破壊ノ魔王
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一章
10
シルクとかいうクソガキは、約束どおり逃げることもその素振りもなく、おとなしくしていた。
「世話んなったな」
「ゼロさーーん!またきてくださいねーー!!」
盗賊の根城を出発したときも、道中しばらくの間も、異常なほどにおとなしい。だまって、俺の後ろをとぼとぼと歩く。
周りはうっそうとした木の集まり。苔の臭いと湿っぽさが煩くなってきた。
「……そろそろ頃合いだな」
「へ?」
放った小刀はぶれることなく真っ直ぐとクソガキの首の横へ突き刺さり、ざわりと森は騒いだ。反するようにガキは硬直したまま動かない
「あの技はなにか。雫神とか指命とか言ってたがそれはなにか。答えろ。約束は守ってもらう」
こいつの言葉に嘘はない。指命があること、自分が雫神の者であること。声、表情からも嘘ではないことはわかるが、矛盾が発生する。
なぜ雫神がここにいる?
「ぼ……ぼくは……教えることができない」
「あまりなめたこというなよ?今日はあの吸血鬼はいない。何のために日の出てる時間を選んだと思ってる」
雫神とは、神樹マーテルに住む神の一族。崇め奉られる存在であって、盗賊に捕まるど阿呆ではない。こんな山の中で大犯罪者と話すこともない
で、とくになにもすることもない神の一族が、指命をもつこともない。こんなガキならなおさらだ
「ぼくを……手伝ってくれるなら教える」
「俺に意見できる立場だと思ってんのか?」
実際のところ、あの技に興味はあるが別に必要なことではない。別に大して効かなかったし、俺自身にあれ以上の力がある。なんの脅威にもならない。
だが、俺には経験があった
無知が時にとんでもない凶器になることを
この力にしろ、こいつの存在にしろ、わからないものをわからないままにするのは得策じゃない
ま、8割は只の興味なんだろうが
「…………わかった。わかったから、ひとつだけお願いしてもいい?」
「あ??」
まだいうか、このクソガキ!
「おなかすいた!」
…………クソガキ
「んまい!ふつーにおいひい!!」
「そりゃよかったな」
小さな町の小さな食堂。人が大勢集まる賑やかな場所に俺とガキはいた。日は高く、室内でフードをかぶっても最悪な気分は変わらない。人の多さが幸いして、俺がゼロだとは誰にもわからないようだった
「…………で。いつになれば本題にはいる?」
「んんんん。わかっぱよ。……ごぐん。えっと、まずはあの力だけど、そんなすごいものじゃないよ。勉強したら誰でもできるし、ティナもちなら尚更簡単。というか、みんなできるもんだと思ってた」
「仕組みは?摂理は?」
「そんなことわかんないよ……ぼく、子供なんですけど」
……ほお?
「ごめん。仕組みとか摂理とかは難しいからほんとにわかんないけど、使うものはわかる。メンスだよ」
「……聞いたことねぇ言葉だな」
「魔法を知らないならメンスもアニムスも知らないのかー。へーーーーーーーー」
「さて。どこに売るかな、これ」
「ごめんなさい。余計なこと言いました。まぁどっちも誰にでもあるものだよ。分かりやすくいうなら……メンスが精神でアニムスが魂かな。ぼくは雷を出せるけど、先生はもっと炎とか水とかも出せてたよ」
メンス。精神力……。
そんなもので自然現象を操るとか考えてもなかった。ティナなら不可能も可能になるが、誰にでもあるもので力を発生させることができる
……だめだな。この力を広めるわけにはいかねぇ
こぞって軍が動き出す
唯一それを知るのはこのガキ
「……やっぱ消すべきか」
俺の声は騒がしい店内の笑い声でかきけされた
「えっと、そういえば何て名前なんだっけ?」
「呼ばれる名前がない」
「ふーん。じゃ、そこの人ってティナもちなんでしょ?ならメンスはわかると思うんだけど……メンスはティナを使うときに減るんだよ、たしか。えっと……能力型がメンスで、強化型がアニムス、変形型がどっちもだったっけ。メンスもアニムスも亡くなれば死んでしまう。メンスが考えたり、悲しくなったりとかする目に現れない力で、アニムスが体を動かす力だから、メンスがなかなると体の制御ができないし、アニムスがなくなると心臓も動かなくなる。どっちも大切なんだよ」
「少なくなれば……空に近づくとどうなる」
「んー。体が重くなったり、頭回らなくなったりはするけど、わかんないや。ぼくはそうなったら止めるように言われてたからさ」
俺は変形型のティナ持ちだから、どちらも消費する。なるほど、空に近づくとああなるのか
「そこで!ぼくはこの力を駆使し、この世界を救うのだ!」
急に立ち上がったクソガキは、ほんとガキみたいに拳を握りしめ、声高々に続けた
「雫神の一族として、この世界の間違いをきれいさっぱり正すんだ!ねぇ!おにーさんもほんとはいい人なんでしょ?ぼくを手伝ってよ!」
あーあ
ばか ばか ばか
そんないきなり立ち上がって?雫神とかぬかして?俺に手をさしだして?
バカが
「きゃあああああああああああああ!!」
「ゼ、ゼ、ゼ、ゼロだぁぁぁあ!」
「逃げろ!殺されるーーーー!!!」
笑い声で騒がしかった店内は悲鳴と泣き声で包まれ、30秒もせず、俺とガキの二人だけが店内に取り残された。ガキは目を見開いて周りを見渡し、鎮まった店内でひとり驚きを隠せずにいた
「……申し遅れたな、雫神」
空いたグラスでカランと氷が音を贈る
「俺はゼロ。この世界随一の悪人で、神に反する悪魔のティナの持ち主だ。……で?手伝ってほしいとかぬかしたか?」
どちらにしろ殺すことは確定している
ただ、それが今でこの場所になっただけだ
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