」

やがてなのはの演説が終わるが、しばしの沈黙の後、局員達から拍手が鳴り響いた。そうしてなのはの説得を受けた局員達は一斉に彼女に協力する姿勢を見せ、さり気なく彼女の英雄度が上がるのだった。


新暦67年9月18日、20時12分

ブレイダブリク・ホーム。

「―――ってなことが夕方にあったのさ」

「へぇ~。なのはが説得してくれたおかげで、捕虜の局員達が協力的になってくれたんだ。僕はそんな風に上手く説得出来ないから素直にすごいと思う」

「おかげで今後のミッション中に捕縛、回収した局員は牢獄内で彼らが代わりに説得してくれるのか。あまり目立つ援護ではないが、なのはに力を貸したいという彼らの意思はちゃんと伝わって来るな」

「私自身は大した事はしてないよ。私はただ自分の気持ちや世界の真実を正直に全部話しただけで、信じてくれたのはあの人達が本当に良い人達だからだよ」

「いやいや、謙遜しなくてもいいって。彼らがなのはを信じてくれたのは、なのはの真剣な想いが通じたからだ。もっと胸を張って良いんだよ」

「そ、そうかな……? ジャンゴさんにそう褒められると、なんか照れるや」

頬を赤らめて照れるなのはをジャンゴがよしよしと撫でると、なのはは気持ちよさそうに猫の鳴き声みたいな声を上げた。一歩引いた位置でおてんこと共に二人のじゃれ合いを見て、ポツリとビーティーが呟く。

「そうしているとお前ら、まるで兄妹みたいだな」

「きょ、兄妹って……私には最初からお兄ちゃんもお姉ちゃんもいるよ。でも……想像してみたら、ジャンゴさんがお兄ちゃんなのも結構良いかも」

「なのはがそう言ってくれるのは嬉しいね。にしても……兄、か……」

ジャンゴの脳裏にサバタの姿が浮かび上がるが、双子として生を受けたのに共に接していた時間はあまりにも短いため、兄弟というより家族という感覚の方がどちらかと言えば強かった。

「(でも“兄”としての意識は何気にちゃんと持ってたんだろうなぁ、サバタは。世紀末世界でも時々見受けられたし、次元世界だとマキナやシャロン、マテリアルズの皆、まだ直接会った事は無いけどテスタロッサ家や八神家の人達にそう接していたらしいから。まぁ最初はサバタも彼女達に対しては、僕がスミレに接する時のような気持ちだったんだろうけど……最期まで命を懸けて守り抜いた所が本当に尊敬できる。だからこそ今になって“兄”という言葉の重みがわかってくるのは、何だか不思議な気分だ)」

「ところでビーティー、マキナちゃん達から連絡はまだ来ないの?」

「遠征なんだからそんな早く連絡は寄越さないだろう。まぁ敵陣の中で迂闊に連絡取ったら位置を逆探知される危険もあるし、あっちも慎重なんだろうさ。ま、焦らず気長に待とうぜ、ペシェ」

「うん……それはわかったけど……。あのね、二人が出かけてから……ううん、行く前からずっと嫌な予感が止まらないの。何か恐ろしい事が起きたんじゃないかって、そんな不安が渦巻いてしょうがないんだ」

「マキナとアギトなら大丈夫だよ。あの二人はイモータルが相手でも太刀打ちできるぐらい強い。なのはが心配しなくても、ちゃんと帰って来るって」

「そうさ、マキナの奴とは一度だけ戦った事があるが、お前らが想像してる以上にあいつはしぶといぞ」

「え!? ビーティー、マキナちゃんと戦ったの!?」

「ツラ合わせて直にタイマン勝負したんじゃなくて、VR空間でDSAAに似たライフポイント制での勝負なんだがな。いざ戦ってみたら、この俺があいつに跳弾を利用したヘッドショットを決められちまった事がある。まぁポイントがギリでゼロにならなかったから、お返しにこっちもデカい一撃を叩きこんだ。それであいつのポイントがゼロになった事で、勝負は俺の勝ちだった。けど戦場で頭撃たれたらサイボーグじゃない生身の人間は普通即死だろ? だから俺がもし生身だった場合での勝負なら実質あいつの勝ちなんだよなぁ」

「な、なんか私達の知らない場所で凄い勝負してたんだね、マキナちゃん……。その試合の映像があれば私も見てみたいかも」

「あれは公式試合じゃなくて私的なモンだったからな、映像は残ってないぜ」

「そっか……ちょっと残念」

「そもそもビーティーはマキナとどういう経緯で出会ったの? それにどうしてサイボーグの身体に? 確か『こうしないと生きられなかった』って言ってたけど、あれはどういう意味?」

「質問ばかりだが、要するに俺の昔話が聞きたいわけか。それなら二人とも最初からそう言えっての。……ま、ちょっとだけ出血サービスしてやるか。と言っても自前の血はもうねぇけどな! ぎゃっはっはっは!!」

「リアクション取りにくいよ、それ……」

いつもの事だが突然狂ったように笑い出すビーティーに、段々慣れてきている自分が少し悲しくなるなのは。だが……彼女はどうしてもビーティーを苦手に思えなかった。むしろこんな性格の彼女でも何とかして仲良くなりたいと思っていた。そう思う理由はビーティーが狂笑している時、ごくまれに覗かせる悲哀を感じてから放っておけない気持ちを抱いたからである。

「(なんていうか……似てるんだよね。一昔前のフェイトちゃんやはやてちゃん、そして……私に。ヒトの愛に飢えてた、あの頃の私達に)」

しみじみと考えるなのはを横目に、寝台でもある透析装置の上に横になったビーティーは、天井の向こうに広がる夜の空に囁くように語り始めた。

「さぁ~て、どっから話すかな? やっぱこういう時は最初からが王道パターンって奴か。そんじゃ、始めるぞ。……俺は、死んだ人間の記憶や能力の全てをコピーするための入れ物として創られた。死者を蘇らせる……自然の摂理に反した愚かな研究の生成物としてな。だが俺には脳と右眼、心臓しかなかった。失敗作だから身体が作れなかったのさ。失敗作は他にも12人いて、そいつらも俺と同様何かが欠けた姿で試験管に浮かんでいた。ある個体は体の右腕と右足が無く、ある個体は皮膚が無くていわば人体模型そのもので、またある個体は内臓が一部生成できず皮膚だけが揺らめいたりと……同族にはそういう目に見えた欠陥があった。俺達を作った女は血反吐を吐きながら言ったよ、『こんな醜いまがい物は娘じゃない』だとさ。……娘か、娘など掃いて捨てるほど生まれてくる。アンデッド同様にな! うっひゃっひゃっはっはっは!! ぐわっはっはっは!!」

内容があまりに重すぎたため、何となくなのははデフォルメされた舞台の上で畑に種を蒔く自分を想像する。舞台の上にある太陽と月が背景の色と共に何度か入れ替わり、畑からにょきにょきとちっちゃいフェイトがたくさん生えてくるが、一人だけ大きい……特に胸が大きいフェイトが出来ました。なのはは「うんとこしょ、どっこいしょ」と引っこ抜こうとしましたが、大き過ぎて一人では抜くことができません。そこでなのはは隣の八神家を呼んできて、引き抜くのを手伝ってもら……。

「(いやいや、なんでいつの間に“おおきなかぶ”が開幕しちゃってるの? いくら何でもフェイトちゃんに失礼だし、もうやめとこう)」

という訳で想像の空で行われた“おおきなかぶ”……ならぬ“おおきなフェイトそん”は中断された。ちなみにジャンゴは変な妄想をしていたなのはを訝し気に見ていたが、「誰だってそういう時はあるよね」と思って何も言わない事にした。

「でだ、ここでやれる実験はもうないと判断した女は研究所を放棄し……俺達は“塵”として試験管ごと廃棄処分された。そう、俺達は塵だめの中で生を受けたのだ……暗く、冷たい、塵だめの中で……。俺達が“塵”になってから長い……長い時が経った。身体が無いから動けないし、言葉も話せない。同族も同じく、試験管の中から出ることすら適わなかった。残った培養液のみが、塵である俺達を生かし続けた。その停滞の中、俺は俺達を生み出しておいてきっちり殺処分しなかった女に対する怒りと憎しみ、憎悪が積み上がった。だが培養液の栄養素が枯渇してくれば、生物として未完成な俺達の身体も徐々に壊死し始める。どんな形であれ停滞に終わりが見えてきた訳だが……そんな時、“あいつら”が現れた」

「あいつら?」

「今の俺達の敵でもある連中……グールを率いた髑髏顔の男と、アレクトロ社前社長にして騒乱のイモータル、ロキが現れた。あいつらは研究所のデータがほとんど削除されていた所から、女の研究成果の情報や手掛かりを入手すべく俺達をアンデッドにする事で、その一端でも手に入れようとしたのさ」

「アンデッド化させて、対象の知識を奪い取る……いや、他の媒体に記録させるのか? 本来は吸血変異する間に自我が喪失するものだけど、ラタトスクと高町士郎の例がある……やってやれなくはないのか」

「髑髏顔の男……そういやロキからはスカルフェイスと呼ばれていたが、あいつらも何らかの研究を進めていたらしい。ロキがSEEDを作ったように、スカルフェイスも自らの目的の糧にする腹積もりで、欠陥や損傷が少ない同族の入った試験管にどくどくと暗黒物質を注入していった。俺のように身体が無くて注入する価値すらない奴は放置されたのだが、おかげで散々目の当たりにしたよ。目の前で同族が次々と吸血変異していく有り様をな」

「惨い話だな……」

「言い方はアレだが皆、最初は順調にアンデッド化が進んだ。幸か不幸か、アンデッドになる事で身体が動かせるようになった個体もいた。だがな……“A-7”だけは他と違った。偶然リンカーコアがあったからなのか、それとも俺達の中で唯一意思を強く持っていたからなのか、ともかくあいつはアンデッド化を通り越して変異体になった。異変に気付いたロキとスカルフェイスは興味深そうに一旦その場を離れた直後、“A-7”は自力で試験管から飛び出ると、その場にいたグールを襲って喰らい始めた。やがてグールを平らげると、今度は同族の入った試験管を襲い……喰らった。永遠にも感じられた停滞で終焉を待ち望んでいた同族は、“A-7”の手によって死を与えられ、どこか満足した顔で逝った」

「死ぬ事が救い……それほどまで生きる事に絶望していたのか。……じゃあ、もしかしてビーティーも?」

「さあな。どっちかっつぅと俺はやる事やった後なら満足して死ねると思うぜ。まぁともあれロキとスカルフェイスの手で“A-7”は捕獲され、俺以外生き残りがいなくなった塵だめで掃除し損ねた最後の“塵”として残り続けた俺はその後色々あって地球に渡り、マッドナー博士に俺の義体を作ってもらったんだよ」

「いやいや、その色々に何があったのさ!? そこかなり重要なポイントだし、そもそもどういう経緯でその博士にサイボーグ化してもらうまでに至ったんだ!?」

「ン~話すの面倒になったから続きはまた今度な」

「面倒って……すごく気になるところで区切らないでよ……」

「言っとくが人の過去掘り返すとなると、話す当人にとっちゃ色んな意味で疲れるんだよ。聞く方は思わず忘れちまうけどな」

「あ……ごめん、つい気が回らなかった」

「気になったらずかずかと他人の事を詮索しちゃう私としては耳が痛いね……」

これからが重要って所で話を終えられたせいで、少々不完全燃焼な気分になるジャンゴとなのはだったが、ビーティーの言い分も一理あるのでとりあえず納得する事にした。彼女の生まれた境遇を知った今、彼女がいつも変な風に笑っているのは精神の均衡を保つためなのではないか。そう思った二人は彼女の危うい精神を受け入れ、支えようと考えた。そうしてこの日、彼らは憐みの気持ちを抱いたまま就寝するのだった。

一方、屋外でおてんこはどこか遠くを見つめていた。これまでの話から、この次元世界がかつて世紀末世界の人間が犯した過ちと同じ道を辿ってしまうのではないかと危惧していたのだが、マキナやマテリアルズを始めとした世界の破滅を止めようとする強い意思を持つ存在を見て、まだ間に合う、まだ希望は残っていると確信していた。

「(しかし……やはり気になる。イモータルはここで一体何を企んでいる? マキナ達が潜入任務から戻ってくれば、連中の目的についてそれなりの情報を得られるはず。この世界を銀河意思の思惑から守るためにも、早く帰ってきてほしいものだ)」


うぉ~は~♪
ピッピッピッピッピピピピピピピピ……ピピピピッピッピッピ。


新暦67年9月19日、5時00分

早朝に、ジャンゴ達の下にウルズ作戦司令部からミッションが届いた。

『観測班から国境沿いに管理局が部隊を集結しつつあるとの情報が入った。敵は恐らく一度敗北を喫した事で次は確実に勝つべく、各地に分散させていた戦力を集めてここを一気に殲滅するつもりだろう。そこで今回は通過地点を突破するまでの間に敵部隊を奇襲、無力化してほしい。なお、今回のミッションから軍用ヘリを一機支給する。敵をフルトン回収する時、ミッションを終えて帰還したい時、物資を補給したい時、敵拠点を攻撃して欲しい時は支援要請を送れ。ここで敵を取り逃せば脅威は倍となって返ってくる、何としてもここで叩いてくれ』

「つまり奴さん、盛大に仕掛ける準備をしているってとこか。こりゃあいい、おちょくり甲斐がある任務だぜ」

「なのは、この任務で彼らの戦力をたくさん奪ってしまえば、少なくとも全面衝突は回避、もしくは延期する。だから上手くやれば、これ以上の戦火を避けられるかもしれない。先の事はまだわからないけど、ここが踏ん張りどころなのは間違いないよ」

「まぁ、戦力を集めてるってことはフェイトちゃんのいる部隊も近くにいる可能性が高いから、もし来ちゃったらその時はお願いするよ、ジャンゴさん。一応私も隠れながら援護はするから」

「おいおい、俺を忘れてもらっちゃ困るぞ? あいつが帰らずに向かって来たら俺がコネコネする予定だしな」

「コネコネ?」

「はぁ……マキナちゃんも前に言ってたみたいだけど、ほどほどに手加減してあげてよ?」

「それは相手の態度次第だな。……くふっ! グェハッハッハッハ!!」

「あぁ~なんか嫌な予感しかしない。フェイトって子、ちゃんと生きて帰れると良いなぁ……」

「もういっそのことフェイトちゃんを回収した方が逆に安全な気がしてきちゃった」

(フェイト)より味方(ビーティー)の行動が心配になるジャンゴとなのは。その心配が杞憂である事を信じる彼らであったが、その予想が大きく覆される事を今は考えもしなかった。

ともあれミッションを引き受けたジャンゴ達は与えられたヘリに乗って今回の任務を行う砂漠地帯北東部にある廃棄都市へ向かった。なお、ヘリのパイロットはジョナサン配下の近衛兵士で、所属の関係であまり本国を離れた事が無いため少々緊張気味だったが、腕自体は確かなので支援要請は難なく行えそうだった。

砂漠地帯北東部は他の場所と同様に風化か倒壊した建物や高架橋道路などが点在しているが、以前マキナ達が空戦魔導師部隊と戦った場所より残存している物は少なく、広々として見通しが良い地域が多くを占めている。故にほとんど砂漠化している廃棄都市の上空からなら、東の方に見える管理局員の乗った装甲車やトラックの進路はよく見渡せた。

「相手は中央、北、南の3つのルートから西にある合流地点に向けて進んでいる。他より隠れられる建造物が多い南にはなのは、北にはビーティー、中央は僕が担当する。可能なら彼らを全員フルトン回収しておきたいけど、最低限無理はしないこと」

「わかった。ここで回収しておけば“裏”の思惑に翻弄される局員が減るし、より多くの人に真実を伝えられる、と言っても自分が捕まったら本末転倒だから、皆も気をちゅ(・・)けよう!」

「ブフッ!? ふ、不意打ちするなよペシェ! ぶわっはっはっはっはっは!!! 噛むとか! ここで噛むとか!! うっひゃっひゃっひゃっひゃっはっはっは!!! うひっひっひっひ!! ツボり過ぎて腹痛い!!」

「むぅ~~~~~!! そんなに笑わないでよ、もう! 私が噛んじゃったせいなのは承知してるけど、すっごく恥ずかしいんだからね!」

「わかったわかった、そんなスカート捲りされた文学少女みたいな可愛らしい目で睨むなよ。……ン? そういやペシェは空飛べるのにバリアジャケットがスカートって、実は見られたくてムラムラしてんのか?」

「してないよ!? 一応中は見えない仕組みにしてるからね!?」

「じゃあ相手がスカート捲りしてきたらどうする? 流石にプログラム程度じゃあ隠しきれないだろ?」

「その時は普通に手で押さえるよ……そもそも戦ってる時にそんな事してくる相手がいるとは思えないけど」

「はてさて、それはどうかな? ペシェがそう思いたければそう思っていればいい」

「なにその含んだ言い方!? 本当にそんな人がいるってこと!?」

「まぁペシェが自主的に真の芸術を俺達に提供してくれていると言うのなら、止めやしないぜ」

「はい? 真の芸術?」

「よくぞ聞いてくれたッ!!」

突然何かのスイッチが入ったようにビーティーの全身から熱気が迸る。急な変貌ぶりになのはは悪寒が走り、ジャンゴは意外な一面を興味津々で見ていた。

「さて、お前らは考えてみた事があるか? 人類の最も大きな動力源とはなんだ? エロか? なるほど、それもある。だが時にそれを上回るのが想像力! 未知への期待! 知らぬことから知る渇望! お前らも色んな場所や世界を回って来た以上、さぞかし多くの芸術品を見てきた事だろう!」

「「いや、私(僕)達いつも戦ってばかりで芸術品は見てないんだけど」」

「それはそれで構わない! むしろ未知だからこそ神秘を見出せるのだ! 例えばモナリザの美女の謎に宿る神秘性! ミロのヴィーナスに宿る神秘性! 星々の海の果てに垣間見えるその神秘性! そして乙女のスカートに宿る神秘性!!」

「そんな所に神秘性を見出さないで欲しいんだけど!?」

「それらの神秘性に宿る圧倒的な探究心は、同時に至ることの出来ない苦渋! その苦渋はやがて己の裏においてより昇華されるッ!! 真の芸術とはすなわち、未知なる内の己が想像力。未知なる物への飽くなき探求心。何物にも勝る芸術とは即ち―――己が宇宙の中にあるッ!!」

ズドォォォォン!! という落雷じみた効果音が似合いそうなビーティーの雰囲気に、なのはは硬直した。ジャンゴも荘厳かつ威厳たっぷりな宣言に、心が……いや全身が感動で打ち震えていた。

「お、己が宇宙の中に……?」

「そう。それは乙女のスカートの中身も同じ事。見えてしまえば只々下品な下着達も―――見えなければ芸術だッ!!!!」

「見えなければ……芸術!?」

「そうだともジャンゴ。さあ、今こそ確かめよう。奇跡が起こる瞬間をな!」

「あ、ごめん。若干流されたけど、流石になのはぐらいの年齢の子にそういう事をするのは遠慮しとくよ。そもそも女の子のスカートの中をじろじろ覗くって、年長者としてアレだし、なんか罪悪感が湧くし……」

「そこで我に返るのな。真の芸術に限らず、人類の進歩を促してきた発明品もそういった常識を超えた想像力によって世に生まれたものなんだが……やはり理解してもらうのは難しいな」

「まぁ、想像力が人類の進歩を促してる点は僕も理解できるよ。科学や技術というのは想像して作っていくものだし、身近な所で言えば娯楽分野だって想像から生まれているんだから」

「ジャンゴさんがそっち側に引き込まれる前に戻ってくれて嬉しいけど、それはそうと私って幼女枠に入ってるの? もう11歳なのに」

「つぅかどの年齢までが幼女だって疑問があるが、実際どうなんだ?」

「う~ん、年齢もそうだけど、やっぱり身長が重要なんじゃない?」

「と言うより二人とも、もうすぐ出撃って時に何議論してるの。アギトがいないだけで、深刻なツッコミ不足だよ……」

二人には出来るだけ早く帰ってきてほしい、と切実に思うネイキッドエースであった。

とりあえず最初の目標地点に到着したため、ここで降下する予定のなのははヘリの縁に経った。だがその際にさっきのビーティーの宣言を思い出したせいで、ふと自らの下半身で揺らめくバリアジャケットのスカートが気になってしまった。

「………………。見えてない、よね?」

ちゃんと周りからの視線をガードできるように設定しているはずだが、何となく……なんとな~く防御が心許ない気がしたなのはは、変装のためのワニキャップを被ってスカートを押さえながらゆっくり降りていく。その際、真の芸術を確かめられたかどうかは神のみぞ知る。

そしてジャンゴも目標地点に到着次第、ヘリから降下した。最後にビーティーを降下した後に作戦領域から一時離脱するヘリを見送り、ジャンゴは一応なのはとビーティーも近くにはいるが、久しぶりに一人で戦う事にちょっとした気合を入れていた。

おてんこ!

「調子はどうだ、ジャンゴ?」

「さっきのやり取りのおかげで肩の力も抜けたし、悪くはないよ」

「果たしてそれを狙ってやってるのか、それとも素でしているのか、ビーティーの性格では判断に苦しむな」

「いつも巻き込まれるなのはは大変そうだけどね」

「だが彼女もやり方はどうであれ、適度に緊張をほぐしてもらっている以上、そこまで根に持つような真似はしないだろう」

「……さて、今回は戦闘が多くなるはずだから、マキナ直伝の身体強化魔法と武装強化魔法も展開するけど……魔力を帯びた状態での戦闘経験がマキナとの模擬戦以外は一度もないから少し不安かも」

「確かにジャンゴは本来魔導師ではないからな。だがマキナも言ってたように、戦闘スタイルを無理に変えるぐらいなら初めから魔法を使わないままで十分問題ない。違和感を感じるようなら今までの戦い方に戻すことも視野に入れておけ」

「了解」

「対人戦は本意ではないだろうが、昨日の件のように管理局員は真実を一切知らされていない。とにかく無力化して回収することが彼らの目を覚まさせる一番手っ取り早い手段だ」

「何となく思ってたけど、やっぱり乱暴な方法だよね……。ま、状況が状況だし、この際割り切って考えるしかないか」

敵の装甲車が目視圏内に入り、ジャンゴは歩いてゆっくりと近づく。装甲車の見張り台に立っていた局員が彼の姿を見つけるなり、大声を送る。

「そこを退くんだ、ここは通行止めだ!」

返事をしないまま、徐に立ち止まったジャンゴはブレードオブソル改()を抜き、光を迸らせる。

「貴様、聞こえないのか!? 治安を脅かすものには容赦なく攻撃を……」

「ごめんね、君達のためにも……退くわけにはいかないんだ!」

「管理局に逆らう愚か者め、成敗してくれる!!」

ジャンゴを敵性分子と判断した局員はシューターを乱射。瞬時加速でジャンゴはその全てを避けるか剣で弾き、十分近付いた所で跳躍して局員を見張り台ごと一閃。エナジーに加えて魔力を帯びた太陽の剣はいとも容易く局員の意識を奪い、装甲車の上に着地する。そのまま座席の下へスタングレネードを放り込み、中にいた局員は訳も分からないまま閃光で気を失う。後続のトラックや装甲車から局員達が慌てて出てくると、ジャンゴは悠然と剣を正眼に構え、対応する。

「君達に対する恨みも、剣術の流派も無いけど、これだけは言っとこうか。……いざ、参る!」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月19日、0時0分

少々時を遡って、フェンサリルの聖王教会地下施設。

「死んだか……。お前達、こいつを処置室へ運べ。辺境伯の下へ到着する頃に彼女の吸血変異が終わるようにな」

胸を撃たれたマキナは床を血で真っ赤に濡らし、その身体からは生命の残滓がほぼ失われていた。スカルフェイスに命令された髑髏2体は彼女の身体を引きずって、暗黒物質を注ぐための部屋へゆっくり運んでいく。気分転換のついでに侵入者の排除が済んだスカルフェイスは残りの髑髏2体を率いて本来の業務へ戻ろうと踵を返し、連絡橋を戻って行こうとする。

――――ドゴォッ!!!

突如、彼の背後から爆発に似た音が生じる。何が起きたのか確認すべくふり向いたスカルフェイスが見たものは―――、

こちらに向くデザートイーグル二丁の銃口だった。

「なにっ……!?」

刹那、彼の脇にいた髑髏が盾になるべく前に立ち、デザートイーグルから流星の如く発射された銃弾を防ぎ続ける。その間にスカルフェイスは目の前で何が起きているのか、アイマスクを通したその眼で確認する。

「消えろ、消えろ、消えろ……!」

地獄の鬼すらも逃げ出しそうな鬼気迫る表情でマキナが銃を乱射していた。彼女の傍には虫の防護を剥がされて黒煙を上げる髑髏2体が倒れており、そこから察するに両腕を押さえて運んでいた髑髏を彼女は一瞬の内に叩きのめし、続けざまに反撃しているのだろう。だがそれは、普通ならあり得ない光景だった。

「肺を撃たれても生きている? その瀕死の状態でスカルズを倒すとは、いくら強力な魔導師でも生身の人間に出来るはずが……」

しかし目の前の光景は、その常識を打ち破っていた。彼女の腹と胸に穿たれたライフルの傷跡。致命傷であるそこから大量に血が流れていたのだが、今の彼女はその傷から焼けるような音と蒸気が出ており、見るからに出血量が低下しつつあった。

マキナ・ソレノイドが辿り着きし極限戦闘特化状態―――“ファントム・フォーム”。

それは肉体の限界以上に身体強化魔法を使用し、内臓を含む肉体を常時治癒魔法で治しながら戦うバーサーカーそのもののフォーム。だが全ての負荷を耐えることは出来ず、発動中は目から血涙が流れてしまう狂気の御業でもあった。また、今回は外傷をアギトの炎で焼いて固めているため、常人なら精神が崩壊する程の激痛に襲われている。同時並行で治癒を行う集中力も使っている分、肉体にも精神にもかかる負荷は極めて大きい。人間の脆弱な心身でそんな真似をすれば、廃人になってしまう危険があった。

スカルフェイスはすぐにその致命的な代償に気付くが、時間制限があれど放置する訳にはいかず、髑髏に彼女の抹殺を指示した。マチェットを抜き、彼女の首を切断するべく超高速で走る髑髏に、マキナは銃口をわざと別の方向へ向けて発射する。今の彼女はキチガイ染みてまともではないから狙いを外したのだと一瞬考えたスカルフェイスだが、それはすぐに払拭される。

彼女は跳弾で髑髏の視覚外から当てる事を狙っていた。跳弾した弾丸と正面からの弾丸を同時に直撃させ、倍以上のダメージを髑髏に与えたのだ。想定外の場所に攻撃を受けて髑髏はひるむが、しかしダメージを与えたのは片方のみ。もう片方の髑髏は彼女へ接近し、マチェットを振り被っていた。

しかし彼女はそれすらも見切って身体を横にずらし、回避しながら彼女が今まで出した事が無い超高速のCQCでマチェットを奪い取ると目の前の髑髏を引き裂く。ノコギリを使うように足で押さえつけ、何度もマチェットを押しては引き、斬り裂いた。その髑髏も傍で倒れているのと同じく虫の防護が剥がれて力尽き、そして残った一体に対してもマキナは光速に匹敵する素早さで接近、CQCで強引に捕らえてスタンナイフで首切りした。致命傷を負った最後の髑髏もまた、その場に倒れた。

「一人でスカルズを撃退したか……。その姿でそこまで動けたとは大したものだが……貴様も酷い姿だな?」

その問いに彼女は答えなかった。否、正確には答えられなかった。

グシャァッ!!

「ッ!!?」

スカルフェイスの方へ踏み出そうとした瞬間、マキナの全身に引き裂かれたような傷が入り、血が噴水の如く吹き出した。魔力切れで治癒魔法が身体強化魔法より先に途切れたせいで、抑えていた負荷が炸裂したのだ。
最早ゾンビの方が見た目の損傷は少ないと思うぐらいの怪我を負ったマキナは、限界に達して前のめりに倒れていく。だが彼女は倒れる寸前に残った最後の力で、スカルズの防御を失ったスカルフェイスへ実弾を発射する。

「クックック……報復心が肉体を動かす事は“燃える男”が証明しているが、まさかお前にそこまで強い意思の力があったとはな。評価を改めよう……だが」

薄ら笑いを浮かべるスカルフェイスは突然顔が黒くなり、額に当たった弾丸を弾き返した。

「スカルズを越えても、私にはそれを上回る力がある。お前の怒りは届かなかったな」

そうやってマキナの無力を嘲笑するスカルフェイスは、確実に彼女を仕留めるべく、コツコツと死神の足音を立てて近寄る。その時、動かないマキナの服の中から突如飛び出てきたアギトから火炎弾が発射される。避ける素振りも見せず、火炎弾はスカルフェイスに直撃するも、煙が晴れた時に見せた姿は全くの無傷だった。

「その程度の炎では、こそばゆいだけだ。あの施設を出てからもまるで進歩していないな、ベルカの融合騎?」

「それでも……それでも尻尾巻いて逃げられるかよ! 姉御は隙を見て逃げろって言ったけど、やっぱそれは受け入れらんねぇ。姉御を置いて、自分だけ助かるなんて出来っこねぇよ!! 姉御はアタシをあの地獄から助け出してくれた、今度はアタシが姉御を助ける番だッ!!」

「その心意気は立派だが、本来の役目を放ってまで自らの感情のままに行動するとは、裏切りにも等しい愚かな行為だ」

「何とでも言え! あんたがまだ姉御を殺すつもりなら、アタシが相手になってやる! 姉御をどうにかしたいなら、まず先にアタシを殺せ!!」

「そうか。なら望みどおりにしてやろう」

両腕を広げて立ち塞がるアギトに、スカルフェイスは魔導師を殺す事に特化した銃弾が詰められたライフル銃を向ける。自らの魔法が通じないと分かっているアギトは、せめてもの抵抗としてスカルフェイスを睨み続けた。

「さらばだ、融合騎。お前から得られたデータは今後も有効活用させてもらおう」

「くぅッ!!」

ズドンッ!!

――――キンッ!!

「……?」

発砲の瞬間、ギュッと目を閉じていたアギトは何も痛みが襲ってこない事で、おずおずと目を開ける。するとそこには……、

「黒い……鎧?」

突然現れた黒い鎧。それを纏っているのはセミロングの紫の髪をたなびかせ、先端が尖った巨大な突撃槍でスカルフェイスの銃弾を防いだ華奢な少女。それは世紀末世界にジャンゴ達を連れてきた、あの少女だった。どこからともなく姿を見せた彼女に、スカルフェイスは訝し気に顔を歪めた。

「お前は誰だ?」

少女はその質問に答えずに背を向け、マキナを優しい手つきで抱え上げる。ハッと気を取り直したアギトが慌てて彼女の前に移動する。

「お、おい!? 姉御に一体何を」

「静粛。彼女を治療できる場所に連れていくのが最優先」

「え!? あ、いや、それはわかるんだけどさ!? あんたは何者なんだよ!?」

「黙秘。とにかく掴まってて……暗黒転移」

「待て!!」

スカルフェイスの静止の声も聞かず、少女はマキナとアギトを連れていずこかへ転移、姿を消した。最後の最後で想定外の乱入者が登場した事でスカルフェイスの計画に少しは狂いが生じるかもしれないが、しかしスカルフェイスは余裕粛々といった様子だった。

「まぁいい、今更計画を知られた所で、ただ障害が増えるだけに過ぎない。もし計画を阻止されたとしても、やがてそれらは全て“ゼロ”になる。管理局も、聖王教会も、アウターヘブンの連中も、ひとつの大きな流れの中にいることに気付いていないのだ」
 
 

 
後書き
ファントム・フォーム:マキナの全力モード……と言うより半分暴走モード。後先考えないやり方は原作なのはのブラスターモードに似ていますが、マキナの場合はやらなければ確実に死ぬって時だけ使っています。
燃える男:MGSVTPPより。
身体が黒くなる:察しの良い読者はお気づきでしょう。


ジャンゴパーティにマキナがいないと会話がやりにくかった件。オリジナル故か、なんだかんだで結構便利なキャラなんですよね、彼女。 
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