| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

リリカルなのは~優しき狂王~

作者:レスト
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

Vivid編
  第六話~停滞と胎動~

 
前書き

読者の皆様おひさしぶりです。

前回修羅場とか言いましたけど、若干次回予告詐欺になりました。取り敢えず本編どうぞ。

 

 


無限書庫


 静謐な空間に浮遊する二人。
 どちらも動かないため、それは遠目に何かの写真や絵を連想させる。唯一動いている、男性にしては長い二人の髪が揺らいでいるために、それが静止画ではなく現実に二人がそこに存在している事を証明していた。

「……場所を移しましょう」

 少しの間続いていた沈黙を破ったのは二人のうち、問いを投げかけられたライの方であった。先程までユーノを気遣うような表情をしていた彼の顔から、既にそう言ったモノは抜け落ちている。
 その人間味が失せたライに理解できない怖さを感じながらも、ユーノは移動を始めたライに付いて行くしかなかった。何故なら口火を切ったのは彼自身なのだから。

「……どちらにします?」

 無限書庫を出て、その施設の休憩スペースに出る。そこの自動販売機で、ホットココアとホットレモネードを買ったライは、ユーノに尋ねた。
 無言でホットココアを受け取ったユーノを連れ、休憩スペースの窓際の端の丸机と椅子のある方に向かう。
 平日ということもあり、その辺が一番人の少ない場所であった。
 机を挟み、向かい合うように座る二人。しかし、その二人の表情は対極的である。
 方や緊張をした顔、方や感情が抜け落ちたような顔。傍から見れば何かの面接か、若しくは何かの催促に来た経営者と消費者にしか見えない光景である。
 そして二人の話し合いは始まる。

「確認します」

「っ」

「貴方が訪ねたのは、僕が高町なのはのことを『異性』としてどう想っているかですね」

 確認の為の言葉はすんなりとユーノの耳に入り込み、あっさりと彼の質問を理解させる。
 こんな時に冷静に思考できる自分の頭に感謝すればいいのか、それとも少しは慌てればいいのにと文句を言えばいいのか、ユーノは少しだけ混乱していた。

「そう、です」

 肯定の言葉を喉から出すのに苦労する。いつの間にかカラカラに乾いていた喉を潤すために、ユーノは受け取ったココアの缶のプルタブに指をかけた。

「……その問いに簡潔に答えるのであれば…………いえ、はっきり言いましょう」

 指をプルタブに掛けたままの格好で、ユーノはライの言葉を受け止めようとする。だが、次に出てきた言葉をユーノは即座に理解出来なかった。

「ありえません」

 息を、飲んだ。
 同時にプルタブに掛けていた指がすべり、『カンッ』と言う硬質な音が響く。
 そんなユーノの反応などお構いなしに、ライは言うべきことを口にしていく。

「僕が彼女を受け入れることはない。それは誰であれ同じです。寄り添うことはできる。話すことも分かり合うことも命をかけることもできる。だが、女性として愛すことはできない」

「ちょっ、ちょっと待って」

 どこまでも平坦な言葉が出てくる。それがどこか怖くて、でも逃げることもできないため、ユーノは手を突き出して、一度ライの言葉を止めた。
 自身を落ち着かせるために、今度こそココアの缶を開封し少しだけぬるくなったそれを口に流し込んだ。

「……君はなのはの――――いや、彼女たちの気持ちに気付いているの?」

「……」

 ユーノの問いにライは無言と閉眼する事で返事とした。
 そんなライの態度にユーノの中で沸々と湧き出てくる感情があった。それは苛立ちである。

「君はどうして彼女たちを愛さない?全員を愛せと言っているのではなく、どうして一人を選んで愛す事をしない?」

 もしここで今の関係を壊したくない等と日和見な言葉を吐けば、ユーノはライを許さないだろう。だが、返ってきたのは、ユーノの想像とは違った。

「……僕は――――『私』は大切なものを守るためであるのなら、その大切なものを傷つけることも厭わない」

「――――ん?」

 言葉の意味は理解できる。だが、彼の言葉が矛盾しているのを理解できるからこそ、ユーノはライの言った言葉を理解できないでいた。

「愛した誰かを守ろうとして、私が行動を起こすとする。だが、その人を助けるためにその人“だけ”を助けるのでは意味がない。守るのであればその人の周りも一緒に守らなければ意味がない」

 そういうライの言葉はどこか自身に言い聞かせるような物言いであった。
 ライは結末までは知っているが、ゼロレクイエム以降の皇歴の世界を知らない。無論推測はできるし、元々考えていた予定よりもより幸福を掴んでいる誰かがいるかもしれないとも考えることができる。
 だが、もう戻らないものがあるものも噛み締めている。
 ルルーシュやナナリーがアッシュフォード学園で送っていたような不自由ではあるが、当たり前の幸せを感じる生活を二人はもう送ることはない。
 スザクは例え、全ての人間が枢木スザクという存在を忘れたとしても、もう二度と英雄であり続けるための仮面を外すことはない。
 言い出してしまえば切りがないが、結果として彼や彼女たちが望んだ世界は確かに創られ維持されていくだろう。だが、その作った本人たちが様々なものを亡くしてしまう方法に誰が“最善”などと評価できるのだろうか。

「彼女たちの望むものを叶えてやることは全てできるとは言えないが、粗方のことはできると思う。だけどそれを叶えるために犠牲を払うことを厭わない僕に彼女たちを愛する資格があると思いますか?」

 ライの顔が自嘲に歪む。
 だがそれはどこか泣き出すのを我慢するような子供のようであった。
 ペラペラと軽く口にしているように感じるライの内心では、言葉にするには難しい葛藤が多くある。
 彼はゼストに過去であれ、今の自分であれ、ありのままを受け入れろと言われた。そして日常生活を送る中で、様々な自分を直視してきた。
 だが、早々に自身のあり方を変えるなど土台無理なのは当たり前のことだ。
 結果的に、自身の中で何かしらの結論を迎えるか、そのあり方を根本的に変える何がしかの外的要因がなければ、ライの根幹が変わることはない。
 その為、臆病であることを理解しつつもライは停滞を選んだのだ。

「――――」

 ライの言葉にユーノは何かを言おうとしても口を開くことはできない。そもそも何を言えばいいのかすら分かっていないのに、口を開いたところで何ができるわけでもないのだが。
 しかし、それでも彼は今にも折れそうなライの姿が数年前に墜ちた彼女の姿を彷彿とさせいてもたってもいられない感覚を覚えていた。

「僕には彼女を……彼女たちを愛し、支えて行くことはできません」

「そんなこと――――」

 ライの言葉にハッとし、ユーノは咄嗟に反応しようとするが、また変わっていたライの表情に息を呑む。

「貴方のようにキチンと彼女たちを見てあげることができる人がいるべきです」

 「そうじゃない」と叫ぶことができればどれだけ楽か、ユーノは自分の勇気のなさに嫌になる。
 ユーノは幼い頃からなのはを支えることしかできない自分が嫌いであった。
 でもそれは自分にしかできない部分もあると信じて、彼女を想うが故に誇りにも思っていたことでもあったのだ。
 だが、今目の前にいる自身の想い人が想う男性と比べてどうだ。
 大切であるからこそ突き放す。
 大好きであるからこそ、自身は嫌われてもそれを成し遂げる覚悟を持つ。
 それだけの強い意志を見せ付けられた。
 自身の誇りなど、彼女に嫌われないように必死でやっている自己満足としか思えなくなってしまう。
 それを頭で理解してしまったユーノは自分の言葉がとても軽く、そして薄っぺらなモノに思えて酷く恥ずかしかった。
 何より、それを本当に心から望み、彼女どころか自身の幸せを願い、そして祝福するような――――安堵するような笑顔を向けてくるライに訳もあやふやなまま頭を下げて楽になってしまいたい衝動に駆られる。

「守りたい人が居れば、例え本人を傷つけても助けようとする僕は、恐らく狂っているのでしょう」

 ライの独白は続く。

「それと、資格云々以前に僕は汚れすぎている。そんな僕に彼女たちのような純粋な人たちを抱きしめることはできません」

 ライは自身でも気付かないうちに“何”で汚れているのかを口にはしなかった。

「…………喋りすぎましたね。僕はもう戻ります」

 一言断りを入れると、ライは未開封の缶を持って、作業場に戻っていく。
 ユーノは呆然とライの背中を見ていることしか出来なかった。

「…………………………なんて……おもい……」

 掠れるような声の独り言を聞く人間はそこにはいなかった。



書庫・未整理区画


 作業していた場所に戻ると、残してきていていた蒼月とパラディンが作業の続きをオートで行っていた。

(随分と人のらしくなったな)

 特に指示も出さずにそれを行っていたことにライはそう思った。
 事実、JS事件後にCの世界に接触してから、蒼月とパラディンのAIは比較的に大きな成長を見せた。発言や思考がより感情的な部分があったり、喜怒哀楽を表すような発声を行ったりと、一般的なインテリジェントデバイスよりも遥かに人間的となっている。
 それはさて置き、ライは出て行く前と同じように自身の周りにディスプレイを投影させると、再びキーボードに指を走らせる作業に戻る。
 そしてそれと並行するように、ライは“無限書庫のデータベースと繋がっている管理局のデータベース”よりあるデータを検索する。
 作業ペースを落とさない程度にそれを行いながら、ライはかなり短時間でお目当てのデータを見つける。
 それはある人物たちのプライベート用のメールアドレスであった。

(さて、ここからが正念場かな)

 アクセスの痕跡を消しながら、ライは内心でそう呟いた。
 ライはキーを叩く。それはライが踏み出すための言葉を綴る文となり、電子の海を流れる手紙となって、送り先の人の元に流れていった。



 
 

 
後書き

はい。てな感じで、今回は内容薄いです。

少しずつ根を広げていく感じは大変ですが、相手が肥大しきった組織ならそれもしょうがないですよね?

あと、書いてて思いました。あの二人で修羅場は無理です。
感想欄にも書かれましたが、あそこに女性陣がいなければまず無理です。

では次回も更新頑張ります。次こそ平均年齢が下がることを信じて!

皆様のご意見・ご感想を心待ちにしております。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧