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八条荘はヒロインが多くてカオス過ぎる

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第五十二話 暑い夏だからその十一

「それで美味しいとは」
「いやいや、わかるわよ」
「そうでしょうか」
「だって手際がいいから」
 小夜子さんのその手の動きを見ての言葉だった、茶道のそれを。
「時間をかけていないけれど丁寧で」
「だといいのですが」
「その手際だとね」
「美味しいというのですか」
「間違いなくね」
「それでは」
「ええ、今からね」
 小夜子さんが淹れたそのお茶をというのだ。
「楽しませてもらうわ」
「では」
 ここでだ、小夜子さんは。
 お碗の中のお茶を混ぜてだった、そうしてお茶を作り終えてだった。 
 そのうえで僕達にそれぞれお茶を出して来た。それで僕もテレサさんもお茶を飲むことになったがここでだった。
 テレサさんはお碗を前にしてだ、こう言ったのだった。
「とりあえずね」
「とりあえずとは」
「飲み方だけれど」
 小夜子さんを尋ねる目で見ての言葉だった。
「真似していい?」
「はい、どうぞ」
 小夜子さんはテレサさんに穏やかな声で答えた。
「それでは」
「そうさせてもらうわね、茶道はね」
 日本のそれはとだ、テレサさんは小夜子さんに言った。
「はじめてだから」
「では作法も」
「そう、それでね」
 知らないというのだ。
「だから見させてね」
「わかりました、では」
「郷に入っては郷に従え」
 テレサさんはこの言葉も出した。
「茶道は茶道の作法をしろ」
「それ故にですね」
「見させてもらうわ、茶道の本はここに来る前に読んだけれど」
 それでもというのだ。
「実際にやるとまた違うから」
「だからですね」
「ええ、見させてもらうわ」
「わかりました、それで義和さんは」
「僕はご本家が主催するお茶会にも出たことがあるから」
 何度かだ、親父も来てそれでご本家の人達にあれこれ小言を言われて笑って気にしていないのも見てきた。
「だからね」
「そうですか、ご存知ですか」
「専門にはしていないけれどね」
 それでもだ。
「知ってはいるつもりよ」
「それは何よりですね」
「無作法にならない様にはするよ」
 このことを心掛けてだ、そしてだった。
「気をつけてね」
「いえ、義和さんはです」
「大丈夫かな」
「はい、見たところ」
 今までのこの場での僕の作法はというのだ。
「大丈夫です」
「だといいけれどね」
「ではお飲み下さい」
「それじゃあね」
 こうしてだった、僕は普通にテレサさんは小夜子さんの動きを見ながらだった。お茶を飲んだ。そしてお茶を一口飲んでだった。 
 飲む間は普通でだ、飲み終えて口を付けたところを指で拭く動作もしてからそのうえで言った言葉はというと。
「結構なお手前でございました」
「いえ」
 ここまで丁寧だった、僕から見ても。
 けれどだ、テレサさんはやれやれといった顔で言った。 
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