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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第五十四話 夜の出来事その十

「カリスマやそれに伴う統率力、政治力もだ」
「どれもですか」
「もっと言えば知力もだ」
 そちらの能力もというのだ。
「どんな難解な本も読破出来一度聞いたことは忘れず数カ国語を操ったのだ」
「相当頭がよかったんですね」
「芸術にも造詣が深く哲学にも詳しかった」
「そういえば元々画家志望でしたね」
「絵は上手だった」
「それでも美大は落ちていたんですか」
「当時の欧州芸術界の主流ではなかっただけだった」
 ヒトラーの画風がだ。
「ただデザインセンスはあった」
「それはですか」
「親衛隊の服も一説にはヒトラーがデザインしたという」
 あの悪役の格好良さを醸し出している服もというのだ。
「少なくとも採用を決定したのはヒトラーだ」
「あの服にしても」
「フォルクスワーゲンのデザインもだ」
「あの丸い車ですね」
「ヒトラーがしたのだ」
「そうだったんですね」
「しかもドイツ経済を復活させ社会を瞬く間に安全に健全したが」
 このことも言う井上さんだった。
「この政治力だが」
「そういえば凄い政治力ですね」
 今の日本のことを考えるとわかった、あの状況のドイツでそこまで出来るのはもう今の日本の政治家の人でいるかどうかと。
「そちらも」
「天才だ、外交も悪辣な手段だが実績をかなり挙げている」
「じゃあ政治力も」
「相当だ、しかしだ」
「しかし?」
「ヒトラーはそうした教育を受けていなかったのだ」
 井上さんの言葉は強いものだった、この時も。
「政治を学ぶ様なな」
「けれどあれだけの実績を残した」
「それは天性のものだったのだろう」
「天才だったというのですか」
「演説にしてもだ。しかもヒトラーは高等教育も受けていなかった」
 当時の欧州のだ。
「それも受けていないのにだ」
「あれだけの能力を出していた」
「そのことを考えるとだ」
「ちょっと異常ですね」
「当時の欧州、ドイツはまだまだ貴族が強かった」
 貴族が社会の指導者達だったというのだ。
「ヒトラーが生まれたオーストリアもな」
「けれどその中で、ですね」
「瞬く間に頭角を現し国家元首になったのだ、三十かその辺りで政界に出て十数年で首相になり総統にもなった」
「急ですね」
「こんなことはまず出来ない」
 普通の人にはというのだ。
「それを考えるとだ」
「ヒトラーは魔性の人間ですか」
「教育を受けていないのにだ」
 それでもというのだ。
「むしろ教育を受けてもまずヒトラーにはなれない」
「色々凄い人だったんですね」
「政治家としてはまさに天才、英雄だったがだ」
「魔性の人物ですか」
「そう思う、私はな」
「ううん、何かヒトラーはこれまで悪い奴って思ってました」 
 ただそれだけだった、ユダヤ人や自分に反対する人を弾圧して戦争を起こしただ。そうした意味での悪人だと思っていた。
 けれど井上さんの考えを聞いて考えてみるとだ、確かに。
「けれどただ悪い奴じゃなくて」
「それ以上のものがあるな」
「そうですね」
 こうだ、井上さんに真顔で答えた。 
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