破壊ノ魔王
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
一章
11
静けさに満ちた店内。そこに取り残されたような一人の子供と男性
「犯罪者……悪者……?」
「しかも最大級のな」
少年は呆然としていた
驚いていたわけではない。ただ呆然としていたのだ
「それでも手伝えっていうか?その指命とかいうのを」
少年は口をつむる。視線は下におち、誰の目から見ても迷いが見てとれた
そして意を決したように男の前にどすんと座った
「うん。かわんない」
少年はそう言った
この人は悪いやつで、みんなから嫌われてて、怖がられてる。ぼくに何かしてくるかもしれない
でも、きっと
きっとこの人は
「ぼくは世界を救いたい」
最悪、じゃない
「だから、きっと人を傷つけることになる」
ゼロは表情を変えることなく、ただじっとぼくの目を見ていた。深い濃紫の色がとても綺麗で、なんだか悲しかった。なんの表情も浮かべない目は、綺麗だけれども冷たすぎる悲しい色だと思った
どうして、こんな目をするのかな……
「ゼロ、ぼくは……雫神のみんなを助けたい。この世界の間違いを正したい。みんな、気づいてないんだよ。この世界の異常さに」
ぼくは話した。この世界の本当の姿を
雫神がどうなっているのかを
「雫神は……本当の雫神はずっと閉じ込められてるんだ」
昔、マーテルを求めて人は旅をしていたころ
雫神はそのマーテルの中に住み、平穏で優しい日々を送っていた
雫神はそもそも人類とは違う生き物である。人よりも長寿で、メンスとアニムスを使いこなし、その力を生きるために使う。誰かを傷つけるという概念がそもそもない。
だからマーテルと話し、外の世界を良いものにするため、またはこの大樹まで来てもらうためにティナを作った。メンスとアニムスを使えない人間たちに与えられた生きるための力、航海のための力。それがティナだった
"いつかここに人間たちが来て、楽しいお話ができるといいね"
雫神たちとマーテルはその未来に心を踊らせていた
しかし現実はちがった
人は雫神ではない
ティナは傷つける力になり、奪い合われるものとなった
マーテルは嘆いた
だから泣く泣く代償を奪った。ティナを求めるものを少なくするために
しかし人は変わらない
ティナをめぐって殺しあい、ティナを使って死んでいった。そしてマーテルにティナを恵むよう祈り続けた
マーテルは生きるための力を得たいという望みを無視できなかった。そう望ませたのは、自らの過ちのためだったからだ
そして
人はマーテルにたどり着いた
雫神の一族も、マーテルも、なにもかもを無視し、人の残虐さをはらんだまま己の欲のみで動いた
人間の考えたことはひとつ
"これでティナが手にはいる"
雫神たちは惨殺され、追いたてられ、生き残ったものたちは閉じ込められた。それはマーテルについて、ティナの精製について知識を得るためであり、慈悲の心もなにもない。必要なものは生かし、不要なものは死んでいった
それから、冒険者たちは雫神に成り代わり、神の代行者として人々から崇め奉られる存在となった。マーテルからティナを奪い、掌握することで世界を自らのものにした
「……マーテルは、ティナを作るのを止めようとしたんだ。でも、雫神のみんながマーテルの人質だから、マーテルは作り続ける。直接その場に出さないのがギリギリの抵抗。冒険者たちはぼくの一族をいっぱい殺したから……メンスもアニムスも、ティナのことも、わかってない」
「わからねぇな。なんでそいつらが来たときに返り討ちにしなかった?おまえの言う魔法は、そんな役にたたないもんなのか?」
「力はあっても、使い方を知らなかったんだよ。ぼくも雫神の平和主義っぷりには参っちゃう。もうそんなことも言えなくなっちゃったからぼくはバリバリできるんだけど。昔の雫神は……ね」
ぼくの知らない昔々の雫神たちのはなし
残酷だと思う。でもほんとは……
「自業自得だな」
おっしゃるとおりです
「おまえみたいなガキがやるべきことでもねぇだろ」
「違う。ぼくは何とかしたいって。そう思ったんだ。でも……怖かったんだよ!マーテルから飛び降りるの!先生の魔法があっても不安で不安でしょうがなかったよ!!」
「……もっといい方法なかったのかよ」
「だって!閉じ込められたまんまじゃダメだし、今までと同じことしてもだめだし!それなら外の世界から頑張るしかないじゃん!その前に外の世界にいくのに頑張んないといけなかったの!!」
そのとき、ふと思い出した
もうひとつの辛い昔話
「……もひとつ言うけど、戦うひともいたよ、雫神じゃないけど」
「ほぉ?」
「もう……種族の名前さえ、なくなっちゃったんだけどね」
彼らは、戦おうとした。傷つけかたも知らなかったけど、守るために戦おうとしたんだ
でもマーテルが拒んだ
マーテルが拒んで、雫神が人質にとられて
冒険者は一人残さず、戦おうとした彼らをマーテルから突き落とした
「書物とかも全部。字は人間には読めないし、雫神はあてにできないし、それならいっそ消えてしまえって……。ほんと、ひどい……」
落ちていった名前も姿も忘れられた彼らは、唯一頑張って戦って何とかしようとした人たちなのに
あとにはなにも残らない
「……ぼくはさ、そんなやつらが世界の神の代行者で、崇めている人たちがいて、苦しんでいる人たちが見えなくなってるなんて、嫌なんだ。いやだと思ったんだ。だから、ぼくは雫神だけど……」
嘆き続けるマーテル、昔の話をするときの辛そうな先生、忘れられた戦士たち
でもなにより嫌だったのが
そんなことが昔あったのに、閉じ込められている状況なのに
それが当たり前になってしまったことだ
昔のことは過ぎ去って、新しく生まれたぼくたちは今の環境が普段通りだった
それが嫌で嫌でたまらなかった
「みんなのために、戦う」
そのために、力がいる
ぼくだけじゃまだだめだ
「悪魔ゼロ、ぼくと契約して」
ページ上へ戻る