ジミーのギター
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
2部分:第二章
第二章
向こうの言葉に甘えてデートをはじめる。格好がどうにも気になるがいい感じであった。ストリートを二人並んで歩きながら声をかけるのだった。
「それでさ」
「何?」
「この辺りにギターを奏でてもいい店あるかな」
「ああ、成程ね」
女の子はジミーの背中のケースを見て納得したように頷いた。
「そういうことだったの」
「こう見えてもミュージシャンなんだ」
あくまで自称であるが。
「カレッジに通いながらな。決まってるだろ」
「決まってるっていうのは少し古いんじゃないの?」
女の子は彼の言葉にこう返してきた。
「八十年代によく聞いた言葉よ」
「八十年代ねえ」
ジミーはそれを聞いて苦笑いを浮かべた。
「俺が生まれた頃だぜ」
「あら、若いのね」
「若いも何もさ」
その言葉に苦笑いをそのままに言葉を返す。同時に心の中で妙なものも感じていた。
「当たり前だろ」
「当たり前って?」
「俺まだ十代だから」
そう言うのだった。
「八十年代生まれっていうのも」
「それもそうね」
女の子はそれを聞いて納得したような顔になった。
「よく考えたら」
「そうだよ。まああんたの格好からすれば新しいかな」
女の子の服を見ながら言う。
「また随分レトロだね」
「服はこれしかないから」
返事はこうであった。
「だからね。これは別に」
「ふうん。それでさ」
そこまで聞いて話を元に戻すのだった。
「お店あるかな。さっきの話の続きだけれど」
「あるわよ」
あるとのことだった。ジミーはそれを聞いて心の中で喜んだ。
「そうなんだ」
「ほら、そこ」
そうしてすぐ目の前にあるバーを指差すのであった。
「あそこ今探してるのよ、そういう人を」
「これこそ神様の思し召しってやつか。いや」
女の子を笑いながら見る。
「天使のお導きかな」
「天使って?」
「だからさ」
笑って女の子を見るのだった。
「あんたのことだよ」
「天使ね」
女の子はジミーのその言葉を聞いておかしそうな、楽しそうな笑みを浮かべた。アメリカではよく天使を見たという人が多い。ジミーもそれを知っていてあえてこう言ったのである。
「違うかな」
「そうありたいわね、やっぱり」
「じゃあなればいいさ」
ジミーはあっさりとした口調でまた言った。
「これからさ」
「そうね。じゃあこれ」
女の子はそっとジミーに何かを差し出した。
「何だ、これ」
「あげるわ」
見ればそれはメモであった。見てみると何か文章が書かれている。しかし段々辺りが暗くなってきたのであまりよくは見えなかった。
「ええと?」
「後で読んで」
横から女の子が言ってきた。
「御願いだから」
「ああ、じゃあ」
可愛い女の子に頼まれると弱い。そういうことであった。
「後でな」
「お店の中で見るといいわ」
女の子は今度はこう言ってきた。
「それで御願いね」
「わかったよ。じゃあ今からな」
笑顔で女の子に言葉を返す。そうして一緒に店に入った。
筈だった。だが彼女はもうそこにはいなかった。
「あれっ!?」
「いらっしゃい」
女の子がいなくなって驚く彼に店の親父が声をかけてきた。
ページ上へ戻る