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機動戦士ガンダムSEED編
第24話
前書き
大変遅くなって申し訳ございませんでした。あんまり話は進んでませんが、どうぞ!
アフリカ共同体でのバルトフェルド隊との戦闘から約1ヶ月が過ぎた。
バルトフェルド隊との戦闘は勝利に終わり、アークエンジェルも損害は出たものの航行不能になる程のものではなかった為充分無事と言っていいレベルだろう。
その日の夜はバルトフェルド隊を撃退した事で歓喜に沸き立つ明けの砂漠の宴に参加し、数日後に諸々の準備を終えアフリカ共同体を出た。
行き先はアークエンジェルに搭乗することになったカガリとキサカの要望でオーブに向かうことになった。
艦長らの話によればオーブで艦の修繕ができるよう取り計らってくれるらしい。何故そんな事が彼女に可能なのか、と艦長達は不審に思っていたが、まぁ必ずしも言う必要性はない為ここは同じように不審がる事にした。
さて、そんなオレ達であったが海の上とはいえ今や各地に基地を置くザフトの攻撃が止む筈もなく、何回も海上にて敵部隊の攻撃に晒される羽目になった。
敵は主に水中用MSを使ってくる部隊ばかりだったが、ジンが水中戦闘に適していないのと、オレの水中適正が低いのが原因で戦闘中はアークエンジェルで固定砲台に徹するしかなく、撃ち込んでもすぐに海中に逃げられるわ攻撃されまくるわで、正直もう水中用MSとは戦いたくない。
……それに加え、その航海中にある重大なフラグが折れてしまったりと散々な1ヶ月間だった。
だが元の原因はやはりオレにあるのでこればかりはどうしようもないことだ。それによる影響は大きいだろうが致命的というレベルではない。……いや、本当にそうであってほしいが、その時はその時で対処するしかないか。
とまあ1ヶ月間を海の上で過ごし、敵の追撃を受けながらもついにオーブの領海付近まで辿り着いたのだが──
「タイミング悪過ぎるだろ……」
──オーブ領海に迫っていたアークエンジェルだったが、そこへクルーゼ隊のG4機が追撃に現れ、これを迎撃する羽目になった。
現在モニターには飛行ユニットであるグゥルに乗りながら此方へ接近してくるデュエルの姿が映し出されている。
その姿は以前のストライクと似通ったシンプルな外見から一転して、各種様々な武装を常備した強化装甲「アサルトシュラウド」を纏ったものに変化していた。
デュエルはこの戦闘が始まってからアークエンジェルから放たれる弾幕をかわしつつ、チャンスを見つけるとすかさず此方に攻撃を仕掛けてきていた。こんなに早く戦線に復帰してきたのには驚いたが、パイロットの性格からして自分を陥れたオレに対して執念深く追ってくるのは予測できていたので雪辱を晴らす為に相当なリハビリでも積んだと仮定すれば納得できる話ではある。オレからしてみても、その目的を達成するまで諦めない姿勢は称賛に値した。
「まあ、こっちとしちゃ傍迷惑でしかないがな」
デュエルの左肩部に搭載されている“220径5連装ミサイルポッド”から発射されるミサイル群を突撃機銃で撃ち落としていきながら、右手に装備した無反動砲を上空に向ける。
オレのジンの位置はアークエンジェルの甲板上。グゥルで空を飛行できる敵側に対し、此方は長時間飛行する手段が無い為固定砲台としてG4機に射撃戦を繰り広げている。
──この1ヶ月間の戦闘でかなり弾薬を消費しており、事前に買い溜めしておいた分はほぼ無く突撃機銃の弾薬はこの戦闘で保つかどうかギリギリという量しかない。そのためこのまま続ければいつか残弾を切らして迎撃不可能となり、オレが撃墜される処か最悪ブリッジに撃ち漏らしたミサイルが被弾するという可能性が大いに有り得た。
だから、ここを凌ぐにはまず目の前のデュエルを早急に沈める必要があるのだ。
デュエルが駆るグゥルに狙いを定め無反動砲の引き金を引いた。撃ち出された砲弾は真っ直ぐにグゥル目掛けて飛んでいくものの、デュエルは危なげなくさらに上空へ上がることでそれを回避する。
お返しとばかりにデュエルはミサイルポッドと右肩部の“115mmレールガン シヴァ”、ビームライフルによる一斉射撃を繰り出した。上空からの猛攻をミサイルは撃ち落とし、ビームとレールガンはギリギリのタイミングで避けながら対抗策を模索する。
やはり上空の敵に攻撃を当てるのは難しい。バルトフェルドの部隊に配備されていた戦闘ヘリは動きがそこまで速くはなかったから当てる事ができたが………どうするか。
このまま持久戦に持ち込み彼方の弾薬叉はバッテリーが切れるのを待つか? 否。それを実行するには此方の弾薬が足りない。
それとも他の連中に此奴の相手を任せるか? 否。他の奴らもそれぞれ敵の相手で忙しい。救援なぞ求められない。
オーブ軍が介入して来るのを待つか? 否。最初の選択肢と同じじゃないか。それに確実に来るとは限らないんだ。この手は使えない。
となれば方法は一つ位しか浮かばないが──短時間とはいえ飛行できるストライカーパック装備のストライクならまだしも、ジンで上手くいくかどうか……
「!?」
そんな時だ。横を通過した一筋のビームが甲板に直撃し、着弾した部分がその熱量に耐えきれなくなり爆発を起こしたのだ。
──アークエンジェルの装甲材がラミネート装甲だからビームなら当たってもどうにかなると思い避けまくってたが、もう耐えれなくなったか。これでは今までの戦術を続ければアークエンジェルの被害は拡大する一方だ。となると──
「……もうやるしかないって事か」
覚悟を決め、まずは少しの間時間を作る為にデュエル目掛けて無反動砲を発射する。その砲撃は此方に尚も向かってくる一斉射撃を潜り抜けデュエルへ一直線に向かっていくが、案の定それは意図もたやすく避けられてしまう。しかし、それを避ける際にデュエルは此方の思惑通り攻撃を中止してしまう。
その隙にこれから行う作戦に必要のない無反動砲をその場に捨てた。そして上空のデュエルを見据え、彼方が次の行動に移る前に出力を急激に上げオレはデュエルへ突撃を敢行した。
接近してくるオレに対してデュエルは待ってましたと言わんばかりにビームサーベルを引き抜き、勢いよく此方に向かって切りかかってくる。
サブフライトシステムであるグゥルを使っているデュエルと飛行戦を想定して製造されていないジンでは空中で出来る事には大きな差がある。恐らくその辺りを踏まえて接近戦を選んだんだろう。
──だが、オレが何の対応策も無しに来たと思ったら大間違いだ。
「ぐっ──!!」
腰からナイフを引き抜きつつ、上昇速度を一気に上げる。それによる急激なGの増加に体が軋みを上げるがそんな事に構っている時間も余裕もない。
数秒も掛からぬ内に二機の距離は縮まりデュエルが此方へサーベルを振り下ろそうとした瞬間、此方もナイフを握った腕を勢い良く振り上げた。
「──これでも食らえよ!」
ナイフは見事デュエルの右手を切り取り、サーベルを握り締めたデュエルの拳は一直線に海へと落下していく。
その勢いのまま通り過ぎようとしたジンに急制動を掛け、まだ今の攻撃から立ち直っていないデュエルに向けて回し蹴りを放った。
蹴りは背中のスラスターに綺麗に命中し、突然の衝撃に踏ん張る事ができなかったデュエルは自身の右手の後を追うように海へと転落していった。
「……案外呆気なかったな」
……こんな感想しか浮かんでこないが、正直もっと苦戦すると思っていただけに拍子抜けもいいところである。やはり1ヶ月以上のブランクは大きかったのだろうか?
だが、悠長に空中に居続ける事はできない。ジンの推進材は飛行できる程の量と出力はないのでこのままではデュエルと同じく海へ墜落してしまう。なので丁度良いと、デュエルが搭乗していたグゥルの上に立ち足を定位置らしき窪みに乗せた。乗せた直後にコックピットの画面上にグゥルのシステムデータが表示される。表記を見てみると“機体とのセッティングが完了しました”と明記されてある。
どうやら、これでこのグゥルはオレの物になった訳だ。ここ最近の敵は空か海からしか来ない──まあ、一面海しかないのだから当たり前なのだが──為思うように戦えず鬱屈していた処だったからな。便利だし有り難く使わせてもらうとしよう。
「さて他の連中は──っと、いたな」
モニターでアークエンジェルの周囲を確認してみると、遠方から艦を狙い撃とうとしているバスターに対してスカイグラスパー二機が。そして艦の後方ではブリッジ部分が邪魔して多少見えにくくはあるが、ストライクとイージスが空中で激しい鍔迫り合いを繰り広げているのが見えた。
そんな中、一機誰とも当たらずにアークエンジェルに攻撃を行っている機体がいた。ブリッツだ。
ブリッツは艦の左方面から攻め込んでおり、側面から放たれるイーゲルシュテルンやミサイル群を躱し続け、時には撃ち落としながら確実に艦の武装を破壊していっている。
キラ達は他の敵の相手で手一杯だろう。となれば今手が空いているオレが相手をする他ないか。
オレはグゥルを操作しブリッツの下へ向かいながら突撃機銃で狙いを定める。
そのまま発砲しようとしたが、レーダーに引っ掛かったのか突如振り向いたブリッツは盾であるトリケロスを此方に向け引き金を引いた。そこから連続して発射されるビームを横へ大きく逸れる事で躱すが、先手は完全に向こうに潰される形になってしまった。
ブリッツがそこから此方に接近し始めたので咄嗟に身構えるが、相手はある程度距離が離れた所まで来るとそこで停止し右手のグレイプニールを発射してきた。
「ちっ!」
グレイプニールは敵の捕縛や自機の固定等様々な用途で使える武装だが、先端のクローを閉じた状態で使えば強力な打撃武器にも使える。発射されたそれは説明に違わず高い威力を有しており、避けきれずぎりぎりで当たってしまった腰の装甲を容赦なく抉り取っていった。
そのまま機体のバランスを大きく崩してしまったオレの隙を見逃さず、ブリッツはトリケロスを構えそこから二本のランサーダートを発射した。二本の杭は総じてコックピットに一直線で進んでおり着弾まで数秒も掛からない。
態勢を整える暇も無い。このままでは数秒後に二本の杭はコックピットの障壁を貫き、オレは串刺しにされ死を迎えるだろう。
「っ、『加速』!!」
そんな緊迫した状況下で選択したのは避けるでも迎撃するでもなく、杭を掴み取る事だった。
精神コマンドを使い、目前に迫った杭の内一本を素早く掴み取る。そしてそのまま続く二本目を手にした杭で海に叩き落とした。
「『直感』、『直撃』!」
ランサーダートをまさかあんな方法で防ぐとは思っていなかったのか呆然としているブリッツ。その一瞬の隙を突く為もう一度精神コマンドを掛けながら杭を握っている腕を後方に引き、勢いを付け杭を投降した。投降した杭は『直撃』の効果もあってブリッツの足の関節部に深々と命中し、それなりに距離の離れたオレからでも判る程に盛大な火花を散らした後爆発した。
爆発した方の足は肘から先が消失し、片足で機体を支えざるを得なくなったブリッツは盛大にバランスを崩す。何とか体勢を整えようとスラスターを噴かせているがあまり効果は無く、此方に対してグゥルの下側を見せつけながら必死にもがいているという状態に陥っていた。
オレはそんなブリッツ目掛けて前進しながら容赦なく最後の支えであるグゥルを狙って発砲する。銃弾を受けたグゥルは爆散。それにより生じた爆風も相俟ってブリッツは何回転もしながら勢い良く海へ墜落していった。
「ふぅ。今のは危なかった……」
さすがにあれはヒヤッとしたな……。『加速』使ってなかったら死んでたぞオレ。
──『加速』──
この1ヶ月間で習得したが、覚えた当初はスパロボだと移動距離が増えるといった効果だった為、恐らく再現するとなると移動速度が速くなるとかそんな感じだろう、と思っていた。
だが後に確認してみるとその能力は予想していたものと似ているようで全く違った類のものだった。
その内容は“自身の肉体のあらゆる機能と動作、機体の動作に掛かる時間を通常時の倍に加速させる”というものだ。
今回の場合は動体視力と反射神経、そして機体の動作等を加速させた事で迫り来る杭を掴んで叩き落とすという芸当をやってのけたが、これは使いようによっては予想と同じく移動速度を上げるといった事もできるし、普通なら反応できない攻撃であっても対応する事ができる中々に応用力のある能力だ。
これは授けてくれた神に感謝でもするべきだろうかとも思うが──いや、やっぱりない。特にあんな状態の基地を寄越した時点で感謝なんてするべきじゃないな。
「さて、残りの二機を……って、あれは」
モニターに映る映像をよく見てみると海の向こう側から何かがこの戦場に近付いて来ていた。それは次第に大きくなっていき、全容が確認できる程になる。
それは約10隻の艦船であり、その上空を数多くの戦闘ヘリが飛行している海軍らしき一団だった。その光景を見てこの一団の正体が分かったが、それとほぼ同じタイミングで艦船からと思われる通信がコックピット内に響いた。
『接近中の地球軍艦艇。及びザフト軍に通達する』
その声に各機体の動きが僅かに鈍る。その反応からしてどうやらオープンチャンネルでの通信らしく、先に言った通りアークエンジェルとザフトの両方に用があるらしい。
『旗艦等はオーブ首長国連邦の領域に接近中である。早急に進路を変更されたし。
我が国は武装した船舶。及び航空機、MS等の事前協議無侵入を一切認めない。速やかに転進せよ!』
ああ、やっぱりオーブ海軍か。いつ来るか分からない奴らを当てにするのもなんなので四機全てを撃墜する気でいたが、どうやら杞憂で終わったようだ。
『繰り返す。速やかに転進せよ。これは最終通告である。これが認められない場合、我が国は貴官等に発砲する権限を有している』
さて、もうそろそろか? このままだと本当に迎撃されかねないが──
『この状況を見ていてよくそんな事が言えるな!』
その時、オーブ海軍と同じくオープンチャンネルで気の強そうな少女の力強い声が戦場に響いた。その声はオーブ海軍の物言いに憤っているとはっきり分かるものだ。
こんな男勝りな物言いをする女などここには一人しかいない。そう、カガリである。
『アークエンジェルは今からオーブの領海に入る。だが攻撃はするな!』
『何だ貴様は!』
『お前こそ何だ!お前では判断できんというなら行政府へ繋いで、父を。ウズミ・ナラ・アスハを呼べ!!
────私は、私はカガリ・ユラ・アスハだ!』
ついに言ったか、自分の正体を。今頃キラ達やアークエンジェルのクルーはさぞかし驚いてることだろうよ。オレは最初から知ってたんで驚きも何もないが。
だが、こんな確かな証拠もない言葉がオーブの軍人相手とはいえ信用される筈もなく、通信の主であるオーブ軍人は変わらず領海に入れば攻撃するという姿勢を崩さない。
そしてザフトの方はといえばイージスに動きはないが、逆にバスターは領海に入られる前に勝負を決めようとアークエンジェルに砲撃を浴びせる。砲撃はエンジンに直撃し、航行不能となったアークエンジェルは海へゆっくりと着水していく。
バスターはそれを見てさらに攻撃を加えようとしている辺り全く気付いていないようだ。
──自分の行為が完全なる悪手だったという事に──
『警告に従わない貴艦等に対し、我が国は自衛権を行使するものとする』
万一の事態の為に突撃機銃を構える。ないとは思いたいが念のためだ。
そして警告通りオーブ海軍は領海に入ったアークエンジェルへの砲撃を開始した。艦船から放たれる大量のミサイルに艦首の速射砲から発射される砲弾は次々とアークエンジェルの周辺へ着弾していく。砲弾等の爆発により上がる水柱は外側から見る場合に限りアークエンジェルの様子を分かりにくくするカモフラージュのように機能しており、G二機が攻撃し辛くする防壁にもなっていた。
まずいと感じたのか二機はアークエンジェルへの攻撃を諦め、何処へやら飛び去っていった。
G二機がこの領域から完全にいなくなった後、オーブ海軍の砲撃は止んだ。結局砲撃は一つたりとも艦に着弾しておらず、明らかにわざと外したのが明白であった。
『──おい、無事か?』
「フラガ少佐か。まあ、何とかな」
ふいにムウからの通信が入った。ブリッツのあの攻撃の事もあってかなり心労が溜まっているが何とか気丈に振る舞ってみせる。だがムウは何やら険しい表情を浮かべており、その胸中は穏やかではないようだ。
『ならいいんだが。──お前、この状況をどう思う?』
「どう思うって? そりゃあ、この艦は元々オーブ製だしな。中立を謳うオーブが地球軍の戦艦を造ったって知れたらまずいだろうに、敢えてザフトの攻撃から守るような行動に出たんだ。多分オレ達に何か要求でもしてくるんじゃないか?」
『だよなぁ……。しかし嬢ちゃんがオーブのお姫様ってのにも驚いたが、これからどうなる事やら──』
「まあ、なるようになるだろ。あと多分そうなったら艦長達と一緒に少佐も呼ばれるだろうから頑張ってな」
『てめぇ、人事だと思って言ってくれるなぁ…』
「うん。これに関しては人事だし」
『お前なぁ……』
後書き
次回にオーブ入国。
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