八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十六話 午後の紅茶その十一
「何か怖い感じの言葉ね」
「夜、即ち魔がはじまる時だ」
「まさに」
「その時だからだ」
それでというのだ。
「そう呼ぶのが」
「魔に逢う刻ね」
「夜になりな、妖怪ははざかいにこそ最も出ると言われているが」
「夜になろうとするその時に」
「まさにだ」
「成程ね、それでその時に」
モンセラさんはそのテーブルをまた見た、ここで。
「伯爵達もなのね」
「妖怪が出るというが」
「ううん、じゃあその時にならないと」
「ここでも出ないかもな」
「そうなのね。この時期だと」
夏真っ盛りだ、日が出ている時間が最も長い時期だ。それこそ四時半には空が白くなってきて七時まで暗くならない。
「七時過ぎ?」
「それ位だな」
「その時になったらもう」
「学園は基本閉まるな」
「大学でもよね」
「泊まることも出来るがな」
井上さんはモンセラさんにこのことも話した。
「普通にな」
「あっ、寮とかで」
「そうだ、今の時期は寮生も殆ど自宅に帰っているが」
地方から来ている人達は寮に入ることが多い、アパートを借りたり親戚の人がいればその家から通うこともある。
「寮に泊めてもらうことも出来る」
「八条荘に帰らなくてもなのね」
「寝泊りは出来るがな」
この学園の中では、というのだ。
「後は八条荘に連絡をすればだ」
「七時まで粘っているかどうか確かめて」
「後は寮に転がり込めばいいがな」
「何か図々しい感じね」
「そのことは否定しない」
夏休みでも寮に残る人がいて寮自体は空いている。それで泊めてもらうことは出来ることは出来るのだ。
だがそれは確かに図々しいとだ、井上さんも認めた。
「私もな」
「ええ、それはね」
「よくないか」
「私図々しいの嫌いだから」
「ではどうする」
「この時間で出ないのならね」
それならというのだ。
「私もう帰るわ」
「そうするか」
「ええ、これでね」
そうしてというのだ。
「見るのはまたの機会でいいわ」
「そうか」
「そう、秋になれば夜になるのも早いでしょ」
つまり逢魔ヶ刻になるのはというのだ。
「その時に見るわ」
「では帰るのだな」
「図々しいことは嫌いだし。それに」
「それに。何だ」
「もうこれ以上ここにいたくないわ」
汗だくになった顔で苦笑いを浮かべてだ、モンセラさんはこうも言った。
「暑いから」
「そのこともあるか」
「というか何でこんなに暑いのよ」
「これが日本の暑さだ」
有無を言わせぬ強い言葉での返事だった。
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