リリカルなのは~優しき狂王~
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Vivid編
外伝~if/ライのたどり着いた世界がCEであったなら(前編)~
前書き
読者の皆様お久しぶりです。
今回は書き溜めていたら結構な量を貯めてしまってしたので載せようと思った外伝です。
あと、今回はタイトル通り前半です。
作者の独自解釈も含まれ、ライも割とキャラ崩壊してるかもしれませんが、読者さま方の広い心で見ていただければと思います。
では本編どうぞ。
たどり着いた世界は人種差別の権化のような世界であった。
本人が決めることができない生まれについて、他人と線引きを行い見下し、羨み、否定して、それが小競り合いから社会問題、そして戦争へと発展していくのにそうそうと時間は必要としなかった。
それがコズミック・イラと呼ばれる年号の世界における、コーディネイターとナチュラルによる社会の成り立ちであった。
ライは目を覚まし、放浪を続ける。
目覚めたばかりの頃はナイトメアフレームよりも大型の人型機動兵器が、戦車や戦闘機と言う一般的な近代兵器を蹂躙するような戦闘に嫌悪とデジャビュを感じながらも生き延びようと必死であった。
そしていつしか難民に紛れるようにして、世界を巡るように流れていく。
時には、偶然隣を歩いていた誰かを庇うこともあった。
時には、自身の容姿を売りその日を凌ぐための食費を稼いだ。
時には、生き延びるために名前も知らない誰かを殺した。
ライは流れる。どこに終わりがあるのかも分からず、そして生き抜いたところで自分に何が残るのかも知らずに。
そして、そんな放浪に突然の終わりがやってきた。
海を渡る貨物船に密航し、到着した島国に入る。だが、これまでと違い戦争がまだ身近に感じることができないその国では、犯罪に手を染める以外に彼がお金を稼ぐ方法は存在しなかったのだ。
この国に入る前に手元にあった路銀は瞬く間に底をついた。
そして素性も戸籍もないライに、真っ当な働き口があるはずもなく、再び戦地のような場所に赴く気概があるほど、彼は頑丈でもない。もう疲れてしまっていたのだ。
波の綺麗な音が聞こえる浜辺に、ライは倒れ込む。最後に彼が聞いたのは、自身の安否を確かめようと呼びかける、兄妹と思われる二人の子供の叫びであった。
目を覚ます。そこは磯臭い砂浜でも、見るに耐えない地獄でも、ましてや意識のみ存在するCの世界でもない。只々一般的なベッドの置かれたどこかの部屋であった。そして自分はその部屋のベッドに横たわっている事が、疲れきった体を包む柔らかい布団の感触からよくわかった。
「あ!起きた!」
大きな声が隣から聞こえる。そちらに顔を向けると、椅子に座ってこちらを見ている女の子がいた。
ここがどこであるのか、そして何故自分がここにいるのか等など、疑問は尽きないが何かを訪ねようとする前に彼女は勢いよく部屋を飛び出していった。
「お母さん!あの人起きたよ!」
飛び出していった部屋の扉の向こうからそんな声が聞こえてくる。
そんな子供らしい当たり前の反応を見せる、この『家庭的』な空気を肌で感じてしまったライの心に何かが込み上げた。
「大丈夫ですか?」
先ほどの女の子と違い、少しだけ警戒したような声音。ベッドから上半身を起こし、女の子が出て行った扉に目を向けると両手に一個ずつマグカップを持った少年がいた。
その少年は一般的な男の子と比べ、どこか肌が白く、髪も普通の黒髪よりも深い黒色をしており、更に特徴的なのはルビーのような紅い瞳であった。
「あぁ、だいじょうぶ」
喉が乾いていたのか、掠れたような声が口から溢れた。
その男の子はその声を聞いて、手元のマグカップに視線を落とした。ちょっとだけ迷うような素振りを見せたが、先ほど女の子が座っていた椅子に腰掛けてから、手に持ったカップの片方をライの方に差し出した。
「えっと、ココアですけど……」
何と言って渡せばいいのか分からなかったのか、おずおずとその男の子はそう切り出した。そんな彼の反応に微笑ましいモノを感じながら、ライはそのカップを受け取る。
「ありがとぅ」
その際にやはり掠れた声しか出ないが、ちゃんとその言葉は伝えることができた。
何故なら、男の子の方が少しだけ誇らしげな顔をしていたのだから。
これが彼――――シン・アスカとライとの出会いであった。
以下ダイジェスト
オノゴロ島・撤退戦
ライは自身の境遇をアスカ夫妻に説明し、理解を得られ、家族の一員として向かい入れられた。そして、中立という立場に拘わるその島国――――オーブで、ライはこれまでと打って変わって穏やかな日常を噛み締める。
だが、戦争と言う日常はすぐそこまで迫っていた。
地球連合軍からのマスドライバー施設の接収要求。それが、宇宙に存在するコーディネイター国家、プラントを攻める為の連合軍のオーブ侵攻の目的であった。
オーブ政府はこれに対し、マスドライバー接収やそれ以外の連合側からの要求をすべて拒否、徹底抗戦の構えを取る。
しかし、島国であり国力に劣るオーブが劣勢となるのは当然の帰結であった。
そんな中、アスカ一家とライは避難の為に出される船に乗るために、島の林道を走っていた。
時折、林の上を飛行するモビルスーツや戦闘機が通りすぎ、その度に彼らは固まるようにして身を寄せ合い、流れ弾が来ない事を神に祈る。そういった事を繰り返していたために中々目的地である港には到着できないでいた。
舗装されていない、ほとんど獣道と言える林道を駆ける。
時折、転けそうになる女の子――――マユ・アスカを支えながらライは最後尾を走っていく。
そして、とうとう目的地である港が見えた瞬間、それは起こった。
「マユの携帯!」
彼女が叫んだと同時に全員の足が止まった。止まってしまった。
丘のような斜面に彼女は持っていた携帯を落としたらしい。落とした携帯を無視して進もうとするアスカ夫妻と取りに行こうとするマユ。遅々として進まない押し問答が少しだけ続く。
その流れを断ち切ったのは、これまで黙って逃げていたシンであった。
「シン!戻りなさい!!」
父親の静止を振り切り、斜面を滑るようにシンは降りて行く。彼は妹の携帯を取りに行ったのだ。
「僕が行きます、三人は先に行ってください!」
全てを言い切る前にライの体はシンと同じにように斜面を下っていた。
そして、木の根元に引っかかっていた携帯をしゃがんで取ろうとしているシンに追いついた瞬間、ライの視界は光の奔流に塗りつぶされていた。
「「――――――――」」
咄嗟に動けたのは奇跡だろう。
ライはすぐ目前にいたシンを抱き寄せていた。
衝撃が体を貫く。受身を取ることができたのかは定かではないが、痛みを感じているということは生きてはいるのだろう。
身体の芯が揺さぶられ、視界がチカチカしている。耳も音をうまく拾えていない。そこまで自己分析ができると、先ほどの衝撃は自分たちの近くに流れ弾が着弾し、その爆発で巻き込まれたということを理解する。
蹲るようにしていた身体に喝を入れ、なんとか立ち上がる。幸い鼓膜も破れておらず、視界も回復して来ている。現にこちらに安否を伺う声と足音が近付いて来ている事も認識できている。
そこで気付く。
咄嗟に引き寄せたシンはどこにいる?
まだ完全に戻りきっていない視界を最大限活用して、辺りを見回す。するとすぐ近くにシンと思われる背中が見えた。
「シ――――――――え?」
そう、ライにはシンの背中が見えていた。
だから、すぐに近付いて彼の安否を確かめようとしたから、その背中の“向こう側”もすぐに見える。シンの目の前に何の光景が広がっているのかも。
つい先ほど走っていた林にはクレーターができている。着弾したのはビーム兵器であったのだろう。所々で生えていた木が炭化し、炭化せずとも部分的に燃えている木がなぎ倒されるようにして存在していた。
その木の内の一つ。やけに大きな木の下敷きになっている成人男性は一体ダレなのか。
(アレハ、ナンダ?)
少し視線をズラす。
すると今度はむき出しの岩に叩きつけられ、手足が人形のように折れ曲がっているダレかがいた。
視線を下げて、すぐ近くのクレーター付近を見る。
そこには片腕がちぎれ、胸から大量の赤い液体を垂れ流すダレかがいる。
頭のどこか冷静な部分が現実を正しく伝えてくる。
(ヤメロ)
すぐ目の前にいる三人が誰であるのかを。
(ヤメテクレ)
先程まで喋っていた、この世界での新しい家族の末路を。
「うあああああああああーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
喉を引き裂くような絶叫がライの足元から発せられる。そちらに視線を向けるとそこには妹であるマユのピンクの携帯を握り締め、空で戦うモビルスーツに憎しみの瞳を向けるシンの姿があった。
――――――――――
『怒れる瞳』
アーモリーワン
宇宙に存在するプラント。その国家のなかのコロニーの一つ、アーモリーワン。
観艦式を控え、多くの式典用、警護用、または新型のモビルスーツが集まるその工業用コロニーは今、蜂の巣をつついたような騒ぎが起こっていた。
「新型が味方を撃っている?!反乱か?!」
「違う!新型は奪取された!」
「スクランブルを出せ!奴らを逃がすな!」
「救護班!負傷者がいる!来てくれ!」
「馬鹿野郎!!こんなところで治療ができるか!避難が先だ!」
言葉通り、ある意味で戦力が集中しているこのタイミングで、襲撃が起こったのだ。
怒号が飛び交う。ビーム兵器やミサイルがコロニーの大地を焼いて行く。
混沌とした中、プラントに訪問中であったオーブの代表であるカガリ・ユラ・アスハと、その護衛であるアレックス・ディノはザフトの新型モビルスーツであるザクに乗り込み、この戦闘空域からの離脱を試みようとしていた。
だが、奪取された機体。新型のモビルスーツ三機はそんな彼らをあざ笑うように撃墜しようとしていた。
この時、アレックスの腕前が並か並以下であれば、新型の三機もザクに気を取られずにすぐに気付いたであろう。自分たちに近づく機影があることに。
「なに?」
「また新型?」
その混沌とした戦場に置いて、五つの機影はその場にいる人間の目を引いた。
五つの機影の内、四つはその場で合体を始めたのだ。戦闘機が連結していき、完成したのは一機の人型機動兵器であった。
「モビルスーツ?!」
最後に背中に大剣が二振りついたバックパックを連結させ、そのモビルスーツはコロニーの大地に降り立つ。
そのモビルスーツは自身の名を表すように、その戦場の人々に衝撃を与えた。
「また戦争がしたいのか!アンタたちは!!」
その機体、インパルスのコックピットでパイロットであるシン・アスカは吠えた。
「ガン……ダム…………ん?」
呆然とザクのコックピットでインパルスを見ていたアレックスは、自機に近づくもう一機の機体から通信が届いていることに遅ればせながらも気がついた。
『こちらミネルバ所属のライ・アスカだ。機体を損傷させているのであれば今すぐ後退しろ!』
その言葉と共に、機体にマップが表示される。そこには通信してきたパイロットが言っていたミネルバと言う文字と、戦艦が配置されている場所までの最短ルートが表示されていた。
――――――――――
『混迷の大地』
ミネルバ・甲板
地球でオーブに向かうミネルバ一行。
そしてそれに文字通り乗っかるようにして、アレックス・ディノことアスラン・ザラとカガリ・ユラ・アスハも同行していた。
そして特に戦闘も起きていないその航海中、アスランは偶々見かけた訓練規定である射撃訓練を見学していた。
訓練をしていたパイロットの一人、ルナマリアは前大戦の英雄であるアスランに射撃のお手本を頼む。最初は断ろうとしていたアスランであったが、真摯に頼み込んでくる彼女に対して断りきれずにそれを承諾した。
「「「……」」」
ルナマリアを始め、一緒に訓練していた同じくパイロットであるレイや彼女の妹のメイリン、そしてちょうど今来たシンはアスランの射撃に釘付けとなった。
「うそ」
ランダムで出現するターゲットの真ん中に即座に穴が空いていく。それをワンマガジン分繰り返したところで、ターゲットの出現は止まった。
「すごいです!」
一同のある意味で度肝を抜いたアスランは、静粛をやぶったルナマリアに苦笑しながら拳銃を渡した。
「こんなことばかり出来ても自慢にもならないけどね」
「そんなことないですよ!うちであんなことできるのはあの人しかいませんし」
「……あの人?」
アスランは少なくとも戦士としての自分の力に自負を持っている。だが、それに対して溺れているのではなく、きちんとして自己評価ができているからこそルナマリアの言った『あの人』というフレーズに少しだけ興味がわいた。
「ごめん、遅れた」
「ライさん」
出入口から現れたのは緑の制服を着込むライであった。
アスランは人がこれ以上集まると居心地が悪いと考えて、離れようと足を動かしたがルナマリアの言葉でその動きを止めた。
「彼、ライ・アスカさんがその“あの人”です」
「……え?」
アスランは一瞬混乱した。これまでの戦闘で彼がパイロットであることは知っていて、モビルスーツを預けられるほどに能力があるのも理解できる。
だが、アスランが把握しているだけでも、彼が戦線の先頭にたつことがなく、ほとんど部隊のバックアップに回っているだけで突出した能力を見たこともない。
そんな彼が自分と同じくらいの射撃技能を持っていると言われてもピンと来ないというのが、今のアスランの正直な感想であった。
「ライさん、この前やったやつをまた見せてくれませんか?」
そう切り出したのはシンであった。少しだけ他人行儀なシンに寂しそうな笑みを見せながらもライは返事をする。
「シン、あれは曲芸みたいなものだから意味は特にないよ?」
「でも、腕がないとできないことなら参考にできる部分はあるはずです」
これ以上は逆効果と考えたライは苦笑と頷きを返すと、先程までアスランが立っていた射撃場に立った。
「「「……」」」
先ほどと同じくその場の一同がライの射撃に注目した。
さっきと違うのが、ターゲットがランダムで出現するのではなく最初から固定されているものであることである。
「?」
一瞬何をするのか分からなかったアスランだが、すぐにその疑問は氷解した。
ライが引き金を引くと、連続するように引き金を引いていく。
アスランの時とは違い、ターゲットが出現する訳ではないため、その一射一射のインターバルは限りなく短い。
いっそ短銃であることを疑うほどの連射で、なぜジャムらないのか謎なほどである。
その為、すぐにライはワンマガジン打ち切る。
「うわ」
声を上げたのは以前も“コレ”を見たことのあるメイリンであったが、彼女からすれば何度見ても驚くものであったのだろう。
ライの撃ったターゲットには穴が“一つ”しか空いていなかった。
「ワンホールショット?」
アスランも驚いたように声を漏らしていた。
「あの人がある意味で内のまとめ役です」
「へぇ」
アスランの中でライに対する疑問が膨らんできた。なぜ彼が緑服なのか?なぜ戦場ではバックアップばかり行っているのか等など。
しかしそれを聞けるほど、自分は彼らと深い中ではないため早々に立ち去ろうとする。
「私も敵から仲間や自分を守るためにはあれくらいできないとダメなのかな?」
ポツリと呟いたルナマリアの言葉にアスランは再び足を止めた。
どこか剣呑な眼差しでアスランは、訪ねた。
「敵って、誰だよ?」
彼の雰囲気に飲まれ、彼女は答えることができなかった。彼女だけではない。聞き耳を立てていた周りの人間も彼の言葉を理解できないのか返事が出来ないでいた。
ただ一人を除いて。
「人の敵は、やはり人だよ。だから戦争が起こる」
静かにだが、ハッキリとそう答えたのはライであった。
この時から、ライとアスランの道はハッキリと別れたといっても過言ではなった。
――――――――――
『インド洋の死闘』
ミネルバ・格納庫
パシン
帰還したモビルスーツを整備するため、整備員が様々な機械類を動かし、大きな音が響いている中で、その乾いた肉を打つ音はやけに大きく響いた。
「っ……別に殴りたけりゃそれで構いませんけどね、俺は間違った事はしていませんよ!あそこに住んでいた人たちもあれで助かったんだ!」
頬を張ったのはザフトに復隊し、ミネルバのモビルスーツ部隊の隊長を務めることとなったアスラン。そして吠えたのは打たれたシンであった。
彼らがこうなったのは、先の戦闘で起こったイレギュラーな敵軍との接触である。
これまで連合軍に目の敵にされてきたミネルバは、この日も襲撃を受けた。
その襲撃を受けた小さな島々が密集しているその海域で、シンは敵が密かに建造している軍事基地を発見したのだ。
しかも、その建造には地元の民間人を強制労働させて行っており、それを確認したシンはキレた。
軍人が一方的に民間人を虐げることが、シンには許すことができなかったのだ。
シンは感情のまま、モビルスーツの抵抗もないその敵基地を蹂躙する。だが、それはアスランからの静止の命令を振り切った独断でシンは行ってしまったのだ。
戦闘後、地元の民間人は解放されたが、敵の基地はただの残骸とかしていた。
そして、戦闘後アスランはシンをすぐさま呼びつけ、冒頭の通りシンに制裁を加えたのだ。
他のパイロットであるルナマリアやレイはそれを黙って見ていた。何故ならシンが命令違反を行ったことは事実なのだから。
アスランは噛み付くようにして反論してきたシンに再び手を挙げようとする。だが、その振り上げられた腕は第三者の手によって止められた。
「…………何か?」
止められたことに憮然とし、アスランは剣呑な雰囲気のまま自身の腕を掴んでいる張本人であるライを睨みつける。
その視線を受け流しながら、アスランよりも一歩前にシンの方にライは踏み込んだ。
「失礼、少し彼に言うことがあるので」
そう言うと、アスランに向けていた視線をライはシンの方に向ける。シンの赤く腫れた頬が嫌でも目に付いた。
「シン、僕たちは軍人で、人殺しを否定するようなことはできない」
ライの切り出した言葉に何を今更という表情をシンは向ける。だが、それはシンだけではない。ライの言葉を聞いていた人間すべての表情がそれを物語っていた。
「でも――――」
「……」
「人を殺した事を誇りにするのはやめてくれ。誰かを救ったことに胸を張って、そしてそれを誇ってくれ」
「!」
ライの言葉にシンは先ほどアスランに打たれた時よりも大きな衝撃を受ける。
シンはライのその言葉で自分が何を言ったのか――――何を口にしてしまったのかを自覚したのだ。
『俺は間違った事はしていませんよ!あそこに住んでいた人たちもあれで助かったんだ!』
この言葉をそのまま受け取るのであれば、民間人を救ったことではなく敵基地の人間を虐殺したことを正当化しようとしているように聞こえる。
その事を逆上したといえ、言ってしまったシンは自己嫌悪で足元がふらつきそうになる。
「ぅぁ……」
「次からは自分の行動も感情もよく律してくれ…………できる?」
「…………はぃ」
うつむき気味のシンの頭に手を乗せるようにしてポンポンと軽く叩いてやると、ライはアスランの方に向き直った。
「話に割り込んで申し訳ありませんでした」
「え?あ、あぁ」
これまでの会話で扱いにくいと聞いていたシンに納得させ、反省させることを言葉だけで理解させるライにアスランは純粋に驚いてしまっていた。そんな自分にはできそうにないことをあっさりやってしまった彼にアスランは少しだけ尊敬の念と好奇心を抱いた。
――――――――――
『戦火の蔭』
今日も今日とて、ミネルバは戦っていた。
その相手が同じ人間であることは変わらないのだが、その相手がこれまでの連合だけでない。同盟を結んだオーブ軍も加わり、これまでの小競り合い以上の敵の規模に彼らは苦戦を強いられていた。
そして、戦場の流れを変えるため、ミネルバは一番火力の高い陽電子砲タンホイザーを敵軍に向けて打ち込もうとする。
だが、それが実現することはなく、『彼ら』は現れた。
「新手?」
発射寸前の砲塔をどこかから狙撃され、黒煙を上げながら、ミネルバはすぐ下の海に着水する。そのアプローチに問題がないことを確認したライは、すぐさま狙撃を行ったと思われる何かがいるであろう方角に機体を向ける。
そこから姿を現したのは青い翼を広げたひと振りの剣であった。
「あれは――――」
「あの時見た」と続ける前に、ライは操縦桿を動かしていた。
ライの機体――――バックパックを改造し、インパルスのシルエットシステムと互換性を持たせ今はフォースシルエットをつけていたザクは、その機体と接触する前に大きく後退する。
「……フリーダム?」
機体のデータバンクに登録されている形式番号と機体名称がコックピットのディスプレイに表示される前にライは呟いていた。何故ならその機体はこのコズミック・イラという世界に置いてある意味で伝説となっているのだから。
『こちらはオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハだ』
「今度はなんだ?」
いきなり、機体のオープンチャンネルに通信が入ってくる。だが、これは広域配信されているもので、この戦闘域全てに流れている事がすぐにわかった。
『オーブ軍!直ちに兵を引け!現在、訳あって国もとを離れてはいるが、このウズミ・ナラ・アスハの子、カガリ・ユラ・アスハがオーブ連合首長国の代表首長であることに変わりない!その名において命ずる!オーブ軍はその理念にそぐわぬこの戦闘を直ちに停止し、軍を退け!』
「っ、バカがっ!」
コックピットで吐き捨てる。
ライのその視線の先にはモニターに映るストライクルージュと、白亜の戦艦であるアークエンジェルが存在した。
彼女の行動は迂闊に過ぎるとライは感じ、思わず口汚い言葉を吐き出していた。かつて、大勢の人間を束ねたことがあるからこそ感じる苛立ちをそのままに、攻撃を躱したことで追撃をしてこようとするフリーダムに、その感情の矛先をライは向けた。
「保てよ!」
『え?』
ナイトメアフレームの操縦桿とは違うため、ライはバトレーに仕込まれ自身で昇華させたパイロットの技量をすべて発揮する事はできない。だが、それに近い動きをさせることはできる。
ライが行ったのは実体弾を避ける際に行っていた回避方法の応用である。
機体への攻撃を最小の動きで躱し、そして元の位置に戻ることで弾がすり抜けたように錯覚させる機動。それを相手への攻撃に転用したものだ。
機体の機動を急速に変化させ、ライの機体は瞬間的にフリーダムのモニターから消える。
そしてライが個人的な要望で、整備班の人に作成してもらったヒートナイフを抜刀する。
「ねじ込め!」
叫びながら、ライはフリーダムの右側面に回り込み、向こうがこちらに気付き振り向く前に肩と胴体の間。ちょうど装甲と装甲の繋ぎ目であるフレーム部分にその短い刃をねじり込んだ。
「浅いか?!」
『腕が死んだ?ライフルが!』
ほぼ初見殺しの札を切ったライは即座に後退した。
そして、追撃の来ない事を確認すると同時に、国際救難チャンネルを開くとライは突然介入してきた一派に向けて、最低限取るべき対応を行った。
「こちらはミネルバ所属のパイロット、ライ・アスカだ。自分が所属する部隊は今現在、連合とオーブによる合同艦隊と戦闘中である。この戦闘に介入するのであれば、貴官らの所属を明らかにせよ。繰り返す、貴官らの所属を明らかにせよ」
『アスカ?私はカガリ・ユラ・アスハだ!こちらはオーブ軍を撤退させたいだけだ!』
その返答に一瞬、撃ち落としてやろうかという考えが浮かぶが、即座にその考えを切り捨てた。
「そちらの個人的な思惑はどうでもいい。こちらが求めるのは、そちらの所属と貴官らが保持する条約違反と思われるモビルスーツを使用している事の弁解だ。条約を無視し、世界を敵に回すような行動を正当化するだけの高尚な理由を答えて頂きたい」
自身が苛立っていることを理解しつつ、一旦ライは通信を切り替える。その通信先は自身の部隊の小隊長であるアスランであった。
「アスラン、今のうちに退路を開け!このままじっとしていれば、ミネルバは沈む!」
『え、いや……フリーダム……キラは――――』
「何をしているアスラン?!」
モニターの望遠カメラを見てみると、空中で棒立ちになっているアスランの乗るセイバーの姿が見えた。
ライは即座にセイバーの元まで機体を寄せると、その機体を掴み、強引にミネルバの方に機体を投げてやる。
アスランは持ち前の操縦技術で即座に機体を立て直していたが、既にそこはミネルバの間近であった。
「シン!ミネルバの損傷が酷い!ミネルバの直援に回る!ハイネ!いつまでも遊ぶな!!」
そう言うと、敵機の掃討を行っていたインパルスとガイアを甚振っていたグフは即座にミネルバの方に集まってくる。流石に叫ぶようなライの言葉には、逆らえるような状況ではないと判断したらしい。
「ミネルバ!即座に撤退を――――しつこい!」
緑服であり、越権行為かもしれないが、それで生き残れるのであれば営倉入りでも安いものだと割り切り、ライは指示を飛ばそうとしたが、追撃してくるように迫ってくるオーブ軍のムラサメ隊が迫っていた。
『やめろーー!』
自身の機体を翻し、迫ってくる機影をロックオンする。だが、その直後に機体の通信機からの叫びがライの鼓膜を叩いた。
「うるさい!」
『撃つな!お前も!オーブも!』
打つ覚悟も打たれる覚悟もない、甘えたセリフを聞きライは今度こそキレた。
「この三年間で変えようとしなかったのは貴様だろう!そのつけを国民が払うことになるのは当然だ!それさえ理解できないのであれば、貴様に人の上に立つ資格はない!」
そう言うと同時に、ライはこちらに接近してきていたストライクルージュに肉薄。そして飛行用バックパックを予備のヒートナイフで切り裂いた。
『な――――』
「頭を冷やしてこい」
言うやいなや、ライはストライクルージュの胴体を蹴りつけ、機体を海に沈めた。
――――――――――
『罪の在処』
ロドニア・ラボ
「研究員以外はあまり中に入らないで。保安要員は最低限の人員を除いて周辺警戒を厳にしてください」
日も沈み、静けさを醸し出す筈のその廃屋は今、大勢の人間が入り込み、大きな騒ぎとなっていた。
その廃屋はある人体実験を行っていた場所。その内容は、コーディネイターを超える兵士を投薬や暗示、そして肉体的な改造を施すことで生み出そうとするものである。
そしてその被害者となっていたのが、難民や孤児といった身寄りのない子供達であった。
そんな生理的に嫌悪感を生み出す場所には、実験の途中で廃棄されたと思われる子供達の死体や内蔵も多く残ってしまっていた。
その為、それを直接見ても精神的に問題のなさそうな研究員や保安部隊とそれ以外の人間の誘導をライは行っていたのだ。
ライ自身はこの施設を見つけたうちの一人であり、その“中身”を見ても嫌悪こそすれ精神的に失調を起こすことはなかった為、現場責任者であるタリア艦長への伝令役も行っていた。
そして、今もその仕事の一つとして施設から吸い出したデータの一部を彼女に受け渡していた。
「…………酷いわね」
「……ええ」
持ってきたデータにあったのは『出荷記録』である。そう、この施設を運営していた人間にとって兵士として育てられた子供は商品であり、あくまでモノ扱いなのだ。
「……お辛ければ、自分がデータを纏めますが」
「ありがとう――――でも、これは私の仕事よ。それにこれ以上貴方に負担を掛けるわけにはいかないわ」
ライなりの気遣いは空振りに終わる。
だが、その返答にライは若干申し訳なさを表情に出してしまっていた。それを見かねたのか、タリアはいつもの軍人らしい硬い表情を少しだけ崩しながら口を開いた。
「私が母親であることを気にしてくれているのかしら?」
「…………」
ライにはバツの悪い表情しかできなかった。それは図星であり、そして軍人である彼女に対して失礼であると分かっているからだ。
「そう…………本音を言えばこんな仕事はしたくもないし、こんなデータは見たくもないわ」
それは彼女の混じり気のない本音であった。
「でも、母親であるからこそ、こういうことから目を背けたくないの。軍人は今の世の中を守るために生きて、戦っている。だからこそ失った生命を背負う覚悟がいると私は考えているの。だからこれは、いまの世に存在する軍人……いえ、大人が背負うべきものなのよ」
ライはタリアの女性としての強さの一端を垣間見た気がした。そう感じられるほど、彼女の瞳には強い意思が宿っていたのだから。
「貴方の方こそ――――」
「え?」
「この間の戦闘に限らず、色々と負担が増えているようだけれど……無茶はしていないかしら?」
「あー……答えかねます」
目を逸らしながらそう答えるタリアは、普段は大人びているライの子供らしい一面を見て、少しだけ母親の顔をしていた。
――――――――――
『残る命散る命』
海上
黒煙が上がる。
海には撃墜された兵器から漏れたオイルやら何やらが混じり合い、海水はひどく濁っていく。そんな中でも殺し合いを続ける人間はやはり愚かなのかもしれない。
「ハイネ!ルナマリアとレイの抜けた穴を埋めてくれ!」
『あいよ!これじゃあどっちが上官か分からんな、まったく!』
愚痴を零すようなセリフであったが、ハイネはライの事を信用しているのか大人しくそれに従っていた。
「アスラン!いつまで拘っている!」
次に自機よりも高い位置でフリーダムと鬼ごっこをしている部隊長に通信を繋ぐ。だが、通信機から聞こえてきたのは、ライへの返答ですらなかった。
『オーブに帰れと言ったはずだ!今すぐ撤退しろ!』
もう一度怒鳴ろうとするが、どのみちアスランがフリーダムを押さえ込んでいることは好都合なためライは通信をそのままに放置することに決めた。
「シンはまだ、敵艦を叩いているのか?」
センサー類で状況を一旦把握しなおそうとすると、突然接近警報が鳴り響いた。
その音を聞いた瞬間、操縦桿を操作しライは後退する。だが、一度避け、その奇襲も失敗したというのに、自身に迫ってくるその機影はしつこく迫ってきていた。
「特攻?こんな戦況で何故敵の殲滅に拘わる?!」
迫ってくる敵機、ムラサメを正面に捉え、回避と同時にそのウェイブライダー形態の機体を踏みつけ、バランスを崩した際にビームライフルを打ち込んだ。
爆散する敵機には目もくれずに、即座にセンサー類に視線を戻す。すると敵艦を落としているシンのインパルスに近づくストライクルージュとそれを追うフリーダム、セイバーの識別信号を確認する。それと同時に、ライのザクのコックピットにその通信が聞こえてきた。
『カガリは今泣いているんだ!こんなことになるのが嫌で、今泣いているんだぞ! なぜ君はそれが分からない! なのに、この戦闘も、この犠牲も仕方のないことだって……全てオーブと…カガリのせいだって、そう言って君は撃つのか!?今カガリが守ろうとしているものを!』
そんな言葉が聞こえてきた。
「ふざけるな!」
『『!』』
気付けば、既に通信機に激を飛ばしていた。
「戦端が開かれた時点で、政治家の彼女ができることはもうない!戦闘や犠牲が仕方ないだと?オーブという国をそうしてしまった一因は貴様たちの行動もそうだろうが!」
『!違う!僕たちはオーブの人たちを助けようとして!』
「条約違反のモビルスーツを乗り回して!オーブと同盟を結んだ連合にもすべてに銃を向けて!それが助けることにつながると本当に思っているのか!寝ぼけたことを言うな!」
『それでも!』
そう言うなり、フリーダムはライの方に銃口を向けていた。
「結局は力でねじ伏せるだけか?それが貴様の言うオーブのやり方か!」
フリーダムからの立て続けの射撃に、ライの乗るザクは少しずつ被弾していく。先程からコックピット内には、レッドランプとアラームが機体の不調を訴えてくる。だが、ライは喋るのをやめなかった。
「貴様の守りたいものはなんだ!カガリ・ユラ・アスハなど関係ない!お前が心から守ろうとするものはなんだ?!」
『僕はみんなの想いを――――』
「他人を言い訳にするな!」
フリーダムはいつの間にか、ザクのすぐ近くにまで接近していた。
初めて、接敵してきた時のように機体のコンディションは良くもなく、初見でしか通じないような手はもう通じない。
だから、フリーダムが振り抜いてきたサーベルをザクの左肩に標準装備されているシールドで受ける。
だが、ニュートロンジャマーキャンセラーを搭載し、核動力で動くフリーダムの高出力に耐えられず、ライのザクの左腕はそのまま脱落し、バックパックのフォースシルエットを浅く切り裂いた。
「このっ!」
機体のバランスが取れず、既にデッドウェイトでしかないシルエットをパージしようとするが、それよりも早くフリーダムがザク目掛けサーベルを振り下ろす方が早かった。
「間に合え!」
言い切る前に、ザクの機体を相手へ半身を向けるように操作する。
ライの驚異的な入力速度ゆえに間に合った操作。それはシルエットを今度こそ切り裂いたが、ライ自身を焼く事はなかった。
「っ」
姿勢制御を行い、海面に背部から落ちるようにする。その際、正面モニターにシルエットが爆発する映像が見える。ほぼ、反射的にライは残った右腕に握らせているライフルの銃口を、その爆発に向けた。
まだ、その煙の向こうにいることを祈りながら、トリガーを引く。
ライフルから放たれたビームがその爆煙を貫いた。
「……」
コックピット内で合唱を奏でるアラート音をBGMにライは空を仰ぐような体勢で海へと落ちていく。
そしてその数秒後に、その爆煙から離脱し始める片足の無いフリーダムと、それを追うセイバーの姿がモニターに映りこんだ。
――――――――――
『示される世界』
ミネルバ艦内・一室
シンはまたなくしてしまった。
守りたかった一人の少女を。
あの日、何もできなかった時のように、奪われた。
例え、助けたところで先の短い生であったとしても、それでも生きていて欲しかった少女、ステラ・ルーシェを。
そして彼は憎む。その直接的に止めを刺したフリーダムと、それを行った連合軍、そしてその連合軍を裏で実質的に操っているロゴスを。
そしてだからこそ、彼は軍人として、戦士として、復讐者として行動する。
「何をしている?」
薄暗い部屋に、疑問の言葉が響いた。
その部屋にいたのはシン、レイ、ライ、ハイネの四人。そして四人が覗き込んでいたモニターに映し出されていたのは、フリーダムの機体データとこれまでの戦闘データであった。
そして疑問の言葉を投げかけたのは、アスランである。
「フリーダムに対しての戦術シミュレーションです。現時点でこの艦で戦闘を行えるのはインパルスだけですし、それに自分たちの彼らとの接触回数はかなり多いので、これからも出会った場合に備えて、対策は必要です」
簡潔かつ解りやすいように説明を行ったのは、レイであった。
アスランからすれば、その言葉は『キラを倒す方法を検討している』と同義であった。その為、噛み付くように声をあげようとするアスラン。だが、それはアスランに向け、一歩踏み込んできたライに遮られた。
出鼻をくじかれたアスランは、自分が言おうとした言葉を飲み込んでしまう。そして、ささやかな抵抗なのか、睨むようにして四人を見ていた。
「ザラ隊長、質問があるのですがよろしいでしょうか?」
それは質問をしても良いかどうかの確認の言葉であったが、ライの目は逃げることは許さないとその力強い眼差しで物語っていた。
「……なんだ?」
「もし、戦場で自分たちか、フリーダムか……どちらか一方に加担しなければならない時、貴方はどうするのですか?」
「え?」
アスランはその質問の意図がよく分からなかった。
これまでの戦闘で、ライがアスラン以上に隊長のように指示を出していたことはアスラン自身が知っている。その為、ライが自分を糾弾しようとしているのかと、一瞬だが考える。
だが、これまでライの為人を短い期間ではあるが見てきたアスランはそんなことをするような人物には思えなかったからこそ、ライの質問の意図が分からなかったのだ。
「……俺は――――」
何かを答えようとするが、何をいうべきか今のアスランは分からなかった。先の戦闘でキラという友人の純粋な想いを知ったからこそ、それを少しでも理解してしまったからこそ、彼は迷っていた。
そして、その迷いが全ての間違いであること自体にアスランは気付くことができなかった。
「嘘でも即答で自分たちの味方であると答えて欲しかった」
「……ぇ」
考え込んでいた為にそれなりに時間が経っていた。そして答えられないということが、ある意味で一つの答えを提示していることにアスランはようやく気付く。
「いや、これは、違う!」
アスランの慌てた様子に、弁解でもあるのかと眼差しで返す。だが、アスランがハッキリと自身の言葉を吐き出すことはなかった。
「残念です」
突き放すようなライの言葉に、少なからずショックを受けるアスランは逃げるようにしてその部屋を後にした。
後書き
てなわけで前半でした。まぁ、話数的には後半かもしれませんが。
色々とツッコミどころも多いのですが、質問などにはできるだけ答えられるように頑張ります(震え声)
あと、今回のような番外編のリクエストもいつでも受け付けていますので、感想に皆様の欲ぼ……希望をどしどし書いてください。流石に、作者の知らない作品は無理ですが(笑)
後半は只今執筆中です
ご意見・ご感想を心待ちにしております。
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