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ジミーのギター

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3部分:第三章


第三章

「運がいいな、今ならいい席と酒がたんまりとあるぜ」
「いや、それもいいけれどさ」
 彼はその親父に背中のギターケースを見せて言った。
「俺はこっちなんだけれど」
「ああ、そっちも運がいいな」
 親父はそちらにも笑って言葉を返してきた。
「今なら一名限定でな」
「じゃあいいかな」
「ああ、頼むぜ」
 こうしてとんとん拍子で店でギターを奏でさせてもらうことになった。ジミーは一旦店の控え室に案内してもらってそこを休憩所とした。そうしてここでさっきあの女の子から貰ったメモを取り出した。見ればそれは歌詞であった。
「ふうん。ラブソングか」
 見れば完全にそうであった。しかもかなり甘い歌詞である。ジミーは最初それを見てマユを少し顰めさせたのであった。
「ちょっと甘過ぎるか?」
 そう思ったのだ。彼はどちらかというと失恋の歌をよく作るので甘い歌は苦手なのだ。だがこの歌はそれでもいい感じであった。
「けれどこれは」
 試しにギターを持ってまだ歌詞の決まっていない曲に合わせて歌ってみた。すると。
「あれっ」
 歌っている自分が驚く程いい感じであった。歌っていてこれはいけると思った。
「これはいいや」
 早速店でも歌ってみることにした。店の中に入るともう客達が待っていた。
「早速頼むな」
「はい」
 親父に応える。すぐに席に座ってギターを構えた。
「それで兄ちゃん」
「何を歌うんだい?」
「本当はロックなんだけれどさ」
 ジミーは笑って客達に答える。
「ちょっと今回は特別にしっとりとした曲をやらせてもらうよ」
「しっとりか」
「ああ、駄目かい?」
 客達に尋ねる。
「かなり良さげな曲なんだけれどな」
「いや、それでいいさ」
「それで頼むよ」
 だが客達は寛容であった。彼がその曲を歌うことを朗らかな顔で許したのであった。彼はそれを見て心の中で笑うのであった。
「それじゃあ」
 あの少女のくれた歌詞をそのまま自分の曲に合わせて歌う。すると客達はすぐに黙りこくってしまった。あれ程騒がしかったというのに。
 曲が奏でられる間ずっと沈黙が続いた。それが終わると客達は拍手で彼を迎えたのだった。
「凄いじゃねえか」
「ああ、あんたプロなんじゃないのかい?」
「残念だけれどまだそこまではな」
 残念な苦笑いを浮かべて彼等に応えた。
「まだ先なんだよ」
「おや、そうかい」
「けれどこれならいけるよな」
 皆で彼にそう言う。
「なあ」
「そうだよな」
「へへっ、そう思ってくれるならさ」
 ここで彼は調子に乗った。
「奮発してくれよ、チップの方は」
「そっちはもうプロかよ」
「こりゃどうしたもんだよ」
「おっと、自伝にはこう書いておくからさ」
 調子に乗ってまた言う。
「お客さん達は俺の歌に感動していつもの倍のチップを渡してくれたってさ」
「じゃあ書けよ」
「俺達のことをな」
「ああ、勿論さ」
 そんな話をしながら店の演奏を成功に終わらせた。そのおかげでこの日は美味い飯と酒、雨露を凌げる場所を手に入れることができた。彼にとっては最高の一日となった。
 彼は朝になると安いホテルを出た。そして店でパンと牛乳を買った。それを食べた後で街の公園に出た。そこでまたギターを奏でだしたのである。公園は静かでまだ人も少ない朝の露と木々の緑が心地よかった。ジミーはその中でギターの練習をはじめたのだ。
 ベンチに座ってギターを奏でているとそこに誰かが来た。気配に気付いてそちらに顔を向けるとあの女の子がいた。
「昨日凄かったらしいわね」
「まあな」
 女の子に顔を向けて答えた。
「大成功だったぜ。これでスターに一歩近付いたってわけだ」
「おめでとう」
「ああ。ところでさ」
 ここで彼女に問わずにはいられなかった。
「昨日急に消えたよな」
 そのことについて問う。
「どうしてなんだ、あれは」
「気にしないで」
 それに対する返答はあまりにも変わったものであった。
「それは」
「おいおい、気にするなってか」
 あまりにもぶしつけな言葉に思わず笑ってしまった。
「何だよ、それって」
「よくあることじゃない、女の子が急にいなくなるって」
「そうか?」
 そんなことは初耳だった。ジミーは顔を顰めさせた。
「そんなのは聞いたこともないがね」
「けれど今はこうしているわよ」
 何か反論を煙にまくような言葉がまた出た。
「それでいいじゃない」
「まあどっちにしろあんたとはまだそんなに話したわけじゃないしな」
 よく考えればそうだった。深い関係ではとてもないしどうでもいいと言えばそうなるものだった。ジミーにしてもこの街もすぐに立ち去るものなのでまあいいかと思った。
「じゃあ気にしないでおくさ」
「そういうこと。それでね」
 女の子はまたジミーに言ってきた。
「昨日の歌詞よかったでしょ」
「それはな」
 彼も認めることだった。
「成功はあんたのおかげだな」
「感謝しなさいよ」
「有り難う」
 素直に礼を述べた。
「御礼に朝飯でもおごろうか?」
「それはいいわ」
 ジミーの申し出はあっさりと断るのだった。
「別にね」
「いいのかよ」
「別の御礼が欲しいの」
 そのうえでこう言ってきた。
「いいかしら」
「いいかしらって言われてもよ」
 ジミーは微妙な顔を女の子に向けて言う。
「俺あんまり金ないぜ。見ればわかると思うけれどさ」
「お金じゃないわよ」
「じゃあ何なんだ?」
 お金じゃないと言われたら。何のことかと思った。
 
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