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ぼくだけの師匠

作者:櫻木可憐
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第1章~ぼくらを繋ぐ副作用~
  10.初デート

煙が目に染みる。
それでも見たいと、見ていなければならないものがある。
気持ちがあれば痛さは後回しになれる。
菊地原はそう感じた。

「レバーが焼けたぞ菊地原!!」

現在焼肉を食べに来ている。
いや、食べに来ているのではない。
世にいう初デートというやつだ。
デートというより買い出しに近い。
菊地原に荷物持ちをさせて、如月はまったりしているのだ。
デートなんぞ生まれてこの方、したことがない。
菊地原の期待を裏切り、相変わらずの男装(本人に自覚なし)の姿で現れ、荷物をさせる。
今日の菊地原の収穫は、如月が髪を結んだ姿を見れたぐらいだ。
髪を結んだ姿は多少女性らしさがある。

「A級5位以内になったら、いいやつをおごってやる」

「えっ、風間隊全員?」

そういわれた如月は、苦笑いで返した。
どうやら個人で5位になったら、という意味らしい。
菊地原はわかめスープに口をつけた。
話を続けるタイプではない二人は、黙々と食べ続ける。
だいたい、別れるタイプのカップルだ。

「歌川っていい奴だよな?」

「・・・・・・?」

いきなりの話題をされた菊地原は、一瞬歌川に嫉妬しかけた。
如月はそんなつもりではなかったようだ、と気づくと気持ちはかなり落ち着く。

「いい奴って言うのは情けだよな。
底の知れた、魅力のない奴への。
あ、歌川が魅力なしって訳じゃなくて。
あいつは良すぎるからな。
飴と鞭を使い分けれた男に女はホレるらしい。」

「可憐は・・・?」

「知らないな。飴も鞭も嫌いらしい。
好き嫌いで言えば牡蠣は嫌い」

誰も食べ物の好き嫌いは聞いていない。
それより牡蠣が嫌いな二人は、カルビを焦がしたらしく残念そうだ。
食事を終え店を出ると、特に買うものもなく、やることもなく、途方に暮れる。
デートには向かない二人だ。

「すまない、デートなんてわからなくてな。」

「別にいいよ。わからなくて。
行きたいところ、ないの」

「いや、お前・・・
両手両肩に荷物じゃねぇか。
帰るか、疲れるだろ?」

デートというより、息子に荷物持ちさせた母にみえる。
別に菊地原がマザコンなどと言いたいのではない。
ここにボーダー隊員がいたら、菊地原がいじめられそうだ。
特に諏訪がいたら。

「菊地原、じゃあ風間のやつに・・・ゲホッ」

如月が咳を始めた。
最近増えていた咳で、菊地原も聞き慣れていたが、異様ではないと感じる。
咳がとまらない如月は、しゃがみこんでしまう。
菊地原は、荷物を落とすように置いて駆け寄った。
咳のしすぎで呼吸ができていない。
手で背中をさするが、効果はない。
一瞬、如月が菊地原の携帯に目を向けた。
菊地原はその目の動きから、救急車を呼ぼうと冷静になれた。
そこに通りすがりの諏訪が走り寄ってきた。

「姉貴、無事か!?」

如月を揺すろうとする諏訪を、菊地原は平手打ちで止めた。
そこまで冷静になれていない菊地原。

「揺らして何かあったマズイでしょ。
それより救急車!!」

諏訪は自分の携帯で救急車を呼ぶ。
すでに意識を手離した如月を、菊地原は真っ白な頭で見ていた。
そのあとどうしたか、菊地原はまったく覚えていなかった。 
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