八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十四話 夜の出来事その九
「ルーマニアでの話かどうかは覚えていませんが」
「吸血鬼の話がまだあるのね」
「そして吸血鬼ハンターもいるとか」
「退魔師みたいな感じで」
「その様です」
「ううん、凄いわね」
「あの辺りでは吸血鬼は架空とは思われていません」
ただ有名なだけでなく、というのだ。
「実在と思われていて、いる可能性が」
「高いの」
「少なくとも人の血を吸う人はいましたし今もおそらく」
「いるのね」
「昔ドイツにいました」
「あの国にお」
「はい、それで人を殺して血を吸ってもいました」
僕はその話から思い出した、確か一次大戦の後のドイツでそうしたことをする連続殺人鬼がいた、その殺人鬼は人肉さえ食べていたらしい。
「それも何十人もの」74
「もう人間じゃないわね」
「生物学的にそうであってもですね」
「ええ、もうそれはね」
「はい、まさに正真正銘の」
「吸血鬼になっていたのね」
「当時のドイツにはそうした話がわりかしあるそうです」
「あの頃のドイツはだ」
井上さんが言ってきた。
「一次大戦の敗北と多額の賠償金で国家が破綻していた」
「経済的にですね」
「モラルもだ」
それもとだ、井上さんは裕子さんに答えた。
「全てが崩壊していてた」
「その結果ですか」
「混沌とした中にありだ」
「そうした異常犯罪者がですか」
「出て来る余地があり」
そしてというのだ。
「出て来ていたのだ」
「そうだったのですね」
「それはヒトラーが出て来るまで続いた」
あまりにも有名な独裁者だ、それこそ誰でも知っている位に。
「ナチスがドイツを掌握し経済を復活させてだ」
「モラルもですか」
「ナチスのものとはいえな」
「モラルも取り戻したからですか」
「ドイツのそうした異常犯罪者も減ったのだ」
「そうだったのですね」
「確かにヒトラーは悪名高い」
井上さんもこのことは否定しなかった。
「しかしヒトラーがそうした異常犯罪者をドイツから一掃した」
「そうですか」
「そのこともまた事実だ」
「あのナチスの登場で」
「最も異常な人物が頂点に立っただけかも知れないが」
そのヒトラーがだ。
「しかしだ」
「ドイツはですね」
「それで一度は復活したのだ」
井上さんはこのことは強く言った。
「社会も経済もな」
「そのことは確かなんですね」
「そうなのだ、ただまた言うが」
僕にまた言って来た、こう。
「最も危ない者が権力の座に就いただけかも知れない」
「そのヒトラーが」
「ヒトラーは魔人だったと思う」
井上さんはその目を鋭くさせて言った。
「少なくとも普通の人間ではなかった」
「魔性ですか」
「あまりにも異様に力があった」
「演説の才能が凄かったらしいですね」
「演説だけではなかった」
井上さんは僕の言葉にさらに加えてきた。
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