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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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閃光

 
前書き
後半、MGRの序盤ボス戦BGMを流しながら書いていました。ああいう風にテンションが上がる曲が最近の好みです。

結構豪快にかます回 

 
時が来た。同時に、終末の時計が動き出した瞬間でもあった。

ラプラスのコクピットで何となしにそう思いながら、俺達の乗るシャトルは次元空間からミッドチルダ上空への転移が完了する。戦況がどうなっているのか、管理局が俺達の姿を見てどう対応するのか、そういった部分は現状では不明だが……最終的にやるべき事は変わらない。管理局が敵対すると言うならそれで構わない。余計な手間が増えるか増えないか、準備を万全に整えた俺達にとって管理局の脅威度とはその程度でしかない。

一旦、俺達の状況を軽く説明すると、今朝、無線でエレンからファーヴニルらしき反応がミッドチルダに向かっていると教えられた。そのため俺達はすぐさまウェアウルフ社で十全に装備を揃えてから、ラプラスで出撃したのだ。
なお、今回は敵が強大だという事でアウターヘブン社に頼み、暗黒剣を高周波ブレードに改造してもらっている。今の性能なら恐らく全次元世界最強クラスの切れ味を誇ると言ってもいいだろう。ちなみに高周波を流している間、暗黒剣の刀身がサムのムラサマブレードのように赤く輝くようになった。どうやら暗黒剣の材質にも玉鋼が使われていたらしい。

さて……話を戻して、俺はミッドチルダ上空に到着したラプラスを聖王教会の領地に向かわせるように操縦し、エンジンの轟音を響かせながら芝生に着陸させる。突然現れたシャトルから出てきた俺を見て、聖王教会で待機していた一般騎士は何事かと目を見開く中、ラプラスを知っている者はすぐに駆け付けてきた。そう……カリム・グラシア、シャッハ・ヌエラの両名だ。普段落ち着いた性格の二人が物凄く慌てているのは滑稽だが、とりあえずまだ“奪われていない”ようだ。

「さ、サバタさん!? あ、ちょ!? あなた指名手配されているのに、こんな堂々と正面から来るなんて……!?」

「そんな事はどうでもいい、一刻も早く状況を知りたい。おまえ達が味方かどうかも含めて、さっさと話せ」

「どうでもいいって……はやてさん達が聞いたら怒られますよ……?」

「まぁ……世界が滅ぶかもしれないという状況で、立場とか気にしてる場合じゃないのも確かよね。ひとまず今の返事だけど、私達聖王教会はサバタさんの味方です」

「そうか、味方でいるならファーヴニルごと倒す手間が省ける。懸命な判断だ」

「て、敵対してたら私達ごと倒すつもりだったんですか。どこまでも我が道を行く主義なんですね……」

「いやいやいや……管理局と聖王教会が一致団結して立ち向かっているファーヴニルごと倒すと言い切るなんて、そこまでの狂気じみた自信は誰にも持てないわ……」

「フッ、狂気の沙汰ほど面白い……なんて事はいいから話を進めるぞ。戦況や身内の状態など、とにかく情報はありったけ全部話してくれ」

「ああもう、わかりました! 説明します」

一旦深呼吸した騎士カリムとシスター・シャッハから、無理をして動けないフェイトと彼女を見守るアルフが病院のシェルターに避難しており、何を思ったのかプレシアがどこかへ向かったとか、市民の避難所の位置や戦況などの詳しい経緯など、とにかくこちら側で起きた出来事を全て教えてもらう。それで、まず管理局と聖王教会の精鋭が乗り込んだ戦艦で集中攻撃するという作戦だが、海上まで戦域が移動した事で戦況までは把握できていないらしい。市街地には他の局員達が分散して各地を守っており、戦艦に乗らず今ここに集合している聖王教会の騎士達もこれから配置に着くべく移動する予定だったようだ。

「ふむ……治安維持を目的とする組織としては正しい行動だろう。しかし今回はあまり有効とは言い難い」

「どうしてですか?」

「魔力吸収を抑えたとはいえ、ファーヴニルには更に厄介な吸収対象がある。言語吸収……即ちミッド語やデバイス語などを奪われる訳だ。言葉を失った人間は“退行”し、人形のように何も考えられなくなる。何もわからず、何も思わず、何も感じられない。そうなってしまえば戦う以前の問題になってしまうのだ」

「そんな……! ファーヴニルが言語を吸収するなんて誰も知らないわ! まさか前線の皆はもう……!」

「いや、違う。魔力吸収の範囲もそうだが、ファーヴニルの吸収は世界中に及ぶらしい。よっておまえ達が会話している以上、ミッドチルダで言語吸収はまだされていない事になる。流石に前線の連中がどうなっているかまでは知らんが」

「ファーヴニルにとって、吸収はあくまで一つの攻撃手段ですからね。訪れていきなり放ってきた破壊光線とか、巨体を活かした体当たりとか、反撃の方法は明らかに豊富です」

「だろうな。故に吸収の要となるレアメタルの角を何より先にどうにかするべきなのだが、ラジエルとの連絡がつかなかった以上、仕方なかったようだな。それにしてもここにきて何故まだ言語吸収を行っていないのか疑問だが、今は置いておこう。それで、ヤツの封印方法は見つかったのか?」

「それが……サバタさん、見つかった事は見つかったのだけれど……」

「?」

言いよどむ彼女を黙って待っていると、カリムは意を決して封印方法に関する大きな問題を話してくれる。前回の覇王の時、ファーヴニルの封印を施したのは“月詠幻歌”と呼ばれるニダヴェリールに伝わる古歌なのだが、ニダヴェリールが崩壊してしまった事で紛失してしまった事を、まるで自首するような表情で伝えてきた。

「ごめんなさい……私達は間に合わなかった。ここまでしかたどり着けなかった……。封印方法がどんなものなのか見つけられても、誰も使えないからどうしようもなかった……」

「この後も皆さんは何か他の封印方法が無いか、無限書庫でずっと探してくれていたのですが……何も成果がありませんでした。……申し訳ありません」

「俺に謝られてもどうしようもない。無ければ無いでどうにかするしかないだろう」

「そう……ですよね」

しかし切り札が欠落している事実に変わりは無く、その事を悔いて彼女達はまだ意気消沈していた。別に励ます義理も無いので放置しておくが……それにしても“月詠幻歌”という名前にはどこか既視感がある。知らないのに知っているというか、名前そのものは聞いた事が無いはずなのに聞いた事があるというか……そういう妙な感覚がある。謎の違和感に俺は首を傾げた一方で、彼女達は恐る恐るといった様子で話しかけてきた。

「ところでサバタさん……。不躾ながらお尋ねしたいのですが……マキナさんは……」

「それについては俺を介さず、本人と直接話せ。あと、おまえ達に渡しておくものがあるから、それを用意している間に済ませておくよう頼む」

「わかりました。でも……あれだけの事があった後なのに、私達と話してくれるのか不安だわ……。本当に大丈夫かしら……?」

「おい、そんな頼るような目をしても無駄だぞ。これはおまえ達の問題なのだから、おまえ達でどうにかしろ」

という訳で俺とマテリアルズがラプラスに外付けしている格納庫からある物を取り出している間、マキナにはカリムとシャッハの前でケジメを付ける話をさせた。短い期間だが一応世話になった訳だから、マキナの今後のためにもちゃんと話をしておく必要がある。ま、簡単に言えば自分の進路を報告するようなものだから、向こうが納得すればすぐに終わるはずだ。
ちなみにシャロンは酔い止めを飲ませておいたにも関わらず、来る途中で乗り物酔いを起こしてしまい、コクピットでグロッキー状態になっている。辛い状態で動かすのも可哀想なので治るまでそっとしてあげよう。

ラプラスから降りてきたマキナの姿を見た時、無事な事がわかって安堵の息を吐いたものの、すぐに複雑な表情でカリムとシャッハは彼女と向かい合う。対してマキナは以前と違って次元世界の人間へ不信感を抱いているため、あからさまに気付ける程度に警戒心をのぞかせていた。なお、精神的な傷の事もあるので次元世界の人間と会話するのが辛いようなら、その時に備えて精神安定剤(ジアゼパム)を渡してある。一日に服用するのは一錠か二錠までにするよう言いつけてあるが……今のマキナなら飲まなくてもまだ大丈夫そうだ。

『……ご無沙汰です、騎士カリム、シスター・シャッハ。息災で何よりです』

「マキナさんこそ、こうして直接無事を確認できてとても安心したわ。ニダヴェリールが崩壊したと聞いた時は私達も心配で心配で……!」

「ええ、それに私達だけでなく、はやて様やアースラの皆さんもあなたの安否を気にかけていましたよ」

『そう……。でも実際はファーヴニルの対抗策を私が知っているかもしれない、という事を考えて心配したんじゃないの?』

「そんな事はありません! 確かに一時はそう思ったかもしれませんが、それよりもあなた自身の命の方が大事だと私達はすぐに思い直しましたよ!!」

「マキナさん……やっぱり、ニダヴェリールの事で怒ってるのね。次元世界の人間があの世界の魔導結晶などの物資を搾取し、ラタトスクが管理局の欲望のトリガーを引いた事で滅んでしまったのが……どうしても許せないのね?」

『……まあね。正直に言うと、もう次元世界の人間は信用できない。アレクトロ社から出た後に色々良くしてくれたカリムやシャッハにも裏があるんじゃないかと勘ぐって、もう心を預けられなくなってる』

「裏だなんて……私達はそんな事考えていないわ! 考えていないのに……あなたはもう信じてくれないのね……。故郷を燃やされて、世界を破壊されて……それでも信用してくれだなんて虫が良いにも程があるものね……」

「流石に私達でも理解できます。誰だって故郷を破壊されたら、普通は許せないですよ。例え一部の人間が暴走した結果とはいえ、管理世界に属している以上は私達にも責任がありますから」

『うん。だからカリム、今ここであの時の返事を言うよ。私は聖王教会には入らない、ましてや管理局なんて絶対に入りたくない。私はサバタ様が用意してくれた居場所でマテリアルズの皆と、そして……シャロンと一緒に歩んでいくよ』

「シャロン? その名前ってもしかして、ユーノさんが言ってたニダヴェリールで再会した昔の友達のことかしら……?」

『そ。シャロンは私の大事な……とても大事な友達。彼女を守るために、私は再び銃を取った。管理局の裏にとってニダヴェリールの真実を知る私達はどうしても消したい存在だろうから、その脅威に立ち向かえる力を取り戻した』

「そうですか……せっかく離れた戦いの道に再び戻ってしまったのは残念ですが、それも仕方ないと言えますね。私達にあなた達を守る力が足りず、不甲斐ないせいでもありますから……。サバタさんが用意した居場所がどういう所なのか私達では知る由もありませんが、マキナさんがそこでやって行こうと言うのなら、私はそれを見守らせてもらいます」

「私もシャッハと同じ意見よ。まぁ今はともかく、今後もせめて敵対だけはしないで欲しいわね。私達だって、過去のサルタナさんを思い出す境遇のマキナさんとは戦いたくないから」

『それはそっちの態度次第だね。とにかくそういう訳だとわかってくれて少し安心したよ。……あ、丁度いいタイミングで用意が終わったみたい』

マキナ達の話が終わったのと同タイミングで、俺達はラプラスの外付け格納庫から取り出したある物を一式この場に用意できた。2本の特別製の支柱、中央に革を取り付けた1本の巨大ゴム。それを見たカリム達は、一見ではこれが何なのか理解出来ないようだった。

「あの……これは何なんですか?」

「うむ、よくぞ聞いてくれた! これは魔法が使えなくてもS級クラスの攻撃が可能な専用の道具一式だ! 持ってきた我らへ感謝の念を込めて扱うのだぞ!」

「使ってみればわかるけど、撃ったらでっかい花火が出るんだ~! ボクが認めるぐらい凄くて強くてカッコイイんだから、いっぱい使ってね!」

「ファーヴニルに魔法があまり有効でない以上、わざわざアームドデバイスによる接近戦を挑むよりコレを使った方がダメージリソースは大きいでしょう。と言っても、あなた達にコレを使える団結力があるのならの話ですが」

「あ、あの……皆で頑張って作ったので、大事に使ってくれると嬉しいです~」

「いやそうじゃなくてね、コレって結局どんな道具なの?」

『まだわからないの? じゃあ教えてあげる。コレは……』

一斉に同じ場所に集まったマテ娘が、シャキーンッ! と効果音が鳴りそうなポーズを決め、その名を明かす!

『最強合体兵器 人間パチン虎!!!』

どぉぉぉん~!! と声を揃えて道具の名前を言ったマテ娘と、隣で胸を張るマキナ達の後ろで煙幕が発生する。あまりの演出にカリム達がポカンと呆けているが、気持ちはわかる。何というか……俺でも初めてこれを見た時は何も言葉が思いつかなかったのだから。

「に、人間……パチン虎? つまり……」

「その通りだ異教徒ども! これから行う決戦において、おまえ達は人間弾丸となる!!」

『えええぇぇぇえええええええ!!!!???』

ディアーチェの横暴とも言える宣言を聞いて、一般騎士どころか非戦闘員も含めた聖王教会総出で驚きの声が上がるが……気持ちは本当によ~くわかる。神風特攻も同然の行いをやれと言っているのだから、そんな概念を知らない彼らはカルチャーショックを受けているに違いない。
だが……明らかにネタ装備なのに、攻撃力は絶対存在が相手でも申し分ないんだよな……。しかも高ランクの魔力を持つ魔導師や騎士を撃ち出せば威力が増す改良がされてあるから、更に効果的だったりする。もう一つ付け加えるなら、撃った後はちゃんと転移機能が働いて戻って来れるから、そのまま行方不明になる心配をしなくて済む。流石に発射されたら気絶はするが、怪我はしないから色んな意味で合理的な機能が充実している訳だ。

「まぁ……なんだ、流石にこれは質量兵器には入らないだろう? それなら使った所で誰も違法にはならないはずだ」

「た、確かにそうだけど!? でも私達だって練習してきた魔法や鍛錬してきた技術があるというのに、特攻兵器を使うのはちょっと……」

聖王教会が培った尊敬が変な形になる。カリムがそう続けようとしたその時、遠くの空から地面が鳴動する程の威圧感が発せられ……次の瞬間、耳をつんざく轟音を立てて戦艦の大きさ以上に巨大な破壊光線が教会の真上を貫いていった。俺達は見ていないが、ファーヴニルの破壊光線は次元航行艦を何隻も沈めたらしい。その破壊光線が一発限りではなく何度も放てるとわかった事で聖王教会の一般騎士が怖気づく中、冷静に言い渡すようにマキナは言う。

『別に使わないならそれで構わないよ。ただ今回は相手が相手だから、実力が足りていないのに危険な近接戦を挑むよりかは、コレを使った方がマシだと思う。あの破壊光線に飲まれる覚悟が無いのなら、変な意地は張らない方が良い』

「実力が足りていないとは、聞き捨てなりませんね。……ですが、実際その通りかもしれません……。あの攻撃は流石の私でも本能的な恐怖を抱くほどでしたから……」

「とにかく人間パチン虎の道具一式は渡しておく。あの光線が飛んできたという事は、即ち前線部隊が壊滅している可能性が高い。そうなるとファーヴニルもこっちに向かってきているだろうから、俺達もヤツの迎えに行かせてもらう。もし通信が使えるなら、管理局には邪魔をするなとだけ伝えておいてくれ」

「ごめんなさい。ファーヴニルがこの世界へ訪れてから通信や念話は使い物にならなくなっているの。だから先に口添えする事は出来そうにないわ」

「そうか、ならいい。俺が適当に何とかしよう」

「今の内に言っておきますが、敵対行為だけは取らないで下さいね。後で処理が大変になりますから」

「フッ……今滅びそうなのに後の事を心配している場合か? ま、後自体無いがな」

『……』

真実を知るマキナ達が黙る中、カリム達は『後自体無い』という俺の言葉に首を傾げていた。しかし説明している時間は無いので放っておき、聖王教会を後にした俺達はラプラスに再び乗り込んで、ここミッドチルダ北部から首都クラナガンへと航路を進めた。コクピットの操縦席に座った俺に、乗り物酔いが少し回復したシャロンが尋ねてくる。

「これで会うのが最後だって……伝えなくて良かったの?」

「必要が無いからな。俺が後世に伝えたい事はもう何一つ残っていない。後はラタトスクを浄化し、ファーヴニルを封印すれば……俺が生きてやらねばならない役目は全て終わる」

「私はサバタさんに生きていてほしいけど……もう、限界なんだよね……」

「ああ……俺の生命力はもうほとんど残っていない。何もしなくてもせいぜい後一日か二日持つかどうか、という瀬戸際だ。今は月下美人の力で発作を抑えているが、全ての力を尽くさねばならないこの戦いが終わった時、間違いなく生命力も完全に底をつく。それが俺の最期となるだろう」

「…………」

「そう落ち込むな。俺はこちら側の世界に来ておまえ達やはやて達と出会えただけで生きてきた甲斐があったと思っている。そんなおまえ達が生きる未来を守れるなら、その贄となる事も本望だ。さて……今後の事は以前伝えた手筈通りにな、ディアーチェ、レヴィ、シュテル」

「万事心得ておるぞ、教主殿。……心配するでない、我らは誓って約束を違えたりはせぬ。教主殿は教主殿の為すべき事を果たせばよいのだ」

「だいじょ~ぶ! これからの事はボク達にどんっと任せて! ファーヴニルだって、いっそボク達だけでもけちょんけちょんにしてやるからさ!」

「私は……今だから正直に言います、まだ納得はしていません。教主の死を受け入れたくありません。管理局はあなたの名誉を陥れたのに、それでも彼女達を生かすために……自分がいない未来を守るために戦う……教主は本当にこれで良いんですか?」

「とっくの昔に覚悟はしている。俺は……自分が選んだ生き方を進み続けてきた。銀河意思によって運命を歪められ……光と闇の終わりなき戦いで命を削り……数奇な流れでこちら側へやってきて……更なる戦いの渦に巻き込まれながらも、俺は今までの間に数多くの心と出会った。そして闇に取り込まれない様に、己の意思で戦ってきた。この世界に生きる生命の未来を担う、小さな太陽達を守るためにな。そう、これで……いい、俺は……俺の生きた証を残せた。後は……おまえ達の時代だ!」

「……わかりました。まだ納得するには時間がかかるでしょうが、ここにいる皆とその結末を見届けます。教主の生き様を……。だからあなたが大切だと教えてくれた心は、この私が……シュテル・ザ・デストラクターが後世に伝えます。彼女達が見失ってしまったら、私が彼女達の道を正して見せます」

『私もシュテルと同じ。サバタ様に助けられた者として……あなたの事が好きな一人の女として……この想いは未来に繋いでいく。そうすれば寿命を迎えても、サバタ様の命は私達の中で生き続けてくれるから……』

「人には為さねばならない事がある、忘れてはならない事がある、伝えていかなくてはならない事がある。それらは私達がこれからも生きて、やっていかなくてはならないもの。その大切な使命を、サバタさんはその身を以って教えてくれた。一度未来を諦めた私の心を救い、再び未来に希望を持てるように……」

「サバタさんが何を想い、何を成し遂げてきて、何を伝えたかったのか……私達は知っています。私達は感じています、サバタさんの愛を。世界や管理局が何を言おうと……私達はずっと覚えています!」

「フッ……まだ戦いは終わっていないがな。まぁ……なんだ…………その………………ありがとう」

『…………ッ!』

「あぁ……やはりこういうのは俺の柄じゃない……。別にニヤニヤするぐらい構わないが……あんまり突っつかないでくれよ?」

最後という事もあって素直に礼を言ってみたのだが、想像以上に照れるものだな。俺達の間に流れる和やかな空気はこんな時でも変わらないが、案外それを嬉しく思う自分がいる。どうやら俺も……まともな人間に戻りつつあったようだ。それがわかっただけで、確かな幸福を感じられる。

「そろそろ気を引き締めるか。ミッドチルダ首都クラナガン、その避難所の地下シェルターが見えてきた。出発前に説明はしたが、念のために役割をもう一度確認しておく。まずマキナとシャロンは、ラプラスが誰かに奪われたり壊されたりしないように守って欲しい。まあ俺達以外の人間には解除できない鍵をかけておくが念のためだ。それで余裕があればマキナは遠距離から狙撃で援護、シャロンは観測手をやってもらう。本来狙撃手は二人一組で担うものだから問題ないはずだ」

『了解! マキナ・ソレノイド、狙い撃つぜ! って感じかな』

「それなりに訓練はしたけど、やっぱり私は最前線で戦える実力が無いからね。それぐらいの役目が丁度良いと思うよ」

「いや、身を守れる程度の実力があればそれでいい。そもそもシャロンまで戦わせるつもりはない、一緒に連れてきたのも一人にしないためというのが大きな理由だからな。それで……シュテルは前線寄りで後方支援、レヴィは俺に近い位置で遊撃、ディアーチェは後衛で司令塔を任せる。マテリアルズ本来の戦法の範囲を広げた程度だから、すぐに対応できるだろう。最後にユーリ……おまえは外付け格納庫に積んできたアレを使うんだよな?」

「はい! 相手が巨大だという事で、出来る限り頑丈にしました。元々の性能に加えて私のエグザミアの力を足せば、理論上はファーヴニルが体当たりしてきてもパワーで押し返せますよ~!」

「あの巨体とサシでやり合えるとは、どれだけ魔改造したんだ……。まあいい、アレは明らかに質量兵器で管理局に目を付けられるのは確実だから、顔バレしないようにフェイスカムは手放すなよ」

「は~い♪」

なんか心配になりそうな気の抜けた返事だが、何故かワニキャップを持参してきているユーリだからしょうがない。皆そんな感じでユーリには甘いから、俺も何となく染まってしまったんだよな……。別に嫌ではないが。

確認も終わったので地下シェルターの入り口の傍にラプラスを着陸させると、今度はここに一人だけ配置されていた管理局員がデバイスを構えながらやって来るが、それは見知った顔であった。オレンジ色の髪で、銃型デバイスを持っている彼のぼやきがラプラスから出る俺達の耳に聞こえてくる。

「あ~あ、今日は厄日か? 封印する術も用意出来ていないのにファーヴニルは襲ってくるわ、あの時の文句を根に持った上司の手回しで選抜部隊から外されるわ、そしたら破壊光線で俺が乗ろうとした戦艦がその上司ごと蒸発して複雑な気分になるわ、そして今目の前で謎のシャトルが現れるわ……もう戦わなくても出来事だけで腹いっぱいだ。ティアナ……お兄ちゃん、今日一日生き残れるか不安になってきたよ……」

「そうか。しかしその不安は杞憂だと言っておこうか、ティーダ・ランスター」

「そうだといいな……ってサバタかよ!? これ君の船だったのか!?」

「ああ、ティーダも元気そうで何よりだ」

「こんな状況なのに君は相変わらずだなぁ。今までバイクで来てたのに、こんなスゲェの持ってたなんて俺初めて知ったよ。というか君、いつの間にか管理局に指名手配されてるっぽいけど、一体何をしたんだ? 場合によっちゃ管理局員として対応しなきゃならなくなるけど、妹を救ってくれた恩人相手にそんな事はしたくない。理由を教えてくれないか?」

「教えるのはやぶさかではないが、色々あって短時間で説明するのは難しい。しかし今回の件に深く関わるから、局員のおまえにはある程度は伝えておいた方が良いだろう。まず、ティーダは今回の事態の発端をどこまで知っている?」

「第66管理世界ニダヴェリールに封印されていたファーヴニルが目覚めてその世界を滅ぼし、再度封印するには月詠幻歌って歌が必要だって所かな。後はファーヴニルの体格や把握している能力とそれの対策ぐらいで、詳しい事情までは知られていない」

「なるほど……つまり戦いに関わる事だけ知らされていて、封印が解かれたきっかけがイモータルだけでなく管理世界の人間や管理局が大きく関わっている所までは知らないようだな。都合が悪い事は何が何でももみ消そうとする……いかにも隠し事が好きな管理局らしい情報規制がされている」

「な!? そ、それ本当か!? この事態に陥った原因は、俺達も関係しているって事なのか!?」

「そうだ。魔導師が使うデバイスのコアや次元航行艦の燃料にニダヴェリール産の魔導結晶が使われている以上、さしずめ管理世界のほとんどの人間がそういう事になる」

「魔導結晶……確かエネルギー変換効率がずば抜けて高い物質だったよな? それがどう関係しているんだ?」

「ニダヴェリールの魔導結晶には多くの性質があったのだが、その中にファーヴニルの封印を維持する能力が含まれていた。それを管理局やミッドの企業などが大量に採掘しては持ち去ったせいで封印が弱まり、さらに封印の要であった現地人を、外的要因があったとはいえ独占欲に駆られて管理局が虐殺した結果、封印が破れてしまった訳だ。まあ、ティーダ達が知らないのも無理はないが……そういう訳であの世界の真実を知ったからこそ、やましい事を闇に隠そうとして管理局が俺を指名手配したのだ」

「なんてこった……! 薄々察してはいたが、管理局の腐敗がここまで進んでいたなんて……! これじゃあファーヴニルが襲って来たのもある意味管理局の自業自得じゃないか! じゃあ君の傍にいる少女たちは、もしかしてニダヴェリールの生き残りなのか……!?」

「シャトルの傍にいるのは違うが、あそこにいる二人はその通りで、あの世界が崩壊する寸前に何とか共に脱出できた。エレン曰く、管理局は普段からこういった経緯でマッチポンプの事件を起こしている事がざらにあるらしい。そこでティーダ、おまえの正しさを見失わない心を見込んで一つ忠告しておく」

「忠告?」

「別に難しい事じゃない。管理局の裏は探るだけで危険だ。長年奴らに挑んでいるラジエルへ毒などを含むありとあらゆる妨害をしている所から察せられるだろう。だから心して聞け、正義感に駆られて一人で裏に挑んではならない。むしろ近づくな。両親だけでなく兄のおまえまで失ったら、ティアナが天涯孤独の身になってしまうのだぞ」

「あ……! し、しかし俺はそんな酷いことを管理局がやってると知った以上、見過ごすなんて出来ない! 危険だとしても、それで誰かの悲劇を一つでも喰い止められるなら!!」

「だからこそ近づくなと言っているんだ。いいか、冷静に考えろ。目を付けられたら俺のように手を回されて指名手配されるかもしれない、もしくは大切なティアナに危険が及ぶ可能性だってある。おまえはどこの誰とも知れない連中から、大事な妹の命を狙われても良いのか?」

「ッ……!」

「自分でどうにか出来ないのは気に入らないだろうが、裏の相手ならラジエルに任せろ。だがもし裏に関わってしまったら、一刻も早くラジエルを頼れ。あいつらは経験豊富だから、俺の名を出せばきっと力になってくれる」

「サバタの?」

「あの部隊には旧友がいてな、その伝手であいつらと知り合った。俺の知り合いでも初めて接触した時はある程度身辺調査はされるだろうが、信用に足る人物だと判断されれば以後は心強い味方になる。もし裏を本当にどうにかしたいと思うのなら、まずラジエルを味方にして妹の安全を確保してからにしろ。わかったか、人の忠告はちゃんと聞くものだぞ?」

「……オーケー、理解した。忠告はしっかり覚えておくよ。ところで話を戻すけど、サバタ達はファーヴニルに勝算があるのか?」

「どうだろうな? 俺自身、絶対存在との戦いは何度か経験があるし、封印方法関係なく最初から勝つつもりで戦う気だ。とはいえ月詠幻歌が封印のカギである事はついさっき知ったばかりだから、実際に勝てるかは知らん」

「なんじゃそりゃ……」

ちょっと無責任な言い方を聞いて、軽く脱力して肩を落とすティーダ。とりあえず彼ならそれなりに親交があって信用できるから、俺達が戦っている間にマキナとシャロンを捕まえる、なんてふざけた真似はしないに違いない。

……って、着地してきたシャトルに興味を引かれたのか、地下シェルターから誰か抜け出しているぞ? ぽけーっと見上げているあの青い髪の少女……あの子は何気に俺の知っている人間だった。

「お~……」

「ずっと見上げていると首を痛めるぞ、スバル」

「ほぇ? あ、サバタさんだ~♪」

そう言うなり嬉しそうに駆け寄ってきたスバルに俺は……。

ぺちっ!

「あぅ!?」

軽いデコピンを額に一発打ち込んだ。

「勝手にシェルターを抜け出した罰だ。今頃ギンガが心配しておまえを探しているぞ?」

「ご……ごめんなさい……」

「ちゃんと反省したか?」

「うぅ、反省したよぉ……」

「ならいい、反省したのならこれ以上は怒らない。ところでスバル、クイントやゲンヤがどこにいるか知ってるか?」

「へ? お父さんとお母さん? ん~っと………………わかんない」

「そうか。知っていれば少し話も出来たんだが……まあいい。とりあえずここは危険だから、スバルはシェルターに戻れ。シャロン!」

シャロンに呼びかけると、狙撃ポイントを探していたマキナの傍にいた彼女がマキナに一言告げてから駆け寄って来る。なお、マテ娘はシャトルの上に登って待機し、ユーリはシャトルの外付け格納庫にあるアレの出撃準備をしていた。

「お待たせ。どうしたのサバタさん……って、あれ? 避難指示が出てるのに、どうしてこの子シェルターの外に……」

「すまないがスバルに付き添って、シェルターの中にいる姉のギンガの所まで連れて行ってくれ。ユーリの準備が終わったら俺達もすぐに行くからそこまで面倒を見られないんだ」

「わかった、責任を持って送り届けるよ。ところでふと思ったけど、サバタさんって何気に子供にたくさん知り合いがいるね」

「ほとんど成り行きだ。しかし……これはある意味好都合かもしれない」

「どうして?」

「まあ、何だ。シャロンもマキナと同じく次元世界の人間が苦手だろう? かと言って今後地球に居続けたとしても接する機会が無いとも言い切れん。それならこの機会に少しは慣れておいた方が良いと考えてな」

「次元世界の人間でも子供なら大丈夫かもって考えた? ……確かに、こんな小さな子供相手にまで抵抗感は抱かないかな」

「だろう? 時間が無いから押し付けている感が強いが、シャロンなら任せられる。頼んだぞ」

「うん、任せて」

「フッ……何なら特技の歌でも披露してみたらどうだ? シャロンの歌声は俺も気に入る程綺麗だし、聞いてると心が落ち着く。もし不安になったら歌うというのも普通にアリだぞ?」

「そういう問題なのかな……? まあ、親密度を深めるきっかけにもなりそうだし、一応検討しておく」

快くシャロンは承諾してくれた傍で、スバルが「おねーちゃん、歌が上手なの?」と訊いていた。本職の人ほどじゃないと謙遜しているシャロンだが、俺やマテ娘は彼女には十分実力があると常々思っている。
そうそう、歌と言えば……さっきカリム達が重要な事を言っていたな。確か名前は……。

「シャロン、“月詠幻歌”という歌を知っているか?」

「月詠幻歌? う~ん……ちょっとわからない。私が知ってるのは“勝利の歌”とか“鎮魂歌”、地球で覚えたいくつかの楽曲ぐらいだもの」

「そうか。まぁ、そんな都合良くは行かないか」

「?」

「こっちの話だ、気にするな」

いくら歌うのが趣味だからって、相当古い歌である月詠幻歌まで知っている事を期待するのは流石に押し付けだ。一般的に例えれば、J-POPを聞いている人間に演歌を知っているか尋ねているようなものだ。世の中は広いからこの例えでも探せば該当する人もいるかもしれないが、それをシャロンにまで適用するのはどこか違うと思う。

などと考えていると準備が終わったのか、外付け格納庫の扉が開き始める。そして中から……地球で最強クラスの兵器が出てきた。大量にミサイルを搭載している腕を生やし、ジャンプし易そうに屈折している脚部、頭部で青く光るツインアイとその下のくちばしのような装甲に隠された水圧カッター、サソリを思わせる長い尻尾、そして元々『MARINES』と書かれていたロゴは『MATERIAL』と別の文字に書き換えられている。格納庫から外に着地して、甲高い咆哮を上げたこの機体こそ、ユーリが持ってきたアレの正体である。

メタルギアRAY試作改修型。

リキッドとアウターヘブン社の技術者達、そして搭乗者のユーリが協同で魔改造した機体で、元は海兵隊から奪ったヤツらしい。より性能の良い無人型が量産できた事で必要なくなった試作型を現代の技術で補修した後、ユーリのエグザミアの力が機構全体に行き渡るように特別な改造を施した結果、普通のRAYとは比べ物にならない化け物じみた性能を発揮できるようになったのだ。地球の技術だけでここまでやれたのは、色んな意味で流石としか言い様が無い。
……ああ、無人型を有人型に改修してから改造しなかった理由についてだが、以前の元大統領の刀の時のようにリサイクル精神というか、余ったのをもらっただけだ。一応量産できるとはいえ、RAYは一機作るだけでもコストは相当高い。だからリキッド達も資金集めなどをして稼いでいたのだ。故にウェアウルフ社に匿ってもらった上、ほとんどタダ同然の額で一機、しかも多くの改造をしてくれただけ十分ありがたい。それとこれが入っていた格納庫が外付けだったのは、大き過ぎてラプラスの格納庫には入らないからだ。

『お待たせしました~。エグザミアの魔力浸透率も十分な水準になっていますよ~!』

「よし、これで準備万端だ。さあ、行くぞ!」

想像を絶する大きさの質量兵器が現れた事でティーダとスバルが唖然とする中、甲高い咆哮を上げたRAYの肩部にマテ娘が乗り、俺も頭部の後ろ側に飛び移る。その直後、狙撃ポイントとして選んだ展望台からマキナの連絡が届いた。

『皆! ファーヴニルが南の湾岸地区にやって来た! 待機してた管理局が交戦しているけど、状況は芳しくない。このままだと数分もしない内に市街地まで進攻される!』

「そうか……マキナ、ここの守りはおまえに託した! ……世紀末世界から続いた奴らとの因縁に、今こそ終止符を打つ。そして未来を取り戻す! 勝つぞ(ベンセレーモス)!!!」

『雄々ッ!!!!』

全員で猛々しく声を上げた直後、俺達を乗せたRAYはここからでも姿が見えるファーヴニルの巨体目指して、沿岸部へと跳躍していく。地面だけでなくビルなどの建物の壁や屋上をも足場とし、ガラスや壁が砕ける程の力で跳んでは次の壁か屋上、地面に着地する。本来のRAYはここまで俊敏なジャンプは出来ないのだが、この魔改造RAYなら難なく出来るのだ。

「しかし遠目で見る限り、ラジエルが奮闘した割にはファーヴニルの外見にあまりダメージが見受けられないな。それどころか水を防護にまとっている……これは想定より手間がかかりそうだ」

『こちらも水を利用する水圧カッターがありますけど、流石に水に水を撃った所であまり効果は無さそうです』

「私の炎で蒸発させるのも出来なくはないのですが、それだと時間がかかり過ぎますね」

「あのさ~、単に水が無い場所から攻撃すればいいんじゃないの?」

「たわけ。奴は水をスフィア状にまとっておるのに、どこに水が無い場所がある? あの水の防護を打ち破らぬ限り、我らの攻撃もまともに通じんぞ」

ディアーチェの言う通り、湾岸地区の陸地に半分乗り出しているファーヴニルに局員達がありったけの魔法を落としているが、全てが水の防護で弱められており、表皮の硬い防御を突破する事がほぼ不可能になっていた。どうやって突破しようかと考えた時、何かに気付いたユーリが告げてくる。

『あれ……? ちょっと待って下さい、ミッドチルダ中央区のビルから高エネルギー反応が検知されました。あれは……紫色の雷でしょうか?』

「中央区のビル……? あれか」

移動中のRAYの上からミッド中央区の建物を探し、ユーリが指摘したビルを確認する。確かに建物全体から紫の雷が発せられていて、凄まじい閃光を出しながら激しく帯電していた。何とか確認できたビルの上に書かれてあった、恐らく会社の名前であろう文字……それは俺もよく知る企業のものだった。

「アレクトロ社……? 本社があそこにあったのは初めて知ったが、しかしなぜ今になって帯電している……?」

あの企業にはあまり良い記憶が無いのだが……そういえばさっきプレシアがどこかへ向かったとカリムが言っていたな。そうそう、プレシアと言えば魔導炉からエネルギーを抜き出す事で強力な紫の雷魔法が使える知識と技術がある…………もしやッ!!

「全員、すぐに目と耳を塞げッ!! スタングレネード以上の衝撃が来るぞ!!!」

咄嗟に叫んだ俺の指示をマテ娘達は疑問を抱かずに実行、RAYも物陰に隠れていずれ来る衝撃に備える。俺達が乗るRAYがファーヴニルの死角に入った次の瞬間、娘を傷付けられた(プレシア)の怒りが炸裂した。

「条件付きSSランク魔導師の力、この私が思い知らせてあげる! サンダーレイジA(Anger)O(Of)G(God)!!!」

神の怒りの如く凄まじい雷がアレクトロ社からファーヴニルに向けて放たれ、物凄い熱量と閃光、衝撃に電流電圧がファーヴニルを襲う。降り注いだ雷から人の身が容易く吹き飛ばせる爆風が発せられただけでなく、見るだけで目が焼け焦げそうな閃光に不意に襲われる羽目になった局員達は哀れとしか言いようが無いが、プレシアの判断はあれで最善手だと言える。
ただでさえ驚異的な威力のサンダーレイジを魔導炉かそれに似た何かのサポートを受けて攻撃力を倍化し、更に海水は塩化ナトリウムや塩化マグネシウムなどの不純物が大量にあるため電気が流れやすい。それは即ち……、

GYAAAAAAAAAA…………!!!

水の防護が逆にファーヴニル自身を傷付け、守りを為さなくなる事を意味する。まとっていた水がファーヴニルの制御を離れ、滝のように轟音を立てながら海の中へと返って行った。要するにプレシアの雷撃が、最も厄介な防御を撃ち砕いてくれたのだ。

まあ……代わりに吹き飛ばされた局員達はそれぞれ回復するまで何も出来なくなってしまったが……彼らが余計な事をする心配をしなくて済むならむしろ好都合だろう。

「想定外の援護があったが、おかげで勝利の光明が微かに見えてきた。この機会を逃すな!」

『はい! 私達がありったけ手を加えたRAYの力、お見せします!』

ユーリが操縦するRAYは腕部をファーヴニルに向けて照準が合わせられる。そして砲身からとんでもない威力のガトリング砲が雨のように発射される。なお、このガトリング砲はRAYが元々搭載していた機銃ではなく、一発だけで地面が爆発する“A-10サンダーボルトⅡ”の“GAU-8アヴェンジャー”に換装されているため、戦車の装甲も容易く穿つ破壊力を誇っている。流石に当てはしないが、高ランク魔導師が全力で防御魔法を使用したとしても、この攻撃を防ぐ事は限りなく不可能だろうな。
さっきの雷で目が眩んでいたファーヴニルは何の抵抗もできず、そんな全ての弾丸をその身……否、13個の眼球がある頭部で受けてしまう。ほとんどは表皮か目蓋に当たるが、残りは眼球を直接潰していき、視野のいくつかを奪う大ダメージを与える。俺達は知らなかったが、この時に潰した眼はラジエルが潰したのとほぼ同じ眼だったらしい。

『このまま突進します! 皆、衝撃に備えてください!』

叫び声を上げるファーヴニルにRAYを突撃させながら、ユーリのエグザミアの魔力がRAYの頭部に集束、強度を飛躍的に高める。それに加えて脚部から繰り出される圧倒的なパワーを重ねた結果……!

『どっせぇぇえい!!!』

ギィィィィッ!!

ファーヴニルの頭部に正面から突撃したRAYが、ファーヴニルの進攻をせき止める! 湾岸地区にいた局員……ああ、今見つけたがゲンヤはここの指揮についていたらしい。ともあれ彼らが吹き飛んだ先で気絶から回復した場合、戦艦の倍以上の大きさのファーヴニルを戦艦程ではないが巨大な質量兵器が押さえているという光景を目の当たりにする訳なのだが、恐らく真っ先に幻覚を見ているんじゃないかと思って自分の目を疑うだろうな。まぁ、彼らはメタルギアを知らないし、サイズ差もあるから当然かもしれないが。

ともかくファーヴニルの動きを止めた直後、RAYの肩部から俺とマテ娘も跳躍、ファーヴニルの頭部に飛び乗る。そのまま頭部を駆け抜け、最優先で破壊しなければならないレアメタルの角に“火精刀気―朧―”を放つ! 頭部を焼き尽くす炎を発しながら幾度も斬って気付いたが、高周波ブレードに改造した暗黒剣の威力は俺の想定以上で、今の攻撃だけで角に大きくヒビが入った。続けざまにシュテルがブラストファイヤー、レヴィが光翼連斬、ディアーチェがアロンダイト、更に遠距離からのマキナの狙撃で連携攻撃を繋げ、一気に角をへし折らんとする勢いでダメージを蓄積させる。それによってますますヒビが入っていくが、俺達自身はそのまま追撃せず、ファーヴニルの背部へと走り抜ける。その理由は次でわかる。

『発射ぁ~!!』

ユーリの掛け声と共に、RAYが搭載してきた全ての肩部ミサイルや背部のクラスターミサイルが上空に発射され、角に集中して爆撃する。それで発生する爆炎などによって俺達は角に近づく事が出来ないが、遠くから狙撃しているマキナだけ問題ない。そしてその間に更なる部位損傷を行って弱体化をさせるべく、俺とマテ娘は別の部位に移動する。

「まずは右腕だけど、ボクが全部やっつけてやる! いっくぞぉ~!!」

「む、皆レヴィに遅れるな! ……にしても改めて思うが、本当にデカいのう……。だがこの程度の絶望など、我が闇で打ち砕いてくれるわぁッ!!」

「今宵のルシフェリオンは血に飢えています。教主のために、天をも焦がす炎を揚げてみせましょう!!」

『皆頑張ってください! 私もファーヴニルがこれ以上進攻しないように喰い止めていますから!』

「フッ……おかげで心置きなく戦えるな!」

彼女達は彼女達でダメージを与えながら、俺は暗黒剣で足元のファーヴニルを切り刻みながら駆け抜ける。斬るごとに血と表皮の欠片が飛び散っていき、着々と傷を蓄積させていく。無数に斬った後そのまま俺の身体は重力に従って落下し、その先にはレヴィが待ち構えていた。彼女が差し出した手を掴むと、落下の勢いを遠心力に変換してレヴィが軸になって回転し、掛け声と共に天空へと飛び上がる。
上へ飛翔していく途中、暗黒物質が異常に集中している部分に気付き、俺はそこへ波状攻撃するようマテ娘に進言する。全員のエナジー込みの攻撃を受けてボロボロになっていくドクロの部分に致命的な一撃を与えるべく、俺はサムのようにホドリゲス新陰流の居合い抜きを放つ力を溜め…………ゼロシフトも同時発動して空中で瞬時加速、あまりの剣圧でかまいたちが発生する程の神速じみた速度で一閃する。

ジャ――――――キンッ!!!

「これが剣術だ」

瞬間、ファーヴニルの胴体と右腕を繋ぐ部分が真っ二つに分断される。見事に斬れた断面をさらしながら、ファーヴニルの右腕はミッドチルダ湾岸地区の地面に轟音を立てて落ちていった。居合い抜きをした後、再び落下していく俺を急いで先回りしたシュテルが受け止めた。

「おぉ~!!? やっぱりお兄さんすっごいや!!」

「よし、次は左腕だ! 我らの力はまだまだこんな物ではないぞ!!」

「……おや? 少しお待ちを……。皆さん、海の方から何かの気配が接近中です……!」

シュテルが言った気配は俺も気づいていた。濃厚な暗黒物質もそうだが、何より感覚が劣化していようが、この気配の正体を俺が間違える訳が無い。そう……この事態を引き起こした全ての元凶……あのイモータルの気配。

「ようやくお出ましか、人形使いラタトスク……」

「ええ、とうとう決着の時が訪れましたよ。サバタ……」

緊迫した空気とミサイルの爆風が荒れ狂う中、シュテルに降ろしてもらった湾岸地区の陸地で向かい合う俺とラタトスク。ディアーチェ達には事前にラタトスクが現れても俺が対応するため、皆はファーヴニルへ攻撃を続行するようにと話を付けている。先に言っておいたのに去り際まで心配そうな表情を向けてきたが、意志は十分確認した後なのですぐに彼女達はファーヴニルの左腕を攻略しに向かってくれた。

かなり粗末で簡易的だが一対一の場が整った事で、ラタトスクはいつも通りに見ていると腹が立つ不敵な笑みを浮かべながら言葉を発してきた。

「思い返せば……世紀末世界、ヴァナルガンドの夢で会ってから、わたくしとあなたは腐れ縁ですね」

「全く嬉しくない縁ではあるがな。あれから幾度もの戦いと悲劇が繰り広げられた……いい加減その負の連鎖も終わりにしよう」

「その意見はわたくしも同感です。あなたは常にわたくしの計画に狂いを生じさせてきた。あなたを始末しない限り、真に計画が成就するとは言い切れないでしょう。そこまでの認識をあなたは抱かせたのです。流石は音に聞く暗黒の戦士、この人形使いラタトスク……最初で最後の心からの称賛を贈ります」

「フッ……今まで卑劣な真似ばかりしていたおまえからの称賛だ、相当評価してもらったようだな」

「かつてわたくしを一度浄化した太陽少年ジャンゴをわたくしは認めませんでしたが、その上であなたの力を認めました。それがわかってくれただけで幸いです」

「なるほど。少し癪だがおまえのその言葉で、俺がアイツの立っていた場所までたどり着いたのがわかった。後は……命尽きる最期まで戦い抜くだけだ!」

「ウフフフフ……良いでしょう。これまでの因縁の戦いの末、最後に立っているのはこのわたくしだと証明します。そして力及ばず屈した時、あなたの守ろうとした存在が全てわたくしの人形コレクションに成り果てているのを、屈辱に満ちた姿で見届けるがいい!!」

「そう思い通りにはいかん! ヴァナルガンドから続く俺の罪の象徴……そしてこの世界の未来を奪おうとするイモータル。今こそ決着をつける時……行くぞラタトスク!」

「来い、サバタ!!」

「発動、狂戦士の波動verナハト!!」

生命力を燃やす黒いオーラを発生させながら、俺とラタトスクの最終決戦が始まった。

 
 

 
後書き
ジアゼパム:MGSでPSG1の狙撃の手ブレを抑える薬。これがあるのと無いのとでは狙撃のしやすさが格段に違います。
人間パチン虎:MGSPWにおける最強のネタ兵器。外したら「あいつ 無茶しやがって……」と言われ、当てたら「命中だ!! 彼の勇気ある行動に 敬礼!!」と言われます。
フェイスカム:MGS4ラフィング・オクトパスが付けていた覆面。若い頃にもドット顔にもオタクにも老人にも893にも美女にもガイコツにも、どんな顔にも変装できます。
サンダーレイジA・O・G:本局とミッドを繋いでいたアレクトロ社の動力炉のフルパワーを使ってプレシアが放った怒りの一撃。イメージがわかりにくいのであれば、FF15のラムウ召喚、裁きの雷が雰囲気的にそれっぽいかと思います。
RAY試作型:MGS2の海兵隊が開発したメタルギアの亜種。MGS4のAct4で戦ったのは無人型を有人型に改修したもので、余っていたオリジナルであるこの機体を有効利用させてもらいました。
狂戦士の波動verナハト:エグザミアではなくナハトヴァールの力を解放します。効果自体は同じなので、違うのは使っているのがどちらかという程度です。

今回戦域となっているこの湾岸地区、実は10年後に機動六課の本部が建つ場所です。カリムやシャッハといい、ティーダ(経由でティアナ)といい、スバルとギンガといい、stsメンバーとの接点が何気に多い回でした。

息抜きのネタ。

・聖王教会の領地に着地して降りる時、全員フェイスカム(BIGBOSS)装備。騎士全員、恐慌状態。

「うわぁああああああ!!!!!」

・ラプラスの外付け格納庫から取り出したある物をこの場に用意できた。犬なのかネズミなのかわからない頭に大きな耳、丸いつぶらな瞳。軍帽や防弾チョッキ、ショットガンにマシンガン、ロケランにバズーカと、見た目とは裏腹に何かを間違えているとしか思えない重武装。そう、これは紙装甲高火力の代名詞とも言える存在。その名は……

ユーリ「ボン太くんです!」

ボン太くん中身ディアーチェ「ふもふも! ふもぉ~……ふもっふ!」

カリム「か、かわいい……!」

数年後、中東の紛争地帯で大量にはびこるボン太くん。

ボン太くん「ふもももも!!」

ボン太くん「ふもー! ふもっふぅ~!」

ボン太くん「ふもぉ……ふもふも? ふもっ!?」

ボン太くん「ふもふ、ふもっふる!!」

スネーク「戦争は変わった……」

・ユーリ「RAYの力、お見せします!」

ユーリが操縦するRAYは腕部をファーヴニルに向けて照準が合わせられる。そして砲身から……

ぴちょん

ユーリ「しょう油が出ます!」

ディアーチェ「なんでじゃあ!?」






続編に入れる予定の要素の一つ。

左腕が義手のなのは。
 
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