八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる
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第五十二話 暑い夏だからその十二
「お茶は美味しかったけれど」
「作法が、ですか」
「疲れたわ」
「そうでしたか」
「どうだった?私の仕草は」
「よかったと思います」
小夜子さんはテレサさんの問いに素直に答えた。
「問題はないかと」
「お世辞じゃなくて?正座もしていないのに」
「正座はともかくとして」
このことは置いておいてというのだ。
「どれもです」
「問題なかったのね」
「確かに茶道は作法です」
これは絶対というのだ。
「しかしそれ以上に見ている人を不快にさせない」
「そのことがなのね」
「大事なのです」
茶道においてはというのだ。
「ですからテレサさんはいいと思います」
「不快にさせていないのね」
「全く」
「ならいいけれどね」
「はい、それに」
「それに?」
「丁寧ですね」
テレサさんのその動きがというのだ。
「とても」
「だといいけれど」
「はい、ですから」
「いいのね」
「私はそう思います」
「そうなのね、じゃあ今度はね」
テレサさんは小夜子さんの言葉に笑顔で頷いてからだ、自分の前にあるその栗羊羹を見つつ言ったのだった。
「この羊羹をね」
「羊羹をですか」
「また食べようね」
「美味しい羊羹でしたね」
「とてもね」
テレサさんは微笑んで小夜子さんに答えた。
「だからまた食べたいわね」
「そうですね」
「栗羊羹もいいわね」
「本当に」
「特に栗がね」
羊羹の中の栗がというのだ。
「美味しいわね」
「栗が中に入っているから」
それでとだ、僕はテレサさんにこのタイミングで話した。
「栗羊羹だしね」
「じゃあ中に栗が入っていない栗羊羹は」
「栗羊羹じゃないよ」
そうなるというのだ。
「その場合はね」
「普通の羊羹になるのね」
「世の中悪い奴がいてね」
僕は苦笑いになってテレサさんにこのことを話した。
「栗羊羹の栗だけを先に食べる人がいるんだ」
「ああ、それは悪いことね」
「これやったら栗羊羹じゃないよね」
「只の羊羹よね」
「そういうことする人いるんだ」
「そんな奴は寝ている間にお口の中に唐辛子よ」
それを入れてやるとだ、テレサさんはかなり真剣に言った。
「青いのをたっぷりとね」
「ああ、青い方が辛いんだよね唐辛子って」
「だからね」
それでというのだ。
「それをお見舞いしてやるわ」
「お仕置で」
「人間やっていいことと悪いことがあるのよ」
それこそというのだ。
「それは駄目よ」
「やっぱりそう思うよね、テレサさんも」
「それじゃあ意味ないからね」
栗羊羹のというのだ。
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