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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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ブリーフィング

 
前書き
今回はアンチ要素が入っています。読む際は注意して下さい。

個人の次は世界の説明と状況整理、ちょっとだけアナザーサイドの回。 

 
新暦67年9月16日、11時24分


ギル・グレアム。マキナと彼の関係はかなり特殊かつ複雑である。彼女の故郷ニダヴェリールを襲った13年前の闇の書事件……その渦中に二人はいた。マキナは当時の闇の書の主であるエックスが父親、グレアムは部下であり友でもあったクライドを犠牲に闇の書を葬った管理局員。この二人は闇の書を挟んで、互いに大切な存在を亡くしている。そしてその事件をきっかけに、マキナの人生は狂ってしまった。管理局の手で人身御供として故郷から引き離されただけでなく、次元世界の人間から放たれた言葉の刃で母を失い、彼女自身は11年間実験漬けの日々を送る羽目になる。そしてサバタに助けられるまで、彼女の時間はずっと止められていた……。

「だから正直に言って、あんたとはリーゼ姉妹共々会いたくなかったよ。状況的に仕方なかったとはいえ、あんたはある意味父さんの仇の一人でもあるんだから」

「それについてはまことに申し訳ない。そこの二人も悪いと思ってるから、勘弁してやってくれないかい?」

「別に今更怒りも憎しみも湧きやしないよ。それでもあんまり長時間顔を合わせていたくないし、さっさと本題に入って話を終わらせよう。……で? 管理局を引退した爺さんとその使い魔が、何の用でわざわざここに来たわけ?」

「それはだね……」

「ちょっと待って、お父様。マキナもその本題に入る前にさぁ……私達に説明する事があるんじゃないの?」

「そうよ。具体的には私達の目の前にいる少年少女のことなんだけど……せめて何がどうなってこの二人がいるのか、大まかでもいいから説明して欲しいわ」

「はぁ……何度も詳しく説明するのは面倒だから、もう早口で大雑把に言うよ? ……実は生きてたなのはが世紀末世界からやって来たジャンゴさんに助けられて私がここにかくまった。以上!」

「確かにすっごく大雑把だけど経緯は大体わかったよ……」

「その分、内容とか事情とか全然わからないけどね。ま、現役引退した私達にはせいぜい若者の未来を見守るか情報提供をするぐらいしかやれる事が無いのよね……」

早口で説明したマキナにリーゼロッテがため息をついて脱力し、リーゼアリアが呆れたように頭に手を当てる。過去の件で色々しがらみはあるが、報復心を克服しているマキナは一応彼女達を憎んではいない。かと言って友好的になりたい訳でもないため、両者が会うとこのように何とも言えない気まずさが漂うのはいつもの事だ。

「さて、疑問には答えたんだから、ちゃっちゃと本題に戻ろう」

「そうだな。では私達が来た理由だが……まずはこれを見てほしい」

そう言ってグレアムが取り出したのは、一枚の写真だった。ディアーチェが手に取って見ると、ふと何かに気づく。

「どこかの海上に大量のクレーン船……何かのサルベージでもしておるのか?」

「これらは数週間前の深夜に撮影した、カリブ海洋上の写真だ。今彼女が言ったように、彼らは海底に沈んでいる何かを引き上げている。そして引き上げた物が写っているのが、こっちの写真だ」

新たに出した写真をディアーチェが受け取り、マキナ達も興味深く覗き込んでみる。その写真には戦車の倍以上に大きな物体が布を被せられた状態で、武装ヘリに吊られながら搬送されている光景が写っていた。

「随分大きいな……一見ではRAYに匹敵するサイズだ。だがこんなものをどうして我らに見せる?」

「待って、王様。このヘリ、何か違和感がある。よく見れば色合いこそ異なるけど、ヘリの機種は主に管理局で使用されているタイプじゃない?」

「む、確かに。つまりこやつらが管理局所属なら簡潔にまとめると、管理局が内密にカリブ海洋上でこの謎の巨大物質を引き上げた、という事になる。……どういうことだ、グレアム?」

「……私達は引退した後、管理外世界での管理局員の行動を査察する立場にいる。帝政特設外務省が消失した事で、ストッパーがいなくなった過激派の局員達が管理外世界に対して余計な火種を発生させないようにする仕事だ。だから私達の隠居先にある装置には管理外世界での報告が来たり、発生した魔力反応の位置を調べられる機能がある。それで……数週間前のある日、微弱だが未確認の反応が検知された事でリーゼ達に確認に向かわせた所、その写真の光景が広がっていた」

「経緯はわかった、続けてくれ」

「相手の戦力がわからない以上、迂闊に手を出すより何をしているか探るべきだと考え、見つからないように写真の撮影をしてもらった。しかし警戒が厳重で魔力妨害もされて動きにくく、更に光を遮断する結界も張られていたせいで結局まともに撮れたのは数枚程度だった」

「いくら赤道下でも夜の海を泳ぐのは怖かったよ……」

「そんな状況下で相手に見つかってはならないのと、どこを見ても真っ暗なのが特にね……」

その時を思い出した猫姉妹が遠い目をして、状況を想像したジャンゴ達は軽く同情した。そんな彼女達が苦労して撮ってきた写真に視線を戻したグレアムは、ここからが重要だと言わんばかりに声を重くする。

「撮影できた写真は後でコピーを送るが、その中に驚きの物が写っていた。……この写真にソレが映し出されている」

また新たに取り出した写真を、今度は皆に見えるようにテーブルの上に置く。そこには人間が抱えられない程の白い大きな筒がワイヤーで吊るされた光景があり、そして……見過ごしてはならない模様を見つけた。

「こ、これって……!?」

なのはが驚くのも無理はなかった。それもそのはず、筒に描かれた模様は黒い三つ葉………放射線マークだった。

「ロッテが連中の服にフィルムバッジが着いている事に気づき、それで訝しげに思って深く探ったアリアが(スピア)と呼ばれていたこれを見つけたんだ」

「待て! という事は、まさか……!」

「ああ、君達が想像した通りだ……。つまりこれは……」

「……核……兵器……!」

マキナが発した答えに、この場の者全員が息をのむ。これが、前時代の遺物が時を超えて、今再び脅威として目覚めた瞬間であった。

「なんて事だ……管理局がカリブ海洋上に沈んでいた核をサルベージし、同時に引き上げた巨大な物体と共に次元世界のどこかに隠しているとは。だからお前達はそのことを我らに伝えに来たのだな」

「ああ、管理局のデータベースにも正式な任務記録が無い以上、事は“裏”が絡んでいると見て間違いないだろう」

「にしても連中はどうしてここに核があるとわかったんだろう? 破壊が目的なら管理局にはアルカンシェルがあるのに、わざわざ隠蔽処理を施してまで核兵器を求める理由がわからない」

「でも大量破壊兵器が“裏”の手に渡ったのは確かだぜ、姉御。だからいつ、どこに核が撃たれてもおかしくねぇって事になる。全人類どころか全次元世界にとって他人事では済まない状況なのに、伝える事もままならない……まさに悪夢だな」

苦々しく呟いたアギトの言葉に皆が同感する。つまり気付いた時には、自分や友人、家族のいる場所に核が撃たれていたという可能性が常時生まれる事になる。一瞬の気の緩みどころではない、迂闊な行動を取るだけで全てが核の炎で吹き飛ぶ。もはや悠長にしている場合では無かった……。

「私達の目的……いや、あなた達アウターヘブン社に依頼したい内容は、これを見たらもうわかるはず」

「『次元世界のどこかに持ち込まれた核兵器を発見、解体して欲しい』……違う?」

「違わない、それで合ってるわ。……一つ間違えれば次元世界の全てが核戦争に突入しかねない程危険な依頼だけど……だからこそ絶対に失敗してはならない。“表”の皆では対処が不可能な以上、実力や実績を考えたらあなた達しか頼れないわ」

「お褒めに預かり光栄ではあるけど……核以外にヴァランシアの動向も気になる。それになのはの立場も回復させないといけない。両方こなしていくのはかなり厳しいね……」

「でもマキナちゃん……私、何とかしたいよ。大量破壊兵器なんて……絶対使われちゃいけないんだ」

「大量破壊兵器の定義にはアルカンシェルも適用されるんだけどね。それはともかく……なのは? なんか見るからにやる気に満ちてるけど……この依頼、あんたも受けるつもり?」

「うん、受ける。私が着実に立場を回復できるように、マキナちゃんが色々考えてくれてたのは知ってるし、とても嬉しく思ってる。でもね……この危機的状況をあえて逆に考えてみたら、むしろ形勢逆転のチャンスでもあるんじゃないかって気づいたんだ」

「逆転? ……あ、あ~そういうことか……なのはも中々面白い事を考えるじゃん」

「え? 姉御……何がどういう事なんだ?」

ちょっと理解が及ばず首を傾げるアギトに、マキナの代わりにジャンゴが説明する。

「要するにね、なのはの生存が“裏”に知られていないという事は、即ち連中はなのはの動きを察知できない。そもそも病院から脱出しているかどうかも向こうは掴んでいないと思うから、英雄度の低い今なら“裏”の裏をかく事ができるって寸法なんだ」

「え……? ま、マジかよ……案外なのはも考えてたんだな、正直見直したぜ」

「案外って、結構失礼だよね!? 私だってちゃんと考えてるよ!!」

「わかった、アタシが悪かった。だからそんなに怒るなって」

とりあえず謝罪するアギトの前で、「誠意がこもってなぁーい!」と頬を膨らませてプンプン怒るなのは。子供っぽくて微笑ましいなぁ、とジャンゴがしみじみ見つめていると……、

「……ぷっす~……」

「ちょ……あ、姉御ぉ……」

横からマキナの人差し指が、なのはの膨らんだ頬を押して空気を吹き出させた。緊張感を軽くぶち壊す空気が抜ける音に、ジャンゴ達はさっきまで張ってた気が緩んで肩から脱力してしまう。

「……」

「……なんかごめん、興味本位でやっちゃった」

「もう~マキナちゃん! ちょっとは空気読んでよぉ~!!」

「空気を吹き出しただけあって、妙な説得力はあるね」

「吹き出したのはマキナちゃんのせいだよぉおおおおお!!!!」

恥ずかしさのあまりで顔を真っ赤にしたなのはがマキナの背中をポカポカ殴る。「悪かった、悪かったって! ……ぷふっ!?」と笑いながら謝るマキナに、「だから誠意がこもってなぁ~い!」と更に顔が赤くなるなのは。ある意味大惨事な光景を目の当たりにして、一同は深くため息をついた。

「え、え~っと? とりあえず受けてくれる、という事でいいのよね?」

「なのはが受けると明言したんだから、そういう事になるんじゃないかな。まぁ、とてつもなく危険な橋だけど……毒を食らわば皿までとも言うし、こうなったら“裏”の思惑もヴァランシアの目的も、全部僕達が防いでみせるさ」

「そっか。……だけどまた、あなた達兄弟に頼るしかないのは心苦しいよ。サバタに道を正されてから色々頑張ったけど……結局私達は何も出来ないみたい……」

「いや……あなた達はこの写真を届けてくれた。世界の危機をいち早く見つけ出してくれた……それだけでもう十分だよ」

「ははっ……やっぱり世紀末世界の戦士達には敵わないや……」

自虐的にリーゼロッテは笑うが、しかし心のどこかで安心もしていた。自分達は希望の種を見つけられても育てる事は出来ない。だが育てられる者に託す事は出来た……太陽はまだ、沈んでいないのだ。

「しかし写真だけ見せられても、連中の居場所がわからなくてはどうしようもないぞ? 他に何か情報はないのか?」

「一応あるにはある。同時期に次元空間に待機していた連中のものと思われる次元航行艦の航路を分析した所、行き先は第13紛争世界フェンサリルだと判明した。今の次元世界で最も混沌としている場所だからこそ、隠れて何かをするには確かに好都合だろう」

「第13紛争世界フェンサリル……あれ? 紛争? ねぇマキナちゃん、その世界って確か……ラジエルの介入で紛争が収まったんじゃなかったっけ?」

「なのはの疑問は間違っていないよ。フェンサリルには“ウルズ”と“ミーミル”という二つの大国があって、世界統治の主権を巡って長年争い続けていたんだけど、ラジエルが二国間の様々な問題を解決したことによってようやく紛争が終わり、和平調印式の準備を進めて一時期平穏を取り戻していた」

「それにファーヴニルとの戦闘でも、ラジエル防衛陣の方に参加して世界を守る協力をしてくれていた。貴様らも教主殿の友人のエレンから聞いただろう?」

「そうだったよね。じゃあディアーチェ、せっかく収まったはずの紛争が、なんでまた起きてるの?」

「それについてはまず、今の管理世界の状況を知ってもらう必要がある。……マキナの故郷でもある第66管理世界ニダヴェリールが滅んだことで魔導結晶の採掘量が格段に減り、今なお増える需要量に対して供給量が完全に満たせなくなったため管理世界のエネルギー不足が深刻に表れ始めた。そうなると生産品の高騰化などが連鎖的に起きて、各管理世界の市民の不満は経済の管理不行き届きとして管理局に向けられることになる」

「私にはまだ難しいけど、需要と供給のバランスが世界経済を支えているってことはわかるよ。それで経済のバランスが崩れたら、そうさせた政治に不満が向くのは当たり前だよね」

「うむ。それで自らのアイデンティティの喪失を恐れ、問題の解決を急いだ管理局はフェンサリルに管理世界への加入とエネルギー物資の提供を要求した。要は不足分を他の世界から搾り取ろうとしたわけだ」

「え……」

「当然、フェンサリル二国はそれを拒否。しかし管理局は態度を変えずに同じ要求を繰り返し、頭に来たフェンサリル側は紛争を終わらせた貢献者で唯一信頼できるラジエルに仲介してもらおうとしたものの、その矢先にあの人達は行方不明になってしまった。それを好都合に管理局は新たな仲介人を送ったが……その人達は人種差別主義(レイシスト)というか、管理局至上主義に染まり切ったアレな思考をしていた」

「あ、もうこの時点で嫌な予感がするんだけど……もしかして、そういうことなの……?」

「お前の予想はおおよそ正しい。……仲介人は『管理局の意向に従わなければ武力行使も辞さない』という強硬的主張を言い放ち、自分達の世界を軽んじた発言にフェンサリル二国は大激怒。『我々の世界は我々が守る。望まぬ管理を強い、他所から搾取する事を善しとする貴様らに従う義理はない』という事で、断固抵抗する姿勢を見せた。ここからは普通に察せるだろうが、管理局本局とフェンサリルの間で決定的な軋轢が生じて紛争が再び起きた」

「管理局が……そんな脅迫まがいの事をしてたなんて……」

「続けるぞ。ミーミルの魔導師や次元航行艦を倒せる質量兵器開発技術と、ウルズの潤沢なエネルギー資源とそれによる膨大な資金を武器に、彼らは管理局に立ち向かった。最初はフェンサリル側が優勢だったが、半月前……ミーミルの首脳陣がなぜか一斉に消失、指示系統が乱れた。それが致命的な隙を生み出し、管理局は大量の戦力を投入してミーミル首都ノアトゥンを占領したのだ」

「占領……」

「更に付け加えるなら、派遣する局員には真相を伝えないという性質の悪いこともしておる。相手は武装したテロリストグループという嘘の情報を与えて、何の疑問も抱かずフェンサリルの人間に容赦なく魔法をぶっ放す。紛争が起きた理由も一切知らずに、次元世界の平和のためだと思い込んでな」

途端になのはは背筋が寒くなった。もしかしたら自分も知らず知らずのうちに、侵略行為に手を貸していたんじゃないか。倒した相手が実はテロリストではなく、自分達の世界を守ろうとしただけの普通の人達なのではないか。それがもし、まごうことなき事実だとしたら……、

「(私は……私達は、彼らにとって……憎むべき侵略者なの……? 私がやってきたことって、全部管理局に都合が良いことでしかなかったの……!? ま、まさか……私達が頑張ってきたことは、全部無駄だった……!?)」

「……ラジエルは魔導技術を凌駕できる技術と国力があるフェンサリルと穏便な関係でいられるように、管理世界に入るとか武装解除とかは一切求めず、これ以上無益な紛争で犠牲を生み出さないようにあの世界を落ち着かせた。そう、余計な手出しをしなければあの世界は今頃平穏になっていたはずだった。しかし実際はこの有り様だ……自称次元世界の守護者が聞いてあきれる」

「わ、私は……間違っていたの? 私の魔法は……救うどころか奪って――――」

「はい、スト~ップ」

「はにゃ!?」

ディアーチェの説明を聞くほどネガティブ思考に陥りかけたなのはの両の頬を、突然マキナがつまみ上げた。そのまま彼女はなのはの頬を上下左右にぐにぐに引っ張ったりこねたりふにふにしたりして、弄びまくる。

「おぉ~、すべすべしてるのにマシュマロのように柔らかいや! これはいいもち肌だ~♪」

「いふぁいいふぁい!? ふぉっへ、ふぃっふぁんふぁいへ~!!?(痛い痛い!? ほっぺ、引っ張んないで~!!?)」

なのはが「ギブ! ギブ!」と言いたげに手を上下に振り回し、柔肌を十分堪能したマキナは充足した面持ちのまま解放する。ちょっと赤くなった頬をさすりながら、なのはは半分涙目でむすっと睨み付けるが、ジャンゴがよしよしと頭を撫でたことで結構簡単に落ち着いていた。

「もう……なんでいきなり私の頬をつまんできたの……?」

「あんたらしくない事をしかけたからさ」

「私らしくない?」

「なのは、反省はいい。後悔するのも勝手だ。だが過去の過ちをただ否定的に捉えて自分を責めるのはやめた方がいい。それは何も生み出しはしない」

「うん、マキナの言う通りだ。僕はなのはが落ち込んでる姿は見たくないよ。なのはには、もっと元気な笑顔を見せてほしいな」

「姉御もだけどさらっとこういう言葉が出る辺り、ジャンゴも結構アレだよなぁ……。でも二人がなのはの事を思ってそう言ってくれてるのは、わざわざアタシが言わなくてもわかるだろ?」

「で、でも……。いや……うん、そういうことか。前が間違ってたんなら、今正せばいいだけ……。ありがとう……私、ちょっと背負い込み過ぎてたみたい」

鬱屈になりかけた自分を方法はアレだが引き上げてくれたことに、なのはは感謝した。グレアムはなのはが管理局の尻尾切りのせいで立場を失って辛いに違いないと思っていたが、まるで兄弟姉妹がやるようなじゃれ合いを見ている内に、リーゼ姉妹と共にとても安心していた。

「なのはさん」

「はい?」

「良い仲間を持ったね」

「……はい!」

その満面の笑顔には、誰が見ても何の後悔も見受けられない程清々しいものだった。

「さて……話を戻そう。フェンサリルの事情は大体説明したが、実は我らアウターヘブン社はこの紛争には参加していない。なぜだかわかるか?」

「えっと……アウターヘブン社は管理局のこういうやり方を嫌ってる人ばかり集まってるから、まず管理局側には付かない。じゃあフェンサリルに付かなかったのは……あ!」

「そうだ。フェンサリルに付くことは即ち、管理局を敵に回すことを意味する。確かに管理局に従う事を我らは否定し、抑止力となるべくここまで勢力を大きくした。しかし明確に敵対していないからこそ、これまで向こうも手出ししてこなかったのだ。フェンサリルに協力したという事が公に知られれば、我らの存在を厄介に思っていた管理局本局は我が意を得たと言わんばかりに我らを倒しに来るに違いない」

「ディアーチェちゃん、それはつまり……」

「もうわかるな? 我らの介入が気付かれたら管理局との全面衝突になる。戦力差などを考えるとあまりにリスキー過ぎるゆえ、フェンサリルに手を貸したくても貸せなかった。これまではそうだったのだが……」

「だが?」

「グレアムによって核の密輸が発覚したことで、事情が変わった。暫定的に管理局と敵対してでも、早急にあの世界に存在する核をどうにかせねば、紛争の規模はあの世界だけに留まらなくなる。……幾多ある管理外世界で、管理局に対する不満や怒りが爆弾のごとく膨れている事は皆も既に知っておろう? 今にも爆発しそうなソレに対する刺激は避けるべきな状況下で、もし管理外世界であるフェンサリルに別の世界の核が落ちたり、手段を選ばなくなった管理局がアルカンシェルを撃つなどをして人為的大破壊が起きれば……」

「管理外世界と管理局の間で全面戦争が勃発する。かつてのベルカ戦争に匹敵……否、それを上回る規模となる。……もしそうなったら、なのはや八神達は故郷の地球を敵に回すか、それとも管理局を敵に回すか、どちらかを選ばなくてはならなくなる。そしてどちらを選んでも、知り合いや友達と死ぬ気で戦わなくてはならない」

「ッ!」

「かつての仲間が敵になる、仲間同士で殺し合う。そんな事態を……今なら防げるんだ」

「今なら……防げる!?」

「そ。ディアーチェが言った様にリスクは高い、でもその分リターンも大きい。ま、損得勘定を抜いても、この事態は何としても解決しなければならないんだけどね」

マキナの言葉に皆も同意した。ただ幾多の問題が重なっているせいで、あの世界に行くのは少数でないとむしろ余計な危険を招く可能性が高かった。そのため……、

「ま、こうなるのはわかってたさ」

「なんか私に付き合わせるような形になっちゃって、ごめんね……」

「謝らなくてもいいよ。この面子が一緒なら大丈夫だって、僕も安心できるし」

フェンサリルに行くメンバーは、マキナ、なのは、ジャンゴ、アギト、おてんこといういつもの顔ぶれになった。ディアーチェは自分達も行ければと苦渋の表情を浮かべるが、彼女達はマザーベースから物資などの支援をしてもらうという事で納得してもらっていた。

「ま、この面子ならヴァランシアが相手でも返り討ちに出来そうだな」

「アギトも割と言う様になったね。でも少し気がかりがある。管理局の状況が必要以上に悪くなったら……彼女達も送られてくるかもしれない」

「彼女達って……まさかフェイトちゃん達のこと……!?」

「正解。彼女達も管理局員だ、来てしまう可能性はゼロじゃない。もし遭遇するような事があれば、なのははまだ姿を見せない方が良い。理由は既に説明したからわかるでしょ?」

「う、うん……」

「一応、英雄度を十分稼いで安全が保障されてからなら、彼女達と話をするってのもアリだと思う。事情を話せば多分味方にはなるだろうし……けど状況次第ではフルトン回収するって手もあるかもしれない」

「え……皆をフルトン回収するの?」

「だから状況次第だってば。今は遭遇する事自体がお互いに危険だから、会わないに越したことはないの」

暗殺派の台頭を英雄派が抑えられるようになるまで、フェイト達とは会うべきではない。その事を改めて思い出したなのはは、苦々しい表情で頷いた。話が終わったのを見計らって、グレアムが商談の話に移させた。

「連中の行動を見ていた事がバレれば私達も処理されかねないゆえ、すまないが今後の事は全てそちらに任せる。……どれぐらいの規模になるかわからないから、とりあえず報酬の最低額だけでも決めておこう。そうだな……核の解体成功で200万GMP、功績などに応じて追加報酬も加える。……どうだろう?」

「個人が払うにしてはかなりの大金だが……支払った後の生活とか大丈夫なのか?」

「問題ない。これは私が管理局で稼いだ金なのだが、老後を過ごすにしては過剰に多過ぎる。逆にこの金を狙って強盗に襲われる危険があるぐらいだ。ならば君達に支払って平和を守ってもらった方が明らかに有意義だよ」

「そうか……お前の意志は確かに受け止めた。契約書を用意するから、しばし待っておれ」

一応正式な仕事であるという事を証明してもらうために、ディアーチェが契約書を取りに行った。立派な経営者である彼女の姿にグレアムは苦笑し、彼女と外見がそっくりな少女(八神はやて)は今も元気にしてるだろうかと思いにふける。

そして一時間後、先に昼食を終えて契約書のコピーももらい、保存食を多めに持って出発の準備を終えたマキナ達は、運命が集束している地へ向けてバイクのエンジンをかける。

「目的地は第13紛争世界フェンサリル、ウルズ首都ブレイダブリク。私が旅してた頃に出来た個人的な伝手があるから、まずはそこから拠点とか色々培っていこう。あとあそこは砂漠の国で日差しが暑いから、熱射病には気を付けてね」

「さ、砂漠なんだ……日焼けとか大丈夫かなぁ……」

「心配しなくても日焼け止めはちゃんと常備してるぜ」

「砂漠気候なら太陽の光には困らなさそうだ。イモータルの浄化には好都合だな」

「その分、食べ物が腐るのは早そうだけどね。保存食は大事に使っていこう。……よし、行こうよ、みんな!」

「はい、スト~ップ!」

「え!? なんでこのタイミング?」

「一応私はジャンゴさんをリーダーとして認識しているつもりなのに、出発の合図がそんなんだと緊迫感に欠けて気が抜けちゃうっての。ここはもっと強引に『行くぜ』って、私達を引っ張っていくつもりで言ってほしいな」

マキナだけでなくなのは達からも期待に満ちた視線を受けて、ポリポリと頬をかくジャンゴ。人の輪の中ではどちらかというと控えめな性格であるジャンゴにとって、他人をグイグイ引っ張っていくのはあまり得意ではなかったが、こうまで期待されては男として退くわけにはいかなかった。

「じゃあ……行くぜ!」

「あれ? なんか予想と違ってあんま似合ってないな」

「マキナが言えと言ったんだよね!?」

そっちから振ったのにあんまりな評価を口にするマキナに、ジャンゴは納得がいかない気持ちを抱いた。ただ彼女としてはかなり不思議に思っているようで首をかしげており、本人に悪気は無いことからジャンゴは疲れたように深くため息をついた。

しかし怪我の功名とも言うべきか、肩の力が抜けたジャンゴがキリッと決意のこもった視線を全員に向けると、マキナ、なのは、アギト、おてんこが自然と頷く。そして彼らを乗せたバイクは次元移動を開始、硝煙が燻る混沌の世界へと向かうのだった……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月16日、13時30分

時空管理局、本局内部。飲食区画のカフェにて。

「ごめん、はやて。待った?」

「遅いで、フェイトちゃん。もうコーヒー7杯目や」

「カフェインの取り過ぎで、今夜はやてちゃんは寝れないかもです」

「いや、そこは飲み過ぎだってリインが言ったら良かったんじゃ……まあいいか。それより他の皆は?」

「お生憎様。み~んな予定や任務がわんさか入っててなぁ、都合付けて来れたのは私とリインだけや」

「そうなんだ……確かに最近どこも忙しいみたいだからね、しょうがないよ」

苦笑しながら着席したフェイトは紅茶を注文し、はやてはそのまま会話を繋げる。クロノ達アースラがもうしばらくしたら遠征から帰って来るとか、地上本部の局員達がアウターヘブン社で学んだ訓練のおかげで全体的に強くなっているとか、友人や家族の近況報告について結構長く話し合っていた。

「私達もついこの前まで、とある世界の地下病院焼失事件について捜査しとったんやけど、どうもあれはイモータルの仕業だったという捜査結果が出た所なんよ」

「ヴァランシア……4ヶ月前のあの時から次元世界の各所に現れるようになったイモータルの集団。放っておいたら犠牲者はさらに増えるから、すぐにでも浄化したいのに……現れるまでどこにいるのか見当もつかないのはもどかしいや……」

「エナジーが使えないとまともに戦えないのが、私には辛いけどな。それにしても、あれから4ヶ月も経ってたんやな……」

「そう……だね。いつの間にか、4ヶ月も経っちゃったんだよね…………なのはが撃墜してから、もう……」

「そのショックでフェイトちゃん、初の執務官試験に呆然自失のまま受けてもうたもんな」

「それで案の定、落とされたんですよね」

「うっ……で、でもそれはしょうがないでしょ? だって……」

「そりゃ気持ちは私達かて同じや。あの時の事でめっちゃ責任を感じてるヴィータなんかしょっちゅう無茶しよるようになって、怪我の頻度次第やとシャマルの治療だけじゃ偶に追い付かへんぐらいやもん。あんなに自分を追い詰めとるヴィータは、見てるこっちも辛いわ……」

「でもヴィータも瀕死だったんだし、ヘリで輸送中の時を狙われたんだから、彼女一人の責任じゃないはずだよね?」

「私らも何度もそう言っとるんやけど、今の所効果無し。何とかしてヴィータの心の傷を癒してやりたいんやけど、その方法もまだ検討中や……」

「と、ところでフェイトちゃん、最近アリスちゃんは元気にしてるです? 仕事や任務で忙しくて話す機会がないので、プレシアさんともご無沙汰なんです。それで、どうですか?」

「えっと……実は母さん、病気が末期まで進行しちゃって、最近はずっと寝たきりの生活なんだ。それで姉さんは、もう自力だとあんまり動けない母さんの看病をしてる。母さんの容体について医者に訊いたら、とっくに死んでてもおかしくないのに、まだ生きてるのが不思議なくらいだって……。治療もあれほど進行が進んでたら、何も手が付けられないって……」

「ご、ごめんなさい! まさかそこまで病気が進んでいたなんて……」

「私も今聞くまで知らんかったわ……ごめんなぁ……」

「ううん、言い出せるタイミングが無かったからね。私のせいだから、二人は悪くないよ」

軽く息を吐いて、フェイトは届けられた紅茶を一口すする。温かい水分を補給してホッとする彼女に、はやては今回集まった理由を切り出す。

「第13紛争世界フェンサリル……あそこって前にラジエルが担当してた世界やろ? そんでサルタナ閣下は、私達のような者は来ない方が良いって言われとった」

「うん」

「そんな世界に大規模な犯罪組織が入り込んだせいで、本局がかなり手こずっているのは知っとる。確かに高ランク魔導師の私達にも鎮圧のために行って欲しいって話は来とるよ? 私達はヴァランシアの拠点を見つけてからってことで先送りにしとるけど、フェイトちゃんは一人でも行くつもり……ってか今日から行くんやよな?」

「……うん。エレンさん達がせっかく紛争を止めてくれたのに、どこの誰とも知れない犯罪者のせいでまた荒れてしまってる。それじゃああの人達が頑張った意味が無くなっちゃうからね」

「つまり行方不明になったエレンさん達の意思を継ぐつもりなんか、フェイトちゃん?」

「そう……なるのかな。多分、SEEDの件で執務官としての理想形をエレンさんに見出したから、私は彼女と同じ事が出来るようになりたいんだと思う。だからあの人達が為した事を、今度は私もやり遂げたいんだ」

「流石にあの人達と同じ事は無理やろ、潜ってきた場数が違い過ぎるし」

「それはわかってる、でもやりたいんだ。エレンさん、サルタナさん、サバタお兄ちゃん、そして……なのはに報いるために。皆に救われた私だからこそ、絶対にやり遂げなければならないんだ」

そう言う内にフェイトは紅茶の入ったカップの取っ手を握る力が強くなり、リインが慌てて静止させたことで何とか割らずに済んだ。フェイトもヴィータと同じく思い詰めてるなぁ、とはやては彼女の心情を考えて内心不安になる。

「フェイトちゃん、無茶はせんといてな?」

「状況によるかな。ま、疲れが次の日まで残らない程度には抑えておくよ」

「そっか、それならええんや」

「ところでフェイトちゃん。ちょっと気になったんですけど、出発の時間は大丈夫ですか?」

「大丈夫だよ、リイン。来る前にちゃんと時間に余裕を持ってき…………」

微笑みながら店内の時計を見たフェイトは、一瞬で硬直した。時計が示している時刻は、

15時03分。

「えっと……フェイトちゃん? 顔色がすっごい真っ青なとこ恐縮やけど……フェンサリルに行く次元航行艦が出発する時間はいつや?」

「……じゅ、15時ちょうど……」

「そ、それはつまり……」

「まごうことなき遅刻です!?」

「し、しまったぁ!? つい話し過ぎて完全に遅れちゃった!?」

「ま、まだや!? 3分ぐらいならまだ待ってくれてるやろ!? 急げばまだ間に合うかもしれへん!!」

「多分駄目かもしれない! これから配属される部隊はかなり時間厳守な所だから、きっと先に行っちゃってるよぉ!?」

「だだだだだ大丈夫!? 諦めたら試合終了ですぅ! とにかくその次元航行艦が停泊してるドックはどこですか!?」

「第6ドック! ここから全速力で走れば……いや、足だけソニックフォームを使えば5分ぐらいで行けるはず……!」

「わかった! ここの会計は私が払うから、フェイトちゃんは早よ行きぃ!」

「ごめんはやて! 次会った時にお金返すから!!」

慌ただしく駆けていくフェイトの背に手を振るはやてとリイン。遅刻で怒られるのは間違いないだろうが、せめて次元航行艦には乗り込めることを二人は祈った。そして全速力で第6ドックに向かったフェイトは……、












ウ~ウ~!

「ず~いぶん出てたねぇ~。罰金は期日までに支払うこと、ローンも可」

本局内で無許可の魔法使用とスピード違反で切符を切られていた。結果、彼女が乗るはずだった次元航行艦は、取り調べに捕まった彼女を置いて先に出発してしまった。

 
 

 
後書き
カリブ海洋上:MGSPW マザーベースの位置。つまり”裏”が引き上げたものは……。
フェンサリル、ウルズ、ミーミル、ブレイダブリク、ノアトゥン:北欧神話の地名より引用。後ろ二つはギアス的なわかりやすさもあるので、そっちを使わせてもらいました。


やっと状況が一段落しました。 
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