八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十三話 抹茶のよさその九
「ですからご安心下さい」
「それなら」
「はい、そうなので」
「よかったです、じゃあシャワーを浴びたから」
学校でだ、だからだと僕は畑中さんに言った。
「今はお風呂はいいです」
「後で入られますか」
「そうですね、お風呂にも入った方がいいですね」
「お風呂は疲れが取れます」
シャワーよりもというのだ、お湯に浸かるとそれで身体の疲れが落ちてほぐれる。だから畑中さんは僕にいつもお風呂を勧めてくれるのだ。それは今もだ。
「ですから私としては」
「そうですね、じゃあ寝る前に」
「入られますか」
「その方が確かに疲れが落ちますし」
それにだった、お風呂に入る方がシャワーよりもだ。
「ぐっすり寝られます」
「身体がほぐれているせいで、です」
「そうですね、ですから」
「入られますね」
「そうさせてもらいます」
「では。夏でもです」
畑中さんはご自身の考えを僕に話してくれた。
「お湯には入った方がいいのです」
「そうなんですね」
「短くてもいいです、入る時間は」
「それでも疲れが取れるから」
「いいのです、では」
「寝る前に入らせてもらいます」
「それでは」
「じゃあそうさせてもらいます」
僕は畑中さんに答えた、そして。
ふと窓の外を見た、すると土砂降りで外が碌に見えない状況だった。雨音はもう滝の音みたいになっていた。
その音を聞いてだ、僕はしみじみとして言った。
「この勢いならすぐですね」
「はい、すぐに止みます」
「ですね、それでその後は」
僕は少しうきうきとした感じになっているのが自分でもわかった、そのうえでの言葉だ。
「涼しくなりますね」
「冷やされて」
「それがいいんですよね」
「雨上がりですね」
「夏の一番いい時ですね」
夕立の後のその時がだ。
「まさに」
「義和様はその時がお好きなのですね」
「はい、夏で一番」
「そうですか、では雨があがれば」
畑中さんは僕に微笑んでこう勧めてくれた。
「夕食の時まで外に出られてはどうでしょうか」
「外にですか」
「はい」
「そうですね」
言われてみてだ、僕は少し考えた。
どれだけ考えたかというとほんの数秒、いや二秒か三秒か。それ位の間にあれこれとそれなりに考えてだった。
畑中さんにだ、こう答えた。
「じゃあお庭を」
「散歩されますか」
「そうします」
「外には出られないですか」
「そこまでは」
何か出る気になれなくてだ。
「いいです」
「それではですね」
「はい、アパートのお庭を歩きます」
「では、です」
「雨が止むまで待ちます」
「一時間もすれば止みます」
その雨はというのだ。
「それまでお待ち下さい」
「わかりました、そうします」
「雨上がりの後の夏の夕刻はいいものです」
微笑んでだ、畑中さんは僕にこうも話してくれた。
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