リリなのinボクらの太陽サーガ
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バーサクブレイズ
前書き
やっと出せました。執筆時間がなかなか取れないので、基本的に投稿ペースがゆっくりになるかと思います。
なお、この回には原作キャラにキツイ展開があるので、読む際は注意して下さい。……もうこの言葉を入れると話の展開を予測させてしまいそうなので、今回のを最後にしてこれからは入れない事にします。
新暦67年9月19日、10時10分
砂漠地帯北部、管理局部隊集合地点。
「う~む……」
「あの……アーネスト隊長? さっきからずっと唸っていますが、一体どうしたんです?」
「フェイト特務捜査官か。いやな、ここで合流するはずの部隊が予定時刻を過ぎてもやってこないんだ。何があったのか報告を求めても相手に全然繋がらないから状況がわからず、こうして待機時間がどんどん増えてるって訳だ」
「味方の無事を確認に向かったりはしないんですか?」
「俺もそうした方が良いと思って、ついさっき上層部に進言しておいた。じきに出撃命令が下るだろう。ところで僅かに合流できた部隊から、どうも変な噂を聞いたんだ」
「変な噂?」
「“動くダンボール箱”だとか、“ワニ顔の魔導師”だとか、ごく最近では“凄い速さで上に飛ぶ気球”という正直馬鹿馬鹿しいとしか思えない内容ばかりだな」
「なんですか、それ? 動くダンボール箱はまだわかりますが、ワニ顔の魔導師って……そんな人間、普通に考えて現実にいませんよ」
それが本当にいるのだ。約二名ほど。なお、先代ワニキャップ魔導師ユーリは最近、メタルギアRAYを改修した経験を基に“ナノハンダム”なるものを製作しているという噂があるのだが……事実かどうかは不明である。
「まぁ実際にそんなのがいたら管理局の上層部どころか、最高評議会もたまげてひっくり返るだろうさ。こんな噂を考えた奴は、ある意味漫談の才能があるかもしれないぞ?」
「いやいや、宴会の出し物じゃないんですから……」
「ハハッ、違いない!」
他愛ない噂を面白がってカラカラと笑うアーネストの姿に、つられて苦笑するフェイト。第118空士部隊の面々はこれから挑む大きな作戦に備えて肩の力を抜いたり、デバイスを手入れして準備を整えている。故にこういった何気ない会話は気を落ち着かせるために、アーネストが推奨していたりするのだ。尤も、カイは作戦に対する緊張感が無くなると思っているのだが、その辺の切り替えは言われずともアーネストは理解しているので、何も言わない事にしている。
「それにしても……昨日の件は今思い出しても腹が立ちます。隊長はどうしてあんな発言を受けて平然としていられるんですか?」
「特務捜査官も同じ気持ちですか? 自分達もあの司令官の頑固さは本当に辟易してるんですよ。想定以上の抵抗を受けた、戦力的に不利だった、部隊の被害を出さないためだった、などと弁明しても全然聞いてくれませんし……」
「挙句の果てにあんな酷い事も言ってきましたしね。いくら司令官とはいえ、本人が目の前にいたら、たまらずぶん殴っている所でした。昨日丸一日かけてアーネスト隊長が怒号を引き受けてくれましたけど……ドーラ司令官って絶対脳ミソも筋肉で出来てるに違いありません!」
フェイトが胸の内につっかえてた事を尋ねると、ここぞと言わんばかりに118部隊の隊員二人も同意してきた。
昨日、一日中執務室の外にまで聞こえてきたフェンサリル支部の司令官ドーラの怒号……隊長は自分が全ての責任を負うと言ってフェイト達にその怒号が及ばないようにしてくれたものの、つい聞こえてしまった暴言にフェイト達は激しく憤慨した。その時の言葉は次のとおりである。
『たるんどるぞ、貴様ら! たかが一人か二人程度の敵に為すすべなく逃げ帰ってくるなぞ、管理局の誇る空戦魔導師として有るまじき失態だ! あのエターナルブレイズが配属しているのだから、たとえ命を捨ててでも取り押さえるのが当然だと言うのに……凡百の局員の命を優先したせいで任務を失敗して無様を晒すとは、管理局のいい恥さらしだ! 貴様らのような“無能”ばかり蔓延ってるせいで、この世界を未だに鎮圧出来ず、我々の無様を晒す羽目になってしまった。上官としてだけでなく、一人の管理局員として嘆きたくもなる!』
「隊長が撤退のタイミングを見逃さなかったおかげで、自分達はこうして無事に戻れたんですよ! なのに隊長があんな脳筋上司にボロクソに言われっぱなしなのは、いくら何でも納得が出来ません!」
「だからと言って上官を殴ったら懲罰ものだ。ドーラ司令官は腕立て伏せ一億回とか一週間不眠不休で働けとか、そういう無茶苦茶な懲罰を与える事で有名だ。今のは聞かなかった事にしてやるから、身を守るためにも度が過ぎた発言は控えておけ」
「でもカイ副長! いいんですか!? これからもあんな司令官の命令に従うなんて! ああいう上司はどんな手柄も自分の物にしちゃいますよ!?」
「しかし件のサイボーグとスナイパーの連携に対応できず、任務を失敗したのは俺達の責任でもある。ドーラ司令官にだけ怒りをぶつけるのは筋違いというものだ……」
「だからと言ってあれほどの極右思想は正直、治安を守る管理局員としても異常だとは思います。何て言うか……力づくで言う事を聞かせているみたいで、私としては受け入れがたいです」
「力づくか……。フェイト特務捜査官の気持ちもわかるが、管理局ないし次元世界全体のエネルギー不足が深刻化してきている以上、早くこの世界にある潤沢な資源を手に入れなくては次元世界全体の経済や生活が崩壊してしまう。だから司令官が世界のために、問題の解決に急いてしまうのも当然と言える」
「ですが……」
「確かに司令官は強硬的で、先日のように俺達の命を軽く見た発言をしてしまった。だが、今はそうせざるを得ない状況であることも事実なんだ。辛いだろうが、皆は自分達のやるべき事に専念してくれ」
アーネストはそう締めくくり、部隊の仲間達も苦渋の表情を浮かべながらも指示に従った。フェイトは相手側にいるサイボーグと話をしたい気持ちと、次元世界の安寧を守らなければならない立場の板挟みに、世の中ままならないものだと嘆息する。
「はぁ……執務官の資格を取れていれば、もう少し自由に動けたのに……」
しかし取れなかったものは仕方ない。自分の力不足が原因なのだから、次は合格できるようにもっと精進するしかないと決意を抱き、
―――ドクンッ!
「うぐッ!!!?」
心臓の鼓動が一度だけ大きく鳴った瞬間、フェイトは三半規管に変調をきたしたみたいに視界が急に揺らぎ、平衡感覚が乱れてしまう。異変はそれだけでなく、これまでの様々な……兄を失った時の記憶、なのはの殉職を聞いた時の記憶、その他大きく感情が揺さぶられた瞬間の記憶が急に湧きだし、怒りの感情だけが鮮明に蘇ってくる。
「な……に、これ……!? 頭が……! 心が、おかしくなる……!! 私が……私じゃなくなる……!! ……ア……グガ……!!?」
訳もなく暴れたくなる衝動が湧きあがり、自分が書き換えられていく感覚にフェイトは恐怖するが……破壊衝動の快楽にも飲み込まれつつあった。異変は彼女だけでなく118部隊の面々、及びこの一帯に集合していた管理局員すべてにまで及んでおり、窒息しそうに悶え苦しむ者や近くの仲間に怒りをぶつける者、胃の中身を吐き出す者にアンモニア臭の液体を股間から漏らす者、泡を吹いて呼吸すら困難な状態に陥っている者もいた。ただならぬ事態が起きていると理解はできても、フェイト一人では何も出来なかった。
「……ウ……ゴ…………。……」
そして……誰一人為すすべなく、精神が砕け散ってしまった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新暦67年9月19日、10時38分
「お、降ろしてく――――ウワアアアアァァァァ !!!!!」
『了解、回収します』
フルトン回収装置から膨らんだバルーンが気絶した管理局員を空へ引きずり込み、ヘリパイロットからの連絡が届く。随分長く戦ったが、今の回収でジャンゴの視界にはもう一人も管理局員はおらず、もぬけの殻となった装甲車やトラックしか残っていなかった。
『ヘリの収容人数が限界に達しました、これより一時帰還します』
地上から見てもわかるぐらい中がぎゅうぎゅう詰めのヘリがブレイダブリクへ戻っていく。これで何度目の往復になるか数えていなかったが、ともあれここでの任務は終わったと判断し、無線を開く。
「こちらジャンゴ、中央ルートの局員は全て回収した」
『あ、同じタイミングだね、ジャンゴさん。南部ルートも全員回収できたよ』
『北部ルートはとっくに終わってるぜ。この程度じゃ肩慣らしにもならないな』
「あはは……とりあえず皆、何事も無くて良かったよ」
『うん。ところでさっきから身体の内側がなんかムズムズするんだけど、砂嵐とか近付いてたりはしないよね?』
『なんで砂嵐と結びつけたのか知らんが、気象情報だとこの辺で砂嵐が起こる気配は見られないぞ。んで、お前らに伝えておかないといけない事がある』
「どんな内容?」
『なに、例の空戦魔導師部隊が北から接近中ってだけさ』
『それめちゃくちゃ重要だよね!? フェイトちゃん達がこっちに向かって来てるんだよね!? 悠長にしてる場合じゃないよね!!?』
「ビーティー、接敵まであとどれくらい?」
『もう間もなくって所だが、局員が急に消失した原因を調べに来ているようだから、まだこっちの姿を見られてはいない。どうせ来るなら直接ぶっ叩きたいが、今なら隠れてやり過ごすって手もある。ジャンゴ、リーダーとして判断を下してもらえるか?』
「……やり過ごそう。ここでのミッションは既に完了しているし、これ以上危険を冒す必要は無い。それに彼女と戦うのは色んな意味で気が引けるからね」
『ジャンゴさん……』
『りょ~か~い。あ~あ、せっかくぶん殴れると思ったんだがなぁ。まぁ次の機会に期待するとしようか……ン?』
指示を承諾しようとした際、ふと疑問の声を上げたビーティー。ジャンゴとなのはが彼女の言動に意識を集中すると、彼女は心底呆れた様子で舌打ちをした。
『ビィッチッ! 冗談にしては笑えねぇぜ。SOPをあんな風に利用するとは……』
「? ビーティー、一体何の話をしているんだ?」
そう問いかけた時、ジャンゴはふと空気がピリピリと張り詰めている事に気付く。こころなしか気温が下がったような感覚の中、双眼鏡で北の方を覗くと、空戦魔導師部隊の姿が見えてきた。だが……、
「なんか……様子が変だ。戦ってもいないのに全身から迫力を出して、眼が血走ってるし……」
『そりゃそうさ。今のあいつらはナノマシンのせいで正気を失い、非常に攻撃性の強い人格に変わっている。わかりやすく言えば、常時キレてる状態なのさ』
『そんな!? じゃあフェイトちゃん達は……』
『本来の自我では抑えきれない程の強い破壊衝動と殺戮衝動に苛まれている。だがこれはSOP本来の使い道じゃあない。いいかお前ら、よく聞け。あいつらのナノマシンに干渉している奴が近くにいるから、そいつを――――うぉっと!』
無線を急いで切ったビーティーは即座に別のビルに向かって回避行動を取った。突如上空の空戦魔導師部隊が眼下の廃棄都市に砲撃を乱射してきたからだ。局員が消失した原因たる人物が潜んでいるかもしれない場所を手当たり次第に攻撃していく焦土作戦。元々隠れられる場所が少なかった以上、発見されるのは時間の問題だった。故にビーティーは今いる場所が狙われる前に先手を打つことにした。
「ったくよぉ。いつか“裸の王様”になると忠告したそばから、アレな連中に利用されやがって……」
ところどころ鉄骨が飛び出したコンクリート製のビルの支柱を力ずくでぶっこ抜き、右腕に装着して凄まじいエネルギーを行き渡らせた。圧倒的な迫力を見せる建築資材を直接持ち上げ……、
「まぁそれはそれで叩きのめす口実が出来たんだけどな! ハハハハッ!!」
大砲の如く突進、魔導師部隊に奇襲を仕掛ける。一応前回のビル投げより規模はマシとはいえ、当たれば多段HITで死―――にはしないが、即撃墜は間違いなしの攻撃を急に視界に入れた魔導師部隊は反射的に回避機動を取る。だが……、
「ノロい! ノロすぎるぜ、お前ら!!」
ズゴォォォォォォンッッ!!!
元々エース級の実力があるフェイト、アーネスト、カイはギリギリ回避に成功したのに対し、部下二名が間に合わずバックスクリーン直撃打のホームランをされた。明らかに人間の身体から鳴っちゃいけない音を響かせた直後に砂漠に人型の穴が二つばかり開くのを、本来なら驚くなり救出なり何かしら反応するであろうはずの彼らは、
「敵の襲撃を受けた、攻撃を開始する!!」
「先日の借りを返させてもらおうか、質量兵器人間め!!」
「敵の忠告を受け入れる理由なんてそもそも無かった。お前を倒せばそれで解決するんだ!」
苛立ちの含んだ声音で攻撃宣言してきた。更に吹き飛ばされた二名も一撃で満身創痍となった身体を無理やり動かそうとしており、それはまるで執念に取りつかれながらも“壊れた人形”と言い表せる姿だった。だがダメージが大きすぎるので微細にしか動けず、戦闘行為なぞ以ての外であった。
血管が浮き、目が赤く血走った表情のフェイトがザンバーを建築資材に振り下ろし、ビーティーは遠心力を利用して跳ね返す。あまりの質量の差でフェイトは勢いに煽られてひるむが、その大振りで生じる隙にアーネストとカイが両脇から同時攻撃。サイボーグの膂力で強引に姿勢を変え、巨大な盾と建築資材で攻撃を阻む。体勢を持ち直したフェイトは彼女の両腕を封じたと判断し、背後から迫る。それに対し、
「あらよっと」
「なッ!?」
左足でバルディッシュの柄を掴み取った。
生身の人間には絶対に出来ない曲芸じみた対処法にサイボーグの器用さと特殊性を目の当たりにしたフェイト。そのわずかな動揺を見逃さず独楽回しのようにビーティーは彼女をグンッと引っ張り、砲丸投げの足バージョンとして勢いよくぶん回して遠方に放り投げる。
『それなりに手加減はしてやった。隠れたまま放っておくか、叩きのめして目を覚まさせるか、後は好きにしな!』
一瞬だけ無線機越しに聞こえたビーティーの言葉を受け、既に動き出していた仲間の二人は彼女の奇妙な優しさに苦笑した。
「一応セーブしてたのか……ま、ビーティーなら魔導師百人が相手でも力づくでねじ伏せられるかな。なら僕も負けていられないね」
フェイトが放り投げられた方向にある高架橋道路の上に飛び移ったジャンゴは、なのはより先にたどり着いた者として、フェイトの足止めを担う決意を抱く。何とか空中で静止し、体勢を立て直したフェイトは新たな敵の存在に気付き、視線を向けて……目を見開く。それもそのはず……そこには2年前から、今の状態になってもなお一度も忘れた事が無い兄の面影が色濃く見える男がいたのだから。
「……馬鹿な、そんなはずがない! だって、あの人は2年前に私達の目の前で……!」
「やっぱり似ているから驚くか。初めまして、フェイト。僕はジャンゴ、世紀末世界出身の太陽の戦士で、君の知るサバタの実の弟だ」
「ジャンゴ……!? あなたがなぜここに――――ッ……太陽の戦士、ここで何をしているの? 目障りだ」
一瞬……ほんの一瞬だけ、フェイトは何かの痛みに堪える表情を浮かべた。しかし彼女はすぐに高圧的な目に戻ってしまい、ジャンゴは管理局製のSOPの恐ろしさを直に目の当たりにして衝撃を受ける。
「! ……なるほど。ナノマシンで人格を変えられるというのは、こういう事なのか。彼女の心を機械で黒く塗り潰すなんて……!」
「お前には関係ない。気安いぞっ!」
刹那、ミッド式ゼロシフトを使用して雷光の如くフェイトはジャンゴへ接近、黄色い電気の走る大剣を太陽の戦士へ向けて振り下ろしてくる。高速型魔導師らしい超スピードに一瞬驚くが、会話が出来るなら正気に戻せるかもしれないと思い、ジャンゴはとにかく防御に徹する。剣の刃同士がぶつかるたびに魔力の光が飛び散り、剣戟の音が響き渡る中、ジャンゴは懸命に声をかけ続ける。
「攻撃を止めるんだ、フェイト! 君が僕と戦う理由はないはずだ!」
「戦う理由がない? 何を言うかと思えば……! 我らは世界に選ばれし者……全ての人間は管理局に隷属してこそ、その存在意義がある! 邪魔者は排除するのみ!」
「目を覚ませ! 君はナノマシンで感情をコントロールされているだけなんだっ!」
「これが私の本質! 他にはないッ!」
だが初対面の関係である以上、ジャンゴの言葉は今のフェイトの心に届かなかった。もっと彼女の心に近い存在ならばあるいは……、とジャンゴが考えた瞬間、彼と同様に南部から駆け付けた一人の魔法少女の声が轟く。
「嘘だっ!!!!」
魔力で桃色の翼を生やし、悲痛な表情で今の友の姿を否定する彼女。絶望的な状況から奇跡的に生還し、仲間を守るために再び戦場に舞い戻った不屈の魂。偽りの姿を捨て、ありのままの姿をさらし続けるエース。その名は……、
「……………ワニ?」
「あっ!? し、しまったぁ!? 私、今ワニキャップ被ってるんだったぁ~!!」
自らの生存がバレる事も厭わずに勢いよく飛び出てきたものの、今の姿では色んな意味で格好がつかず、なのはは頭を抱えた。殺気立っていたフェイトもこればかりは思考が追い付かず一時硬直し、ジャンゴはさっきまでのシリアスを見事なまでにぶち壊したなのはの悲壮な後ろ姿から、どことなくマキナとビーティーの笑い声が聞こえたような気がした。いつもツッコミを入れていた彼女も、さり気な~く染まっていたようだ。
「……こんなの……こんなのクールビューティな私のキャラじゃないよ……」
「(そもそもなのはにクールビューティな要素ってあったっけ? レディみたいなミステリアスさを醸し出した事なんて、一度も無いけど)」
「こ、こうなったら……とにかく勢いで誤魔化すしかない! ちょっとやり直させて!」
という訳で一旦隠れたなのははワニキャップを外し、改めて二人の方へ振り向くなり、
「嘘だっ!!!」
「あ、そこからやり直すんだ……念のために言っとくけど、ひぐらしはやめといた方が身のためだと思う」
「ジャンゴさん、シャラップ!! もう蒸し返さないで!!」
「はいはい、そういう事にしておくよ」
「で、下らない茶番はもう終わった?」
「茶番って言わないで! とにかく久しぶりだね、フェイトちゃん。こんな再会になっちゃって残念だよ」
不屈の魂を秘めた彼女は、なんとなく色々取り繕ってから、ネイキッドエースとして再び友の前に君臨したのだった。なお、なのはの中では先程のやり取りは無かった事にしており、他二名もそれに関してはとりあえず暗黙の了解を決めた。そんな彼女をジャンゴは生暖かい眼差しで見守り、それに気づきながらもなのはは目に見える墓穴を掘る真似はせず、説得を開始する。
「覚えてる? 2年前……ジュエルシード事件。フェイトちゃんやはやてちゃん、そしてサバタさんと初めて出会った全ての始まりの事件。あの事件でフェイトちゃんは自分がクローンだと知りながらも、アリシアちゃんとプレシアさんを受け入れた。その優しくて気高い強さ、私はそんな心を持つフェイトちゃんが大好きだった。あの事件の後も色々あったけど、それでもフェイトちゃんはいつも心に太陽を秘めて、真っ直ぐ飛んでいた。……なのに……今の言葉は何? その機械で歪められた心は何? 黄昏に沈んでしまった太陽は何? フェイトちゃんはそんな……他者の心も見れない人間じゃないっ! そんなの……本当のフェイトちゃんじゃないっ!!」
「利いた風な口を……! 私達の気持ちも知らず自分勝手に戦い続けて、突然死んだくせに今更何を言うッ! 自分の事ばかり考えて、友達の心を見ようともしなかったあなたに……今になって帰ってきたなのはに、何が解るッ!!」
「そうだね。確かに私は皆の静止の声も聞かず、身体を酷使し続けてきた。話をしたいとか自分で言ってたくせに、皆の心配を無視し続けて……自分の存在意義のために皆の気持ちを利用して、挙句の果てに撃墜したのは私の罪でもある。だけど……いや、だからこそ謝りたいんだ! 一朝一夕じゃあわからないかもしれない、もしかしたら何年もかかるかもしれない。それでも……また友達になってほしいんだ。フェイトちゃんと……仲直りしたいんだ……」
「……そうやって媚びへつらうような甘い言葉ばかり口にして、また自分のためだけに他人を振り回すんじゃないの、なのはは? いつも友達面をしてるけど、結局は誰かを利用するためなんでしょ? 自分に優しくしてくれる都合の良い人だけが、なのはの言う友達なんでしょ? だったら私は友達じゃない。そんな友達なんていらない。なのはの友達なんて、もうやめてやる!」
「フェイトちゃん……そんな悲しい事言わないでよ。私に至らない点があったのは認める、でも……心にもない事まで言っちゃ駄目だよ……これ以上ナノマシンに精神を操られちゃいけないんだよ……」
「操られる? 私が? 違う……ッ…………何を勘違いしている? 今の私こそが本質だ! 操られてなどいない!!」
一瞬だけフェイトを頭痛が襲うものの、すぐに警戒態勢を取ろうとする。が、その一瞬のおかげでジャンゴとなのはは、ナノマシンによる破壊衝動に抵抗するフェイト本来の意識が僅かながら存在していることに気付いた。そんな中、力づくで迫るフェイトと鍔迫り合いになったジャンゴの耳に、ふと機械音声が聞こえてきた。
『ジャンゴ殿、なのは嬢……どうか私の声に耳を傾けてもらいたい』
「この声……もしかして君がバルディッシュか?」
『返答は念話でお願いしたい。口頭だと裏に潜む者に聞かれる心配がある』
「念話……? ……ごめん、やり方は一応教わったんだけど、どうも上手く使えないんだ」
『では、返答せずにそのまま聞いてほしい。既に承知とは思うが、サーは体内のナノマシンに特殊な信号を送られているせいで、本来の精神と破壊衝動が混濁している』
「(さっきビーティーが言ってたな、ナノマシンに干渉している奴が近くにいるって。つまりフェイト達の暴走を鎮めて元に戻すには、その元凶を倒すしかない。でもそいつはどこに……)」
『信号の発信源は廃棄都市南部にある地下空洞……恐らく空襲退避用シェルターとして作られた空間だ。また、信号の逆探知の際、濃度の高い暗黒物質の反応が検出されている』
「(伝えるべき事を優先しているのか、バルディッシュは。しかし濃度の高い暗黒物質という事はもしかして、そこにイモータルがいる……?)」
「ならジャンゴさん、悪いけどそっちは任せても良い? イモータルが相手なら私がやるよりジャンゴさんの方が適任だもの」
「なのははどうするつもり?」
「フェイトちゃんを押さえとく。マキナちゃんから何度も姿を見せちゃいけないって言われてたのに見せちゃったから、今はあんまり目を離さない方が良いかと思って。それに……」
「二人とも、戦闘中に私から意識を逸らすとはいい度胸――――な、バインド!? いつの間に!?」
「そもそもフェイトちゃんの手の内はよく知ってるから、戦うならジャンゴさんより向いてるんだよね。実際一度勝ってるもん」
戦闘しながら意見を交わしていたジャンゴから急になのはにターゲットを切り替えて飛び掛かってきたフェイトにかなり強固なリングバインドを不意打ちで発動し、堂々と言い切るなのは、……脇に抱えているワニキャップさえ視界に入らなければ、雰囲気もバシッと決まったのだが……現実は無常である。
「確かフェイトちゃんのような高速型魔導師の場合、動く前に押さえたら長所が活かせなくなる。対策はいくらでも講じているんだよ……………マキナちゃんが」
「マキナの戦術なんだ、それ!? なんか……マキナの思考が加わっていると考えたら途端に頼もしく思えてきた」
「それどういう意味かなぁ!? その言い方じゃまるで以前の私が頼もしくなかったように聞こえるんだけどぉ!?」
「まぁ……正直な話? 今の状況下では“裏”と戦い慣れてるマキナの方が、なのはより俄然頼りになるし……食費とか宿泊費とか色々助けられてるし……」
「だからお金の話をされたら何も言えなくなるんだってば! もういいから、早く元凶を倒してきて!!」
言葉にはしていないが、今の自分が貧乏人である事をあまり理解したくないなのははジャンゴを急かすように言う。とりあえずフェイト以外にもビーティーが今も戦っている魔導師達の正気を急いで取り戻さなければならないため、役割を把握したジャンゴはその場を離れ、バイクで南へ向かう。
「クッ! この程度のバインドぐらい……はぁッ!!!」
パリンッ!
「あ~壊されちゃったか、速度と隠密性を優先してたから脆いのもしょうがないね。でも……」
バルディッシュを構え直したフェイトに、なのはは手をくいくいっと曲げてファイティングポーズを取った。
「ジャンゴさんを追わせはしないよ、フェイトちゃん。ナノマシンのせいで色々ヒートアップしてるみたいだけど……ちょうどいい機会だ。少し……頭冷やそうか」
「(ゾクッ!?)な、なめるなぁっ!!」
なのはの台詞から妙に寒気を感じたフェイトは武者震いだと思い込み、果敢に攻め込む。そんな彼女の様子をなのはは「マキナちゃんの戦術を学んだ今なら、むしろ御しやすい」と不敵に微笑み、無数の魔力弾とバインドを発動させて立ち向かった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新暦67年9月19日、11時43分
砂漠地帯北東部の南寄り、地下シェルター。天井から崩れてきた瓦礫も多く、何本か風化している多くの支柱がそこかしこに並ぶ広い空間の中、そいつはいた。先程の管理局部隊集合地点で起きた異変時の映像、及びこの辺りでなのはが局員達を回収していった映像を複数の空中投影機で映しながら、彼は仲間の下へと送っていた。
「うぅむ、実験場にいた管理局員の半分以上が心停止か精神崩壊でくたばってしまうとは、まだコントロールに難がある。だが実験自体は成功している以上、少し調整すればあの俗物に渡すものとしては十分な出来か。まぁそんなものよりも眠り姫だ。ライマーが取り逃がしてから、また随分と力を付けていたようだな。本来のデバイスが無い状態で、数十人もの管理局員を手玉に……。いや結構結構、“素質”が育まれるのならばどんどん成長してもらおう。我々にとっては彼女の“素質”こそが重要なのだからな」
「それはどういう意味か、詳しく説明してもらおうか?」
彼の近くから渋い男の声が響く。そこにはフェイトの相手をなのはに任せ、バイクを全速力で走らせて来たジャンゴと太陽の使者おてんこの姿があった。シルクハットを被り、右に片眼鏡を付け、時計みたいな意匠が施された服装で杖を持っている研究者じみた太ましいイモータルは、空中投影機から彼らの方へ身体を向けた。
「フェイト達の様子がおかしくなっているのは、お前が原因だな?」
「その通りだ、世紀末世界から来た太陽の使者と戦士。ああ、お前達とは初対面であったな……少し自己紹介しておこう。ワタシはストーカー男爵、ヴァランシアに所属する一科学者である」
「イモータルの科学者とは珍しいタイプだ。しかし、それならお前はここで何をしている?」
「ワタシの研究に興味があるのなら、科学者として説明してやる義務があるな。……今ここで行っている実験は“SOPによる管理局員の絶対兵士化”だ」
「絶対兵士?」
「管理局の人間には甘い奴が多いからな。相手の事情次第では自らの感情によって勝手に命令不服従、及び自分や組織への疑問を抱いてしまう事がある。管理局のSOPはそういった反抗をさせないために用いられているのだが、それでも敵に情が湧いたり、知人や友人と戦う事になれば攻撃をためらってしまうのが人間というものだ。よってSOPの機能を拡張させて心に根付く仲間意識を排除し、ただ命令に従い戦闘を遂行するだけの兵士に変える。それが絶対兵士化だ。しかし薬漬けや記憶封鎖を行うのは駄目だ、本来の力が発揮できなくなって弱体化する恐れがある。故に無感情で戦わせるのではなく、敵対している人間に対して負の感情が湧きたつ記憶を蘇らせ、怒りの力を振るえるようにするのだ」
「仲間へ抱いた過去の怒りや憎しみだけを呼び覚ますだと!? そんな事をして、イモータルに何の得が……!?」
「いや……待って、おてんこさま! かつての仲間同士で戦うという話、前に聞いたことがある。ほら、ここに来る前、マザーベースで王様が言ってた! 幾多ある管理外世界で管理局に対する不満や怒りが爆発したら、管理外世界と管理局の間で全面戦争が勃発するって……!」
「ッ!? では、この研究成果を求めているのは……!!」
「その通りだ、太陽の戦士と使者よ。次元世界の守護者と謳っておきながら、管理局の人間には管理外世界との戦争を望む者もいる。この研究はそういうグールにすら劣る人間が、いずれ起こす戦乱で局員が確実に敵を殺せるように望んでいる物なのである」
「まさかヴァランシアのバックに管理局がいたとは……道理でこれまで拠点が見つからなかった訳だ。追う側が隠れる側に協力しているのだから。戦乱が起きてしまえば世紀末世界のように、銀河意思の本格介入を招く結果となる。もしやお前達は戦乱を起こさせるために、あえて協力しているのか?」
「ヒトを守らなくてはならない立場の管理局が、イモータルの力を借りてでも戦争を起こそうとしている……? なのはの件を聞いた時点で薄ら察してたけど、もうどうしようもなく腐敗してるね」
「太陽の戦士にもわかるであろう? 次元世界の人間は、あまりに愚かすぎると。かつて世紀末世界を世紀末世界に変えた人類を上回るかもしれぬ程の愚者ども、それらが蔓延る管理局、腐った組織による支配と暴力……こんな連中ばかりいる世界では、おまえ達が望む未来は作れない。次元世界の人類ではとうてい、未来に命を繋げることなぞ出来まい。暗黒の戦士は自らを省みず、この世界の未来を取り戻すために戦い続けたが、そんなものは最初から有りもしなかったのだよ」
「…………………」
ストーカー男爵の言葉を聞いている内に、ジャンゴの中で徐々に次元世界の人類に対する信用が薄れていってしまう。世紀末世界に居た頃はそこまで深く考えなかったが、人類とは過ちを犯す生物であり……守る価値なんて実は無い存在ではないかと――――、
「(ッ……今、僕は何を考えた? 駄目だ、いくら何でもこんな事は考えちゃいけない……!)」
「ジャンゴ……あまり奴の言葉に惑わされるな、気をしっかり持て。……話を変えるがストーカー男爵、ヴァランシアのリーダーがなのはを狙う理由は何だ?」
「ふむ……まあ教えた所で特に弊害は無いか。ではあえて逆に聞くが、お前達は高町なのはを疑問に思った事はないか?」
「疑問? 一般人の状態から、魔導師として短期間で実力をつけたことを言っているのか?」
「目の付け所は間違ってはいない。彼女の戦いに関する才能は、凡俗のソレをはるかに上回っている。そう、まるで戦いの申し子……戦闘の天才と言わんばかりに、敵対するもの全てを力づくでねじ伏せている。それが高ランク魔導師であれ、イモータルであれ、体内の暗黒物質であれ、絶対存在の破壊光線であれ、人間が幾百幾千集まっても成し得ない事を彼女は自らに多大な負担をかけてまで押し通した。そのような実績は、根性論や精神論だけで成し遂げられるはずがない。彼女の不屈の心……いや、執念か。それがどれだけ強かろうと、彼女はそれなりに普通の環境で育った。生まれながらの兵士でもない限り、彼女がこれまでの戦いで生き残る事はまず不可能だったのである」
「……何が言いたい?」
「少し話は変わるが、地球で冷戦と呼ばれた時代……核戦争を阻止したビッグボスという英雄がいた。彼はたった一人かつ生身で、最強の特殊部隊や多くの巨大兵器を打ち倒した。普通の人間では到底成し得ない事を成し遂げた戦闘の天才……そんなビッグボスの遺伝子情報を研究することで、ソルジャー遺伝子と呼ばれる戦闘に適した遺伝子が、キラー・インスティンクトと言われるものも含めて既に60以上発見されている。そのソルジャー遺伝子を高町士郎がほとんど全て内包していた……そして彼の娘である高町なのはもまた、ソルジャー遺伝子を濃く受け継いでいるのだよ」
「? なぜここで高町士郎の名が……そうか! そういう事だったのか!」
ある事実に気付いたおてんこが、合点のいった表情で推測を語る。
「高町士郎に会ってから私は疑問に思っていた。人形使いラタトスクが高町士郎を操るようになった期間は、世紀末世界でジャンゴが奴を浄化した時期を考えると、どれだけ長く見積もっても一年に満たないはずだった。しかし高町士郎が行方不明になったのはそれよりずっと前の時期……では彼を最初にアンデッド化させたのが誰なのか? それが今はっきりわかった……ヴァランシアこそが力尽きた高町士郎を研究のために捕獲、アンデッド化させていたのだ!」
なのはの父、高町士郎は元々“不破”と呼ばれた、裏世界でも最強クラスの暗殺剣を用いる御神流を継ぐ家系である。士郎や恭也、美由希が超人的な能力を持っているのは、実はソルジャー遺伝子を濃く引き継いでいるからでもあった。そしてその家系の血を継いでいる以上、なのはもまた、高濃度のソルジャー遺伝子が身体を循環している訳である。
「そうとも、高町士郎は実に良い研究素体だった。彼の身体から無数のソルジャー遺伝子が検出されたおかげで、どこにあるのか見当もつかなかったビッグボスの遺体を見つける必要が無くなった。このソルジャー遺伝子を濃く受け継ぐ人間のアンデッドは、それはそれは強力な手駒となるだろうと常々考えていた所にこの采配だ! 研究者として歓喜しない方がおかしいだろう!」
「貴様……!」
「早速研究をすると、ソルジャー遺伝子には興味深い特性がある事が判明した。なんとソルジャー遺伝子がダークマターに順応していたのだ。月光仔でもない彼がダークマターを宿していながら正気を取り戻せたのは、ソルジャー遺伝子が月光仔の血と似た作用を起こしていたからなのだよ」
「…………」
「しかし高町なのはは新たに月下美人へ覚醒した月村すずかの力で体内のダークマターを抑制し、時間をかけて徐々に順応していった。この違いは何が理由で生じたのか、ワタシはいくつか実験を行って調べる事にした。魔導師に暗黒物質を直接注入すればどうなるのか、既に吸血変異した者へ後天的にソルジャー遺伝子を注入すればどうなるのか、その両方を掛け合わせたらどうなるのか……とな。最初の実験はSSランク級の次元犯罪者セルゲイ・ゴルドニアスに、真ん中の実験はニダヴェリールの被検体に、最後の実験は捕獲したプロジェクトFATE試作クローンの変異体を使わせてもらった。最初の実験は別の場所でも行えたから彼でなければならない必要は無かったが、一応高ランク魔導師のアンデッド化という意味では貴重なデータとなった。しかし……最後の実験は科学史に残る程の大成功だったよ。ソルジャー遺伝子によって魔法と暗黒物質の融合が出来るようになり、実質イモータルとほぼ同格の力を発揮できるようになったのだからな」
フェイトが魔導師生命を捨てる覚悟を抱いて、なんとか相討ち同然に倒した変異体。それが量産できるようになっているかもしれない事に、ジャンゴとおてんこは背筋が寒くなる。もしそんなのが大群で攻めてきたら、誰もが間違いなく「泣けるぜ」と嘆くことだろう。
「ともあれ高町なのはが魔力を喰う暗黒物質を魔法に織り交ぜられるのは、ソルジャー遺伝子が暗黒物質に順応したのが理由である。まぁ、変異を起こした魔導師にも大なり小なり同じような事が出来たのだが、所詮はただの混ぜ物。高町なのはの暗黒魔法が一流バーテンダーの作るカクテルだとすれば、凡俗のアンデッド魔導師のソレは不法投棄の著しい汚水にも等しい。まさに反吐が出るほど醜い使い方だ。さて……ここまで言えば流石にわかるだろうが、そんな戦いの申し子たる彼女が完全な吸血変異を起こしたら……どうなると思う?」
「……!」
「魔法で全てを滅却出来るヴァンパイア……最強のイモータルが誕生する。まさに新たなクイーン・オブ・イモータルとなる“素質”があるのだよ、彼女には!」
「馬鹿な! なのはが……クイーン・オブ・イモータルになるだと!?」
「我々が彼女を“眠り姫”と呼ぶのはそのためだ……彼女はまだイモータルとして目覚めていないからな。だから我々は彼女を確保しようとこれまで画策してきたのだが……これまでの経緯を見るに、少々予定を見直す必要があるかもしれない」
「どういう事だ?」
「お前達のおかげで彼女は魔法に頼らない、純粋な戦闘能力を身に着けつつある。いずれ我々の同志となる彼女が強くなればなるほど、イモータルになった際により強力になるのだ!」
良かれと思ってやって来た事が、実は向こうの望んだ事でもあった。そんな衝撃の事実を聞き、おてんこは目を見開く。……だが、ジャンゴは違った。
「……また、罪の無い人間を、力の弱い者を犠牲にしようというのか……!」
彼は……怒っていた。深紅のマフラーがジャンゴの怒気で揺らめき、周囲の温度が下がったような錯覚をおてんことストーカー男爵に与えた。
「そんなことを許しはしない! これ以上、カーミラやドゥラスロールのような犠牲者を出してはいけないんだッ!! なのはは僕が守ると決めた、彼女をクイーンに……イモータルなんかにさせてたまるかッ!!」
「よくぞ言った、ジャンゴ! 絶対兵士化の依頼をしたのが管理局だったとはいえ、マテリアルズやマキナ達のように、次元世界にはそれを止めようとする意思がある! なのはもアンデッドにさせなければ、彼女がクイーンになる事は無い。彼女を守り切ればヴァランシアの目論見は破綻する! そうだ、私達が望む未来は必ず存在する。サバタは彼女達がそんな未来を生み出せると信じて、命を懸けたのだ! なら私達も、それを信じるぞ!」
「なるほど、太陽の戦士と言えど人の子か。ならば我が棺桶スーツを以ってお前達を倒し、負の感情で育て上げた眠り姫を同志に迎え入れるとしよう」
ストーカーが杖を掲げると先端が光りだし、彼の身体を覆う。次の瞬間、ストーカーは一回りも大きい兵器に搭乗していた。ジェット噴射機能が付き、フロスト属性が宿る刃の部分がチェーンソーとなっている青い大型の斧を持ち、搭乗者と一体化している二足歩行兵器。自由と資本主義を広めようとしているサイボーグが乗っていそうな迫力のある機体だった。
「大回転ッ!!」
ジェット噴射による推進力で斧をぶん回し、周囲の瓦礫ごと薙ぎ払う。刹那の差でジャンゴは跳躍回避、着地と同時に背後から瞬突を放つ。魔力とエナジーで強化された刃が機体に深い刀傷を刻むが、人間と二足歩行兵器とでは体格差のほか質量があまりに違う故、ひるんだりはしなかった。
攻撃をものともせず放ってくる横振り、振り下ろし、回転切り、それらをジャンゴは全て防ぎ続ける。しかしどの攻撃も物凄いパワーで振るわれているため、防ぐたびに若干押し出されてしまう。
「どうだ! 対サイボーグ用に強化した我が棺桶スーツの性能は! 生身の身体ではいつまでも受けきれまい!」
確かに一撃一撃を受け止めるたびに、ジャンゴの腕や足、全身が悲鳴を上げていた。生身の人間ぐらい簡単に圧殺できる性能があるのだから、サイボーグでもないジャンゴが未だに耐えられている事の方が驚くべきことである。
周囲の瓦礫を破砕しながら邁進してくるストーカーの機体。その姿はまさに高機動戦車と言ってもおかしくない性能を誇っていた。そもそも歩兵が戦車に一対一で立ち向かうこと自体が無謀であり、もしそのような状況になれば、戦わないのが定石である。されど……ジャンゴは退かなかった。
攻撃の合間合間に何とか隙を見ては斬撃を加えていき、着実にダメージを蓄積させていく。やがてしびれを切らしたストーカーが後先考えず全力で斧を叩きつけ、部屋全体が震動する程の衝撃が発生する。その直後、天井から衝撃に耐え切れずに瓦礫が落下し、砂煙が生じてジャンゴの姿を隠した。
「どこだ!? 出てこい!」
索敵機能が付いていないのか、目視による捜索を行うストーカー。機体に攻撃しても効果が薄いと判断したジャンゴは、砂煙がある間に無防備な背中に回り込み、ストーカーの二足歩行兵器の上に飛び乗る。
「な、しまった!?」
「魔力充填! 斬鉄刃ッ!!」
ストーカーが気付くも時既に遅し、ジャンゴは光り輝く刃を全てを断ち切る勢いで振り切り、極大の一閃を放った。外側が頑丈でも内側に来た攻撃は別で、ストーカーが致命傷を負ったのと同時にこの兵器とストーカーの接続が切れて制御不能となる。不規則な動きで崩れる兵器から飛び降り、ジャンゴはその勢いのまま斧を掴んでいるアームを斬り落とす。
「馬鹿なッ!? ワタシの棺桶スーツが、こんないとも容易く……!」
制御を失った機体の搭乗席で動揺するストーカーに向け、ジャンゴは着地と同時に瞬時加速、太陽の剣をストーカーの胴体に突き刺す。
「ぐあぁあああ!!!! なぜだ……! なぜサイボーグも倒せるように設計した棺桶スーツを、生身の人間が……!!」
「研究者なのにまだわからないの? ヒトはね、大切なモノがあるから何倍も強くなれるんだ。じゃあそれに明確な脅威が迫ったら? 答えは非常に簡単、何十いや何百倍も強くなるんだよッ!! どぉりゃぁあああ!!!」
怒りのままジャンゴは攻勢を留めず、背負い投げの要領でストーカーを無理やり機体から引きずり出し、空中へ投擲する。とどめを刺さんと言わんばかりに身体強化魔法を上乗せしたジャンゴは、身動きが取れない浮遊状態の彼のすぐ前まで跳躍した。
「や、やめろ!?」
斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る。
斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る斬る。
とにかく斬る。ひたすら斬る。無限に斬り続ける。下でおてんこがついビビッても斬りまくる。そして重力に従ってジャンゴの身体が着地した後、微塵切りにされたストーカーは黒煙を立てながら見るも無残な姿で崩れ落ちた……。
ヴァランシアの研究者、ストーカー男爵。ベクターコフィンに封印成功!
「やったな、イモータルを封印したぞ!」
おてんこが称賛する隣で、ジャンゴは別の世界の同姓同名の誰かさんから『お~い、倒す順番がなんか違うよ~』と、なぜかツッコまれたような気がした。ま、あまり深く追求しないでおこう。
「原因を排除したから、これでフェイト達のナノマシンも収まるはず。彼女達の事は気になるけど、先に外でこいつをパイルドライバーで浄化しておこう」
「そうだな……何らかの事情で時間がかかって、そのせいで復活されでもしたら元も子もない。彼女達ならきっと大丈夫だ、今頃は仲直りして再会と生存を喜んでいるはずだろう」
「落ち着く時間も必要だし、浄化している間にちょうどそっちも済むはずさ。……ストーカー男爵の話を聞いた事で色々知らなければならない事も出てきたから、マキナ達と相談したいね。早く帰ってこないかな……」
そうやって一時的に別行動を取っている仲間達の事を思いながら、ジャンゴは棺桶に巻きつけた鎖を引っ張って外へ歩き出すのだった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
新暦67年9月19日、12時00分
「うっ! ……あぐっ……あ、頭が……!」
「あれ? 急にフェイトちゃんの様子が……もしかしてジャンゴさんがやってくれた!? それならフェイトちゃんの動きを止められるかも!」
頭を押さえて苦しみだしたフェイトにチェーンバインドを発動、動きを封じた状態で高架橋道路の上に横たえさせる。
「フェイトちゃん! 目を覚まして!!」
「うぐっ! 黙れっ! まだ言うか! 自己満足主義者が、この私に……ッ!!? ち……ち、がう……わ、私……そんな事、言いたく……ない!! ぐっ……!」
「大丈夫!? フェイトちゃん、ナノマシンから自分を取り戻しかけているんだね! そうなんだね!?」
「う、うるさい! 外面だけの同情だなんて必要な……あ、あ………あああぁぁぁああ……!? な……なの……は……! ……た、す……け、て……こ、こんなの……違う……私じゃ……ないよ……!」
「フェイトちゃん!!!」
「いやぁあああああ!!!!!!」
なのはが懸命に呼びかけ続ける中、フェイトはまるで檻を壊す獣の如く大きな叫び声をあげ、やがて力尽きたように目を閉じる。それは彼女がナノマシンの束縛から、一時的であろうと解放された瞬間だった。
さっきまでの喧騒が嘘だったかのように安らかな表情で寝息を立てるフェイト、そんな彼女の頭をなのはは自分の膝に乗せて優しく撫でる。ちょっとした膝枕である。
「ごめんね……ずっと大変だったね、フェイトちゃん。ゆっくり休んでて……私は離れたりしないから。……それにしても悪意ある存在の干渉があったとはいえ、フェイトちゃんの本音は正直かなり効いたなぁ。…………うん、私は自分の過ちを止めようとしていた皆の気持ちと、ちゃんと向き合わなきゃ駄目だね。そうじゃないと……私が皆の友達でいられないから……」
南の方で太陽の光が降り注ぐ魔方陣が輝く光景で、なのははフェイトのほっぺたをぷにぷに触り、久しぶりの友達の感触を堪能していた。
後書き
ドーラ:ゼノギアスの脳筋司令官ヴァンダーカムの搭乗ギアより。なお、今作では人です。原作では一度倒した後、グラーフの力で再起動しますが……。
SOP干渉:MGS4のAct1終盤みたいな状況をイメージ。集合地点にたどり着いていない局員はストーカー男爵の実験の範囲外に居る事で干渉を受けずに済み、正気を保ったままです。なお、118部隊のように干渉を受けてから移動した場合はそのまま影響を受け続けています。
マスブレードもどき:建築資材。建築基準法に則った武器で、材料はコンクリートと芯となる金属、及び鉄骨です。察しの通り、ラジエル戦後のファーヴニルに突き刺さっていたのは、まさにコレです。
頭、冷やそうか:StSなのはさんのアレ。
ストーカー男爵:ボクタイDSのヴァンパイア。原作では倒す順番は3番目なんですが、今作では最初に浄化されました。使っていた棺桶スーツはMGRのカムシンと似たものです。
絶対兵士:MGSopsより。今作では薬漬けにならない代わりに、記憶操作に加えて感情誘導がされています。
ソルジャー遺伝子:MGSにおける重要な要素。あくまで遺伝子だからビッグボスに限ったものじゃないと考え、高町家も実は持っていた設定にしました。
ドゥラスロール:ゾクタイのイモータル四兄妹の末っ子、赤きドゥラスロール。赤ロリ。背後から噛みついたら可哀想ですよ。
斬鉄刃:ゼノサーガ ESルベンのアニマ覚醒技の一つ。ジャンゴの技はそっちから取ろうかと考えています。
一日一日の濃度が高いせいか、物語内の時間が全然進まない……。
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