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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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コンサルテイション

 
前書き
今後の展開の準備段階です。 

 
新暦67年9月16日、5時20分。

色々後始末やってから、ざっくり言えばひとまず高町家に全員集合。

「え~……イモータルに襲撃されて誰一人倒されずに生き残れた事は喜んでおこう。で、それはそうとなんで彼女達(アリサとすずか)がいるんですかねぇ、士郎さん?」

「待ってくれ、なんで真っ先に俺を疑うんだ!?」

「ここにいる面子の中では私達を除いて最も事情を理解している人間だから」

「確かにそうかもしれんが、俺はマキナちゃんに言われた通り誰にも話していないぞ!」

「でもなのは以外で、この二人の片方にでも情報を送れそうな人間といえば……」

「すまん、マキナ。実は静止される前に俺がケータイで忍にメールを送っていたんだ。それで襲撃されたという事で彼女達の家にも連絡を……」

「そういえば私がなのはの無事を確かめてた時に隠れて送ってたね、恭ちゃん……」

「発信源は恭也さんかい! もう……せっかく注意したのに……」

「そう不貞腐れないでよ、マキナ。確かにこれからしばらくの間、私達も襲撃される危険があるかもしれない。でもあたし達はなのはの生存を知れて凄く嬉しかったし、親友を暗殺しようとした連中にガツンと仕返し出来てむしろ気分爽快だわ」

「ガツンというよりドカンだけど、結局逃げられちゃったんだよね。でもかなり大きなダメージを与えたはずだから、しばらくは大人しくしてくれるんじゃないかな?」

「高町家関係者の恐ろしいまでの行動力に、私も感服するよ……。ところであの爆弾は何なの?」

「あれは2年前の事件の時みたいにイモータルに狙われても何とかできるように予め作っておいた、火薬に大量のエナジーを込めた代物だよ。ちゃんと効くかわからないから、とにかく威力を重視したんだ」

「そのせいであの辺の道路一帯はしばらく補修が必要になったけど……今の世界経済の影響でガソリン代がダイヤモンドのように高価になってて車を使う人がかなり減ってるから、交通情勢にそこまで影響は出ないわよ。ま、トンネルまで崩れなかったのは幸運よね」

「知らない内に私の友達が過激な思想を持っていた事に、震えが止まらないよ……。せっかく再会したのに、なんか感動の気持ちが湧かないよ……」

友人2名の敵は徹底的に倒そうとする思想に戦々恐々するなのは。しかしなんとなく彼女も他人の事を言えない気がする、とマキナは思った。

「とりあえず今後に関わる重要な事から話していこう。まずさっきのイモータルについてだけど、ジャンゴさん。今回の下手人……ポー子爵は『なのははあの方の悲願を果たすために必要』、『確保さえできるなら生死は問わない』と言ったんだね?」

「うん、その通り。おてんこさまも一緒に聞いてたから、それは間違いないよ」

「うむ。となると4ヶ月前のなのは撃墜事件の際に、ヴァランシアが現れた理由もこれで説明がつくのではないか? 生死を問わずに彼女を狙っているのなら、確保するのに絶好のタイミングであった訳だ」

「まぁ、ラジエルの介入で失敗したから今の状況があるんだけど。それで“あの方”という存在は十中八九ヴァランシアのリーダーの事だろうさ」

「マキナちゃん……そのヴァランシアのリーダーはなんで私を狙うの?」

「ンなの悲願云々までしか知らんがな。私だって一人の人間なんだから、わからない事ぐらい山ほどあるっての。だから今考えてるんだよ」

「そうだよね……」

「ただ、今回の襲撃は私が迂闊だったせいかもしれない。あの病院にイモータルが来た目的を考えないまま、“裏”だけを警戒してしまった。狙ってる対象の故郷で待ち伏せておくなんて普通にあり得る事なのに」

「待ってくれ! アタシ達も気付けなかったんだから、これは姉御一人の責任じゃねぇよ!」

「それに僕達だってイモータルがなのはを狙っているだなんて知らなかったんだし、流石にしょうがないよ」

アギトとジャンゴのフォローを受けたものの、マキナは首を振ってその言葉を否定する。

「……いや、しょうがなくない。どこかにヒントはあったはずだから、気付けなかった事はちゃんと反省しなければならない。じゃないと次こそ本当にゲームオーバーになってしまう」

「それは……」

無い、とジャンゴは言わなかった。彼も世紀末世界で多くのトラップや仕掛けを潜り抜けてきた経験があり、中には即死系の物もあったのだから一つ間違えれば死ぬ危険がある事を重々理解していた。それが今回、別の形で同じことが起きているとわかっているため、安易な慰めは逆に自分の首を絞める事につながると把握している。

「(これまではマキナが考えて道を示してくれていたけど、今度から僕も真剣に考えないと……いつまでも彼女に全部任せる訳にはいかないからね)」

世紀末世界では仕掛けの突破に頭を使ったが、次元世界では注意力や推理力に頭を使う必要があると理解した。かなり大変だが、やってやれなくはないだろうとジャンゴは気合いを入れる。

「そういや結果的に“避難案”もイモータルのせいで無意味になってしまったけど、“報復案”を選んでいる以上はもういいか」

「なのはちゃんの居場所が管理局の“裏”にバレてなくても、イモータルが襲撃してくるとなれば平穏な生活は出来そうにないよね……」

「逆に言えば居場所がわからないイモータルが向こうからやって来てくれるって訳だから、今度こそ力を合わせて皆で返り討ちにして浄化すればいいんじゃないの? 住む場所や拠点が無いならアタシの家の部屋を貸してもいいわよ?」

「大変魅力的な提案だけど、それだとイモータルは何とかなっても、管理局の“裏”をどうにかできる訳じゃない。友達を守るという、なのはの目的を果たせないんだ。まあ色々話したけど結局、なのはのやる事は変わらない。判明したのはイモータルの襲撃に備えて、彼女の傍にジャンゴさんもいる必要があるってこと。次元世界を闇雲に探し回るよりは、イモータルと遭遇する確率は高いもの」

「そうだね。それに狙われているとわかった以上、僕はなのはを守りたい。いや、守り抜いてみせるよ」

そう決意したジャンゴの姿に、なのはは頼もしい視線を向ける。そして事態を把握した士郎は、ジャンゴに真剣な表情で告げる。

「どうやらまたしても俺達では力になれないようだ。なのはの父親としてとても心苦しいが、相手がイモータルや次元世界ではどうしようもない。……ジャンゴ君、君にも様々な苦難や事情があるのは重々理解しているけど、その上で頼みたい。俺達の大事な娘を……なのはを守ってくれ」

「……わかった。僕に任せて」

その言葉を聞いた高町家は一同の希望を託すように、ジャンゴを暖かく見つめる。かつてサバタはこの家に太陽を取り戻してくれた。ならば彼の弟であるジャンゴもまた、帰ってきた太陽を守り抜いてくれると信じたのだ。

「ところでジャンゴさん、壊れた太陽銃の修理ですけど……その……私に預けてみませんか?」

「えっと、君は確か……」

「月村すずか、ちょっと曰く付きの家育ちです。それで太陽銃の修理なら時間はかかりますが、私なら何とかできると思います」

「そうなの?」

「ジャンゴさん、彼女なら任せても大丈夫だと思うよ。彼女はこちら側の世界の太陽銃のバリエーションを増やす研究をしているから」

「こちら側の世界の太陽銃?」

「と言っても模倣品のレプリカのコピー品止まりですけどね」

「真似の段階を踏み過ぎてる気がするよ……」

「でもジャンゴさんの持ってる世紀末世界の太陽銃はオリジナルという事もあって性能が圧倒的に上なので、修理中にそのノウハウを吸収できれば私が作る太陽銃も実用レベルに出来るかもしれないんです。恥ずかしながらこっちの太陽銃は、アンデッドを浄化出来ない程貧弱なので……」

「なるほど……まあ、時間はかかっても良いから直してくれるんなら任せるよ。はい」

「……」

「ん? どうしたの?」

「い、いえ……その……信用してくれてありがとうございます。必ず直して見せます!」

「いやそこまで気負わなくても……」

「どんな女の子にも秘密はあるんですよ。では、確かにお預かりしました」

月村家の血の秘密は伝えていないけど、ジャンゴならもし知られてもきっと大丈夫だとすずかは思った。あのサバタの弟という事もあり、ジャンゴは吸血鬼だからってだけで傷つけるような真似はしないと信じたからだ。

「さて……ある程度話はついた所で、私達はそろそろ行こうと思う。ここに居たら皆も危険にさらすって判明した以上、安全のため早めにマザーベースに帰るよ」

「もう行っちゃうのかい? せめて朝ごはんを一緒にしてからでもいいのに」

「ごめん、お父さん。私ももう少し居たいけど、襲撃が失敗したとなれば向こうは次の手を打ってくる可能性が十分ある。今回は奇跡的に人的被害が無かったけど、次もそうなるとは限らない。これ以上皆を巻き込みたくないの」

「諸々全部終わらせたら、またなのはを連れてくるよ。襲撃なんて気にせず、なのはが友達皆とまた一緒に楽しく過ごせるように僕も頑張るから」

「……そうか。じゃあその時が来るのを、皆で待ってるよ」

士郎のその言葉は、地球で待つ皆の心を代弁していた。外でジャンゴとマキナがバイクのエンジンをかけた時、唐突に桃子がなのはを抱き締める。

「なのは」

「お母さん?」

「今度こそ無茶はしないで、ちゃんと帰ってきてね? なのはの家はここなんだから」

そうやって優しく背中を叩いてくれる母の愛を受け、なのははじわりと涙をこぼした。

「……はい! ……お母さん、お父さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん……。また……私、またここに帰ってくるから! だから……行ってきます!」

「「「「「「行ってらっしゃい」」」」」」

地球の家族と友人から見送りの言葉を届けられて、日の出と共になのはは再び次元世界へと舞い戻る。失くしたものを取り戻すために……。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

新暦67年9月16日、7時21分。

なんて……意気揚々にそんな宣言をしたものの、なのはは深夜に起こされたせいで眠気でふらついていたため、マザーベースの休憩所でしばらく仮眠をとる事になった。その間にマキナはディアーチェ達に簡単な報告書を送っておき、その後はジャンゴとアギトと共に魚系の朝食を食べながらニュースやネットなどで情報収集を行っていた。

「ざっと目を通してみたけど、これと言って注目すべき情報は無いみたいだ。それならジャンゴさん、ちょっと暇潰しに付き合ってくれる?」

「へ? 付き合うって……」

「別に変な意味じゃないよ。いい加減バリアジャケットのデザインとか相談しておきたいし」

「バリアジャケット?」

「魔力で構築した防護服や騎士甲冑のことだよ。ほら、訓練中にシュテル達が模擬戦とかやる時に展開してる服がそれ」

「あ~、あれだね。……ん? そういやマキナはバリアジャケットを使ってないけど、どうして?」

「バリアジャケットは魔力で組み上げてる訳だから、使うと魔力反応が出て位置がバレやすくなる。だから狙撃や潜入任務には向いてないし、私の着ているスニーキングスーツ(ヘイブン・トルーパー服)でも十分防御力はあるから正直そこまで必要じゃないんだ」

「要するにバリアジャケットは防御力が高い代わりにカモフラージュ率がかなり低下するのか。対してスニーキングスーツはカモフラージュ率が高いけど、魔力で防御してないから一応バリアジャケットより防御力が低い、と」

「そ。私の場合、別にバリアジャケットが展開できない訳じゃないけど使う機会があまり無いだけさ」

「まぁ模擬戦みたいにタイマン張らなきゃならない時は、姉御も一応展開してるぜ。隠れられる状況じゃないからな」

「そっか。まとめると……ステルスを重視したら展開しない方が良くて、バトルを重視したら展開した方が良いんだね」

「ざっくり言えばそんな感じ。とはいえ、それも時と場合による。シュテル達も潜入任務の時は展開しない事が多いけど、相手に魔力探知の術が無い時は安全のために展開してる事だってある。結局どうするかは個人の選択次第って奴さ」

「そっか、なるほど。二人のおかげで大体わかったよ」

「じゃあ早速だけど、ジャンゴさんはバリアジャケットのデザインはどうする? 戦闘時のみ使うと割り切って考えるなら、ステルス性を気にしないで自由に作ってもいいよ」

「自由に……そう言われても難しいなぁ……」

「変に奇をてらわなくとも、既存の鎧や服を参考にしてもいいぞ。なのはのバリアジャケットだって、デザインの元は通ってた小学校の制服らしいぜ」

「あ、そんな簡単に決めちゃってもいいんだ。だったら……うん、アレにしよう」

マキナとアギトが見守る中、ジャンゴは目を閉じてサン・ミゲルの太陽樹が満開になった時に手に入れた太陽の鎧(メイルオブソル)をイメージ、デバイスとなったブレードオブソルに力を送ってその鎧を具現化させていく。そして数秒後、ジャンゴは光り輝く西洋風の鎧を身にまとっていた。

「できた! ……どう?」

「うん、まぶしい!」

「あ、やっぱり? じゃあ魔力を調節して……と、こんな感じでどう?」

「お~いい感じいい感じ! 勇者っぽくてカッコいいぜ!」

「そう? 確かにカッコいいけど、色的に目立ち過ぎじゃない? 私はもう少し大人しめが良いと思うんだけど」

「男ならこれぐらい派手でいいんだよ、姉御。戦場だと戦果を挙げるためには出来るだけ目立たないといけないし、敵に威厳を示すことだって出来るんだぞ」

「あ~騎士やサムライならむしろこれでいいのかな? 主に潜入任務ばかりやってたから、私は戦場の服装に抱くイメージが違うのかもしれない」

「僕とマキナとでは得意な戦術も違うからね。まあこの格好も試しに展開してみただけだし、これから色々試行錯誤して決めていくよ」

そう言うとジャンゴはバリアジャケットを解除し、元の格好に戻った。とりあえず彼のバリアジャケットは今の太陽の鎧を基本とし、以降新しい服やデザインを手に入れたら変装や好みで使用していく事になった。

「かといって、もしジャングルで科学者に変装しても何の意味もないけどな?」

「そんな事考える人なんていないって、アギト」

「そうだな、ジャングルで科学者に変装するヤツなんているわけがねぇ。いたらそいつはただのバカ……いや、極め付きの愚か者だ」

「………」

何故かジャンゴは何も言わなかった。


うぉ~は~♪
ピッピッピッピッピピピピピピピピ……ピピピピッピッピッピ。


新暦67年9月16日、10時40分

朝食兼相談から数時間経って眠気が取れたなのはも起床し、彼女の提案で皆の戦法や弱点を把握するためにジャンゴとマキナが軽い模擬戦をやる事になった。
陸地に設立されてある訓練場、割と広いリング以外に障害物が無いので正面から戦うなら最も力を発揮できる条件下。ゆえに本来隠れて戦うタイプのマキナには多少不利なのだが、彼女は普段使わないライダースーツのようなバリアジャケットを展開し、レックスの形態を変えて右手にデザートイーグル、左手にスタンナイフを持って構えていた。

「近接戦闘ではハンドガンよりもナイフが有利な場合もある。こういう状況の対策ぐらいしてるよ」

「一見すると、あまり隙が見えないね。手合わせよろしく」

「そんじゃあアタシが審判やるから、双方準備いいな? ……始め!」

アギトの開始の合図とほぼ同時にマキナがデザートイーグルで魔力弾を発砲、戦士の勘から彼女が出だしで仕掛けてくると見抜いていたジャンゴは忍者のような動き(ニンジャラン)でことごとく避け、回避が間に合わない弾は強引に剣で斬った。そしてリロードのタイミングにジャンゴはマキナの下へダッシュ、リロードを終えたマキナの銃口が向く前に一撃を入れようと剣を振り……降ろそうとした所で急に寒気を感じたジャンゴは前転でマキナのすぐ横を抜ける。そして前転の最中、彼はナイフを突き出しているマキナの後ろ姿を捉えた。

前転の勢いをバネにして、振り向きざまにジャンゴは剣を横薙ぎに払う。背後からの攻撃にマキナは咄嗟に伏せてやり過ごし、横に転がって仰向けの姿勢のまま振り下ろされた剣をナイフで受け止める。しかし力の差もあって徐々にマキナが押されていくが、彼女はやられる前に発砲し、撃つ直前に銃口が向いている事に気付いたジャンゴは思いっきり背中を反って何とかかわす。

急ぎ立ち上がったマキナと姿勢を戻したジャンゴの間で剣とナイフが何度もぶつかり、火花が飛び散る。重量、刃の長さ、取り回しの速さ、剣士と銃士、男と女、そういった対照的違いがありながらも二人の戦いは熾烈さを増していく。そして互いに相手を倒すべく、交差時に剣とナイフの一閃を放った。

一瞬の沈黙。

背中を向け合う状態で、ジャンゴとマキナは斬りつけた姿勢のまま無言でいた。戦いを見守っていたなのはがゴクッと唾を飲んだ瞬間……、

ビリッ!

マキナのバリアジャケットの上着が斜めの線を描いて破れた。

「そこまで! 勝者、ジャンゴ!」

「はぁ……はぁ……負けちゃった。私もまだまだ未熟か」

「ふぅ……マキナも強かったよ。一瞬でも気を抜いてたら、負けてたのは僕かもしれない」

「そう? ジャンゴさんが言うなら、私も少しはサバタ様に近づけてるのかな」

「多分ね。……ところで、バリアジャケットってそんな風に破れるんだ……」

「ああ、これぐらい魔導師ならよくある事だよ。魔導師たるもの、やられたら真っ裸になるのが次元世界の常識だし」

「そんな常識はどこにも無いよ!?」

マキナの言葉にたまらずなのはがツッコミの声を上げた。しかし攻撃を受けるとバリアジャケットが破損する点を見ると、あながち間違いとは言えなかったりする。そしてまたどこかの獣耳な世界では本当に常識であるのだが……それは別の話。

「ん~にしても見事に斬られちゃったなぁ。私のバリアジャケットが綺麗にスパッと裂けてるもの」

「それは良いんだけどさ……マキナちゃん。さっきから谷間とかお腹とか色々見えちゃってるのに、恥ずかしいとか隠そうとか思わないの?」

「全然。育ってきた環境がアレだから感覚がわからないというのもあるけど、こういう格好だとそれはそれで涼しくて気持ちがいいし」

「す、涼しいって……もう好きにして……」

「そうさせてもらおう。ところで一つ聞きたいんだが」

「なに?」

「下半身は脱いじゃ駄目かな?」

「えぇ!?」

「下半身は……」

「脱いじゃ駄目だよ!? もう、マキナちゃん! せっかく羨ましいスタイルしてるんだから、もう少し女性らしい常識を身に着けてよ!」

「なんか……こんな話題されると男として気まずいや……」

「確かにジャンゴも性欲を持て余すよな。私も気持ちはよくわかるぞ」

「お、おてんこさま……僕はそんな意味で言ったんじゃ……」

「つーか、太陽の使者! あんた性欲あんのかよ!?」

「とりあえずマキナちゃんは早くバリアジャケットを再構成するか、もしくは元の格好に戻って! その格好だと無駄に色気が放出されてて、なんか私が落ち込むから!」

「なんでなのはが落ち込むのかはさておき、模擬戦は終わったんだから確かにいつまでも展開しとく意味は無いね」

最近胸の成長を気にし始めているなのはの説得を受けて、マキナは大人しく夏服に戻る。それによってなのはもジャンゴも一応落ち着き、マキナは今の戦いで判明したジャンゴの戦闘スタイルの注意点を伝える。

「ジャンゴさんは回避や防御を中心にした堅実な戦い方をしてるし、基礎能力や生存率だけ見ればこの中の誰よりも上だろう。だから持久戦や一対一では地味に強いけど……いくらサバタ様に匹敵する身体能力があるからって、決め手となる必殺技はトランスしないと使えない点がどうしても気がかりだ」

「つまり、僕がやるべきなのは……」

「通常時でも使える攻撃力の高い剣術とかを覚える事だね。サバタ様が狂戦士の波動やホドリゲス新陰流を使ってたように、ジャンゴさんも切り札となりえる技を持つべきだ。幸いにもジャンゴさんには魔力があるんだから、それを使って大きな一撃を放つってのもアリだと思うよ。そういう意味ではジャンゴさんはベルカ式の魔法が向いてるとも言えるかもしれない」

「ベルカ式?」

「次元世界の魔法にはいくつかジャンルがあって、その中の一つがベルカ式なんだけど、そのベルカ式もまた区分けされてる。まず遠距離は少ない代わりに近接戦に特化したものが古代ベルカ式。それをある程度遠距離対応にして今風な感じにしたのが近代ベルカ式。あとついでに、全距離対応で最も使いやすく魔導師らしいスタイルがミッド式。今言った順に普及してるから、次元世界で一番使われてる魔法はミッド式ということになる」

「逆に言えば、古代ベルカ式の使い手はかなり貴重なんだね」

「そういうこと。ちなみに私のはベルカ式を遠距離特化にアレンジしたタイプだから本来の形式とは大分異なるけど、それでもジャンルは近代ベルカ式に入るんだ。というかミッド式は改良や応用がしやすくて、どんな場面でも柔軟に使えるから最も普及したのさ。対してベルカ式は一芸特化というか戦闘向きだから、日常場面などで使う機会はあんまりない。まぁその分、一つ一つの魔法が強力で戦闘になればミッド式以上の力を発揮しやすいんだけど、結果自体は実力が関係するから明言は出来ないよ」

「なるほど……扱いやすいミッド式と戦いやすいベルカ式か。どちらかを選ぶとなると、なかなか迷うね」

「確かにどちらにも魅力的な点はあるから、迷うのもわかる。ただ、純粋に強くなりたいなら、私は古代ベルカ式をおすすめするよ。まあ今すぐ決めろって訳じゃないから時間がある時に考えといて」

「わかった」

マキナの説明を受け、ジャンゴは次元世界の魔法系統のどれを使うか選ぶ事になった。とりあえずジャンゴの課題は決まったので、そのままなのはの課題を探す流れになる。しかし彼女は素手での戦い方を身に着けていないため、レイジングハートに代わる得物をどうするかという相談から始まった。

「確かレイジングハートは杖だったから、槍や薙刀みたいな長柄の武器なら同じ感覚で使えるんじゃない?」

「それも考えたんだけど……マキナちゃんやシュテルみたいにCQCを覚えた方が自分の身を守れるんじゃないかなぁって思ったの。だってマキナちゃんは狙撃型なのに近距離でも十分強いから、それがあればもし髑髏に近づかれても対処できるはずだと思って……」

「あぁ~言いたい事は理解できる。でもCQCって、そんな簡単に身に付けられる技能じゃないんだよ。私だって毎日めちゃくちゃ訓練して、やっとこさ実戦レベルになったんだしさ……。だからなのはの場合、もし近接格闘術を覚えるならCQCよりもっと身近な体術の方が良いと思う。CQC以外にもテコンドーやカポエラとか色々あるし、なのはの故郷のニッポンだとカラテや……あ、ジュードーはどう?」

「ジュードー……? あ、柔道だね。それなら時間をかけて練習すれば、私も出来るかもしれない」

「なるほど……でも悠長に訓練していられる状況でもないから、練習や覚える時間は任務の合間や移動中の時間を活用するしかないね。それに過労を防ぐためにも適度な休憩も入れなきゃだし……」

「そっか。簡単に身に付けられるとは思っていなかったけど、やっぱり気長にやるしかないんだね」

「当たり前でしょ。小学生の女の子が経験も無いのにごく短時間で実戦レベルの格闘術をポンポン身に付けたら、次元世界中のインファイターが泣き寝入りしちゃうっての。格闘術は日々の訓練の積み重ねが最も基本かつ大切なのさ」

「あ、昔同じような事をお父さんやお兄ちゃんが言ってた気がする」

「あっちは剣術だけどね。ともあれ何も覚えていないよりははるかにマシだから、ジュードーを練習する事に異論はないよ。でもジュードーが実戦レベルになるまでかなり期間が必要だし、そもそも近接対策が今のままってのはアレだから、今しばらくはなのはの得意分野である魔法をもう少し改善してみたらどうかな?」

「改善?」

「とりあえず……なのはの近接魔法戦術ってどうなってる?」

「えっと、まずプロテクションを爆破させて反撃するバリアバースト。それとプロテクションで止まった相手にチェーンバインドで逃げられないように動きを封じた所に砲撃……って所かな」

「ふんふん、中々合理的で良い戦術だ。それで展開速度は?」

「え?」

「プロテクションの展開速度だよ。発動してからシールドが張られるまで、どれだけの間隔があるのかなって」

「あ~それはちょっと測った事が無いからわからないや」

「じゃあ今測ろう。さ、展開してみて」

という訳でマキナに言われた通り、なのはは義手にインストールしてあるプロテクションを発動、ピンク色のシールドが展開される。ジャンゴとおてんこが初めて見るプロテクションを興味深くこんこんと軽く叩いたりする隣で、マキナはアギトに展開時間を聞いていた。

「0.53秒って所だな。魔導師の中では、相当早い方だぜ」

「うん、私もそう思う。やっぱりなのはは魔法を扱う才能があるんだろうね。でももう少し早く展開できないかな?」

「いやいやいや、無茶言うなよ姉御。普通の魔導師なら1秒以内に発動出来るだけで十分凄ぇんだからな?」

「普通なら、ね。でも“裏”を相手するには普通のままじゃ駄目なんだよ。なのはがCQCやジュードーを使えない以上、敵に腕とか首とか掴まれたらそれでおしまいなの。だから掴まれないためにも……0.1秒台の速さで展開出来るのが望ましいと思う」

「れ、0.1秒!? オイオイオイ、そりゃいくら何でも無茶だろ!?」

「無茶でも生き残るにはやるしかないの。これから先は不意打ちを受けても即座に防げる程の反射、反応速度が求められる。それに追随できなきゃ、反応できても意味が無いんだ」

「要は見えても動けなきゃ駄目って事だね。……わかった、私やってみるよ」

魔法に対しては一際思い入れがあるため、なのはは拳を握って意気込む様子を見せる。そんな訳でジャンゴに続いてなのはの当面の課題が決まったので、現状の実力把握もお開きになった。

「ここにおったか、マキナ」

「あれ、王様?」

丁度その時、ジャンゴ達のいる訓練場にディアーチェがやって来た。今朝の報告書について何か記載漏れでもあったかと思うマキナだが、「それは関係ないぞ」とディアーチェが指摘する。

「客人がお前を呼んでるから、わざわざ我が迎えに来たのだ」

「客人? その人、本当に私をご指名?」

「うむ、お前とも一応深い因縁がある男だ。客人の名は……ギル・グレアム元提督」

「ッ……!?」

その男の名を聞いた瞬間、マキナは眼を鋭くした。
 
 

 
後書き
カモフラージュ:MGS3の機能。敵に見つからないために、偽装効果を上げられる服に着替える必要があります。なお、ジャンゴとマキナは服装にあまりこだわりが無く、実はカモフラージュ欄の一つに”NAKED”が存在しています。
ニンジャラン:MGRの移動法。走るだけで銃弾を防ぎ、障害物を斬り、段差などを駆け抜けます。

今回はキャラ強化の準備です。次からまた話が動く予定です。 
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