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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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激戦

 
前書き
完結したら練習広場から本投稿に移動させる予定です。
それとも今からの方がよろしいでしょうか?

この回には原作キャラにキツイ展開があります。読む際は注意して下さい。

めっちゃ戦い通しの回
 

 
~~Side of なのは~~

12月22日、この日まで私達はひたすら封印方法を探し続けた。11月の終わり頃に聖王教会から、月詠幻歌という歌が封印のカギだという報告書が私達に届けられたものの、その月詠幻歌が既に失われているという事で改めて別の方法を探すしかなかったのだ。しかし結局、何も見つける事は出来なかった。そのため切り札無しで戦う事になってしまったが、そうだとしても負ける訳にはいかなかった。

『WARNING! WARNING!』

『EMERGENCY! EMERGENCY!』

『DANGER! DANGER!』

警報がミッドチルダ全域に鳴り響き、戦闘要員以外の人間に避難指示が飛び交う。私は浮上を始めたアースラの甲板上で、クロノ、はやてちゃん、ヴォルケンリッターの皆と一緒にデバイスを構えてセットアップする。飛行魔法を使わないのは飛行中に魔力吸収をされたらそれだけで地面まで真っ逆さまだから、そうならないために飛ぶ足場代わりに戦艦を用いるように指示されたためだ。実際はラジエルのおかげで魔力吸収が出来ない様になっていると思うけど、別の吸収手段があるかもしれないから念のため安全策をとった訳だ。
管理局が煮詰めて出した作戦……対ファーヴニル戦の方針は、とにかく火力が高い人間を集めて立ち向かうという内容になった。なので戦艦一隻ごとにそれぞれ選ばれた精鋭の部隊が編制されている。残念ながら攻撃部隊に選ばれなかった局員は、避難所や街を守るために各所に配置されているが、彼らは彼らで足元を支えてくれる重要な役目なので、文句が出るような事にはならなかった。

出来るだけ安静にしていたもののフェイトちゃんは回復が間に合わず、アルフさんとプレシアさんの護衛の下、病院の地下シェルターに避難していて、アリシアちゃんはアースラの中でリンディさんやエイミィさん達と共にサポートをしている。また、ユーノ君は今も必死に無限書庫で封印方法を見つけようと捜索を続けている。ここにはいなくとも皆一人一人の行動が、これからの運命を決める戦いに挑む私達の心の支えになってくれていた。

空を見上げると、ミシミシと空間がきしむ音が響く。ファーヴニルが次元の穴を開けようとして、空間が悲鳴を上げているのだ。否が応でも緊張感が走り、芽生えかけた恐怖心を意志で押さえつける。そして……空間が割れた。

Hyuuuuuuuuuuuuuu…………!!!

「……絶対存在ファーヴニル。とうとう来てしまったか……!」

「結局まともな封印方法はあらへんけど、負ける訳にはいかへん。絶対に……」

「行こう、皆。私達の未来を、明日を、家族を守るために!!」

発破をかけた瞬間、皆が威勢よく大声を上げる。封印方法が見つかっていないのに皆が希望を今も持ち続けていられるのは、ラジエル防衛陣との激戦を物語るようにファーヴニルが凄まじい損傷を負っているからだ。口の中に撃たれたラジエルの主砲がそのまま穿ったであろう背中には痛々しい傷跡が見れるし、そのダメージが色濃く残る肉質の翼は焼け焦げて骨が見えているし、13個の複眼は半分が潰れているし、背中のレアメタルの角は先端が一部欠けていた。更に全体的に金属質の表皮も傷だらけで、尚且つ無数の鉄杭や建築資材のようなものが突き刺さったままになっている。というかこんな物を使っている辺り、ラジエルの人達はどんな戦い方をしたんだろう……。まさかラジエルにはとんでもない“とっつきらー”がいるんじゃ……?

だけど巨体から発せられる威圧感は依然変わりない。腕一つの大きさだけで戦艦を上回る程なのだから、奴が動くだけで大気が激しく乱れ、突風が吹き荒れる。しかし……正面から相対しているのに違和感がある。どこにもラタトスクの姿が見えないのだ。コントロールしている以上、近くにいる事は間違いないのだろうが……元凶の居場所がわからないのはとてもやりにくい。だけど……ある意味都合が良いのかもしれない。イモータルと絶対存在、同時に相手にするよりは一時的でも片方に戦力を集中させる事が出来る今の内に、あらん限りのダメージを与えるべきだろう。

しかし……そんな私達の決意を嘲笑うかの如く、ファーヴニルは突如大きく口を開けて、物凄く巨大なエネルギー弾をチャージし始める。球状のエネルギー弾から発せられる波動は、チャージしているだけなのに周囲の空間が捻じ曲がってしまう程だった。その影響でアースラを始めとした戦艦は激しく揺り動かされ、私達は振り落とされないようにしがみつくしかなかった。

「クッ……まだ戦いにすらなってないのに……!」

「奴が力を溜めてるだけで、こっちは吹き飛ばされそうじゃんか……!」

「俺もこの波動に耐えるだけで、精一杯だ……!」

「これが……星をも滅ぼす絶対存在の力なの……!?」

シグナムさん達が戦々恐々とする中、ファーヴニルはその恐るべき力を解放しようとする。その進行方向には……多数の戦艦が!

「マズい! 正面の戦艦、早く逃げろッ!!!」

GYAAAAAAAAAA…………!!!

ドォォォォォォォオオオオオンッ!!!!

クロノ君が必死の形相で逃げるように伝えた直後、耳をつんざく唸り声と共にエネルギー弾が発射され、大地を抉りながら音速で世界に傷が穿たれる。そして運悪く射線上に存在していた本局の次元航行艦……最も大きくてアースラと同じL級が1隻、少しサイズが小さいが運用しやすいM級が3隻、より小型で一般にも用いられるS級の10隻が丸ごと光の奔流に飲み込まれた。発射されたエネルギー弾はそれぞれ遠くの大地で着弾、大地震並みに地面が轟き、空に破壊による光の柱が立ち昇る。閃光のような眩しさが収まった時、私達が目の当たりにしたのは直撃を受けて炎を上げて崩れゆく戦艦と、破断した部分から零れ落ちていく乗員、身体の殆どが焼け焦げて炭化した見るも無残な魔導師達の姿だった。

私達があまりの攻撃力に呆然とするが、今の砲撃はそれだけで留まらなかった。地面が綺麗に丸く抉られた結果、今度は地面があるべき法則の形で元に戻ろうと濁流、土流、津波、とにかく自然災害級の衝撃が進行方向から逆走してきたのだ。生き残った戦艦は慌てて回避行動を取り、何とか副次的攻撃は避けられた。

「う、嘘だろ……管理局の誇る次元航行艦が……ディストーションシールドすら、まるで紙のように……!」

「あれはヴァナルガンドの破壊光線の倍……いや、十数倍の威力や……。喰らったらタダでは済まんで!」

「威力が高いのは、ヴァナルガンドと違って長時間力を溜めてから発射しているからだと思う。だからあの攻撃は溜めるまで時間がかかるのが唯一の救いかな……」

一瞬、あの光に飲み込まれた自分を幻視して鳥肌が立つが、怖気づいている場合ではない。個人差はあれど、ここにいる皆も何とか恐怖を振り払い、再度立ち向かう覚悟を決めていた。そしてそれは、艦内の人達も同じだった。

『生き残った艦は直ちに編成を整えて下さい! これ以上ファーヴニルが破壊光線を発射する前に、全艦隊で動きを封じるのです!!』

『了解!!』

『ちょっと待って! さっきファーヴニルの腕の根本が何か光ったよ! もしかしてあそこがウィークポイントじゃないの!?』

『アリシアさんが指摘した場所が弱点……可能性は高いわね。でもファーヴニル自体の移動速度もあるし、高速型魔導師でも追い付くだけで大変そうね……』

『皆が甲板にいるのはむしろ結果オーライかな。よぉ~っし、こうなったら腹を決めたよ!! 皆聞いて、これから合図をもらったら艦をあそこまで寄せる!! それで甲板にいる皆はその間に一斉に攻撃して!!』

「寄せるって、あの巨体のすぐ傍にアースラを近づけるのか、エイミィ!? そんな危険な事をして大丈夫なのか!?」

『こんな化け物相手に安全策なんて、むしろ死亡フラグを増やすだけだよ! 毒を食らわば皿まで、危険を冒す者が勝利する。それならありったけ死線をくぐったらぁ!! ランディ! アレックス! 今こそ操舵手の腕の見せどころじゃコンチクショー!!』

『よっしゃぁ!! 俺達に任せろやぁ!!!』

『密かな夢だった戦艦の爆走を自分がやれるとは、マジで燃えるじゃないか!!』

『あ、なんかエイミィ達の眼が血走ってる。バーサーカースイッチが入ったみたいだね』

『あらあら、ああなったクルー達は誰にも止められないわ。でもクロノ、艦長としてこの策は有効だと判断します。綱渡りも同然の行為でしょうけど、艦内の私達は前線で戦うあなた達を信じている、だからあなた達も私達を信じて下さい!』

「艦長……わかりました! 僕達もそれで異議はありません、反対側の艦にも同様の戦術を取るように伝えてください!」

『とっくに皆に伝えてる、そしたら満場一致でオーケーだってさ! 体制を整えたい時は艦を離して攻撃、一気に攻めたい時は艦を近付けて攻撃を繰り返す戦法で行くよ!』

『ファーヴニルに長時間近付いているのは危険です、付かず離れずの距離感で戦いましょう。距離を変えるタイミングはそちらに任せます』

「了解、艦の接近と離脱は僕が指示します」

「私もやるで。タイミングの見極めなら皆より早いはずや」

という訳でクロノ君とはやてちゃんがアースラの距離を指示する役目を担う事になった。それにしてもあんな巨大な化け物に戦艦ごと接近するとか、無謀と言えそうで普通あり得ない戦略だよね。
さて、私達の乗るアースラはファーヴニルの左腕を担当、一方で右腕の方はL級次元航行艦モビーディックが対処するという連絡が届いた。あの艦には地上本部の精鋭ゼスト隊と本局のエース級リーゼ姉妹が乗り込んでいるので、戦力は全く問題ない。そして残りの戦艦は正面や後方などあらゆる方向から牽制攻撃する事でファーヴニルの注意を引き付ける役目を担う事になった。そのおかげでこちら側に怪奇光線や破壊光線の反撃が来る心配をしなくて良くなり、腕振るいと体当たり以外の攻撃を気にせず、思う存分目の前の目標に集中していられるようになる。

戦法としてはまず……ファーヴニルはその性質上、エナジー無しで魔力だけの攻撃魔法ではあまり効果的なダメージが与えられない。よってミッド式の魔法を使う魔導師は基本的に遠距離攻撃による地道な削り合いと、牽制、回復の役割を担う。その代わり実体を伴った物理攻撃、即ちベルカ式の魔法を使う騎士の近接攻撃はミッド式の魔法より効率よくダメージを通せる。そのため攻撃の役割分担は、戦艦がファーヴニルから離れている時は魔導師、近付いている時は騎士が担当する事に自然と決まった。

「今はアースラが離れている。この時は私となのはちゃん、クロノ君が前に出るで」

「わかりました、主。では近づいた時は交代して我々ヴォルケンリッターが出ます」

一応私達も少しはクロスレンジで戦えるし、ヴォルケンリッターも遠距離攻撃は出来るんだけど、ダメージリソースの量を考えると出来るだけそれぞれの長所を活かした方が勝率は高くなる。そのため今、彼女達には大人しくしてもらっている。

そして雲が流れる快晴の青空の下、大海原を眼下に私達とファーヴニルとの未来を賭けた戦闘が始まる。戦闘機程の速度で滑空するファーヴニルと並走するようにアースラは速度を調整し、それに気づいたファーヴニルがこちらを目掛けて左腕で薙ぎ払ってきた。瞬間、アースラはグンッと機首を上げて明らかに戦艦がやるようなものではない回避機動を取り、乗っている者全てにとんでもない重力がかかる。

「おいおいおいおいっ!!?」

「ガガッと来よったぁ!!」

「これふざけすぎでしょぉ~!!?」

これは一瞬でも気を抜いたら滑って落ちるどころか、たまらず胃の中の物をぶちまけて女子として終わってしまう危険がある。そんな破滅を避けるために必死に堪えていると、アースラの下部スレスレをファーヴニルの左腕が轟音を立てながら通り過ぎる。回避成功によって機首も水平に戻り、色んな意味で事なきを得た。

「ぷはっ! まったくブリッジの連中、初っ端からやらかしてくれるやないの……!」

「さっきのは明らかにアースラの機動限界を超えた動きだ。彼らはこんな腕を持っていたのか……! 共に働いてきた仲間なのに、僕は今までその事すら知らなかったな」

「おかげで操舵手の人達の腕が確かだとわかったね。補助レバー無しのジェットコースターを上回るスリルを味わった所で、こっちも反撃に移るよ!」

ファーヴニルの先制攻撃をかわした事は、結果的にこちらの士気が高まる要因となった。私はレイジングハートを、クロノ君はS2Uと新調したデュランダルを、はやてちゃんは先日完成したシュベルトクロイツと夜天の書を構え、応戦状態に入る。

アースラの甲板上で戦うという事は即ち、自分の飛行魔法でポジショニングが出来ない事を意味する。というか回避してしまったら足場として飛んでいるアースラに攻撃が行ってしまう。そのため自分だけじゃなく皆を守るためには、アースラの回避が間に合わなかった時に、強力な防御魔法を即座に展開できるように心掛けておかないといけない。いつもと感覚が異なるものの、やってやれない事は無い。

「一番槍、行きます! ディバインバスター・ダーク!!」

ダーク属性のエナジーを込めた砲撃魔法をさっきのお返しに放ち、ファーヴニルの腕の根本にある暗黒物質の塊でドクロの形をしているウィークポイントを狙い撃ち、直撃、爆発が発生する。続いて畳み掛けるようにはやてちゃんが夜天の書経由で覚えたディバインバスターを放ち、クロノ君がデュランダルに入力されていたエターナルコフィンという強力な氷結魔法を発動した。こちらはエナジーが無いが、それでも次元世界屈指の威力を誇る広域殲滅魔法だ。事実、はやてちゃんの砲撃はダメージを更に押し上げ、また、クロノ君の魔法のおかげでファーヴニルの左腕の根本が氷の城のような氷柱の山で覆われる。

「よし。腕が凍り付いて動きを封じれた! アースラを近づけてくれ!」

『了解! ぐいっと入り込むから、落ちないでよ!!』

エイミィさんの返事が来た直後、本当にアースラがぐいっと急旋回し、大胆な動きでファーヴニルのウィークポイントのすぐ傍まで肉薄する。私の予想以上に近づいてくれたアースラの操舵手には頭が下がるが、とにかく選手交代して一気呵成にダメージを稼いでいくしかない。

「よっしゃあ! 近づきさえ出来たら、後はあたしらのモンだ!!」

「ここからは我々に任せろ。レヴァンティンの錆にしてくれる!!」

「覇王の真似は出来んが、我が拳は鋼をも砕く! ゆえに撃ち抜く!!」

「反撃で傷を負ったら私が即時回復します! 後の事は気にせず力をあらん限りぶつけてください!」

そこからヴォルケンリッターの猛攻撃の嵐が始まった。一旦下がった私達の目前で彼女達は、かつての戦場を彷彿とさせる戦いで滾った闘志を慰めんと怒涛の戦術を恐ろしいまでに振るいまくる。それは正に、戦乱期を戦い抜いた騎士達の持てる技量が全て発揮された瞬間でもあった。

「翔けよ隼! シュツルムファルケン!! ……これで終わりだと思うな、コンボ型紫電一閃ッ!!」

「ぶっとべ、ラケーテンハンマー! おっと、あたしのターンはまだまだ続くぜ、ギガントシュラークッ!!」

「兄上殿の技、お借りする! 烈風! おぉぉぉぉぉおおおおおおッ!!! 震雷ッ!!」

「あ、あれ……? 私、魔導師相手ならともかく、こんな化け物に攻撃できる魔法は一つも無いわ……。回復が必要な人もいないし……もしかして今の私、何の役にも立ってない?」

シグナムさん達がフルボッコにする隣で、何かシャマルさんが体育座りでいじけてる。そもそも回復要員が前に出る必要は無いし、バインドなどの拘束力ならともかく彼女に攻撃力は期待してない。人間が相手なら旅の扉って魔法が脅威になると思うけど、今回は相手が相手だから仕方ない。

とか考えていると、身体を揺らしたファーヴニルが勢いをつけて体当たりをしてきた。物凄い衝撃でアースラが震動し、私達にも少なくないダメージを受けてしまう。しかし多少ひるみはしたものの、これだけで撤退する私達ではない。回復の役割を得て活き活きとしているシャマルさんの支援の下、後ろにいた私とクロノ君も一斉攻撃に参加してありったけダメージを蓄積させていく。だけどはやてちゃんだけは少し控えめにクルセイダーを撃つに留めている。その理由は間をおかず、すぐに判明した。

「ッ!? ブリッジ、急いでアースラを離すんや! 皆、攻撃を中止して何かにしがみついて!!」

『了解! 荒っぽく行くぜ!!』

このタイミングでのはやてちゃんからの撤退指示に疑問を抱かず、ブリッジから咄嗟にアースラをファーヴニルから離す事を承諾した声が聞こえる。急ぎ手すりやパイプなどにしがみついた私達は、アースラがファーヴニルのウィークポイントから離れていく時、ウィークポイントからダーク属性の巨大な砲撃が発射されるのを目の当たりにした。

「ギリギリ間におうたなぁ……。こういう敵は弱点だろうと無防備って事はありえへん、必ず何らかの反撃方法を持っとるのがお約束や」

「なるほど、とにかくおかげで助かった」

「じゃあさっきの砲撃の兆候が見えたら、すぐにアースラを離した方が良いね」

ひとまずはやてちゃんのおかげで、近付いて攻め続けている最中に最も警戒すべき反撃を知る事が出来た。離れている今ならあの砲撃が発射される心配は無さそうだから、アレは近くに居る時のタイムリミットと考えていれば良いだろう。

改めて態勢を整えた私達は再び動きを封じる時間を稼ぐべく、砲撃魔法や氷結魔法を放ち続ける。ちなみに反対側の事をちょっとだけ記載すると……、

「来たかッ! どぉぉおりゃああああああ!!!」

「あらやだ……ゼスト隊長ったら、ファーヴニルの右腕の薙ぎ払いを力づくで弾き返したわ。ねぇクイント、あなた真似できる?」

「ムリムリムリ!!? いくらパワフルな事で定評がある私でも限界ぐらいあるって!? ていうかあんな巨大質量を弾き返すなんてゼスト隊長以外に出来る訳ないよ!! むしろゼスト隊長がおかしい!!」

「コクコク………」(同意する様に頷くガリュー)

「今まで噂でしか聞いた事が無かったけど、地上には槍を使う超人騎士がいるって話、本当だったんだねぇ……アリア」

「だけどこうして肩を並べて戦う仲間なら、これほど心強い味方はいないわ。本局と地上、改めて考えると知らなかった事が互いに多いわね」

「おまえ達、気を抜いてると舌を噛むぞ。さて、今から斬り込むッ! ぬぅんッ!!」

……こんな感じであった。

両側からの挟撃、及び各方面からの射撃魔法によって、ファーヴニルに着々とダメージが蓄積されていく。無論、防御はしているが体当たりや薙ぎ払いなどの反撃によって、私達やアースラなども疲弊や破損をしている。しかし連携が出来ているおかげで損傷度合はファーヴニルよりはるかにマシだ。そしてウィークポイントから発せられる暗黒物質の気配が弱まったのを見計らって、私は最大威力の魔法を撃つためのチャージを開始する。

「エンチャント・ダーク充填! 全力全開! スターライト・ブレイカァァアアアアア!!」

レイジングハートの先端からSLB・Dを発射、ファーヴニルの左腕を文字通り抉って……貫く!! これまでの損傷と今の砲撃によって、許容量を超えたファーヴニルの左腕は耐え切れず引き千切られ、血を吹き出しながら眼下の海に落下していった。更に反対側でも同様に高威力の斬撃によってファーヴニルの右腕が削ぎ落とされ、海面に血しぶきを上げて落ちていった。

「おぉっ!? ファーヴニルから両腕を奪ったで! よくやったなのはちゃん! これで奴の脅威も半減や!!」

「よし、僕達はこのままの勢いで左翼も落とす! モビーディックの方は既に取り掛かっているそうだから、むしろ出遅れてるな」

「こっちが遅いんじゃなくて、あっちが早すぎるだけだと思うけど……ま、いっか。上手く行けば飛行能力も奪えそうだし、頑張って行こう!!」

次の目標を定めた事で、アースラがファーヴニルの左翼が見える位置に移動してくれた。今回も暗黒物質の塊になっているウィークポイントが存在している。今度はそこを狙う。

「カートリッジロード! アクセルシューター12発!!」

「狙いを定めて……クルセイダー、チャージショット!!」

「今は魔力の効率を優先させてもらう。S2U、ブレイズキャノン!!」

私達は並の魔導師より少なからず魔力量が多いとはいえ、大量に使い過ぎたら流石に底をつく。そのため残り魔力を考えて砲撃魔法じゃなくて射撃魔法を主に使わせてもらう。腕と違って翼は骨まで露出しているので、防御力が格段に低い。故に射撃魔法でも威力は十分事足りる。

「なんか……妙やな」

「確かに……」

「はやてちゃん、妙って? クロノ君も、一体どういうこと?」

「わからんか、なのはちゃん? さっきから私らの迎撃が、妙に上手くいきすぎとる。ファーヴニルの腕を落とした時点で……いや、戦略がはまった所でラタトスクが何かしてくる可能性は十分あった。なのにあのイモータルは未だに何もしてこない、それどころか姿すら見せとらん。いくら何でも変だと思うやろ?」

「ラジエルとの戦闘でラタトスクもそれなりのダメージを負っているとしても、ファーヴニルが追い込まれているのに何の策も弄さずにいるのは明らかにおかしい。何というか……僕達の知らない内に見えないクモの糸に捕えられているような、そんな違和感があるんだ」

「そう言われてみれば、確かに変だね……。でも出て来ないなら、むしろ出て来る前にファーヴニルを倒してしまえば良いんじゃない?」

「うむ、我らも高町と同意見だ。それにどんな策を講じて来ようと、立ちはだかる敵は全て断ち切るのみ!」

「だな。どうせ出て来たら、あたしがすぐにぶっ潰してやる。後の事なんか心配しなくても平気だぜ!」

「何があろうと俺は守るだけだ。その分、皆には攻めに集中してほしい」

「う~ん……皆は単純に考えてるけど、私ははやてちゃん達の意見は尤もだと思う。一応参謀の真似事なら私も出来るし、少し考えておくわ」

とりあえず考える事ははやてちゃんとクロノ君、シャマルさんに任せる流れになる。私には推理とか先読みとか、そういうのはあまり得意じゃないから彼女達がやってくれるのは非常に助かる。だから……私は私に出来る事をするだけだ。

戦陣を切る私達の魔法や騎士達の戦技の一つ一つが発動する度に、ファーヴニルの翼の根元で無数の火球が発生。ファーヴニルの翼の耐久度を着々と削り取っていき、切断できるかもしれない程脆くなった所を見計らって…………ディバインバスター・ダークを発射!!

GYAAAAAAAAAA!!!!

直後、ファーヴニルの唸り声が悲鳴の如く響き渡る。文字通り片方の翼をもぎ取られた事で、飛行のバランスが乱れてファーヴニルの軌道が大きくふらつきだす。更に追い討ちをかけるように反対側でもモビーディックの人達が右翼の切断に成功し、浮遊するための器官を失ったファーヴニルは血を吹き出しながら海面へ落下し……上に立ち昇る滝の如く物凄い水しぶきを上げて墜落する。あれほど巨大な質量が海に落下したという事は、そのせいで陸に向かって発生してしまう津波の心配もしたくなるが……それよりもファーヴニルを撃ち落とす程弱体化させた事に私達は喜びを隠せずにいた。

「やったか!?」

「クロノ君、それやってないフラグやから言わんといて」

「でもファーヴニルを弱らせたのは事実だよね!?」

「……まあ、確かにその通りやろうな。でもな……やっぱりおかしい。どうしてこんなに物事がうまく働く……? さっきクロノ君が言っとったように、違和感がバリバリや……」

「だが何にせよ、しばらくの間ファーヴニルの動きを止める事には成功した。今の内に封印方法などの対策を講じて――――」

「……ッ? 待って!? 皆、ファーヴニルの様子が!!」

突如、焦ったようにシャマルさんが声を上げる。何が起きたのか私達も確認した直後、さっきまで高揚していた気持ちが冷水をかけられたように一気に引っ込んだ。

ファーヴニルの背中のレアメタルの角が光り、海面でさっき切断された腕や翼の根本と、本体の切断面、及びラジエルが付けた全身のあらゆる傷跡を海水が覆い、傷口同士が引き寄せ合っていた。そこからまるで時間が逆再生しているかのように、本体の切断面と腕、翼、ラジエル主砲で開いた傷口などがくっついて縫合していき、元通りの姿に戻る……いや、それだけでは済まない。私達が防具やバリアジャケットを着けるみたいに、ファーヴニルも全身を海水でコーティングし、傷の無い状態以上に防御力を上げようとしているのだ。

「ば、馬鹿な……こんな方法で自己再生するとは!?」

「もしや危機的状態に陥った事で、新しい耐性を得たと言うの!? とにかくあの再生速度だと瞬く間に全部回復してしまうわ!」

「そうか……そういうことやったんか! 私とした事が、うかつにも懸念し忘れとった……! そもそもファーヴニルがあれだけの巨体になったのは、次元空間の魔力を吸収して糧としたからやのに!」

「ど、どういう事なの、はやてちゃん!?」

「つまりな……大量に魔法攻撃を受けたら、ファーヴニルの成長を促してしまうんよ。今回、私らは管理局の精鋭総出で魔法を中心にした総攻撃をかけた。さっき腕と翼を切り落としたのは結果的に再生に必要な条件の要素になり、こうして条件に達した事で目の前で自己再生が行われてしまった。ラジエルとの戦闘でファーヴニルは大きく損傷していたのに再生を行っていなかったのは、彼らが魔法ではなく質量兵器を中心に用いていたからや! 彼らが倒しきれなかったファーヴニルを相手に善戦していた時点で気付くべきやった……! さっきから抱いていた違和感の正体がこれか! それに気づけず、私らはまんまと乗せられてしもうた……!」

「ウフフフフ……ご明察です」

『ッ!?』

ここに来て私の憎しみと怒りを最も刺激する、あの忘れられない声が聞こえてきた。直後、不敵にも私達のすぐ目の前の甲板上に、奴が転移して姿を見せる……!

「人形使いラタトスク!!」

「お久しぶりです、偽善を謳う管理局の皆さん、ご機嫌麗しゅう。わざわざファーヴニルを治してくれたどころか、更に強化してもらって感謝の言葉もありません」

「あんたのためにしたんやないわ! ここで会ったが最後、サバタ兄ちゃんの代わりに私らの手であんたを倒したる!!」

「その通りだ。エナジーが使えなくとも、おまえの力を削ぐぐらいなら僕達でも出来る!」

「わたくしを倒す? ククク……」

「何がおかしい! あたしらの力をなめてんのか!!」

「フフ……いやぁ失礼。あなた達の愚かさがあまりに滑稽で、つい笑いが我慢できませんでしたよ」

「我らが愚かだと!? 騎士の誇りを侮辱するのもいい加減にしてもらいたいものだな!」

「あなた達の誇りなぞ、わたくしにとっては何の価値もありません。こうして与太話しているのも暇潰しにはなりますが、あなた達はそれでよろしいのですか?」

「どういう意味だ……!!」

「下を見てみなさい。ファーヴニルはもう自己再生を終えて、あなた達が守らなければならないはずのミッドチルダ首都クラナガンへ破壊光線の発射体勢に入っていますよ」

『ッ!?』

急いでラタトスクの言う通りに眼下の海面を見ると、ファーヴニルが再生した皮膚の上にさらに海水をコーティングした翼を使って上空へ飛翔し、ミッド中央区へ向けて大きく口を開けて、さっきの先制攻撃で大量に戦艦を飲み込んだ破壊光線を撃つ準備をしていた。モビーディックや他の次元航行艦が発射を止めようと幾度となく砲撃や斬撃などを放つが、完全に傷が塞がっただけでなく海水も纏ったせいでファーヴニル本体には全く攻撃が通じていなかった。

「しまった、ここまで回復が早いなんて! 傷が治ったせいでさっき以上にチャージが早くなっているわ!!」

「くそ……! このままではクラナガンが!」

『全員、ありったけの攻撃をファーヴニルに当てて! 絶対に破壊光線を首都に撃たせてはならないわ!!!』

『了解!!!』

リンディさんが出した指示を皆が了承し、相手が動いていないのでアースラにいつまでも乗っている必要は無く、一斉に飛び立つ。リンディさんも翼を生やして出撃して皆と共にファーヴニルへ一斉攻撃するも、水が緩衝材となっているせいで本来の半分以下の衝撃しか通らず、ファーヴニルの頑丈な表皮の前に全て弾かれてしまっていた。

「やはり水が厄介だな……皆下がってくれ、僕が凍らせる! エターナルコフィ――――ウグッ!?」

クロノ君がデュランダルの凍結魔法を使って、ファーヴニルが纏った海水ごと氷に閉じ込めようとしたが、突然クロノ君の胴体から血まみれの腕が飛び出てくる。そして背後からクロノ君を貫いたラタトスクの手には、彼の魔力と同じ色の光の玉……リンカーコアが握られていた!

「脆いですね……強奪ッ!!」

グシャリッ!!

「グアァアアアアアアア!!!!!!」

抜き取ったリンカーコアをラタトスクは何の躊躇も無く握りつぶし、その反動を受けたクロノ君が痛みのあまりに叫んでしまう。かつて嘱託魔導師の資格を取るための勉強で学んだのだが、リンカーコアとは普通の人間には無い器官ではあるものの、心臓や肺などの内臓と同じように神経や痛覚などは繋がっている。そして魔導師の力の根源たるリンカーコアが損傷すれば、治療には莫大な時間と手間がかかるのもそうだが、何より魔導師生命に大きな影響が出てしまう。ましてや握りつぶされたとなれば、それはクロノ君の魔導師としての力が壊されてしまったという事を意味する。

「く、クロノォー!!!!」

息子の危機にリンディさんが凄い速さで飛行し、ラタトスクの手から離れて血を流しながら落下していくクロノ君を抱きかかえるも、その表情はかつての夫の事を思い出したせいか悲痛に満ち満ちていた。

「そのデバイスから放たれる凍結魔法は少々厄介でしたのでね、術者を直接潰させて頂きましたよ」

「だからってリンカーコアを破壊するだなんて……いくら旅の扉を使える私でもそこまで酷いことはしないわよ! あんな力で握りつぶされたら、下手したら死んでしまう可能性だってあるのに!!」

「それがどうしたというのですか? わたくしはイモータル、人間を気遣う理由なぞ何一つありません。むしろあのまま死を迎えてくれれば、儲けものですかね」

「ラタトスク……! どこまでも癇に障る奴だ!!」

「…………許さない。私の……夫の形見でもある私の大事な息子を……あなたはぁああああああ!!!!」

頭に血が昇ったリンディさんがラタトスクにおびただしい量の砲撃魔法と射撃魔法を一斉に解き放つ。あれだけの量を一度に発動できる辺り、彼女の実力がうかがえるが……残念ながらそれは相手にかする事すら出来ていなかった。理由は単純、ラタトスクには異次元転移がある。異次元空間の向こうに隠れている間に、彼女の魔法が通り過ぎて消滅し、その後にこちらに戻って来るという反則じみた回避をされているのだ。

「夫に続いて……クロノまで失う訳にはいかない!! クラッシュバスター!!」

「フフ、どこを狙ってるんですか? わたくしはここですよ?」

「卑怯者! 正々堂々と戦いなさい!!」

「おやおや、随分上からの物言いですね。言えばその通りに応じるとでも本気で思っているのですか?」

「くっ……!」

「あなたの弱点は既にわかっています。知り合いや身内とみなした者にはとことん甘くなる性格……それはかつて夫のクライドを失ったトラウマによるものでしょう? あの喪失感を二度と味わいたくないから、そうやって自分が守れる場所に抱え込もうとする。なのにそれが傷つけられた時、心の奥から過剰な恐怖があふれ出す。ええ、実に人間らしい独善じみた本質ですよ」

「ッ……黙りなさい!!」

「そう謙遜しなくても大丈夫です。あなたの本質はむしろ善に偏っている、人間としてまともであると言い表せるでしょう。しかし……」

突然、透明になって姿を消したラタトスクは、先程まで居た場所に黒い影を形作った。その影を見た瞬間、思わずリンディさんは攻撃の手が止まってしまう。なぜなら影の形は、クロノ君そのものだったのだから。

「だからこそ、付け入れられる隙がある。そこにいるあなたの大事な息子を、あなたは攻撃できますか?」

「馬鹿にしないで。今私の腕の中に居るのが本物だってわかってるのに、影を出して動揺させようだなんてそうはいかないわ。そんなまがい物、さっさと消し飛ばしてあげる!!」

本物のクロノ君に一度目を移したリンディさんは、影のクロノ君に向けて砲撃魔法を撃った。影は何の抵抗もせずにその場に浮かんだままだけど、ヒトを苛立たせる事に関しては容赦がないラタトスクが、ただ動揺させるためだけに影を生み出したとは考えにくい。そしてその答えは、影に砲撃が直撃した瞬間、本物が苦痛を訴えた事で判明した。

「うぐぁああああ!!」

「クロノ!? ど、どうして……私が撃ったのは影なのに……まさかッ!?」

「理解が早くて何よりです。そこの影が受けたダメージは即座に本物へフィードバックされます。つまり影に攻撃するという事は、本物を攻撃するのと同じ意味なのですよ」

「な……!?」

「あなたはしばらく影と遊んでいなさい。わたくしは特等席でこの舞台を楽しませてもらいます。アハハハハ!!」

「ラタトスク……なんて卑怯な真似を!」

リンディさんの憤る気持ちは私達もよ~くわかるけど、影のターゲットはどうやら彼女達らしい。傷つけたら駄目だという事で、彼女は回避や撤退をしながらバインドを中心に影を無力化しようとしている。かといってラタトスクだけに集中する訳にもいかない。眼下の海面ではファーヴニルが今も尚、破壊光線のチャージを続けているのだから。

「なんて事だ……さっきより表皮が頑丈になっている。ウィークポイントに攻撃してもビクともしない! まるで魔力コーティングが施された戦艦の装甲板を何枚も重ねて、更に障壁まで加わったような防御力だ……!」

「まさか、あの鉄杭はこれを砕くために使われたの……!?」

「ほらほらどうしたんですか、管理局の諸君? 早くしないと首都が抉り取られて、守らなければならないものが全部消え去ってしまいますよ? ウフフフフ……」

「うぐぐ……見えないからって好き放題言いやがって!!」

「奴の戯言は無視しろ、ヴィータ! 早くファーヴニルを止めなくては!!」

ラタトスクが煽り言葉を投げかけて来て腹が立つが、今優先すべきは言い返す事じゃない。だから攻撃に特化した面子はとにかく最大火力の魔法や技をぶつけ、拘束魔法の得意な面子はチェーンバインドなどを使ってファーヴニルの方向を首都から逸らそうと努力する。しかし……全て焼け石に水、微塵も首を動かす事が出来なかった。

「ふむ……そろそろ丁度良い具合に溜まりましたかね?」

「え!? まさか……もう破壊光線のエネルギーが溜まっちゃったの!?」

「残念ながらそちらはもう少しかかります。わたくしが今言っているのは、もう一つの方です」

「もう一つ!? 一体、それは……!」

「ではよく見ていなさい、高町なのは……面白い光景が見れますよ」

そう言うなりラタトスクが何らかの指示をファーヴニルに与えたのか、途端にファーヴニルの角が発光……周囲の空間が轟き出す。地面だけじゃなく空気や空までもが激しく震動し、ヴェールのように表皮を覆っていた水からも温度のエネルギーを奪われたせいで氷に凝固し、それが粉微塵に砕けてダイアモンドダストとなる。

「さあ人間ども、絶対存在の力を思い知るがいい!! ―――因果応報!!」

太陽の光の反射でキラキラした幻想的な光を纏いながら、ファーヴニルは全身から人知を超えた魔力で構成された怪奇光線を解き放ってきた! いや、怪奇光線じゃない! あれは……まさか私達の魔法!!? 同時に表皮に刺さっていた無数の鉄杭や建築資材もまるで弾丸のように発射された!!

「な!? 嘘でしょう!? ファーヴニルに放った皆の魔法がすべ――――ッ!!!」

「ッ!? ぐふっ!! お、音速で飛来する鉄杭か……! 防御が間に合わな……!」

「チ……クショウ……! こ……ここまでかよ……!!」

「お逃げ下さい、主!! ぬぐぁっ!」

「し、シグナム!! ヴィータ!! ザフィーラ!! いやぁああああ!!!」

「駄目、はやてちゃん! 今は逃げるの!!」

阿鼻叫喚の地獄絵図……目の前の光景はまさにそれだった。クロノ君のエターナルコフィンと同じような広域殲滅魔法がファーヴニルの周りに広がるように放たれて、最も近くにいたリンディさんが抱えているクロノ君ごと氷に捕まり、シグナムさん達は爆発的な速度で飛来した鉄杭が刺さった危険な状態で氷に閉じ込められ、更にアースラや多数の次元航行艦、及び無数の魔導師達が瞬く間に氷山の中に封じ込められてしまった。その上、モビーディックのブリッジには建築資材が突き刺さって凍った海面に不時着、何とか捕まらずに逃げ切った者にはディバインバスターなどの砲撃魔法やアクセルシューターなどの射撃魔法による追撃がかけられる。

私達がこれまでファーヴニルに使った全ての攻撃が、私達にそのまま返って来たのだ。まさに因果応報の名の通りに……! この反撃だけで、私達の陣営は壊滅的な被害を被ってしまった。アースラを含めて迎撃に出た全ての次元航行艦が中破、及び大破し、これ以上の戦闘の続行が不可能となる。更にこの場にいる魔導師や騎士は約9割が氷に閉じ込められるか、撃墜されて凍った海の上で気を失っている。確認できる範囲で何とか反撃に耐えて生き残ったのは……私以外には、はやてちゃん、シャマルさん……だけだった。モビーディックにも生き残りはいるかもしれないけど、不時着した位置はファーヴニルを挟んで反対側なので、ここからでは陰になって様子が見えなかった。ちなみにクロノ君の影はこの反撃と同時に消滅していたようだけど、そんな事を考えられる余裕は誰にも無かった。

「う、嘘……!? 嘘や……こ、こんなのって……!」

「じょ、冗談でしょ……!? たった一回の反撃で……こちらの陣営がほとんど全滅しちゃうなんて……!」

「ラタトスク……! なんで……なんでこんな酷い事をするの!!」

「おやおや、わたくしはファーヴニルにやられた事をやり返すように指示しただけですよ? あなた達が放った魔法を、そっくりそのままお返ししただけというねぇ。自分達の力がここまで影響があるという事も自覚せず、ただ強いから、便利だから、都合が良いから、自分を確立できるから、そういった簡素な理由で容易く用いる。自分に返って来る事も考えず、いとも簡単に敵対する者へと放つ。それを酷いと言うのであれば、最初に引き金を引いた人間達こそが最も酷いと称されるべきではありませんか?」

「そんな訳無い!! 私達は世界を守るために――――」

「何をしても良いと? ウフフフフ……流石は人間、自分達の都合が悪くなると途端にそれまでの『真実』をあっさり使い捨てる。『政治的正しさ』や『価値相対化』というキレイゴトの名の下に、それぞれの『真実』がただ蓄積されていく。都合が悪くなれば別の口当たりの良い『真実』を探して使い、他の何かのせいにして『癒し』を求める。それが世界を終わらせるとも気付かずに……」

「………ッ」

「さて……もう間も無く破壊光線のチャージが完了します。戦力の大半が氷の中に封じられた以上、あなた達如きでは最早何も出来ません。さっさと尻尾を巻いて逃げ出した方がよろしいのでは?」

「くっ……!!」

確かに生き残ったとはいえ、もう私達は戦える程の魔力が残っておらず、身体の方も満身創痍だった。自分も怪我をしているのにシャマルさんは私とはやてちゃんを先に治療しているが……あくまで雀の涙程度だった。そしてこのままでは破壊光線によって、多くの無辜の命が蒸発してしまう。そんな悲劇……絶対に起こさせる訳にはいかない!

こうなったら、最後の手段!!

「な、なのはちゃん!? 何をする気や!?」

突然回復魔法の範囲下から出て、ファーヴニルの正面でレイジングハートを構えながら周囲の魔力を集め始めた私の姿を見て、はやてちゃんやシャマルさんが驚く。目の前ではいつ発射してもおかしくない程、ファーヴニルのエネルギー弾は膨らみ上がっている。二人が早く逃げるように言ってくるけど、絶対に逃げる訳にはいかなかった。多分、これは私にしか出来ない事だから。

「ごめんねレイジングハート、私の無茶に付き合ってもらっちゃって」

『No problem』

「ありがとう、やっぱりレイジングハートは最高のパートナーだよ。さて……後は私の身体が持つかどうか、ここが正念場だね!!」

レイジングハートの先端をファーヴニルの方へ向けて、カートリッジロード! ロード、ロード、ロードロードロードロード!!!!!

「無茶やなのはちゃん!! そんなにカートリッジを使うたら身体が!!」

「ええ、いくら何でも使い過ぎよ!! そんな事をすればリンカーコアが過負荷で壊れてしまうわ!!」

はやてちゃんとシャマルさんが私の身体を心配して声を荒げるが、もう引き返している場合じゃない。感覚でわかる……既に逃げる時間は無いって。それにここで私が逃げたら、罪の無い人達が破壊光線で消し飛んでしまう。そんな事はさせない、絶対に私が防いでみせる!!

「駄目や! 早く戻って来て、なのはちゃん!!」

「さっきの破壊光線の威力を知ってるでしょう!? 一人でどうにかなる相手じゃないわ!!」

ごめん……二人とも。高町なのは、無茶を通します。

持ってきたマガジンの分も全部ロード、計24発分のカートリッジの魔力と、私自身のリンカーコアから引き出せる全ての魔力、そして周囲に拡散している大海のごとく濃密な魔力、それらをレイジングハートの先端にチャージさせる。皆の無念、私が全部預かる!!
あまりの魔力集束量に照準が震え、カートリッジの過剰使用で私の身体に裂傷が走り、更に目、耳、口などから大量に血が吹き出てしまう。頭からも滝のように血が流れ、それによって視界が真っ赤に染まる。

「ぐ……ッ! こ、こんなに痛いなんて……ゴホッ、ゴホッ! でも……フェイトちゃんはこの痛みに耐えたんだ……。だから……私だってやってみせる! トランス・ダーク!!!」

直後、体内の暗黒物質が一斉に活性化、魔力の代わりに大量の暗黒のエナジーが身体の中を巡る。そのあふれ出したエナジーも全てレイジングハートの先端に集束、とんでもないエネルギーの塊が私の眼前に君臨した。それは一抱えをはるかに上回り……アースラと同じくらいの大きさまで膨らみ上がっている。この場で戦ってきた皆の魔力も全てこめられているのだから、生半可な大きさで留まるはずが無かった。

「ハァ……ハァ……受けてみて! これが……私、の……命を、賭けた……全力全開、最強最大の一撃!!」

GYAAAAAAAAAA…………!!!

ドォォォォォォォオオオオオンッ!!!!

「オメガ・スターライト・ブレイカァアアアアア!!!!!!!!!」

私がオメガ・SLB・Dの引き金を引いたのと同時に、ファーヴニルも破壊光線を発射してきた。人の限界を極めた砲撃と、人知を超越した存在が放った光線、それらが衝突した瞬間……周囲が閃光に包まれる。あまりの眩しさで直視できないが、私は真っ白な視界でも目をそらさずにファーヴニルへ砲撃を撃ち続けている。アースラを上回る大きさの砲撃はファーヴニルの破壊光線と何とかせめぎ合っているが……その分、とんでもない負荷が私の全身に圧し掛かる。まるで体内で爆弾が爆発したような……いや、事実爆発しているのかもしれない。とにかく常人なら一瞬で意識を奪われるどころか、ショック死してもおかしくない痛み。本当なら泣き叫びたいし、逃げ出したい。だけど……ここで逃げたら全てが終わる。ここで諦めたらサバタさんを裏切る事になる。それだけは絶対に嫌!!!

諦めない!

もう二度と諦めない!!

絶対に……諦めてたまるか!!!

「いっけぇえええぇええええええええ!!!!!!!」

――――ッ!!

私達の意地と執念、そして想いが込められた砲撃はファーヴニルの破壊光線を……徐々に……ゆっくりとだが徐々に押し返し出した! 小娘一人の意志を無意識で侮っていたのか、ファーヴニルが驚いたように反応する。その僅かな……ほんの僅かな動きが、このせめぎ合いに大きな影響を与える。破壊光線の発射方向が微妙に上を向き、その下へすくい上げるように私の砲撃が入り込んだのだ。

そして……方向が変わった破壊光線は私のすぐ頭上を通り過ぎ、首都を飲み込む事も無く空を貫通していった。同時に私の砲撃が終焉を迎えて消滅してしまうが…………とにかくクラナガンの消滅は喰い止められた!

「馬鹿な……! ただの小娘が、ファーヴニルの破壊光線を弾いただと!!?」

「みたか……ラタ……トスク……! 私の……不屈の心を……!!」

「おのれ……高町なのは! ただの人間風情が親子そろってわたしの計画を邪魔するとは、とことんわたしを腹立たせるのが得意な家系ですね!」

思い通りにならなかったのが相当悔しかったのか、ラタトスクは怒り心頭の様子だった。直接ではないが一矢報いた事で、私は少しスカッとした。しかし……もはや飛ぶための魔力どころか、指一本動かす体力すらも残っておらず、私の身体は重力に引っ張られて自由落下を始める。しかし掠れた視界の向こうから、急いで向かってきたはやてちゃんが落ちていく私を海面スレスレでキャッチしてくれた。

「へへっ……ピー……ス……!」

「全く……まだ勝利(ヴィクトリー)しとらんよ、なのはちゃん……」

さっきの砲撃で身体はズタボロなのに空元気で笑った私を見て、たまらずはやてちゃんは呆れ交じりの微笑みを浮かべる。ここにいる仲間のほとんどが無力化された光景を目の当たりにして、絶望的な気持ちを抱いていた彼女の心に再び余裕を作れたのだ。一方、ラタトスクは先程の怒りを抑え込んで、新たな指示をファーヴニルに与えていた。私の身柄をシャマルさんに預けて、はやてちゃんはラタトスクに対面する。

「今度は何をするつもりや……!」

「簡単なコト……ファーヴニルの再生、強化が終わった今、次の手段に移るだけです。本当なら破壊光線で一網打尽にして、死を盛大に楽しむ予定だったのですが……残念ながら目の前で覆されてしまいましたからね。こうなった以上、直接的な手段を取ります」

直接的な手段……その意味を理解したのは、ファーヴニルが轟音を立ててその巨体を動かし、移動を始めてからだった。要するに……ファーヴニルは市街地に直接乗り込むつもりなのだ。

「あなた達主力部隊が壊滅した今、管理局にファーヴニルを止める力は残されていない。それでも抗おうと言うのであれば構いません、好きになさい。尤もそれは、冥界へと向かう死の道ではありますがね! フハハハハハ!!」

「待て! 待つんや、ラタトスクッ!!!」

逃がすまいとはやてちゃんがチャージショットを放つが、届く前にラタトスクは異次元転移によってこの場から姿を消してしまった。そしてファーヴニルは飛行速度が相当早いせいで、既にかなり遠くまで移動している。状況は一刻を争う、悠長にしている場合ではない!

「い、行かなきゃ……! 私が……やらないと……! ~~っ!」

「駄目や、なのはちゃん。そんな大怪我しとったら動く事も無理や。だからなのはちゃんはしばらくここで待機、シャマルの回復魔法で動けるまで大人しくしとって」

「でも……それじゃあクラナガンが……!」

「そちらは俺達が出来るだけ被害を抑えよう」

砲撃の反動で身体が動かない私の言葉に答えたのは、無骨な男性だった。彼はモビーディックに乗っていたゼスト隊長で、彼の部下は凍結魔法に捕まった皆をこのまま放ってはおけないという事で救助活動を行っているらしい。

「とにかく被害は甚大だ、これ以上の犠牲を出す訳にはいかない。故に治療や救助活動に専念させるべく部下達はこの場に残らせるが、大量の怪我人を治療するためにはそこの治癒術師の手も借りたい。モビーディックでは治療の設備もある程度は生き残っているから、その娘の治療にも役立つはずだ」

「確かに……その考えに異議はありません。それでゼスト隊長はどうするんですか?」

「俺はヤツを追う。原因のファーヴニルを何とかしなければ犠牲は止まらない。今度こそファーヴニルを抑えきらねば、世界の未来が奪われてしまう。それともう一つ……通信設備が壊れた以上、こちらの状況をレジアス……クラナガンの局員達に直接報告する必要がある」

「そうですか……じゃあ私も行きます」

「はやてちゃん!?」

「シャマルにはモビーディックでなのはちゃんや皆の治療を任せたいんよ。クロノ君やシグナム達が氷から解放されても、クロノ君は胸に穴が開いたままやし、皆は鉄杭が刺さったままやから危険な状態なのは間違いあらへん。それに……なのはちゃんはあれだけの無茶をして、クラナガンの人達を守り切った。今度は私の番や……!」

「はやて……ちゃん……」

「大丈夫や、なのはちゃん。次は私が何とかする番やから、なのはちゃんはここで身体を休めとって……」

そう言ってきたはやてちゃんの瞳は、強い決意に満ち満ちていた。仲間を傷付けられた怒りで目が眩んだり、絶望的な状況で自棄になっていたりはしていない。私と同じ……ここで諦めないという意思の下、彼女も足掻こうとしている眼だった。

「皆を頼むで、シャマル」

「……はい、絶対に助けて見せます!」

「では、行きましょうゼストさん。今度こそ皆を守り切るために!!」

強く宣言したはやてちゃんは、騎士ゼストと共にクラナガンへと飛行魔法で飛翔していった。それを見届けた私は、フッと身体から力が抜けていき……深い眠りの中へと意識を落としていった……。
 
 

 
後書き
とっつきらー:言わずと知れたパイルバンカー使いの事。前回の後書きを見ていれば、続編で一体誰がとっつきらーなのか想像できるかもしれません。
建築資材:マスブレード。これだから面白いんだ、人間ってヤツは!! こちらからすれば面白いのはあなたです。
ラタトスクの影分身:シンボクでラタトスク戦の時、ジャンゴの影を攻撃したらダメージが返って来るアレです。大ダメージを与えられる機会でもあり、厄介な状況でもあります。
強奪:元ネタはMGR斬奪を参考にしています。一応SEED編でもサバタが暗黒転移を応用してSEEDを抜き出しているので、転移魔法が使えれば旅の扉と似たような事は出来る設定になっています。
オメガ・SLB・D:オメガの名はゼノサーガから。なのはが出した、人間の可能性の答えです。威力は……原作stsのゆりかごなら蒸発出来るんじゃないですか? ぶっちゃけ作者もこれパワーインフレ過ぎなんじゃないかと思っております。まぁその分、代償は凄まじいですが、彼女は無茶して当たり前ですからねぇ……。

戦況まとめ。
管理局勢、選抜部隊壊滅。残存部隊と残留部隊でどうにかするしかありません。
聖王教会勢、本腰入りました。
ラジエル勢、言語喪失や戦艦の修理などで動けません。
サバタ勢、移動中。

ラタトスク、手駒のアンデッドは失ったものの、ファーヴニルの再生に成功。


ひとまずフローリアン姉妹は、もしシークレットシアターをやるとしたらその時に出す事にします。
タイムパラドックスだ! 未来を変えてはいけない! 未来を知る事だ!



息抜きがてらMGS4風 シークレットシアター『宿命』

ソリッド「ビッグボス!? なぜ……脱いでいるんだ!?」

ビッグボス「……脱ぎたいからだが?」

フラッシュバックでビッグママの声『ええ、ネイキッド・スネーク。当時の彼のコードネームよ』

フラッシュバックでmgsの終盤のリキッドの半裸姿。

フラッシュバックでmgsの独房のソリッドの半裸姿。

フラッシュバックでmgs3のカモフラージュでNAKEDのビッグボスの姿。

ソリッド「いや……まさかな」

ビッグボス「ところで……下半身は脱げないのか?」

タイムパラドックスで裸イデン登場。すぐに退場。

シギント「どうして蛇には変人しかいないんだ……」

ミラー「裸になって何が悪い!」

オセロット「素晴らしい……いいセンスだ!」

大佐AI「度し難いな……」 
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