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大刃少女と禍風の槍

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四節・走破へはじめの第一歩

 

 一番最初に行われた会議は……攻略会議とは言えども、内容はプレイヤー達の士気を上げるだけのものでしか無く、実用的な情報交換などは既に、ほぼ『アルゴの攻略本』内にて記されていたので、必要が無い。

 なので、実質ディアベルの語りと、キバオウとグザが意見を出したのみで終わったのだ。

 それでも、絶望の影で未だ覆われたアインクラッドにて、気分を盛り上げると言う効果はまず重要であり、その面では役に立つ会議だったと言えるだろう。




 現にその翌日には、ディアベルのパーティーがボスへの扉を発見し、あまつさえ姿や名前に護衛兵まで見て来てしまったのだから。

 尤もその事が全体に知れ渡ったのは夕刻であり、キー坊(仮称)や他ボス部屋近くに居なかったプレイヤーは、完成を上げた後声が途絶えただけにしか聞こえなかったようだが……。


 ……ちなみにだが、グザの姿はキー坊(仮称)とフードの少女からは、見えなかったし見かけもしなかった。
 サボっているのかどうかは解らないが。


 ボスは身の丈二mほどのコボルドで、今まで出てきた物の中では最大。
 名は《イルファング・ザ・コボルドロード》、主武装は片手斧と盾だが、腰に湾曲した剣を指しており、恐らく曲刀カテゴリであろうソレに切り替える事も予想された。

 取り巻きも湧き、名は《ルインコボルド・センチネル》、武器はハルバードであり、開始と同時に三匹が穴から飛び出して来たのだとか。


 βテスターであるキー坊(仮称)は当然これを知っており、更にはボスの背中の武器が曲刀で確実な事、HP低下と共に武装を切り替える事、センチネルが合計十に引きわく事までも熟知している。

 しかし飽くまでそれはβの知識。グザが言っていた様に此処で通じる可能性があるかは分からない上、彼には自分から言い出す勇気も度胸も無い。
 だからこそ余計な事を言わぬようにと黙っているが……それではまた確執を生んでしまいかねない。最悪の結果が起きてからバレれば、プレイヤー達の空中分解は確実だ。

 

 が……幸か不幸か会議の最中にグザが声を上げたかと思うと、広場の隅で露店を広げていたNPCが、レイのパンフレットを委託販売している事が解り、キー坊(仮称)の葛藤は有耶無耶になって霧散させられた。
 重大な決断をすべきか否か、酷く重要な考えごとの最中にあっさり解決した所為で、彼の顔には何とも言えない微妙なモノが浮かんでいる。


 本の名は『アルゴの攻略本・第一層ボス攻略編』であり、勿論0コル販売だ。

 会議は即座に一時中断され、皆揃ってパンフレットを買い、しばしの間皆無言で読みふけり始める。
……グザだけは、パイプから口を放して煙を吐く際、小さく声を混ぜていたが、それ以外に声音など無い。


 攻略本内には今しがた判明したボスの名前や取り巻きの事だけでなく、キー坊(仮称)が知っている事―――推定総HP量に片手斧と曲刀のスキルや間合い、剣速に推定ダメージ数値などが、三枚の羊皮紙で作られた本を余すこと無く使おうと、それこそビッシリと書かれている。


 当然の事、ボスのサポートとして湧くセンチネルの情報も、四ページ目にちゃんと記されていたが……攻略者達の目を引いたのは、裏表紙に書かれていた大きな赤い文字、

【この情報はベータテスト時のものです。現行版では変更されている可能性があります】

 というものだった。


 特徴的なフォントの一文の所為で、彼女がベータテスターである可能性がより高まったのだから。


 根拠は無いし、情報をベータテスターから買い取っているのだから、この一文を入れるのはある意味当然とも言えるが、正確さ故に疑いが広がるのもまた事実。

 この一文を目にしたからか、キー坊(仮称)の目に入る範囲のプレイヤーだけでも、目を見張っていたり考え込んでいる物が多い様に見えた。


 他の場所に居る者達も同じか、空気が重くなるが……唐突にその空気を切り裂いたのは、グザだった。


「様はベータテストと違うかもしれません、て警告くれてるだけだわな。他の事考えてる暇なんざ無いやね」


 一旦パイプを口に咥え、煙を吸って吐きだしてから、再度話し始める。


「つうかね、寧ろ……この一文があるから、過信しなくて済むんじゃないかい?」


 彼の発言は至極尤もであり、また今は疑いなどかけている場合ではないという思いも、先日の時点で生まれていたのか、重い空気は一先ず消えて行く。

 その空気を完璧に霧散させたのは、この攻略隊実質率いる事になった、ディアベルの発言だった。


「ああ、今はこの情報に感謝しよう! 危険の高い偵察戦を省く事が出来たんだ! SAOが現行版でも数値通りなら、ボスはそこまでヤバいって訳じゃあない。慢心はいけないけど、戦術を練り回復薬を沢山持ちこめば、死人0でもクリアは可能で―――」


 そこでディアベルは黙り、頭を振ってから強く握った拳を掲げる。


「いや違う、死人を絶対0にする! 騎士にの名にかけて約束しよう!」


 勇猛なる希望呼ぶ発言に、周囲からは掛け声が上がり、拍手まで飛ぶ。


 その姿は、ひねくれ者だったとしても、ディアベルが中々のリーダーシップとカリスマ性を持っている事を、否応にも認識できるものだった。

 このSAOではギルドを作る事も出来るので、何時そのクエストが受注できるのか知っているキー坊(仮称)は、そこに辿り着くまでに彼の人望でどれだけ人が集まり、何処まで大きなギルドを立ち上げるのか、それを考えて心内で感心していた。



 だが他人事だと意識を集中していなかった彼は、次のディアベルの発言で体を伸ばしてしまう事になる。


「じゃあ、まずはレイドを組む為にパーティーを作ってくれ! 攻略作戦会議をしようにも、装備系統による役割分担をするにも、まず組んで貰わないと話にならないからさ!」

(なん……だと……?)


 オレンジ髪の死神が出る漫画や、笑わない最強主人公が出る小説の、特徴的な台詞を心の中で吐きながら、キー坊(仮称)は絶句した。

 今この場に居るのは45人であり、SAOではパーティーメンバの上限が6人である事を踏まえると、合計7つまでが限度で三人余る計算だ。
 また均整を取りに行くならば、6人と5人パーティーをそれぞれ4つづつ作る必要がある。


 何とか進言しようと意を決して立ち上がる彼だが、彼の様なソロプレイヤーはやはり珍しかったか、元から組んでいたかのように、ディアベルの発言から瞬く間に6人七つのパーティーが出来上がってしまう。



 一緒にやろうと言われなかったのは本当に自分一人だけだったか……キー坊(仮称)はそう思いかけ―――しかし同じくアブれている二人を見つけた。
 ……だが、彼の顔が少し歪む。


 
 その内1人が刺青半裸の長身男・グザ、もう一人がフーデットケープを目深に被った名称不明の少女だからだ。
 彼女もフードの所為と、男しかいない現状から、周りからは小柄な男性としか思われていないだろうが、圏内に入ってまで顔を隠している時点で怪しい。


 詰まる所、見るからに異色な二人しか残っていなかったので、キー坊(仮称)は顔をしかめたのだ。


 それでもあぶれ続けてボス戦から外れるよりはマシだと、まずはフーデットケープの少女に近付こうとして……


「よ、組まんかい? 少年」
「うぃっ!?」


 何時の間に接近したのやら、死角になっていた斜め右からグザの声が聞こえてきて、キー坊(仮称)はビクッと肩を竦めると、ギギギと音がしそうなぎこちなさでゆっくり顔を傾ける。


「グ、グザか……」
「おうさ。で、組まんのかい? まぁ組むしかねーと思うがね、この有様じゃあ」
「ま、まあな……」


 多少カクつきながらもパーティー参加申請をだし、もう決まっていた事だからと、グザは表示が出るかで無いかの速さでクリックしOKを出す。

 キー坊(仮称)のHPバーの下にやや小さいHPバーが現れ、その下にはカタカナ2文字だから仕方ないものの、それでもえらく短く《guza》と書かれていた。


「へぇ、キリトかい。よろしくな」
「……ああよろしく、グザ」


 グザも彼の名を確認する為か、少年と改めて挨拶を交わした。


 終わった所でもう一人の所へ行くべく、キー坊(仮称)―――ではなくキリトは、フーデットケープの少女の元へと行く。


 彼女はこんな状況に陥っても、慌てること無く身動ぎすらしないが、代わりに立つ事も話しかける事もしていない。

 キリトは彼女へスーッと近づき、多少遠慮がちに声を掛けた。


「や、やあ……アンタもアブれたのか?」
「アブれてないわ。周りが仲良さそうだったから、遠慮して一歩引いていただけ」
「それをアブれたっつうのよ。如何取り繕ろおうと意味同じだわな」


 キリトも内心そう思っていれど、ちゃんと空気を呼んで声に出さなかったのに、またも何時の間にやら背後に居たグザが、後頭部を掻き続けながら躊躇せず口にする。
 しかもその後そっぽを向き、ブルーベリー色のパイプを咥え、ニタリと笑って悪びれる様子もない。


 目の前の少女から怒りのオーラが膨れ上がるのを感じたキリトは、グザへ一瞥くれると慌ててパーティー参加申請を出し、身振り手振りを加えて話し出す。


「だ、だったらパーティーを組まないか? と言うか何れにしろ組まないと攻略に入れて貰えないし……」
「……………わかったわ」


 恐らくグザも彼と同じパーティーだと言う事を理解したか、何秒もの間沈黙を保っていた少女だったが、今ここで我を貫いては本末転倒だと悟ったか、小さく頷いてからメニューをクリックし、申請へ肯定の意を示した。


 やがて小さな効果音と共に、キリトのHPバーの下に二つ目の小さなゲージが現れる。
 そこに書いてある文字は《Asuna》……普通に読めばアスナであろう、それが彼女の名前らしかった。


 広場に居る全員がパーティーを組んだ事を確認すると、まずはそれぞれの装備傾向やメインウェポンを検分し、目的別に分かれるよう少人数入れ替えた。

 その後、高い火力と機動性を持つアタッカーの部隊を三つ、重い鎧で身を固めた防御専門のタンク部隊、射程の長いポールウェポンで両部隊を支援するサポート部隊を二つ、それぞれ分ける。

 そして、ディアベルは次に役割事の作戦を出す。
 タンク部隊はもっぱらボスのターゲット引き受け役で、アタッカー部隊は二つがボスで一つが取り巻きを請け負い、サポート舞台はディレイ効果が付与されているソードスキルで可能な限り行動を阻害する用に―――これが彼の考えた、基本に忠実な作戦だった。


 するすると作戦は決まっていったのだが……しかしながら、此処で問題が生じた。

 そう、たった3人―――常時フーデットケープ少女、刺青半裸の長身男、そして単なる黒髪の少年で構成された、見た目にも異質な味噌っかす部隊である、キリト達のパーティーが余ってしまったのだ。


 さしものディアベルも彼等の前で数十秒程悩み、やがて爽やかな笑顔を見せながら言った。


「君達は取り巻きのコボルドの潰しの腰が出ない様、Eアタッカー隊のサポートに回って欲しいんだ」


 字面だけならそれなりの役割である様な気もするが、言ってしまえば人数が少な過ぎて、何処にも配置できないし邪魔だから、やっぱり後方で大人しくしておいて欲しい……という意味でもあるだろう。

 キリト他の二人も気付いたらしいが、グザは苦笑するだけで済ませたから良いものの、アスナは明らかに非友好的な気配を漂わせている。

 彼女が何か口にする前にと、キリトは手を軽く掲げて答えた。


「重要な役割みたいだし、任せてくれ。頑張るよ」
「ああ、よろしくたのむ!」


 もう一度歯を見せて笑ったディアベルは、そのまま背を向けて広場中央の噴水まで戻っていく。

 彼が元の場所に付くと同時、アスナから抗議の声が上がった。


「何処が重要なのよ。様は引っ込んでおけって事じゃない……ボスに一回も攻撃出来ないまま終わるわ」
「嬢ちゃん、世の中には爪弾き役に徹にゃいけねー時もあるのよ。やいのやいの言っててもしょうがないわな」
「それにさ、三人じゃスイッチでPOTローテするにも、ギリギリ時間が足りないし。四人なら何とかなったかもだけどさ」


 そのキリトの発言に、アスナは首を傾げた。


「何それ……?」
「オレちゃんも知らんわな」
「はい……?」


 どう考えても初心者っぽいアスナは兎も角、なんと半裸で迷宮区をうろついていたグザまでもが、キリトの口にした単語に困惑の意を示した。

 アスナの得物は《細剣》であり、恐らくはソレの初級基本スキル《リニアー》のみを頼りに登っていたのだと推測できる。

 それだけでも十分に恐ろしい事だが、問題はグザの方だ。
 彼の得物は槍であり、近距離に近付かれると序盤も序盤な第一層時では、対処出来るスキルが初級スキル薙ぎ払いニ連撃《ヘリカル・トワイス》ぐらいしか無い。

 こんな層でソロで槍を使い生き延びるなら、それこそ『ゲームを捨てる』程に槍を使いこなさなければならない。
 それは槍道ではなく槍術を、しかも実戦に近い状態で何度もだ。
 明らかに矛盾したグザの実力に、キリトは眉をしかめている。


「ねえ、スイッチとかPOTローテって何なのよ」
「へ? あ……あ、ああ。それは後で説明するよ。立ち話いじゃ終わりそうにないし」


 アスナは彼の返答に頷き、グザは軽い調子でハイヨと返した。


 二回目の会議は各部隊(キリト達を除く)のパーティーリーダーの挨拶と、お金(コル)やアイテム分配の方法が決められ、この場はそれで解散となった。

 
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