八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十六話 午後の紅茶その十
「正直なところ」
「メキシコシチーにいる時よりもか」
「ええ、メキシコはまだ涼しいのよ」
「そうだったのだな」
「ええ、とにかくこの暑さには」
「ルーマニアにいる妖怪には辛いだろう。それに夕刻でもまだ日は高い」
まさに夏だ、この夏真っ盛りの状況だからだ。
「これでは出ないだろう、狼男にしてもだ」
「ああ。狼男も夜の妖怪だからね」
「満月の下で変身するな」
「そうなってるわね」
「実際は何時でも変身出来た様だがな」
この設定もハリウッドのせいらしい、狼男は実際は何時でもそれこそ昼でも人から狼に変身出来るらしい。
「しかし月の満ち欠けに影響を受けてだ」
「夜ね」
「夜の妖怪であることは確かだ」
「じゃあ夕刻は大丈夫でも」
「夏の夕刻はどうか」
その日本の暑い夏のだ。
「そう考えるとだ」
「出て来ない可能性が高いのに」
「そう考えるべきだろうか。そもそもこの学園の怪談話は夜のものばかりだ」
「ああ、どの怪談でもそうですよね」
僕はここでまた言った。
「学校の怪談も夜ですね」
「昼に堂々という話はあまりない」
「ですよね」
「江田島にはあるがな」
今は海上自衛隊幹部候補生学校、かつては海軍兵学校だったその場所はというのだ。
「昼に訓練中旧海軍の亡霊が出たという」
「白いつなぎの作業服の」
「知っていたか」
「聞きました、去年の合宿の時に」
バスケ部の夏のだ、八条学園の合宿はよく江田島で行われるからだ。他ならぬその場所で。
「手旗訓練で船で海に出てる時にですね」
「うむ、遠くでこちらに手旗を送っている者がいたが」
「それが白いつなぎの作業服を着ていて」
「旧海軍のそれだったのだ」
「そうした話がありますね」
「あそこもまたそうした話が多いが」
何でも世界屈指の心霊スポットでもあるらしい。
「そうした話もある」
「お昼でも出る場合がですね」
「あるにはある」
「けれど大抵はですね」
「夜だ、そもそも夜は妖怪の時間だ」
誰が決めた訳でもないが何故かこうなっている、ゲゲゲの鬼太郎にしても夜で墓場で運動会と主題歌である位だ。
「だからだ」
「怪談の話もですね」
「夜にあるのが大抵だ、そして夕方はだ」
「その昼と夜の間ですね
「この明るさではまだ昼だな」
井上さんはまた上を見上げて言った。
「これ位ならだ」
「お昼ですか」
「そうだ、夕刻と言うには日が高い」
そうだというのだ。
「この場合夕方は逢魔ヶ刻だろう」
「逢魔ヶ刻って?」
「まさに昼が終わり夜がはじまろうとする時だ」
その時間のこともだ、井上さんはモンセラさんに話した。
「昼が終わりまさにだ」
「夜になろうとする時をなのね」
「そう呼ぶのだ」
「ふうん、まだ日本語そこまで知らないけれど」
逢魔ヶ刻という言葉の意味を深く理解することをだ、モンセラさんは自分で言った。この人もそこまで理解してはいないとのことだ。
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