パパは不審者
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4部分:第四章
第四章
「悪いけれど」
「ああ、お父さん来られなくなったの」
「出られなくなったから」
少し聞くと意味は同じだ。しかしである。
桃子の言うこととだ。クラスメイトの思ったことは別だった。桃子はとても苦い顔になっていた。それは運動会の間ずっとだった。
そして家に帰ってだ。父に言うのだった。
「お父さん、まただったわね」
「だから何でお父さんはいつもああなるんだ」
自分ではわからないといった顔で言う彼だった。言いながら山盛りの御飯の上にトンカツを乗せてもりもりと食べている。
「どうしてなんだ」
「言ったわよね、確かに」
ここでだ。桃子は父に咎める様な顔を向けて述べた。
「今度お巡さんのお世話になったら」
「そのことか」
「そう、許さないって」
このことをここで父に告げる。
「それと。徹底的にやるって」
「徹底的にって」
「まずはお髭剃って」
言うのはそこからだった。
「いいわね、お髭をね」
「けれどこれは。剃ると」
「剃ると?」
「老けて見られそうだからな」
父はこう言ってだ。髭を剃ることには抵抗を見せるのだった。
「ちょっとな」
「いいから剃るの」
「どうしてもか」
「そう。それに」
さらにだった。娘の言葉は続く。
「髪の毛も生やして伸ばす」
「スキンヘッドは駄目か」
「絶対に駄目。伸ばすの」
有無を言わせない口調で父に告げる。
「いいわね、それもよ」
「アメリカじゃ流行ってるんだぞ。この髪形」
「そんなの知ったことじゃないから」
強い言葉で言う。
「いいわね、髪の毛も伸ばしてそれで七三分けにするのよ」
「七三分けか」
「それにする。服はそのままでいいけれど」
「服はいいんだな」
「その代わりサングラス厳禁」
次はこれだった。
「怪しいから。それに覆面もしない」
「昔の不良っぽくていいだろ」
「絶対によくない。駄目」
これも駄目出しであった。
「それも駄目だから。そして最後には」
「最後には?」
「ダイエットすること」
これも言うのだった。父のその巨大な腹を見てだ。
毎日走って筋トレして。夜遅くは食べない」
「ビールは駄目か?」
「禁酒もいいわね」
藪蛇だった。まさにそれだった。
「禁酒ね。当然おやつも駄目」
「何かお坊さんみたいな生活になるな」
「けれどしてね。言ったから」
「仕方ないな。それじゃあな」
こうしてだった。彼はだ。
娘に言われるまま髭を剃り髪の毛を伸ばした。そしてサングラスと覆面も止めた。そしてだ。ダイエットもはじめたのであった。
まずはだ。髭と髪の毛でだ。職務質問されることが随分と減った。
これにはだ。益男も驚いた。
「今日は全然職務質問されなかったぞ」
「っていうか毎日されてたの」
「ああ、電車に乗ればだ」
その場合はだ。どうかとも娘に話す。
「接続部のところにいないとな」
「痴漢に間違われるのね」
「盗撮とかな」
おおよそ同じ意味である。
「百回のうち九十九回はそうだった」
「ある意味凄いことね」
「だからな。道を歩いていてもな」
「職務質問受けてたの」
「帰り道で三回は普通だった」
ところが。今日はなのだった。
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