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機動戦士ガンダムSEED編
第23話
前書き
遅くなってすいません。いつの間にか大晦日になってたよ……
「仲間にならないか、だって?」
その提案を聞いたバルトフェルドは、思わず己の耳を疑った。
まさか戦場のど真ん中で今まで殺し合っていた敵にそんな事を言われると誰が思うだろうか? 彼はそんな発言をした音声越しの相手に対して疑念を抱かざるを得なかった。
『その通りだ。言っておくが、あの連合の艦に就くんじゃなくて、オレ個人の仲間になってくれ、という意味だ』
「君個人の仲間…だと?」
──足付きにではなく、個人的な仲間。
判断材料は少ないが、この言葉に隠された意味をバルトフェルドは瞬時に見抜く事ができた。
「……君が連合に就いているのは一時的なもので、最終的にはあの艦とは離別する、という事かな?」
『その通りだ。という訳でこの会話を聞かれるとまずいんでな。できれば早めに──』
「少しいいかしら」
ジンのパイロットの言葉に、バルトフェルドの前部座席に乗り込んでいるアイシャが被せる形で会話に乱入してくる。
『あんたも何か聞きたい事があるのか?』
ジンのパイロットは割り込まれた事に声色からして若干驚いたようだったがすぐに平静を取り戻し会話を再開し始めた。
対してアイシャは薄い笑みを浮かべながら先程から自身が最も言いたかった一言を述べる。
「いえ、まずあなたの顔と名前が知りたいのよ。
──そんな事さえ教えないような人の仲間には、例え死んでもなるつもりはないわ」
「アイシャ…」
「…余計な事を言ったかしら?」
「いいや。確かに君の言う通りだよ」
バルトフェルドとアイシャの意見は合致していた。バルトフェルドは音声越しの相手に疑念の他に不信感を抱いており、アイシャが言わなければ遅かれ早かれ自分が言っていただろう、と思っていた。
バルトフェルドの不信感とは相手が一切顔を、如いては目を見せない事にあった。
彼はラウ・ル・クルーゼのような“目を決して見せない相手”を信用しないという思いがある。まあ、バルトフェルドでなくとも、実際にあのような仮面を付けたまま人と接する人物など大概の人が忌避するだろう。
一方でアイシャは最初から例え負けたとしても降伏するつもりはなかった。そんな事をする位なら潔く死を選ぶと決めていたのだ。
相手に命を握られている現在の状況でも、バルトフェルドが提案に応じる気がないならその意志を曲げる気はさらさら無い。
それに加え、音声越しのパイロットへ今口にした通り彼女は顔を見せる処か名前さえ明かさないその態度に憤りを感じていた。
纏めると今の二人は「態度を変えないようならこの提案にのる事は絶対にない」と断言できる程の意志の固さを持っていた。これを覆すにはそれ相応の対応が必要になる。
そんな二人の言葉に対してジンのパイロットは──
『……確かにその通りだな』
──そう呟いて、ラゴゥにジンのコックピット内の映像を送り始めた。
それを見た二人は思わず声が出てしまう位に驚きを隠せなかった。
ジンのパイロットの姿は茶髪で顔立ちも中々に整っており、また先日出会ったストライクのパイロットと同世代では、という程に若々しかった。
だが、バルトフェルドはすぐに相手の纏う空気を感じとりその考えを否定する。
ストライクのパイロットである少年は、戦いに対して受動的で、恐らく最近まで平和な日常の中で過ごしてきたのだろうと判別できる位に穏やかな性格の持ち主だった。
しかし、今画面に映っている青年の纏う空気はそれとは真逆である兵士のそれであり、それもかなり場数を踏んでいる者にしか出せないものだった。
もし見た目通りの年齢なら、この青年の日々は戦場が当たり前の世界だったのだろう。違ったとしても長年戦いに身を置かねば身につかないものを持っている。
そう考えると、バルトフェルドの中で先程まで渦巻いていた青年への疑念は薄れていき、それよりも青年自身に対する興味が増していった。
『オレの名前は天原 洸。あの艦に傭兵として雇われている』
青年──天原 洸はバルトフェルドとアイシャに対して真剣な面持ちで話し始めた。
『あんた達にこの話を持ち掛けたのはオレ自身の目的を果たすのに仲間が必要だからだ』
「目的ね……。今それを話す気はないのかい?」
『残念ながら時間が無い。だから、出来ればそれを決めるのはオレの拠点に案内してからにしてほしい』
「拠点…? まさかこの近くにあるのか?」
『違う。だがあんた達が拠点に行ってもいいと決めてくれるんなら、すぐにでも迎える用意がある』
その言葉を聞いて、本当にそんな事が可能なのかとバルトフェルドは疑問に思った。ラゴォの損傷は走行が不可能なレベルにまで達しており、目の前のジン以外に移動手段足り得るものは存在しないからだ。
近くに拠点があるのならジンに乗って移動する事が出来ただろう。しかしそれは洸自身が否定している。だというのに彼は“すぐにでも迎える用意がある”と言ったのだ。
果たして、一体どんな方法を使えばそれを可能とするのか
それを問おうとバルトフェルドが口を開きかけた時、唐突に洸が口に人差し指を当て「喋らないでくれ」と二人に合図を出した。
『悠凪さん。聞こえているなら返事をしてください』
『ああ、此方悠凪。どうした?』
『良かった、繋がった……。直ちに帰還するようにと艦長命令が出ています。急いで戻って来て下さい』
『悪い。それじゃあすぐに戻るわ』
聞こえてきたのは恐らく足付きのCIC担当者であろう女性との通信だった。バルトフェルドとアイシャは指示通り口を閉ざし二人の話を聞いていたが、洸はさほど時間を掛けずに通信を終了させた為またすぐに二人との会話を再開し始めた。
「いいのかい?すぐに戻ると言っていたが」
『……いや、あまり良くはないな。出来れば早く結論は出してほしいところだ』
「随分とせっかちね」
『…まあ、ここからさらに遅くなれば迎えを寄越してくるかもしれないからな。そうなるともう誤魔化しが効かなくなる。……だから』
「──私は構わないわよ。あなたの拠点に行っても」
『……本当か?』
まさか彼女が了承するとは思わなかったのだろう。洸の表情は驚きと戸惑いに満ちていた。そんな洸にアイシャは溜め息を尽きつつ問いに答えた。
「……彼に行く気があるならね」
バルトフェルドに視線を送りながらアイシャはそう告げる。
彼はアイシャの指摘を素直に認め、顔と名前を明かしはしたが、だからといって心境が変わる程彼女の心は安くはない。実際、今し方会ったばかりの人間をそう安々と信じられる人間など中々いないだろう。
ならば何故彼女はバルトフェルドの了承有りが条件とはいえ洸の拠点に行く事にしたのか?
それはバルトフェルドが洸に興味を持ち始めた事に気付いたからだ。
彼女とバルトフェルドの付き合いは長い。それこそ話さなくてもアイコンタクトや表情、仕草などである程度片方が何を考えているか予想できる位の関係を築き上げていた。
だから今回は彼女はバルトフェルドの考えを尊重し、自分の意見を曲げる事にしたのだ。
「(まぁ、いざとなったら私がしっかりすればいい話だから)」
そんな彼女の思いに気付いたのかバルトフェルドは申し訳なさそうにアイシャを見るが、当のアイシャはそれを笑いかける事で返答する。
「(彼女にはいつも適わないな……)」
バルトフェルドはそう思うと同時に自身の思いを曲げて自分に合わせてくれたアイシャに心の中で感謝した。そして目線をアイシャからモニターへと向け、洸に自分の答えを述べ始めた。
「僕もその拠点とやらに行って構わないよ。話はそこでじっくりと聞かせてもらおう」
その答えを聞いた洸はコックピットの端から小振りの通信機らしき物を取り出し誰かと連絡を取り始めた。
仲間と連絡を取っているのだろうとバルトフェルドは考えたがしかし、その必要性があるとは彼は感じられなかった。
迎えに寄越すにしても時間が掛かり過ぎれば足付きから迎えが寄越される可能性があるというのに、この遮蔽物一つ無い砂漠地帯の中で足付きにバレず、尚且つ時間を掛けずにここから離れる方法があるとは思えなかったからだ。
「でも大丈夫かしらね、部隊の方は」
ふと、アイシャはバルトフェルドに現在撤退中である筈の彼の部下達に関して尋ねる。
それにバルトフェルドは全く変わらない表情のまま「大丈夫だろう」と答えた。
「彼等は優秀だからね。足付きは追撃する余裕など無いだろうし問題なく撤収できるよ。
それに、彼等なら別の部隊でも上手くやっていけるだろう」
「──それもそうね」
二人は部下達の事を気にかけていない訳ではない。だが、彼等に実行可能な選択肢は「洸の提案に従う」「潔く死ぬ」「足付きに投降する」の三つ程しかない。
「撤退している部隊と合流する」という選択肢はまずラゴォが動けなくなっている時点で実行不可能だ。洸にしてもすんなりと逃がしてくれるとは到底思えない。
バルトフェルドも最初は洸の提案に従うつもりはなかったが、今までのやり取りの中で洸に、尚且つ自分達二人を仲間にして何をする気なのか興味を持ったからこそ提案にのる事にしたのだ。それがなければ迷い無く二番目の選択肢を選んでいただろう。
「(──無責任な事この上ないが、頼んだよダコスタ君。今は君が頼りだ)」
自分の部隊よりも自身の知的好奇心を優先させた時点で自分にそんな事を祈る資格など無いのは彼自身が一番よく分かっている事だ。
しかし、それが今の彼が自身の部下達に出来る唯一の事だった。
二人の会話が終了したのと同じ頃合いにどうやら彼方も通信が終了したらしく、再度此方に向き直る。
それを見た二人はいよいよか、と気を引き締めた。
「さて、そろそろ拠点の方に行ってもらう訳だが、準備はいいか?」
「ああ。構わないよ」
「ええ」
了承した二人であったが、まさかこの後あのような現象に見舞われるとは想像も出来なかっただろう。
洸はそんな二人を、まるで悪戯を成功させた子供のように満足げに笑いながらこう呟くのだった。
「そうか。──じゃあ、また会おう。今度会った時に今から起きる事の感想を聞かせてくれ」
そのまま洸はジンを操作し、大量の砂を巻き上げながら猛スピードでその場から離れていった。
それを呆然としながら見守っていた二人だったが、直後に奇怪な騒音がコックピット内に響き始めた。
「何?この音は?!」
決して耳を塞ぎたくなる程不快という事はない。
──だが、これから何かが起こると思わせる。
──言いようのない得体の知れない不安感を覚えさせる。
そんな不思議な音だった。
こんな音は今まで生きてきた中で一度も聞いた事はない。いや、こんな音は自分達以外に聞いた事がある人間が果たしてどれくらいいるだろうと二人は思う。
そして騒音は次第にその音量を増していき、ついに画面に映る光景が謎の光に包まれた。
これは何か拙いとバルトフェルドはアイシャを守ろうとするが
「アンディ!」
「なっ──」
──その光に二人が飲み込まれたのは同時だった。
「ここは……」
目を覚ましたバルトフェルドが目にしたのは、気絶する前と変わらないラゴォのコックピット内の景色だった。
未だ完全に覚醒していない朦朧とした意識の中、バルトフェルドは自分に何が起こったのか何とか思い出そうとする。
「(確か僕は………!そうだ、アイシャ!!)」
その時点でバルトフェルドの頭は完全に覚醒し、彼は自身のパートナーの安否を確かめる為、前方の操縦席へ乗り出した。
そこには気を失い操縦席にもたれ掛かった状態のアイシャが居り、念の為に外傷などがないか確認するがどうやら特にそういった類は無い。
バルトフェルドはそれに安心し思わず溜息を吐いた。だが、そのままでいる訳にもいかない。まず彼等は自分達に何が起きたのか現状を把握しなければならないのだ。
バルトフェルドは正直もう少しアイシャの寝顔を見ていたい気分だったが、そうも言っていられないので彼女を起こそうと肩を優しく叩きながら名前を呼び続けた。
「ん──。アンディ…」
「良かった。目覚めたようだね」
「………私達、一体どうなったの?」
「分からない。どうやらモニターもイカれてしまったようでね……」
ラゴォのモニター類は全て壊れ外の状況を映し出せなくなっており、恐らくは気絶する前に起こった現象に寄るものだとバルトフェルドは推測した。
「でも、あれは一体何だったのかしら……?あの男は去り際にあんな事を言っていたけど……まさか、あれを起こしたのは──」
「…恐らくそうなんだろう。──どうやら彼には常識では図れない何かがあるらしい」
「まずは外に出るべきでしょうね。……多分、何もないって事はないでしょうし」
「ああ。それじゃあここから出る事にしよう」
二人共半ば感づいていた。既にここは先程までいた砂漠地帯ではないのだと。
いつまで自分達が気を失っていたのか判別がつかないが、恐らくその間に彼の言っていた拠点にラゴォ毎運ばれたのだろう。
何故こんなまどろっこしいやり方を選択したのか?
あの現象は結局何だったのか?
疑問は尽きないが、相手の意図が何であれ、まずは外の様子を確認せねばなるまい。
前方にいるアイシャが現在上向きになっているハッチを開け、よじ登りながら外に出て行く。バルトフェルドもそれに続き外へと出るが、出た先は二人の想像を遙かに超えた場所だった。
目の前に広がるのはMSの格納庫らしき場所だった。だが、MSパイロットである二人にとってそんな場所は見慣れたものであり、大して驚くものではない。では何故二人にとってここが想像を遙かに超えたと言える場所なのか?
それは、その設備がプラント本国と同等。またはそれ以上と言える程に整った物であり、高性能な機材ばかりを取り揃えていると一目で判別できたからだ。
二人は整備士などの専門職ではないが、それでもMSの修理現場は戦闘後に嫌という程見てきたのだ。少なくとも、ここにある機材が一個人でそう簡単に取り揃えられる物ではないと二人は断言できた。
「ますます彼がどんな人物なのか判らなくなってきたよ。どうしたらこれだけの設備を揃える事が出来るのか──」
『別にあいつがこれを創ったのではないがな』
その声の主は唐突に現れた。
ラゴォの胴体に飛び跳ねるようにして現れたそれは、真ん丸の球体のみで構成されたロボット。その配色は薄い青の一色のみで、黒の小さい目と口を象ったラインが可愛らしくもある。ただ、そこから発せられる男性的な声のせいで何だか台無しになっているが。
そんな感想を抱いた二人だったが、このロボットの姿はどこかで見覚えがあった。
「このロボット?今の声は?でもこれって……」
「確かハロと言ったかな?クライン議長の娘さんのロボットだったか」
そう、このロボット。プラント最高評議会議長であるシーゲル・クラインの娘であり、プラントで人気の歌姫として有名なラクス・クラインの所持するペットロボットの『ハロ』と同一の姿をしているのだ。
何故そんなハロがこんな場所にいるのかと二人は思ったが、何やら二人の会話に気に入らない部分があったらしいこのロボットは機嫌が悪そうな声色で二人に話しかけてきた。
『──ワタシをあんな小娘の所有するペットロボットと同一視しないでもらいたい。ワタシはあれよりも高性能な存在であり、比べるのならもっと高度で知的なロボットにしてくれ』
「「………」」
……どうやらラクスのハロと比べられるのはこのロボットにとって屈辱、または怒りを覚えるものらしい。
二人は正直ハロが喋った時点でかなり驚いていたのだが、それどころか今のように人間と同じような感情の機敏があると知った事でもう彼等のキャパシティは限界を超えそうだった。
そんな中でバルトフェルドは何とか気を入れ直し、目の前のロボットへ自分達が聞かなければならない事柄について問いただした。
「……それはすまなかった。突然で何だが、ここは天原 洸が言っていた拠点で合っているのか?」
『そうだ。ここは洸とワタシが所有する拠点だ。君達を運んだ方法は「時空震動」と呼ばれるものだよ』
「『時空震動』……?」
その名称にバルトフェルドは全く聞き覚えがなかった。アイシャも同様らしく首を傾げていた。
そんな二人を、青のロボットはまるで嘲笑うかのように話し始めた。
『まあそうだな。その辺の説明は追々するとして、まずは言うべき事を言っておこうか。
──ようこそ、ご両人。これより先は君達の常識を覆すものばかりだ。置いていかれぬようしっかりと着いてくるのだな』
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