八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十四話 夜の出来事その十一
「今の日本にいたらどうなるか」
「日本において権力を握っていたか」
「そうなっていたんじゃ」
「それはわからない」
井上さんのここでの返事は僕にとって思わないものだった、僕は今の日本にいれば権力を握っていたと言うと思っていたが。
「それはな」
「あれっ、そうなんですか?」
「あの時のドイツだからだ」
「ヒトラーが出て来たんですか」
「どうしようもない絶望するしかない状況だからだ」76
一次大戦後のドイツだったからだというのだ。
「ヒトラーが出て来たからな」
「あんな状況じゃないとですか」
「ヒトラーは出て来なかった、もっと言えば美大に合格しているとだ」
「ヒトラーがですね」
「それで出て来なかった」
「ヒトラーの望みが適っていれば」
「その場合ドイツは混乱が続いていたかも知れない」
その経済が崩壊してモラルもなくなっているままだったというのだ、吸血鬼そのものの人間まで出ている様なだ。
「戦争になったかはわからないが」
「ううん、そう言われると」
「難しいな」
「はい、ドイツはヒトラーが出てきて戦争になって」
そして廃墟になったけれどだ。
「出て来ないとですか」
「その場合もだ」
「どうなっていたかわからないんですね」
「一次大戦に世界恐慌まで加わったのだ」
教科書にある通りだった、このことは。
「ドイツは絶望するしかなかったからな」
「そこでヒトラーが出ないと復活しなかったんですね」
「そうなっていただろう、他に誰か出ないとな」
「難しいですね、その辺りは」
僕は腕を組んで考えた。
「ヒトラーが出て来て戦争になったけれど」
「ヒトラーが出ないと助からなかった」
「そうした状況だったんですね」
「当時のドイツはな、そしてそのヒトラーが出てだ」
「実際に当時のドイツから吸血鬼はですか」
「消えた」
正真正銘のそうした存在がだ。
「ドイツからな」
「そのことに限っていえばよかったですね」
「そうなるな」
「はい、そう思います」
僕は井上さんに答えた。
「あくまでそのことに限れば」
「そうだな、それでその吸血鬼だが」
井上さんはヒトラーの話からこちらに戻してきた。裕子さんの方を見て。
「貴殿の住んでいるところにもいるな」
「長崎にですね」
「九州の西沿岸にだ」
「磯女ですか」
裕子さんは眉を顰めさせて応えた。
「あの妖怪ですか」
「そうだ、いるな」
「はい、色々と話が残っています」
裕子さんはその顰めさせた顔で井上さんにまた応えた。
「夜に砂浜にいたり。お盆等に出たり」
「そうだったな」
「漁師の人達の間ではかなり恐れられていたそうです」
「あれっ、そんな吸血鬼もいるのね」
モンセラさんはその話を聞いてだ、意外そうな顔になっていた。
「日本には」
「そうです、実際にかなり恐れられていました」
裕子さんはモンセラさんにも話した。
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