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月下に咲く薔薇

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月下に咲く薔薇 14.

 
前書き
2013年10月3日に脱稿。2015年10月21日に修正版が完成。 

 
「次元獣か!?」
 クロウは、身の引き締まる思いで左手に拳を握った。
 インペリウム帝国の方が先に動いたのだ。
 尤も、いきなりZEXISの拠点に次元獣を投入するところまで想定していた訳ではない。もし、これがアイムの言っていた「邪魔」ならば、搦め手で人を追い詰める手法から突然転換した事になる。
 誰の邪魔を、どう行いたいのか。つくづく腹の立つ事をしてくれる。
「受けて立ってやるぜ。アイム!」
 勢いのまま屋外を目指そうとして、全員が瞬時に硬直した。自分の機体が何処にあるのか、を思い出したからだ。
「おい、ちょっと待て!」ロックオンが左の目尻を歪め、突きつけられた現実に愕然とする。「俺達は、何処を通って母艦にまで行けばいいんだ?」
「私は、マクロスクォーターまで走るぞ! 他にないではないか」
 意気込みを全身から溢れさせ、クランがさっと外を指した。
「いや、それはまずいでしょ」
 ミシェルが速攻で、彼女の案をばっさりと斬り捨てる。
 確かに、彼の指摘は正しい。
 マクロスクォーターやトレミーなどZEXISの母艦が待機している場所は、次元獣の出現が想定されている滑走路と同じ地上だ。どんな名パイロットも、ノーマルスーツの下は生身の人間。破壊力の大きな攻撃どころか、最小サイズの次元獣ダモンによる尾の一振りでも五体はばらばらに千切れてしまう。
「私達が引きつけている間に、移動を!」
 言うが早いか、1人階下に消えて行ったのはミカだった。幾つかの単語を削ぎ落とした物言いは、次元獣出現までの時間を惜しんだ彼女なりの機転なのだろう。
 おそらくは、タケルも早い時点でガイヤーを呼ぶ。
「っくそう!」
 焦燥感に突き動かされ、ロックオンが思わず壁面を拳で叩いた。
 直後、耳慣れた異音を聞きつける。大きな鳴き声が周囲に轟き、壁が大きく振動した。もし、この一帯が民家の集落ならば、今の一声で全ての家屋のガラスは悉く粉砕されている。
 ZEXISのパイロットならば知らぬ者はいない、次元獣の雄叫びだ。
「今度はしっかりと出て来やがったか!」
 クロウも歯痒さから、激しく虚空を睨む。ショッピング・モールの時とは違い、次元の歪みは次元獣たちを正常にこの空間へと吐き出したようだ。
 しかも、おそらく声の主はライノダモン。アイムのいつものやり方なら、他にも4~5頭は出現すると思われる。
 よもやその出現時に、世界初の次元獣バスターが不本意な屋内待機とは。出るに出られぬパイロット達の分まで、基地の主であるクラッシャー隊が背負ってしまった。
 戦力差は想像に難くない。どうする?
 ロックオンとミシェルの携帯端末が、同時に鳴った。
 やりとりを始める2人の会話に、クロウとクラン、そして隼人が聞き耳を立てる。
「ライノダモンが1にブルダモンが4!?」
 クロウ達にも聞き取る事ができるよう、ロックオンが強調しながら把握したばかりの内容を大声で繰り返した。
「今回は流石に複数投入してきたか」隼人が敵の構成に触れながら、ふんと小さく鼻を鳴らす。「だが、少しばかり控えめな編成だな」
「俺もそう思う」クロウもまた、隼人の意見に同感だった。「奴らにとっちゃ、ここは目障りな敵の最重要拠点だ。基地には、母艦とロボットの全てが集結してる。もし、本気で潰そうってんなら、ディノダモンまで投入して一気に片を付けるのが普通だろ。…何を考えてやがる? インペリウムは」
「俺達を殺す気がない? …まさかな」アイムの残忍さをよく知る隼人だからこそ、手抜きの意図には鋭く反応する。「こういう場合、誰を陥れる為の隙なのかが問題だ。ZEXISか、或いは…」
 オズマからの緊急連絡を伝えようと、ミシェルが声を張り上げる。
「みんな、聞いてくれ。今、タケルがガイヤーを呼んだ。クラッシャー隊のコスモクラッシャーだが、次元獣が滑走路に出現する方が早かった為、残念ながら今は待機中。代わりに、ダイグレンから黒の騎士団のKMFが5機出る」
「そうか。さっき玉城達が艦の見回りに行っていたな」
「ああ」基地への帰還時を思い出すクランに、ミシェルが頷いた。「とにかく地下伝いに歩くしかない。何とか自力で母艦に近づこう」
「ハンガーまで行ったら、その先は全力疾走だな」ロックオンも通信を切り、ジェフリー達の案を押す。「俺達が地上を走るのは、どうにもできない距離だけだ。何とかして、1人も欠けず母艦まで辿り着こうぜ」
 ロックオンが指を立てると、ミシェル、クラン、隼人が頷いた。クロウもまた相槌を打ち、全員が階下へと走り出す。
 バトルキャンプは、外観からはかけ離れた地下主体の基地構造を持つ。岬の内部は大きくくり抜かれ、岩盤の外装の内側に強固な要塞が建造されていた。
 崖面にコスモクラッシャーの発進口がある事でもわかる通り、クラッシャー隊の戦闘機は通常地下に格納され、搭乗、発進時の危険度を大きく下げる事ができる。
 また、発進口の異常に備え、地下から地上の滑走路に機体を送り出し地上からコスモクラッシャーを離陸させる事も可能だった。全ては、地下での横移動を重視した構造の成せる技で、クロウ達はその恩恵に浴するつもりで地下を目指す事に決めたのだ。
 バトルキャンプにある地上施設の中で母艦3隻に最も近い位置にあるのは、戦闘機用のハンガーだ。そのハンガー下まで地下を進み、施設の端から各自愛機を預けている艦に自分の足で向かう腹づもりでいる。
 地上を走る事になる距離は、実に300メートル以上。タケルと玉城達に生身の背中を預けた、正に命懸けの疾走となる。
 クロウ達が1階まで降りると、地下階の入り口で竜馬と武蔵が待っていた。殊更笑っている様子はないが、2人の全身から漲るものを目にするだけで出撃の喜びに高揚しているのだとわかる。
 守勢が続いていただけに、竜馬達なりに一矢報いてやりたいのだろう。強い火力を秘めた彼ららしい気配だ。
「子供達は?」
 隼人が武蔵に尋ねると、3人の中で最も背の低い大柄な男は、「ロジャー達に任せてきた」と上の階を指した。「俺達に出ろってのは、スメラギさんの指示だぜ」
「出撃メンバーも選抜済みらしい」どこかしら野生の獣を連想させる竜馬が、ここで合流した顔ぶれを確認してから、ハンガーの方へと顎をしゃくった。「見たところ、ここにいる全員が選抜メンバーか。時間がもったいねぇ、急ぐぞ!」
「ああ!」
 地下に潜る直前、屋外で数秒程眩しい光が満ちた。
 あれは、重ねた腕の先からガイヤーが放つエネルギー衝撃波。シンクロする生者と機械が敵に向かって放つ、怒りの矢だ。
 直後、半円状の鮮やかな多色光が暗中に瞬く。
 タケルの放つ攻撃は、その防御を貫き敵の装甲皮にまで到達した。
 ライノダモンが、強者の仕種で身じろぎをする。目障りだと言わんばかりの。
 もし、敵に面の攻撃を仕掛けた場合、最下位の次元獣ダモンならば、もんどりうって倒れる場合もある。
 ただ。ガイヤーの相手は、次元獣の中で唯一の四つ足と些か組み合わせが悪い。
 ライノダモンは猪によく似た体型の次元獣で、尾は短く背中に長短10本以上の角を生やしている。全高は40メートル近くとガイヤーの2倍以上、体重差に至っては3倍以上もある。
 その敵に、タケルは点に働くエネルギー衝撃波を見舞っていた。
 装甲皮付きの短い足が踏ん張ってしまい、猪を思わせる体躯の次元獣は低重心故、容易に踏み留まる。
 勿論、何故そうなったのかをタケルも理解している。足が止まれば良し、自分に注意が向けば良しとの判断で動いている為、乱発が可能な武器を選択しエネルギーの温存に努めているのだ。
 ガイヤーは、ギシン星人の血を引くタケルの専用機で、ギシン星人の敵機同様件の星の技術によって造られている。他に、地球の神々の名を持つ5機のロボットが存在し、タケルのテレパシーを感知し自動でタケルを支援する。
 赤と白に彩られたロボットのサイズはMSとほぼ同じだが、他の5機と合体するとトライダーG7・クラスの巨大ロボットにサイズ・パワーの両方を上げる事ができた。
 その六神合体と呼ばれる6機合体を敢えて自粛している理由も、長期戦を覚悟しての判断と関係がある。
「空中から攻撃するのはタケル1人か。…きついな、これは」
 戦況は気になるものの、覗いている時間すら今は惜しい。クロウが眺めていても、タケル達の助けになる事など一つもないのだから。
 重要なのは、迅速な戦力の追加だ。その為に、敢えて愛機と合流する事だけに集中する。
 基地の地下機能は盛んに動き始めていた。4~5人のスタッフとすれ違う中、クロウ達はスメラギが立てたという戦術プランを竜馬から聞く。
「おいおい!」クロウとしては、こぼさずにはいられなかった。「難易度高すぎだぜ、スメラギさんよ」
「なら、お前は下りるか?」竜馬が、挑発的に投げかけてくる。勿論、クロウから何と返されるのかを承知の上でだ。
「まさか!」当然クロウは、竜馬が想像していた通りに答えた。「俺が出なきゃ、誰も納得しねぇだろ。何しろ相手は、俺の管轄のお得意さんだからな」
「自分から借金返済の機会は逃さねぇって事か」
 やや呆れぎみに、武蔵が金絡みの事情として受け入れる。
「スメラギさんのご指名だ。いいデータを取って来いって事なのさ」
「…相変わらずのポジティブ・シンキングだな」
 走りながら、ロックオンが口端を上げた。
「そいつも、俺の特技の一つだ」
 ゲッター・チームの背を見て走りながら、クロウは軽く受け流す。
「しかし、私は口惜しいぞ」最後尾からついてくるクランが、息も切らせずに喚き始める。「支援か、我々SMSの役割は」
 物足らないと言いたげなクランに、今回ばかりはミシェルも悔しさを滲ませた。
「そう腐るなよ。機体の仕様が違うんだから」
「わかっている! そんな事は。ただ…」
 ゼントランの血がたぎる。つまりは、そう言いたいのだろう。
 地下から上に昇ると、案の定、ハンガーの中で大型の白い戦闘機コスモクラッシャーが待機していた。ミカも搭乗を終え、タケル以外のメンバーは全て機内に揃っている。
 しかし、崖面の発進口が使えない今、滑走路まで次元獣に塞がれてしまっては出るに出られない。次元獣の転移出現が、発進より僅かに早かった為だ。
 コスモクラッシャーを遠巻きにするように、母艦を目指さんとするパイロット達がハンガー内の壁面に張りついていた。見たところ、ZEXISの全パイロットというには無理のある少なさだ。
 スメラギが選抜したのは、おそらくはクロウ達を含め精々30人強。ロジャー達には、子供達や中原の護衛が任されている。
 クロウは、短くも強い息を吐いた。体内からもやもやとしたものを息と共に追い出して、気持ちを切り替える。
 次元獣に生身の背中を見せるくらい何だ。しっかりとした意気込みを持たなければ、それぞれに奮闘している仲間達に申し訳ない。
「いい腕してるな」
「あれは、千葉ちゃんね」
 オリバーが見定めた月下を、一瞬目を細めてからボビーが断定した。
 神聖ブリタニア帝国がこの多元世界にもたらしたKMFは、スコープドッグ・クラスの小型機で、地上戦に特化させるべくランドスピナーという滑走装置を左右の足に装備している。
 戦闘中のKMFが歩く事は決してない。2本の足は直立する為のもので、デヴァイサーはランドスピナーを使いこなす事を常に求められていると聞く。
 つまり、良いデヴァイサーはランドスピナーの使い方でわかる、という事か。
 クロウはブリタニア・ユニオン籍の元軍人だが、MSの操縦経験はあってもKMFには触れた事さえなかった。
 KMFはブリタニア側の騎士様の乗機だったから。理由は、その一点に尽きる。
 日本の国産KMF、月下。火力はカレンの紅蓮弐式に劣るが、足回りの良さは千葉の扱いで見る者に伝わってくる。
 ハンドガンの威力ではブルダモンのDフォルトを貫通する事などできないが、彼女の判断もタケルと同じだ。常に激しく動きつつ頻繁に攻撃を仕掛け、次元獣の目を引きつける事こそ役割と心得ている。
 そろそろ頃合いか?
 身を乗り出した4~5人が、咄嗟に数歩下がった。
 暗がりで、何か長いものが空中を泳いだのだ。その様子は、飛んだと呼ぶにはぎこちなく、ハンガー入り口の数十メートル手前で突如ぐしゃりと四散した。
 爆裂フライだ。ブルダモンの尾が付け根から外れ、敵に巻きついた直後に爆発を起こす。しかも、ブルダモンの尾はトカゲのように何度も再生してしまう。1回きりの技ではなく、会敵中複数回繰り出してくる質の悪い技だ。
 生物兵器らしく、敵に触れた事を感知しなかった尾は、爆発せずに形が歪み崩壊した。
 つまり先程の爆裂フライは、月下が巧みにかわしたからこそ爆発しないままハンガー付近まで飛来した事になる。敵とハンガーの距離が未だ詰まっている証だ。
「まだ無理です。とても出られる状況じゃない。…タケルさん達は頑張っているのに」
 ガイヤーと月下の健闘にエールを送りながらも、ルカはブルダモンとの距離を目算で計り落胆する。
 ここまで来れば、不動の母艦よりも注視すべきは次元獣戦との相対距離だ。ルカのみならず全員が、広角に視野を確保しながら夜戦の様子に釘づけとなる。
 月下が相手をしているブルダモンは、前足というものを持たない二足歩行をする次元獣だ。尾は長く、「獣」というより「恐竜」に近い。首の長さ程もある節がちな1対の角状突起を背負っている為、常に前屈みで、ライノダモンの半分強というサイズをしている。それでも全高は20メートル以上ある為、MSよりも大きい。
 地下階にいる時とは異なり、滑走路上の攻防は音と光の伴う激しい光景として目前で展開される。深夜の敵襲故、基地の投光設備だけでなくダイグレンの胸部にある両目からも、状況を照らし出す光が投げかけられていた。まるで強力なビームのように。
 しかもブルダモンとその上位種の次元獣は、全身をDフォルトというバリヤーで保護していた。Dフォルトとは俄仕立ての次元断層で、生半可な攻撃は鮮やかな光を放つ半球状の障壁によって阻まれ、装甲皮までは届かない。
 月下やガイヤーの攻撃が当たる度、滑走路に一瞬多色の光が放たれた。Dフォルトが活性化した時に起きる発光現象だ。
 攻撃が次元獣の装甲皮にまで到達したか否かは、一見すると判断が難しい。直撃の瞬間は、次元断層が起こす発光現象によって機械判定や肉眼による確認を拒絶する。結局のところ、その後の次元獣の装甲皮や仕種、怒りの度合いから判断するしかないのが常だ。
 しかもDフォルトは、次元獣の怒りの度合いによって無効化する攻撃の範囲が次第に引き上げられてゆく。獣の怒りが盾を更に活性化させ、自身の護りをより強固なものとした。
 尤も、たとえ攻撃を無効化されたとしても、タケル達は同じ武器で果敢に攻め続ける。機体の背にクロウ達の視線を感じているのだから、尚の事。
 彼等は今、仲間達の為に戦っている。
 まだ、飛び出してはいけないのか?
 ダイグレンが強調し浮かび上がらせているのは、1頭出現したというライノダモンだ。幸い、タケルの操るガイヤーが巧みに牽制しているので、未だ建物への被害は全く出ていない。
「おい」闘志也が、仲間の視線を1頭のブルダモンに誘導した。「あの次元獣、朝比奈の誘いに引っかかったぞ」
「反射で行動するからね。次元獣は」
 アレルヤもにやりとして、月下5機のコンビネーションを頼もしそうに見守っている。
 現れた4頭の次元獣は、大きく円を描く月下の囲みに気づく事なく、次第に一カ所にまとまりつつあった。目障りな小型機がハンドガンを撃っては素早く移動を繰り返すので、ドスドスと足音を立て最短コースで月下に近づこうとする。
 結果、弧を描く月下が主導権を握り、滑走路に広がっていた筈のブルダモンは互いに距離を縮めていった。
 当然、滑走路上の戦況は各母艦がしっかりと把握している。整列している3隻の中で最もハンガー寄りに停泊しているダイグレンから、可憐な女の子の声がした。
『今ですよ、皆さん! 船に向かって走って下さい!』
 緊張感とは縁遠いニア姫の口調に、選抜メンバーの表情が一気に緩む。
 だが、それでも待ち望んでいた猛ダッシュOKのサインだ。
「よしっ!」
 全員が、目当ての艦に向かって夜の屋外へと飛び出してゆく。
 どれ程この瞬間を待っていた事か。クロウも300メートルを全力疾走する覚悟で、ロックオンと共に大股で腕を振った。
 途中、五飛が愚痴をこぼす。
「何故、あの女にしゃべらせている! ダヤッカは、やる気がないのか!?」
 それに対し、甲児がニアを弁護した。
「いいと思うな、俺は。如何にも全員一丸、って感じがするじゃないか」
「ふん」顔を背けたまま、五飛は何も言わなくなった。
 背後から聞こえてくる次元獣の声と爆発音、足に伝わってくる震動は、仲間達が必死に敵を足止めしている証だ。頭上を過ぎる2本の黄色い光の帯も、その仲間達を遠方から精一杯支えている。
 全員一丸。正にその通りだった。ニアの声はとぼけて聞こえるが、彼女とて、今すぐにでもダイグレンを動かしタケル達の援護に回りたいとの衝動には駆られている筈だ。
「待ってろよ! タケル! 黒の騎士団!」
 走りながら叫ぶキラケンの背を、マリンが後ろから優しく叩いた。
 次元獣にはライノダモンの上位種としてディノダモンという希少種が存在する事を、ZEXISは把握している。今やディノダモン程の脅威ではないとしても、手負いのライノダモンが如何に凶暴でこちらの攻撃を受け付けなくなるかは嫌という程学んできた。
 追いつめられる程、ライノダモンは強くなる。一刻も早くタケル達に合流しなければ。
 奴が底力を奮いDフォルトを手に負えないレベルまで強化する、その前に。
 ガンダムマイスター達と共にトレミーに搭乗し、クロウも愛機に乗り込む。ブラスタの発進準備を進めていると、スメラギからの通信が入った。
『トレミーから各機へ。もう一度伝えます。まずは、母艦3隻で選抜したパイロット全員の収容を急ぐわ。終了後、トレミーとマクロスクォーターは、順次迎撃機の発進を開始。パイロットを収容後、ダイグレンは先行して突進をかけ、ライノダモンを崖の端まで押し出して。ダイグレン搭載機の発進は、ライノダモンの固定中に。全迎撃機が揃ったところで、一気に海中戦に持ち込んでちょうだい。夜間だと難易度が上がるわ。ブルダモン迎撃機は、細心の注意を。いいわね?』
 プランの確認をする戦術予報士に、クロウは「勿論だ」と答えた。「次元獣との水中戦は余り経験がないんでな。たっぷりとデータを取らせて貰う」
 意気込みを金への執着に変換し、ブリッジに発進する事を告げる。
「クロウ・ブルースト、ブラスタ、発進する!」
 ガンダムマイスター達の機体よりも早く、ブラスタはトレミーから射出された。
 基地の都合上、全てのZEXIS艦艇は滑走路と平行になるよう停泊している。ブラスタは離陸機同様に一旦バトルキャンプの敷地外まで運ばれた後、旋回し現場へと向かう。
 そのクロウが、滑走路を歩く巨大な人型艦を追い抜いた。
 月光で、赤い機体、いや船体が暗色に近いものとして浮かび上がっている。
 いい加減見慣れても良い時期なのに、やはりその大きさに圧倒される。何しろブラスタの飛行高度に、顔形状の胸部があるのだから。当然、ZEXISが擁する3母艦の中でも最大の大きさを誇っている。
 その艦は、歩いていた。ブリッジを組み込んだ上半身と船底から生えた2本の足を持つ、歩行する陸上艦ダイグレンだ。
 スーパーロボットさえ掌に乗せる事の可能な人型母艦は、短い足をものともせず加速しライノダモンに突進してゆく。
 胸の両目から放たれる光の線が、急速に短くなっていった。
 光は照らし出している。夜戦を挑んだ次元獣の顔を。
 前方に突き出したライノダモンの赤い角が、俄に形を歪め4門の砲に変化した。
「凍結ファイヤーか!?」
 ダヤッカ達は、鋭く尖った艦首をそのまま当てるつもりでいる。それを察した次元獣が、艦を止めるべく砲首を光らせた。
「させるか!?」
 タケルのガイヤーとクロウのブラスタが、2対の敵砲を左右から同時に撃つ。ガイヤーはエネルギー衝撃波、ブラスタはEAGLEの速射で。
 Dフォルトは活性化したものの、ライノダモンが凍結ファイヤーの発射を一瞬躊躇する。それが、ZEXISには吉と働いた。
 ダイグレンの尖った艦首がライノダモンの顔面に接触するや、四つ足の怪物は一気に崖っぷちまで押し出された。どれだけ踏ん張ろうとも、次元獣の重量ではダイグレンの勢いを止める事などできる筈がない。
 猪対フル・トレーラー以上の桁違いな体格差によるものだ。勿論、たとえライノダモンがダイグレンの突進を横にいなしたとしても、人型艦の長い腕を左右に広げて幅をきかせ、結局敵を同じ場所まで排除していただろう。
 長い腕に掌まで備えたダイグレンだからこそ可能な突進技だ。
『俺達は、月下を援護だ!!』
 トレミーから射出された4機のガンダムと3機のゲットマシン、マクロスクォーターから発進したSMS機が、空中と地上からブルダモンの攻撃に加わった。
『いいところに来てくれたぜ!』
 玉城の威勢はいいが、四聖剣の4人にも疲労の色がある。これだけの時間をKMF5機で、ブルダモン4頭を同時に相手。相当堪えて当然だ。
 一切弱音を吐かない黒の騎士団に、『よく持ちこたえたな』とオズマが粘り強い彼らの攻めを賞賛する。『タケルもだ』
『い、いえ』と、タケルもガイヤーの中で謙遜する。ライノダモンをたった1人でくい止めていたのに、息の乱れを隠す意地はしっかりと残しているのは立派だ。
『こちとら、日本解放まで死ぬ訳には行かねぇんだ。あんな怪物にやられてる場合じゃねぇっての!』
『よし。6人とも、まだまだやれるな』オズマの声に喜色が混じった。『残ったブルダモンは、全て海に落とすぞ! 建物に被害が出る前に、奴らをバトルキャンプから叩き出す!!』
『了解!!』
 ライノダモンの後ろ足が、時折空中で遊ぶ。あと一息と、ダイグレンはライノダモンを押し続けた。
 その最中、バルディオスとゴッドシグマ、ダイ・ガード、マジンガーZ、そして2機のガンダムがダイグレン内から発進する。
 ZEXIS側の機体数が増え、基地防衛の壁が一気に厚くなる。襲撃直後から敵意を剥き出しにする次元獣だが、流石のブルダモンたちも徐々に海へと追いやられつつあった。
 しかも、厄介な電撃ホーンを封じる事ができたのは、ゼロの機転によるものだ。
 ブルダモン最強の技は電撃をかけつつパイロットの気力を吸収するもので、敵が繰り出す技の中でも特にZEXISの皆が嫌っている。
『月下のワイヤーを使え! 多重攻撃と同時に、スラッシュハーケンを射出。即時ワイヤーをカットし、次元獣どもの足を絡めるのだ!』
 基地内部から戦況を見守っていた仮面の指揮官が、Dフォルト対策をも織り込んだ電撃ホーン封じを授ける。それだけでブルダモン戦の流れは変わった。
 刹那のエクシアがGNブレイドで斬りつけた直後、『ちょっと暗いから見つけにくいけど、な!』と、デュオが最後の一音に力を込める。
 ワイヤーの端を掴み上げたデスサイズと卜部の月下が、ほぼ同時に突進しようとするブルダモンの足にワイヤーを引っかけた。
 GNブレイドの斬撃と相まって、ワイヤーは簡単に足に絡みつく。
 ゴッドシグマに狙いを定めていたブルダモンが、攻撃姿勢のままバランスを崩し前のめりに転倒する。
 その敵の背中に、ゴッドシグマがゴッドトマホークを突き立てた。
 Dフォルトを貫通し、バリヤーに守られた装甲皮に鋭い一撃が届く。
 ワイヤー1本がこれ程までに有効なのは、多重攻撃との併用が効果的なだけでなく、ワイヤーの位置を判別する難しさはZEXISだけでなく次元獣も同じだからだ。
 耳障りな次元獣の鳴き声に、金属を擦るような憤怒の音が混じる。
 ワイヤーの両端を掴みブルダモンを海に落下させるのは、ゴッドシグマと六神合体したゴッドマーズだ。
『この方法なら、Dフォルトが発生しようと僕達のペースにできるんだね!』
 アレルヤのキュリオスが両腕部から、別の1頭にミサイルを放つ。
 と同時に、仙波の月下とクランのクァドランも、足にワイヤーを絡めさせ次元獣を滑走路に転がした。
『続きは、俺達に任せな!!』
 デュオのデスサイズと五飛のシェンロンガンダムにバルディオスが力を貸し、やはりワイヤーの両端を頼りに足の封じられている次元獣を岬から追い出す。
 ZEXISの意図に腹を立てたのか。キュリオスの背中に、別のブルダモンが爆裂フライを見舞おうとする。
 そのブルダモンに、クロウのブラスタは空中から急接近をかけた。
 ロックオンのデュナメスがGNピストルで早撃ちを仕掛けた直後、「お前の相手は、俺だ!」とネットを射出しブルダモンを捕らえる。
 Dフォルトの発光は起きたが、ネットは無事に次元獣を覆っていた。
 更に、EAGLEにスパイカーをセットし高速で体当たりをする。
 スパイカーは光の盾を貫通し、ブラスタはネットの中でもがくブルダモンを夜の空中へと押し上げた。
「折角だから、このまま深夜のダイブと洒落こもうか」
 クロウは、ブラスタの高度を下げた。ブルダモンを漆黒の海面に叩きつける為。
 大きな波しぶきが立つ。
 それで終わらせず、クロウは敵と共に海中へと潜った。
『俺達もやるぜ! 青山』
『足下に気をつけろよ、赤木』
『わかってるって!』
 気合十分の赤木に青山が一つだけ注意をし、ダイ・ガードが腕のパーツを換装する。
 ネット射出機能を持つ、フィンガーネットアームだ。
『捕獲用ネットなら、ダイ・ガードにもあるんだぜ!!』
 赤木の声に合わせパーツが射出されれば、次の瞬間には、ブルダモンの全身をゲッター1のサブマシンガンが見舞う。
 Dフォルトを無効化し、ネットが次元獣を包み込んだ。
 不自由さに苛立つ最後の1頭は、合体をし直したゲッター3が大雪山おろしの要領で岬の外へと高く投げ上げる。
『海の中なら、俺の独壇場だと思ったんだがな!』
 水中適応の高い機体が他にもある事は、面白くないのか、はたまた頼もしくて愉快なのか。口調と声の一致しない武蔵が、一旦合体を解除し、沈みゆく敵を追いながら海の中へと消えていった。
 その間、落下中のブルダモンには空中を舞うメサイア各機から、容赦なくミサイルが撃ち込まれる。
『そうですか。海に向かって投げればよろしいのですね』
 ニアが、何かを納得した。
 ダイグレンの長い両腕がライノダモンを掴み上げると、まさかと驚く程の力で目一杯空中へと放り上げる。
 ブリッジにいるダヤッカが気を利かせているのだと思う。次第に小さくなるライノダモンの巨体に、ダイグレンの胸から2本の光が当てられた。
 まだ小さくなる。まだ、だ。
 拳程度の大きさになっても、硬直した次元獣は重力に逆らい星空を目指し続けていた。
 流石にやりすぎだと皆が呆れた頃、ロックオンのデュナメスとティエリアのヴァーチェ、そして戦闘機に変形したミシェルのメサイアが、未だに落下を開始しないライノダモンを追って垂直に滑走路を離れる。
 3機は、全て長距離攻撃機だ。
『どう見たって海送りじゃないだろ。いっそ、月まで飛ばすつもりか?』ロックオンがデュナメスとライノダモンの相対速度を合わせれば、『この速度とライノダモンの重量では無理だ』と、ティエリアが真面目に返す。
『推定月齢十三日前後。こんな月の下で撃つなら、次元獣じゃなく女の子のハートがいいんだけど、な』
 余裕さえ醸し出すミシェルが、機をバトロイドに変形させ狙撃の準備にかかった。
 ライノダモンの体が、空中で静止する。
 垂直上昇を中断した次元獣の体は、飛行能力を持たない存在として最高点からのゼロ加速を始めた。
 衝突をも辞さず、地上に向かって。
 まず、ライフルを構えたミシェルのメサイアが、下方からトリガーを引く。
 多色光を放つDフォルトを貫いて、ライノダモンの太い胴体に実弾が1発ヒットした。
 途端に、怒声が轟く。
 痛みを訴える悲痛な声には程遠い。空の敵、地上の敵、そしてバトルキャンプを破壊したい衝動から迸る恫喝の叫びだ。
『そうはいくか。バトルキャンプはやらせねぇ!』
 ロックオンのデュナメスも空中で狙撃体制に入り、敵の加速度を読むとMS用ライフルを撃つ。
 夜空に一瞬、半球状の彩光が放たれた。
 しかし、生憎弾はライノダモンの装甲皮にまで到達していない。
『ちっ! Dフォルトが強化されたか!?』
『ロックオン、後は僕がやる』
 ヴァーチェもGNバズーカをバースト・モードに切り替え、下方から次元獣の全身を光の帯で包む。この一撃で仕留める事もできそうな大出力のビーム攻撃だ。
 しかし。その光景を見ていた者全員が、我と我が目を疑った。
 大口径から放たれた光束は、Dフォルトを貫通しながらも次元獣を素通りし後方に抜けてしまったのだ。
 夜空に描く1本の照明光の下、次元獣は尚も落下を続けている。
『どういう事なんだ?』
 初弾を当てたミシェルが、再びライフルで狙撃する。
 結果は、ロックオンやティエリアの時と同じだった。ビーム攻撃も実弾も、次元獣を傷つける事なく直進してしまう。
 空中に留まる3機の目前を、ライノダモンが下方向に通過した。
『こうなりゃトランザムで…』
 ロックオンが攻撃方法の変更を決断しかけた、その時。
 滑走路の一角が、赤く閃いた。
 その光は弱まりながらも消える事なく、自らの力で垂直に上昇を始める。
 出現したかと思えば、既にそこにはいない。さながらビームの射出だ。
 それでも、正体を見抜いた者は多かった。
『アリエティス!?』刹那がコクピットで呟くと、アルトも苦々しげに軌跡を追う。
『アイム直々のお出ましか!!』
「なに!?」
 ブルダモンと対峙していたブラスタが、海中で一瞬動きを鈍くする。
 ところが、アイムには海に潜る事を選ぶ気配が全くなかった。ブラスタが海中にいると気づいている筈なのに、アリエティスは何故かそれを無視し尚も上昇を優先している。
 濃紺に赤いパーツを輝かせている牡羊座のスフィア搭載機が、胸部から螺旋の結晶柱を発生させた。
 あれは、ブラッディ・ヴァインの発射準備だ。空中で移動を続けながら、中距離攻撃用の武器を使うつもりでいる。
「動け、狙撃手! 狙われているのはお前達だ!!」
 速射を選んで、オズマのメサイアが咄嗟にビーム機関砲を撃つ。次元獣とZEXISの戦闘に割り込むなら、アリエティスの標的が、ライノダモンを狙っているデュナメス、ヴァーチェ、ミシェルのメサイアのいずれかである事は間違いない。
 口径の小さな機関砲の効果など、たかがしれている。それでも、なるべく頭部を狙ってオズマは撃つ。
 せめて間合いや姿勢を変えてやろうという苦肉の策だ。
 右にずれ、減速し、宙返りしたかと思うと、急加速し、全弾の直撃を避けた。
 今やアリエティスは先程とは別の上昇線を描き、水平方向にオズマ機を突き放して長距離攻撃機3機を目指している。
 アリエティスの装甲ならば、たかが機関砲など当たったところでどうという事もないというのに。30メートル級機でわざわざ躱して見せ、対するオズマを嘲笑する。
 それが、アイムのやり方だ。
 ロックオン達の為に稼いでやれた秒数も、おそらくはオズマの予想を下回っている。
「ちっ!」と、コクピットでオズマが舌打ちした。
 狙われてなるものかと、ロックオン達は高速で不規則なマニューバを描く。
 一方で、アリエティスは下から上への垂直な直線を引き続けた。
 ZEXIS3機の為に、エクシア、キュリオス、SMSのオズマ機、クランのクァドラン・レア、アルト機が増援に加わろうと更に高度を上げる。
 空中でソレスタルビーイングやSMSが、地上から黒の騎士団やニア姫達が見守る中、アイム機に最強の殺意が漲る。
 直後、誰にとってもまさかの事態が起きた。
 矢のように上昇するアリエティスが、急速に距離を縮める次元獣目掛けブラッディ・ヴァインを解き放ったのだ。
 Dフォルトは発光したものの、全く効果がない。
 しかも、4本の赤い光はライノダモンの装甲皮を右側面から裂き左側にまで抜けていた。
 次元獣の絶叫は一切声にならぬまま、空しく口が開閉する。
 妖しく浮き上がる4本の光が赤い水晶柱に変化した時。ライノダモンの全身は大爆発を起こし、夜空で光の粒を収束させると瞬く間に消滅した。
 クロウのみならずアイムの所行に気づいた全員が、戦闘中にもかかわらず無防備な状態で機体の動きを止める。
 これは、事実か偽りなのか。目撃した者は皆、判断に迷う。
 アイムが消滅させたものは、自らが敵地バトルキャンプに放った破壊の使徒だ。つまり、インペリウム帝国の幹部が自らの手で帝国自慢の次元獣を始末した事になる。


              - 15.に続く -

 
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