八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十七話 流し素麺その十七
「それはないわ、蚊よ」
「あっ、足を出してるから」
「その分蚊に噛まれるでしょ」
「それが嫌なのよ。だからね」
「そうした浴衣は嫌なんだね」
「蚊嫌いなのよ」
顔を顰めさせてだ、モンセラさんは僕にこうも行った。
「だからね」
「それはなんだ」
「着ないつもりよ。というかね」
深く考える顔でだ、こうも言ったモンセラさんだった。
「夏は気をつけないと」
「果には」
「刺されて痒いし」
「病気もだね」
「あるから、まあ蝙蝠はいないけれどね」
「蝙蝠?ああ」
言われてだ、僕もわかった。
「チスイコウモリはね」
「日本にはいないけれどね」
「それはいないね」
「あの蝙蝠はもっと怖いわ」
「血を吸うだけじゃなくて」
「狂犬病もあるからね」
「怖いんだったね」
僕もこう言った。
「ブラジルは」
「そうよ、まあいないならいいわ」
「モンセラさんはメキシコ生まれだよね」
「さっきの吸血鬼の話でね」
「思ったんだ」
「そう、メキシコにはチスイコウモリいないけれど」
それでもというのだ。
「ならいいわ」
「じゃあ浴衣は」
「丈の長いのがいいわ」
普通のその浴衣が、というのだ。
「色はまだ決めてないけれど」
「わかったよ、じゃあね」
「そういうことでね」
こう話してだ、そしてだった。
僕もだ、モンセラさんにこう言った。
「僕も着ようかな」
「浴衣?」
「男もののね」
「男ものの浴衣もあるのね」
「あるよ、あまり着てる人はいないけれどね」
それでもとだ、僕は答えた。
「だからね」
「着るの」
「そうしようかな」
この考えを話した。
「僕もね」
「そうしてもいいね」
「その辺りは考えるよ、それにね」
「それに?」
「その夏祭りももうすぐだしね」
僕は微笑んでモンセラさんに答えた。
「日本の夏祭りも楽しいよ」
「楽しみにしてるね、そっちも」
にこりと笑ってだ、モンセラさんは僕に答えてだった。僕の部屋を後にしてだった。そのうえで。
僕は一人になってだ、それから寝た。この日はこれで終わった。
第五十七話 完
2015・8・25
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